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俺のゴミスキル、<水ひっかけ>は実は最強  作者: ガギグゲガガギ25
二章 水ひっかけスキルの真の力
17/24

17話 決着は/彼に心を見たが故に

 〇スパイク〇

 俺は”その事”について知らなかった。

 その事に興味を持ってないという自覚も無かった。

 その事は、普通の人にとってはとんでもなく大事で、どうでもいいなんて言ったら嘘つき呼ばわりされる事なのだ。


 でも、本当にどうでもよかった。

 どうでもいいからちょっと考えてもすぐ忘れてしまって。

 真面目に検討することも無くて。

 だから、意表を突かれる。


 その事とは、俺がこの世界に転生してきた事そのものだ。


 〇スパイク〇


 森の中で、リンパパとの戦いはまだ続いている。

 リンが前衛を務め、俺が木や茂みの陰に隠れて援護という分担は変わっていない。

 だが、戦闘開始から変わった事が二つある。

 良い方にも悪い方にも一つずつ。


 まず一つは、リンパパが<転移>を使い始めた事。

 縦横無尽な瞬間移動を、遠距離から爆発させるスキルを組み合わせてリンに攻撃をしている。

 これは悪い方の変化。

 リンパパのスキルコントロールが上手く、リンが防戦一方になってる。


<転移>を使ったリンパパが突然目の前に現れたかと思えば、次の瞬間<転移>で真上から攻撃を仕掛けて来たりするのだ。

 実力者が機動力を何十倍にも膨れ上がらせるスキルを使えばそりゃ手が付けられない。

 防戦一辺倒とはいえ、倒されず敵を引き付けてくれているリンを褒めるべきだろう。


 良い方の変化は、サキがこの場に来た事。


 俺の手元の石包丁は、サキがスキルで形を変えたモノだ。

 彼女は俺の父親を助けに行っていたが、それを完了させる前に俺達の援護に来てくれた。

 その方がいいと判断したらしい、正直かなり助かった。


 リンパパが瞬間移動し始める寸前にサキがやって来て「敵はあなたの父親のスキル奪ったそうです」と教えてくれなかったら、とっくに負けてただろう。


 敵が<転移>を使っているとわからなかったら、まず敵のスキルの考察から入らねばならなかったが、そんな余裕は無かったから。


 ……と、ここまでの事はこれまでの経緯。


 ここから俺達はどう反撃してくか考えないとならない。


 リンはまだ持ちこたえてる。

 リンパパの攻撃を引き付けて、こっちに狙いが向かないようにしてくれてる。

 村人との連戦も考えると、あいつの働きは物凄い。

 もうちょっと頑張ってもらおう。


「サキ、リンが頑張ってるうちに打開策立てるぞ」

「ええ」


 とにかく考えなしじゃ勝ち目が無いので考える事にする。

 木の陰に隠れ、リンパパがいつ仕掛けてきてもいいよう心構えはしておく。

 そうしながらサキと話す。


「それじゃリンパパの使ってるスキルについて教えてくれ」


 とりあえず、敵の能力について知らない事には対策も立てようがない。


「なぜ私に聞くのですか?」

「スキルについて詳しいんだろ」


 サキはスキルについて造詣が深いはずだ。

 俺の<水ひっかけ>について何か知っているようだし、村人たちのスキル調査も異様に効率が良かった。


「はい、詳しいです。しかし」

「しかし?」

「私の考えが間違って無いと保証出来ません、専門家ではないので」


 サキの”専門家ではない”は、謙遜か客観的事実なのかどっちなんだかわからない。

 まぁどっちにせよ、俺より詳しいのは間違いないだろう。


「それでもいいから、教えてくれよ」

「では敵のスキルについて話しますが、遠距離攻撃と転移どっちについて聞きたいんですか?」


 サキに聞かれて、俺は答えに詰まった。

 スキルを奪うスキルについて尋ねたかったんだが、アレなんて呼べばいいんだろ。

 スキルの名前がわからん。


「とりあえず<スキルを奪う>がどういう性質か教えて欲しい」


