20話 雑談と再会。あと指名手配。
父さんが〈転移〉を繰り返し、繰り返し、そしてどこかの民家に俺たちはたどり着いた。
街中のちょっと寂れたところにある、木造建築の一階建てに。
随分小さい家だった。
「何だここ?」
「ここは昔拠点だった場所だ、冒険者時代にな」
俺が聞くと父さんは適当に答え、ガチャリとドアを開ける。
するとその向こうに廊下や玄関なんてものはなく、すぐさま部屋があった。
ちょっとしたベッドがいくつかあるだけの簡素さだ。
ただ眠るためだけに用意された部屋という具合で、それ以外は何もない。
「よし、スパイクとリンちゃんはここで休んでいてくれ」
「わかった。休むね」
「ん?父さんは?」
父さんは俺とリンに対し休めと言った、自身は全く休憩するつもりが無さそうだ。
明らかにこの部屋に入ろうとしていない。
監禁されていたのだから疲労もたまっているだろうに。
「俺はサキさんと一緒にやる事がある」
父さんは右ポケットを指さした、そこに石ころ形態のサキがいるのだろう。
父さんが何をしようとしてる事のかはわからなかったが、何か大事な事をしようとしているのはわかる。
そうじゃないなら、サキをわざわざ連れて行く理由がない。
まさか浮気をしようとしているわけでもあるまいし。
「俺やリンが役に立たない事をするのか?」
だから俺は真意をたずねた。
「飯を買って来るだけだからな、俺達だけで十分さ」
なるほど、父さんはたしかに大事な事をしようとしている。
激しい戦い後だし、栄養補給だけじゃなく精神のためにも食事は欲しい。
だが、それは今じゃなくていいはずだ。
「父さんは捕まってたんだから疲れてるだろ?休憩していった方がいい」
「この人牢屋のベッドでグッスリ寝てましたよ」
「え」
父さんにも休んでもらおうとしたら、サキが反論してきた。
「でもサキ、狩りを出来た俺達と違って父さんはマシな飯を食べてないんじゃないのか?」
「いや普通に三食出たぞ、村の連中は俺の事お前殺すための利用法考えてたんだから変なタイミングで死んだら困るだろ?」
俺の発言は今度は父さんから反論が来た。
そういえば、父さんは普通に元気いっぱいだ。
もしかしたら、牢屋にいた父さんより森で暮らしてた俺等の方が質素生活をしてたかもしれない。
「あぁでも一つ嫌な事あった、おやつはあんまり美味しくなかったってか不味かった」
「………元気なら、1人でいけよ、飯くらい」
元気そうだし死ぬ心配もなさそうだし、父さんは1人で行動しても大丈夫だろう。
<転移>スキルでだいたいの事からは逃げれるわけだし。
「スパイクさん。二人で行動するのは必要な事ですよ」
しかし父さんに文句を言う俺を、またしてもサキが否定する。
「なんでだよ」
「冒険者は街中を一人で歩いちゃダメだ。どうしても警戒しきれないタイミングや箇所を突かれる」
そして父さんが説明を始めた。
俺は真面目に聞く事にする。
「………街中だと一人歩き、ダメなんだな?」
「冒険者が街中で不意打ち他殺されっての、死因上位なんだ」
「そんなに多いのか?」
「冒険者って仕事は金が動く、活躍するほど誰かしら邪魔する事になる。結果として恨まれる事なんてよくあるのさ」
「父さんは"元"冒険者だろ?恨みもクソも無くないか」
「過去の恨みってよく言うよな、だが恨みに”今”とかそういう時間は関係ないんだよ」
恨みに今は関係ない………そういうものだろうか?
