18話 <水ひっかけ>は実は最強
〇スパイク〇
寒い。暗い。
湖に落ちてしまったはずなのに水のまとわりつく感覚が無い。
浮遊感だけがある。
俺はゆっくりゆっくりどこかに落ちていた、天井と底の無い闇を。
3Dゲームのバグみたいだ。
まさか実際に味わう立場になるとは。
俺は魂だけの死にかけなのだと、なぜかわかる。
この孤独な空間は、あの世にもうすぐ行く人間がしばし立ち止る場所。
バス停みたいなものなのだろう。
……俺にはまだ引き返せる可能性がある。
”死にかけ”なら蘇生措置をすればいい。
しかし可能性があるだけで実現はほぼ無理だ、リンもサキも敵と戦ってる以上助けに来るのは難しい。
助けに来てもらったところで状況的に治療は厳しい。
「あ―」
声はこの世界だと出るらしい。
上半身だけになってる俺は、肺が損傷しているはずなのに。
やっぱりここは普通の場所じゃない。
三途の川みたいなとこだ。
………未練はあった、父さんを助けられていない。
でも死ねばそこまで、受け入れるしかない。
残念だけど。
しかし、少々気になる事がある。
俺を半ば強引に転生させたあの神、現れるべきなんじゃなかろうか。
別にこの世界に来た事に不満は無いし、あの神と会いたいわけでもない。
それはそれとして、あいつもっと色々話にくるべきなんじゃないかって思う。
わざわざ転生なんてとんでもない事同意も無くさせやがったのだから、あのオッサン。
「………神って嫌いだな」
『不躾なモノめ、神に対して無礼だぞ』
どこかからか、やけに冷たい印象の声がする。
女の声だ。
こんな場所に来るのは神だろうが、前回やって来たヤツとは違うらしい。
俺はあたりを見回す。
ちょうど俺の胸の上あたりにエビがいた。
エビが俺と同じ速度で、ゆっくりゆっくりとこの世界を落ちていている。
赤くて全身がデカいその海老は伊勢海老に近かった
ちょっと怖い、体に似合うサイズのハサミあるし、海老のわりに妙な貫禄がある。
「あの、なんだ、お前……」
『神と名乗っているの、わからんか』
海老の声はさっきから聞こえて来るものと同じだった。
合点がいった。
「神の姿が海老か」
『不服そうだな』
「そんな事はない。海老が死のお迎えにくるのって、大当たりだろ?」
神が複数いるなら色んな姿のヤツがいたっておかしくない。
となればむしろ海老と出会ったのは運がよかったはずだ。
潰れたクワガタムシみたいに、目を逸らしたくなる外見のヤツが来てたかもしれない。
どうせ死ぬなら綺麗なモノを見て死にたいぜ。
『少し私の望む反応と違うな』
「どう思ってほしかったんだ」
『恐れろ』
いつの間にか海老が姿を変えている。
声のイメージ通りの顔をした、人型の女神になっていた。
ただし人間じゃない。少なくとも前世ではそんな人種いなかったって程に赤いし、額から海老っぽい触角が生えてる。
あと多腕だ、大きなハサミがついた海老っぽい腕が2本あり、色以外は人間そのものな腕が2本。
なぜだろう。そんな女神の姿を見た途端、全身が不愉快な熱さに包まれた。
高速道路を走っている時に、急ブレーキを踏んでガクンと脳みそを直接殴られたみたいな熱さだ。
リンパパと出会った時に感じたものと、似ている。
明らかに相手が異質で、おかしくて、関わりたく無い時のソレ。
ただしリンパパと差異はある。
海老だった神を見た瞬間、こいつはこの世界の存在ではないと理解した。
10秒の間に100秒動く事は出来ないけど、そういう事を神なら出来てしまう。
神は生きていない、死んでもいない、そういう尺度で測れる存在じゃない。
存在の性質そのものが、俺やリンパパとは違う。
人型なだけで、まったく別世界の何かしらだ。
恐ろしかった。
『なるほど、素直な反応だな。満足だ』
「……」
『恐怖心を恥じる必要は無い、人に畏怖や抱かせるのは神に備わった機能だ。調整も可能』
神の威圧感がなんだか減った気がする。
なるほど、扇風機の風を調整するみたいに弱められるらしい。
よく見れば、神は怖いどころかむしろ可愛い顔をしている。
俺の肉体が幼いから大きく見えるが、よく見たら中学生くらいの身長だろうか?
