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22話 別れの前

 指名手配されてしまった俺はそのうち殺される、だから今いる国カラドムを捨てゾイガルドに亡命すると決めた。

 躊躇いは一切なかった。

 ………この肉体で意識を持ったのは、5歳くらいから。それから約五年の間に国家の一員と感じられる出来事は無かった。


「なら、ここで別れる事になるな」


 だが、父さんは俺についてきてくれないようだ。


 母さんの方も見るが、父さんに同調してうんうんうなずいている。

 別に驚く事は無かった、だって予想済みの反応だ。


 俺と違い"このカラドムという国で"生きてきた実感が確かにあるだろうし、出来る限りこの国を捨てる事はさけたいはずだ。

 そもそも二人は指名手配されてないのだし、亡命をするかどうかは選べる立場だ。

 ついてきてくれたら嬉しかったが、無理強いするわけにはいかない。


「………父さんも母さんも、この国好きなんだな」


 父さんは首を横に振った、否定だ。


「そうじゃない。本当はお前について行ってやりたい」


 今度は母さんが首を縦に振った、父さんの言葉への肯定だ。


「え?」

「ただ一緒に行くとゾイガルドでどんなトラブルを招くかわからん」

「いやどういう事だよ」

「冒険者ってのは亡命どころか海外旅行もやりにくい、やらかしたヤツが多くてな」


 父さんの語りはやけに遠くに向けたもので、なんというか楽しさや懐かしさと真逆の感情が伝わって来る。

 話すのも嫌だ、という風な。

 母さんもそれに近い顔をしている。


「私から説明しますね」

 と話し手の立場をサキが奪った。

 父さんらが話したく無いのを察したのか。


「依頼を受けた冒険者が外国からやって来て暴れるというのは、ゾイガルドで大きく問題になりました。だから冒険者に対しては特に厳しいんです」


 サキはそのままつらつらと言葉を重ねていく。あんまりそこら辺の事情へ感慨とかはなさそうだ。


「母さんは復帰したからともかく”元”冒険者の父さんもダメなのか?」

「むしろ"元"の方がゾイガルドへの入国キツイですね、引退したベテラン冒険者が金銭に困り国家間のいざこざを仕事に変えるケースは多いですから」


 ん?ベテラン冒険者が困窮?少し疑問だ。


「……冒険者って命懸けの仕事をこなせる連中だろ?つまり優秀だろうに困窮するヤツ多いのか?」

「冒険者はまともな思考をしてないですから。人間に近いだけの危険生物だと考えるべきです」


 サキの差別的発言は、冒険者だった父さんたちに対する侮辱なんじゃないかと思った。

 だが、

「昔の冒険者酷かったよな」

「冒険者制度が新しくなったのそのせいだものね」

 サキの発言に対し、父さんも母さんも物凄い納得してる。


 あんまりサキの発言は肯定すべきじゃないとは思うが、当事者らがそんな感じなら何も言うまい。

 そこらへんの話突っ込んでいっても進展無いしな。


「危険視されるのがダメっていうのに俺の亡命はいいのかよ?<水ひっかけ>の持ち主だぞ」

「なにがダメなのソレ?不吉の象徴だっていう迷信、ゾイガルドの方では信じられてないわよ?」


 なぜか母さんが俺の発言に疑問を持って話を遮って来る…………いや、疑問を持ってもおかしく無いか。


<水ひっかけ>はゴミスキルとして知られている、だが実は世界を滅ぼせるポテンシャルがある。

 その事を母さんは知らない。


 ゴミスキルとして知られているのは、スキル所持者やその周囲に悪用されないように情報統制されているからである。

 ただ、情報統制が為されているといってもサキは真相を知っていた。

 スパイという立場のサキですら知っていたのだ。

 だというなら、カラドムやゾイガルドの中に<水ひっかけ>の真相を知る人は結構いるはずなのだ。

 例えば外国人の亡命に許可を出せる程度に権力を持つヤツが、<水ひっかけ>の危険性を知っていてもおかしくない。


 ただ、そこら辺の事情を知らない母さんは、<水ひっかけ>の持ち主である事が重大だとわからない。


「<水ひっかけ>は本当はとてつもなく危険なスキルだ、出来たらゾイガルドも関わりたくないんじゃないのか?」


 とりあえずサキに対して質問しつつ、<水ひっかけ>の問題を大雑把に母さんに教えた。

 上手いコミュニケーションだと自画自賛しておこう。


「ゾイガルドはカラドムより国力低いんです」

「………ん?」

「世界を滅ぼす力、もしも手元におけるなら欲しいんですよ」


 どうやらゾイガルドは<水ひっかけ>が欲しいようだ。


「でも俺がゾイガルドに反抗的かもしれないだろ?そういうのを警戒してサキは俺に真相を隠してたんじゃないのか?」

「たしかにゾイガルドが目指していた最高の状態は”真相に気づいてない<水ひっかけ>の持ち主を監視下におく”でした。しかし”真相に気づいている<水ひっかけ>の持ち主を監視下に置く”結果となっても、諸外国に対し有利になります。」