まぁ村の連中に自宅燃やされたのは俺もまだ怒ってるし、そういうものだな。
「というわけであなたのお父様の事は守ります。安心して休憩しておいてください」
サキの自信はありそうだった。
まぁ、村との戦いでも活躍しまくってたしな。
「サキなら大丈夫か」
「仮にお父様が殺された場合はすぐ帰宅して報告します」
「それは、”そうならないように全力は尽くしたうえで、それでもそうなったら”って話だよな?信じてるぜ」
そして、父さんとサキは飯を買いに行った。
牢屋にぶち込まれてた父さんが金もってるかは疑問だが、銀行から引き出されたりするんだろうか。
ちなみに買いに出る際父さんは
「この家は許可されたものしかすんなり入ってこれない。安心してベッドに入って待っててくれ」
と言ってて。
サキは
「それではスパイクさん、リンさん。あなた達の体力は既に残り少ないのでちゃんと休憩しておいてくださいね」
と言ってた。
父さんたちはドアを閉じずに買い物へ行ったのだがドアは勝手に閉まり、自動的に鍵までかかった。
………たぶん何かしらのスキルが使われているのだろう。
さて、リンと二人っきりになった。
とても静かになった。
「………スパイク、どうする?」
リンは明らかに眠そうだ、どうりでさっきから口数が少ない。
「どうするって聞く程選択肢があるかよ?寝るだけだろ?」
「寝る前にストレッチしたり、ちょっとしたことを覚えようとしたり、その日学んだ事を振り返ったり出来るよ」
リンの提示した選択はやけに健全であり、彼女が出来そうな発想では無かった。
彼女の父親が教えた事なのだと、すぐにわかった。
そう、俺が殺したリンの父親だ、その殺しにはリンも協力していた。
………どくりと、何かしら嫌な衝撃が脳に走る。
それをすぐに振り払う、この世界では殺し合いなんて当たり前のことだし、ましてや向こうは俺や俺の家族を殺しにかかって来ていた。
だから敵を殺していいとまでは言わないが、ある程度割り切るべきだ。
そもそも己の選択を受け入れるべきだ。
………おそらく、この嫌な気持ちは前世で積み上げた経験と価値観から生まれるものだろう。
「………早くベッドに入っておこうぜ、子供の体で夜更かししたんだし思ったより疲れてるはずだ」
「子供の体以外を使った事あるみたいに言うんだ」
リンは俺の発言に違和感を覚えたらしい。
たしかにちょっと変だ、転生してるっぽい事を言った。
でも別に、転生がバレても構わないか。
「あるからな」
「へー」
リンが俺の言葉を冗談と捉えたのか本音と思ったのかはわからない。
ただ、どっちでもよさそうに答えてベッドに入った。
俺もリンとは別のベッドに入る。
急に体が重くなった。
自覚していなかった疲れが出たのだろう。
リンも同じらしく、俺のように全く動かない。
……子供の体力ってこんな感じだ。
無茶になれてないからちょっとしたことで、簡単に動かなくなる。
代わりに回復も早いけど。
「スパイク」
「何だ?」
リンが話しかけて来るが、眠そうで若干声がくぐもっている。
「疲れたね」
「……あぁ」
疲れたというわりに、話しかけて来る。
「次はどこに行くの?」
「え?」
「だって、村には戻れないじゃん。だから何処に行くの?」
「……そうだな」
リンに問いかけられて、俺は今大変な事に気づいた。
今後のことなんて考えちゃいないのだ。
父さんを助けることばっか考えてたから余裕なかったせいだが、見通しなんてない。
「とりあえず俺の父さんと相談してみようぜ。俺達よりもそこら辺は知ってるだろうし」
「そっか」
咄嗟に考えた策を言ったらリンは納得した、良かった。
「全部だめなら森で暮らそう」
「あぁ私それがいいな。森ぐらし大好き!」
ついでに冗談で森暮らしといってみたが、リンは乗り気だ。
「俺は嫌だぞ、最終手段だからな?」
「えー、なんで?」
こいつなんで野宿生活に対して認識がポジティブなんだ、意味が解らない。
………いや待てよ、そうか、俺がリンよりも人生経験があるせいで共感できないのか。
リンは田舎暮らし以外やった事は無いだろうが、俺は前世で都会で過ごしている。
そこの違いか。
自然とかけ離れた前世のある俺と、自然に満ち溢れた世界で生きて来たリンでは当然野宿というモノに対するイメージが違う。
転生してきたっていうのは、生きていく上マイナスかもしれない。
この世界で生きていく上では、前世の常識や経験が邪魔になる可能性がある。
さて、目を閉じる。でもなかなか眠れない。
連戦をしてた余韻が残ってるのか、目が冴えている。
眠いはずなんだけど、体中の細胞は無理矢理意識を保とうとしている。
………これじゃしばらく眠れそうにない、けど休憩はしておきたいからベッドを出るのは無しだ。
たとえ睡眠が取れずとも、筋肉だけでも休めねばならない。
つまりとても暇だ。
どうしよう。
………そうだ、〈水ひっかけ〉の力を解放したときに得た知識を整理しておこう。
なんかあれ、夢で見たものの記憶みたいに放っておいたら消えていく気がする。
リンに話しておこう、俺が忘れても覚えておいてくれるだろうし。
「なぁ、スキルって神様が与える力らしいぜ」
「……定説だね」
リンも眠くても眠れない状況らしく、普通に返事をしてきた。
どうせなら、このまま話を続けてしまおう。
「それで神様はたくさんいてさ、その誰かに気に入られた時にスキルが授けられるわけだ」
「それは知らなかった」
「つまりさ、どのスキルにも与えてくれたに神様がいるわけで……そいつらどんな性格なんだと思う?」
「………私のスキル………3つとも同じ神様がくれたっぽいんだけど、その神様はたぶんストーカーじみてるんだと思う………」
リンは神に対して、平然と失礼な事をのたまった。
でもそこに嫌悪感は現れておらず、ただただ見たままを説明しているような雰囲気だった。
「なんでそう思う?」
「昔はスキル全部、今よりずっと弱かったんだよね」
「成長………いや、解放出来て無かったのか、スキル」
「でも私が成長する度に、スキルもそれに合わせて強くなる。私っていう器が成長して隙間が空いたら、それを満たしてるみたいにさ」
「それが独占欲みたいだって?」
「うん。なんというか、私が他の神様からスキルを貰えないようにしてるみたいだなって、たまに思う」
「<水ひっかけ>も他のスキル習得できなくしてくるのに独占欲は感じないんだよな、なんでだろう」
「〈水ひっかけ〉はどんな神がくれるスキルなんだろうね」
リンは、俺にスキルを与えた神の話に切り替えた。
「……」
やはり、それを聞かれるか。
〈水ひっかけ〉を俺にくれた神についてリンは気になるようだ。
でも俺はそれを話すうえで、ちょっと引っかかるところがある。
そもそも俺に<水ひっかけ>をくれたヤツは”どっち”なのだろう?