神の外見に恐い要素はあまり無い、むしろ可愛らしい。
だというのに他者と相対しただけで、彼女は恐怖をふりまく。
それは神が異質である証明なのだろう。
『さて、貴様に聞きたい事がある。貴様は以前神に会ったそうだが、貴様を転生させたそいつに対して恐怖心を抱いたか?』
今回俺の前に現れた神は、俺に対して問いただしたい事があるからやって来たようだ。
……俺としては、彼女に協力してやる義理は無い。
けれども意識が完全に消滅するまで暇だろうし、協力してあげるか。
まずはさっきの質問に答えよう。
「べつに怖く無かった、ただのオッサンに見えた」
『神とは人に多少なりとも畏怖を与える、一切圧が無いのは僅かしかいないぞ』
「つまりあの神はレアケース、と」
『どちらかといえば、その男が神じゃない可能性の方が高い』
「え?」
さらりと言われたが、俺にとっての衝撃は大きい。
前世の最期に出会った神が、実は神ではない。
たしかに俺もそれを最初に疑いはした。ただ、検証しようも無いから気にしなかった。
こいつは俺が思考停止したその事について、聞かせてくれるみたいだ。
『話をしよう。貴様にとっても我にとっても、そして世界にとっても関わりのある話だ』
「……あぁ」
暇だからとかそんな理由じゃなく、ちゃんと話が聞きたくなった。
死者が何かを知ったところで、意味はないとはわかってる。
それでも情報を欲するのは、自分の名の意味を知りたがるようなものだ。
『まず貴様が出会った者は神ではない』
「じゃあ、何者なんだ」
『わからない、不審者だ。神のフリをした目的もわかっていない』
不審者か、どこか懐かしい響き。
前世ではちょくちょく聞いた言葉な気がする、ニュースで。
不審者に俺は転生させられたのか。
あんまり格好つかないな。
『あと、不審者が執り行った貴様の転生は、異常なプロセスで行われているぞ』
「え、なんかダメなのか?」
神は頷いた。
『………先に普通の転生プロセスを説明してやろう。その方が何が変か理解しやすいだろう?話は少し長くなるがな』
「わかった」
説明は少し長い、と言われた。
とりあえず全部聞いて、後で要点をまとめるか。
神は一呼吸おいてから一気に、
『では通常の転生プロセスについて解説しよう。まず生命が死んだ場合今いるような空間に送られる、ここは魂の未来が決まるまで滞在する港だ。→蘇生の余地が無くなった瞬間魂と肉体が繋がりを失う→神の世界でその死が記録される、この記録は自動的に行われる→転生のために手続きをし、転生する。そのような過程を踏み転生は行われる』
「は?」
一気に神は話した。
転生の流れを大雑把にまとめると……
「人が死ぬ→その死が記録される→転生。っていう流れなんだな。普通のイメージと違うのは記録するっていう箇所か」
『充分理解出来ているようだな』
俺のまとめには、神のお墨付きが出た。
「で、俺の場合はどこかが違ったのか?」
『貴様の死は記録に残されていない』
「それが変?」
『生命の死は全て記録される。これは自動的であり、誰かの作為が入る余地もない』
記録されてないから変と言われても、単なるミスじゃねーのと俺は疑う。
ゲームでも、ログがバグって変になる事は偶にあるし。
「俺だけが記録されていないんじゃなくて、これまでも記録漏れがあったとかじゃないのか?」
『かもしれん。だが、貴様の異常はそれだけではない』
「他の異常?」
いったいなんだろうか。
『貴様は死ぬ時につく印が無い。転生した者すべてについている印だ』
「印?見たことが無いな……」
俺は記憶をたどる、たしかに印ってカンジのものは俺の体になかった。
『それは神にしか見えない印だ。その印がつくのと死ぬ事は同意義と言ってもよい』
「へー、どんな柄の印なんだ」
『それをつけずに、この魂の船着き場に辿り着く事は本来不可能だ。死んだ瞬間につく印だからな』
印の柄についてちょっと知りたかったがスルーされた、そこはどうでもいいんだな。
俺は気になる、メチャクチャ気持ち悪いマークだったら嫌だし。
まぁ教えてくれないなら仕方ない。
『記録が無く、印も無い。異常なのは貴様の死とみるのが自然だ』
「ふーん」
『そう、貴様は一度も死んでいない可能性が高い』
またしても衝撃的な言葉をさらりと神は発した。
「………今回の人生でまだ死んでないってのは、わかる。まだ死にかけって事で説明つく」
『察しがいいな、貴様の言う通りだ』
「だけど前世では間違いなく死んだろ、体が真っ二つになって死んだ。印が無かったとしても、俺が死んだのは間違いない」
俺の指摘に対し神は平然としてる、反論は用意してるって感じか。
『貴様の肉体は死んだ。だが肉体が死んでもまだ生きていられる方法を貴様は知っているはずだ』
「俺が知ってる?」
わけわからん。何を知っているというのか。
『………サキ』
サキ?