 あぁなるほど、サキが俺に亡命をもちかけた理由がわかった。

 ゾイガルドのためになるから、か。

 なんだかんだでずっと母国のために働いてたんだな。


 ………ま、俺達の助けになってくれるならありがたい。


 さて、これからについて結論がでた。

 まとめると…………


 ゾイガルドに俺とサキは行く。

 俺は亡命のためで、サキはゾイガルドのため。


 カラドムに父さんと母さんは残る。

 二人は国外逃亡する必要が無いし、ゾイガルドに行くと凄いトラブルに発展しかねない。


 魂の欠片を探す事についても気になるが保留で良いだろう、手がかり無いし。


 で、まだ1つ決める事がある。

 リンだ、リンだけはどうするか意思を聞いていない。

 リンが寝てたからだ、そろそろ起こすか。


 と思ったのだが……既に目があいてた。

 怖い、なんだこいつ。

 なんでめっちゃ目開いてるんだ、寝てると思ってたらガッツリ起きてる。


「………おはよう、寝たふりしてたのか?」

「私が起きたら話を中断させる事になるじゃん、そしたら効率悪いから寝たふりしてた」

「そうか、ありがとうな」


 なぜ寝たふりをしていたのか、一応理解できる理屈があってほっとする。



「私もゾイガルドに逃げたい。私も行っていいの?」


 どうやらリンは、肝心なところはちゃんと聞いていたようだ。


「俺はお前にも来て欲しい、お前も指名手配されてんだからこの国にいたらそのうち死ぬだろうし」

 とりあえず俺は本音で話した、こいつは強いが放っておくのが心配なのも事実だ。


「私も歓迎です。ゾイガルドまでの距離は長い。そこを通る間の危機に対し味方が強いほど心強いですから」

 一方サキは利益で話した。


「………わかった」


 リンは結構アッサリ国外逃亡を決めたように見えたが、実際どうかわからない。


 ともかくこれで完全に方針は決まった。

 後は頑張ってソレを成し遂げるのみ。


 といえども父さんがいるから楽だ。

 そりゃ一緒に亡命してくれるわけじゃないが"途中まで"は来てくれるだろう。

 父さんの〈転移〉は国外逃亡によく向いてる。

 どこかから追っ手がかかってもすぐに逃げられるし、本来何時間もかかる旅路を飛ばせるできる。

 どっかの一本道とかで通行止めされても、父さんの<転移>でスキップしてしまえばいい。


 現に村からこの部屋まで、父さんのおかげでほぼ一瞬で来れた。

 チャージ式という点以外は本当に強いスキルだ。

 途中までついてきてくれれば、数々の難所をスキップしてしまえるだろう。


「……みんな、ちょっといい?」

 母さんがなにかを言い始めたので、揃って聞く。

 もう話す事あんま無いと思うけどなんだろう。


「スパイク、サキさん、リンちゃん、一つ頼みたい事があるの」

「あぁ」「うん」「はい」

 俺、リン、サキはそれぞれが別々の言葉で返事した。


「これから私達と別れるまでの間、戦いは全部パパとママに任せてくれない?」

「……?」


 母さんの言葉が、よくわからなかった。

 何のためにそんな事を言うのだろうか。


「ごめんなさい、これはワガママだから拒否しても構わないわ」

「拒否するかは、なぜ頼んできたかによるだろ」

「……今だけなのよね?自分の子供に何かをしてあげられるのは」

「あぁ………」


 母さんはいつもと変わらない風を装っているが、目が潤んでいた。

 よく見れば、父さんもそうだ。

 きっと俺が、転生なんかしてない子どもだったら気づけなかっただろう程度、表情に違和感がある。


 ………そうか、母さんや父さんからしたらあまりにも早い子供との別れなのか。


 俺の年齢は肉体的には10歳くらい。

 普通の子どもなら、まだまだ親の庇護が必要だろう。

 だというのに母さんは、もう子どもを見送る羽目になった

 指名手配されていて、世界を滅ぼす力を持っていて、いつ凄惨な死に方してもおかしくない子供を送り出さなければならないのだ。


 俺にはその心中がわからない、子供を持ったことが無いし送り出す経験もないからだ。

 だけど………母さん達の望みは叶えてやりたい。


 前世の両親はあまり好きじゃなかったが、今回の世界の父さんと母さんは好きになれたから。


「俺はいいぞ」


 サキとリンを見やる、まぁ別に母さんの要求に対して反発は無さそうだ。

 ありがたい。


「皆、母さんの言う事に賛成みたいだ」


 そういった瞬間突如部屋が揺れた。


「なんだ?!!」


 また揺れた。

 地震では無く、外から何か攻撃を受けているのだ。

 気配がする、おぼろげだけど。


「敵か………?」


 呟く俺の腕を、母さんが掴んだ。


「スパイク」

 母さんは真っすぐ俺を見据えている。


「え?」

「約束、したわよね?」

「ッ!!母さん………気づいてて…………!」


 なんで急に母さんが、自分達だけで戦うとか言い出したのか今さら理解する。

 母さんは気づいていたのだ、敵が来ていた事に。

 そして言ったのだ、俺とリンとサキは戦うなと。

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