あの海老みたいな神が俺に<水ひっかけ>をくれた存在だとは感じている。
だが俺を転生させたあの男も、<水ひっかけ>を授けるみたいなことは言ってた。
で、実際のところ俺はどっちから<水ひっかけ>を貰ったのだろう?
まぁあの男の方が嘘つきなんだろうとは思う。
何となくだが、あいつの態度には誠実さが無かった。
もしもどっちをルームメイトにしないといけないなら、海老の方を選ぶ。
………つまりリンに話すのは、海老神の性格についてでいいだろう。
「俺の神は全体的に真面目な奴かな?でもルール絶対視ってわけじゃなくて、本当に必要だと思えば悪行だろうとやるタイプ」
正直に印象を話してみた、そんなに間違っては無い気がする。
「そっか、その神様スパイクの事気に入ってそうだね」
「なぜそう思う?」
「似てるんだよ。だから<水ひっかけ>をくれたんじゃない?」
「似てる……?」
「スパイク、必要なら<水ひっかけ>で色々滅ぼす気でしょ?」
「は?」
なぜそんな事を言う。
俺が、色々と滅ぼす?
「どういう事だ」
………返事がない。
あまりにも言葉の意味が気になって、とりあえずベッドから降りてリンの顔を覗き込んだ。
すると、寝ていた。
まぁ完全に子供だからな、夜更かしはキツイものがあるだろう。
仕方なく俺もベッドに戻ろうとした、その瞬間突如ガチャ、とドアが開いた。
父さんが帰って来たのか、と思ったが違う。
ドアを開けたのは女性だ。
「スパイク?!なんでここに?!」
そして、彼女は俺達よりも驚いている。
「母さん?!」
入って来たのは母さんだった。
まず、なぜ母さんがここにいるのかと疑問がわく。
そして次に母さんの服装は普段と全く違ってる事に違和感を覚える。
その服装は戦うためのヤツだ。
母さんは動きやすい軽めの鎧を来てる、ちょっとした刃物程度ならほぼ通らない程度のものだ。
そして腰に短剣とランタンをつけている、
短剣の柄には青い血が少しだけついてる。
ちなみにこの世界で、青い血はモンスターの血液色の中でもっとも多いらしい。
………あぁ、そういうことか。
最初の疑問の答えがわかった。
「母さんも戦ってたのか」
母さんはやったのだ、父さん救出のために俺が最初にやろうとしていた事を。
俺達は最初、冒険者になって金を稼ごうとしていた。
それは武器や人員を集めのためだったが、冒険者登録できず断念した。
昔冒険者だった母さんは、その金稼ぎをやったのだ。
「ごめんなさい」
母さんはなぜか謝る。
「私は遅すぎた、遅すぎたから、こんなことに」
その表情は、罪悪感に満ちていていた。
「遅すぎた?」
母さんは申し訳なさそうに新聞を差し出す。
その見出しにはこう書いてあった。
”国家への反逆者 スパイク"
えっと、何だコレ。
ちょっと焦りつつ、本文を読もうとしたが文字が多いし焦る頭ではちゃんと読解できるか不安だ。
とりあえず読もう、”軍人になれば確実に有益なスキルが習得できます”か。コレはどういう意味だろう、この世界じゃスキルって”超能力みたいな技”と”普通は出来ない技術”の二つの意味があるよな?どっちの意味だコレ。
いや、ちょっと待て、俺いまどうでもいいとこ読んでるな?
………俺は自覚以上に焦ってるっぽい。
とにかく目立ってる文字とか絵の部分を見る。
うん。
なんか俺の人相書きが乗ってるし、指名手配されてる。
しかも賞金がかけられてる、明らかに両手の指でカウントできない桁数の額で。
おまけに俺の事は殺すのが推奨されてる。
そんな感じの指名手配犯に、俺はなっているようだった。