サキってなんの比喩表現だ、咲き乱れる花か何かなのか………と変な方向に考えそうになった。
だがすぐ違うと気づく。
俺の仲間、サキの話だ。
あいつは石ころの中に魂だけ入れることができた。
そして魂が入った石ころが破壊されても、他の石ころに移動することで死なずに済むと言ってた。
実際にぶっ壊れるところも見たし、言った通り生きてた。
あいつは肉体が粉々になろうと、他の石ころに魂を移す事で死なずに済む。
それは肉体が壊れても、魂が生きているという事例なんじゃないのか。
『納得がいったか?”肉体が命を失う”より早く魂が外に出て、即座に魂を移し変える物質を探せば、その後肉体が死んでも魂に印はつかない。それは死んでいないからな』
そうか、俺はサキみたいに死ぬ直前に今の肉体に魂を移したって事か。
だから魂は死ななかった………いや待て、やっぱりその話は変な気がする。
「俺の体が死んでから転生するまでそこそこ時間あったぞ?つまり俺が肉体を変えたのは”即座に”じゃない」
『貴様は前世の終わり際、魂の船着き場にいたのだろう?そこでは魂の進路が決まるまでに消滅しないよう、出来る限り魂の状態が保全される。』
あぁなるほど。
この場所とか、前世の最期行ったところは特別なのか。
『まだ話したい事はある、話をつづけるぞ』
まだあるのか。結構話した気がするんだけどな。
『”不審者”は貴様の肉体が死ぬ直前もしくは同時に魂を抜き取った』
「”俺の死と魂を抜いたのはほぼ同時”なのか?もっと前でもおかしくないんじゃないのか?」
『いいや、死の記録が始まり、終わるまでの極僅かな間にそれは起きたのだ。間違いなく』
「間違いない?なんで言い切れる」
『そうでなければ異常すぎる。セーブ中のゲームからディスクを抜き取ってバグらせるような真似をしなければ決して起きない事ばかり起きている』
ゲームの例えを出してくるとは、存外神も俗っぽいらしい。
『印の無い魂を転生させる事は本来不可能だし、死んでいない者の魂を連れていくのは神の世界で大きな罪だ。これも本来不可能』
「なるほど。だけど記録すると同時にカセット抜き取るみたいなバグらせをすれば可能なのか」
神は頷こうと頭を上にあげ、それから下げなかった。
『まだ疑問点がある。その答えを知るため我は貴様のところにやって来た』
「そうか」
彼女にとっては、きっとここが本題だ。
『貴様の死と同時に魂を抜き取るためには、貴様の死のタイミングを秒単位でわからなければならない。だがいったいどうやって?』
……どうやってタイミングを計るかなんて疑問に思うこと自体が、俺には疑問だった。
「普通に未来予知とか出来るんじゃないのか?”不審者”は神じゃないとしても、人間とは違う次元の存在なんだろ」
神は頷かない。
『確かに”不審者”は人間より高度な事が出来はするだろう………だが未来予知すらも可能な程であれば、目的に関わらずより楽でリスクの低いやり方がある』
「そういうものか」
『……我はな、不審者がどうやって貴様の死ぬ時を測ったのか、そ奴を直に見た貴様に聞きたい』
「うーん、そんなこと言われてもな」
俺は少し考えてみる。
あのオッサンが、俺の死のタイミングに着目してる様子とか全然なかった。
挑発するような言動をずっとしてきてたらな
その結果俺は激怒し、ボロボロの体が耐えきれず死んだ。
……それじゃないのか?
もしもあのムカつく言動がわざとならどうだ?
あいつが、俺を怒らせようとしていたらどうだろう。
俺がいつブチキレるかにだけ注意を払えば、いつ死ぬのかってある程度予測できるんじゃないか?
もちろん、それだけで完璧に俺が死ぬタイミングを計るのは普通無理だ。
でも、普通よりも予測しやすいかもしれない。
それでも人間では完全に死ぬ瞬間を見極めるのは無理かもしれないが……そもそも不審者は神じゃないとは言え人間でもないはずだ。
あいつは正当なプロセスではないとは言え俺を転生させる程の力がある。
未来予知といかずとも、普通できないことができてもおかしくない。
「俺はあのオッサンがうざくて、めちゃくちゃブチギレた結果死んだ」
『死んだのは自己責任とでも言いたいのか?』
「違う。俺がキレるように誘導されたのかもしれない。俺はブチ切れたら死ぬくらいに弱ってたから、俺の怒りを見極めれば死ぬタイミングもわかるだろ」
『そうか………そうだな、やってやれなくもない範疇だ、人間をよく見ている不審者ならばな』
神はようやく、上げていた頭をおろし、頷きを最後までやった。
「どうやら満足したみたいだな」
『あぁ、問いただしたい事は全て済んだ』
話は終わりらしい。
だが神は、この場を去ろうとしていない。
まだ別の話があるかのように。
『ところで雑談だ、転生してから調子はどうだった?』
突然の意味不明な質問に俺は混乱する。
答えを言うならば、好調だ。
転生してからの方が、家族仲はいいし<水ひっかけ>も使えるし。
もっと生きていたかった。
で、今なんでそんな事聞く。
『”前世の名前”は憶えているか?』
「前世の?」
また変な質問、今度は簡単だ。
今の名前はスパイクで。前世が。
前世が…………前世が…………?
山田、上田、大沢、国木、村木、佐々木、たくさんの苗字が浮かんでは消えていく。
しっくりこない、何が俺の名前だっけ?
『前世と性格が変わったりしてないか?例えば、人を助けるために死ねる程優しいのに殺し合いが平気だとか』
「………!」
転生して、俺の性格が多少変わったり記憶が少し欠けているという認識は多少あった。
でもそれは、大したことが無いと思ってた。
でも指摘されて見つめ返してみると、欠けているのは少しじゃない。
読んだ漫画の記憶とかはあるけど、通っていた学校の名前が小中高のうち一つも引き出せない。
前世の両親の名だってわからない。
記憶がかなり消えてる。
性格も多分大幅に変わってる、たぶん前世ではリンを戦いに参加させるのは迷ったはずだ。
10歳もいってない少女が父親と殺し合う事になるなんて、もっと重たく捉えていただろう。
『貴様の魂はおかしくなっている。無茶苦茶な手順を踏んだ結果欠けたのだ』
「………そうか」
もう俺の転生についてに何が起きたのか、答え合わせは済んだ。
充分だ。
ここらへんを真面目に考えなかった未練は残る。
もう少し、俺の転生について注意を払ってれば多少なりとも違う人生を歩んだかもしれない。
俺は前世の記憶というアドバンテージを得ていたのに、それが中途半端だと気づかないままだったらしい。
残念だ。
『さて、話は終わりだ。さっそく貴様を転生させた謎の男について暴いてもらう』
そして、神は何か変なことを言い出した。
「???俺は死んでるぞ、無理じゃねーかな???」
『無理な事は言っていないぞ、貴様には一度だけ蘇る可能性がある』
「はぁ?!」
俺がよみがえる?
出来るのか?
「死んだヤツを生き返らせるって、そんなに簡単な事なのか?」
『簡単じゃない。貴様は特例だ』
「特例?」
『異常な経緯で死んで転生した貴様は、世界に死を認識されていない。つまり記録上は死んでいないという事になる』
「………だからって、どうなる」
『貴様は世界にとってはイレギュラー。そして世界はイレギュラーを認めない』
突然圧倒されて、何も声が出なくなる。
人型になった瞬間より大きな威圧感を、神が発しだしたからだ。
『問題を解決する方法は一つある。”転生をもう一度正当なやり方で”やり直すのだ』
いつの間にか、俺の全身が戻っていた。
だが腕と足がいつもより長い。
戻って来たのは、前世で使っていた肉体。
『覚悟はいいか?コレから痛いぞ』
「………俺は」
一瞬迷った、俺は生きる事に幻想を抱いていないからだ。
死んだ方が楽になれるような人生を送る人間なんて、山程いる。
希望を見出そうとしてもがき苦しみ、絶望して死んでいくやつもいる。
絶望すらしなくなるヤツだっている。
絶望とは、世界に少しでも期待している奴だけの反応だ。
身の回りに存在する、悪意と善意と無感情の全てが害になるのが当たり前な人間にとっては、苦しみ続ける事は平常な事になる。
生きる事を、俺は煌びやかなものだと思え無い。
だがしかし、だからといって、俺は。
……言いたい事があるが、喉が震えた。
神の威圧か。
『言葉にしなくともわかるので構わん。命を得たいのだな?』
神様の海老腕は、いつの間にかハサミを大きく開いて俺を挟もうとしていた。
そのまま腰を、チョキンと切って真っ二つにした。
俺の肉と骨は何の抵抗も無く、豆腐を切るよりアッサリ切れた。
これで、三度目だ、真っ二つ。
今回は痛い。
激痛だ。
悲鳴をあげようとして、口から出るのは咳に近い何か。
肺が損傷している。
血が噴き出して、空へ向かっていく。
俺は落ちていく。
『貴様を転生させた男の手かがりを伝えよう』
手がかり、か。
『貴様の魂は欠けたと言ったな?その”欠けたところ”を探せ、それが男を探す手がかりになる』
俺が、あの男を探さなかったらどうなるんだろう。
激痛の中、頭の片隅で考える。
『そんなことは起きぬよ、貴様は我の思い通り動く』
まるで思考が伝わったようだ。
でもきっと、顔に気持ちが出ているだけだ。
『貴様は我と再会したくなる。今ここで我が”期待に応えてもやる”と言うからだ。さぁもう時間が無いぞ、蘇ったらすぐに我の力を使え』
お前の力?
『人智を越えた力は、何処からくるものだと思っていたのだ貴様………』
呼吸が出来ない。
死ぬ。
俺は死んでいく。
………前世で俺を転生させたオッサンは、ある意味俺の助けにもなっていたと気づく。
今回は、怒りという鎮痛剤が無いから苦しみが鮮烈だ。
痛覚がまともな状態で死ぬのは、始めてだ。
苦しみだけが広がって、他に何も無くなっていく。
〇スパイク〇
体が全てもとに戻っている。
暗い。冷たい。寒い。
まとわりつく、圧力。
湖の中に俺は、いるのだろう。
どのくらい深いかわからないけど、生身で入るのはそんなによくない。
だけど、俺にとってここは全力を出せる場所だ。
<水ひっかけ>を通して、色々な事が全部じゃないけどぼんやりわかる。
コレはきっと<水ひっかけ>だけの機能では無く、この場所でスキルを発動すればだれでも出来る。
神がいる世界に近いこの湖では、神の力を発動すればそちらに近づく。
スキルとは、神から与えられた力だ。
人間に外付けされる力、つまり武器のようなもの
そして俺の<水ひっかけ>もまた神から与えられた力。
あまりにも強大すぎて、他の神の力を持てなくなるほど。
あの海老とんでもないの渡してきている。
<水ひっかけ>が本当は強いのにサポート系能力だと思っていたのは、全て俺のせいだ。
俺が使いこなせていない、巧く、上手く、そして旨くやれてなかった。
俺は両手を前に突き出しながら<水ひっかけ>の力を全て解放する。
解放という表現なのは、俺がこれまで<水ひっかけ>の本当の力を引き出せていなかったから。
外付けの力ゆえ、使い手はそれを理解しなければ力を全く引き出せない。
いくら優秀な銃を手にしたとて、使い手の腕が悪ければ使いこなせないように。
<水ひっかけ>の対象はリンパパだ。
湖全てが、俺の手の平から放出される神の力により、躍動し、空に舞う。
<水ひっかけ>は実は最強だ。
たくさんの国から恐れられ”差別感情”を世界中にしみこませることで、その持ち主が殺されるようになるほどに、強い。
俺の周りが明るくなった。
湖にあった水がまるごと天に浮かんでいく。
これが<水ひっかけ>スキルによっての現象。
きっと行きつくところまでいけば、海を丸ごと引っぺがせる。
人間一人程度簡単に押しつぶせる大きな大きな水の玉が、月の光を写し取りあたりを照らしていた。