 仕方ないので便宜上の名前を付ける事にした、本当の名前はべつにどうでもいい。

 サキもそう思ったようで、スキルの名前については無反応だった。


 サキは弁舌の前にすー、と息を吸ったっぽい。

 石包丁からそういう音が出た、すげえ、どうやってるんだろう石が。


「ではいくつか質問させてください」

「え?」

「私は敵の<スキルを奪う>について細かくは知りませんので、あなたの話から性質を見極めます」

「わかった」


 なるほど、サキは敵の行動からスキルについて考えるのか。

 スキルの性質で行動は変わるから、行動からスキルの性質を考える事も出来るのだろう。

 例えば水筒を持ち運んでいるヤツは、スキルを使うのに水が必要………みたいな感じで。


 サキの質問に備え、記憶をたどる。

 何があったっけか。


「あなたの父親は脅しに屈する人でしたか?」


 急に予想外の質問が出て来た。

 リンパパのスキルと、父さんの性格なんて繋がりは無さそうだ。

 だが、こんな時にサキは無目的にふざけるヤツじゃないと思う。


 きっと、こいつの質問には意味がある。

 俺がその意図を汲めていないだけ。

 真剣に考えるべきだ。


 さて、俺の父親が脅迫に屈するかどうか、か。

 実は俺って父さんとあまり相まみえた事が無い、仕事で忙しそうにしてたから。

 つまり情報は少ない。

 だけど、父さんは俺を村から逃そうとしてくれた、死にそうになってる時に。

 心が強いのは間違いない。


「屈しないと思う」

「では次の質問です、敵はどんな性格ですか?」


 サキは、リンパパの事を敵と呼んだ。

 それは仲間の父親と殺し合っている事から目を逸らすためにも思えるけど、長い言葉がめんどくさいだけな気がする。


「なんというか恐い。機械的。明らかに異質。見たままの雰囲気」

「……では次です、これまで敵は<スキルを奪う>以外にスキルを使いましたか?」

「<転移>と遠距離攻撃するヤツだけだ」


「だいたいわかりました」

「ホントか?」


 サキはあっさりと、わかったなんて言う。


「敵の<スキルを奪う>について言える事は三つ。1.発動条件は敵を倒す事。2.奪ったスキルはそのまま自由に使える。3.スキルを複数奪う事は出来ない、もしも新しくスキルを奪いたいなら前に盗ったものを捨てる必要がある」

「結構わかるんだな」

「推測も混じってますがね」


 サキの”推測交じり”はついでみたいな言い方だった。

 たぶん、結論について”間違いない”と確信しているのだろう。


 たしかに思い返してみれば納得のいくものが結論だ。

 例えばリンパパが奪っていられるスキルは、一種類だけっていう信憑性は高い。

 複数奪えるんだったらもっと多様な手で攻めて来てたはずだ、リンパパは色んな技を使いこなす器用さがあるだろうし。


「とりあえずその考察をもとに作戦練ろう」


 サキの言った事は参考になりそうだ。

 仮に間違っていても、見当違いってほどでもないだろう。


「これで何かに繋がりましたか?」

「リンパパの弱点がわかったろ」

「はい?」


 俺の言葉にサキは不思議そうな声をあげる。


「奪ったスキルをそのまま使うんなら、奪ったスキルの欠点もそのままなはずだ。つまり〈転移〉の弱点をつけばいい」

「あなたのお父様が持つ<転移>の弱点ですか。それって何ですか?」

「知らない」


「……あなたは期待させるだけ期待させてそれで終わらせるんですね」

「サキの方が知ってるんじゃないか?詳しいんだろ?」

「わかりません。<転移>系統のスキルはあまりにも種類が多いですから、敵がどのタイプの<転移>を持ってるかを知るのは難しいんですよ」


<転移>の弱点をつくという議論は、行き詰った。


 でも、父さんの持ってた<転移>に弱点があるのは間違いないと思う。

 だってリンパパの動きだと<転移>は”無敵に見える”からだ。

 つまり俺の父さんは”無敵に見える”スキルを持ちながら、リンパパに負けたのだ。

 別に父さんはそこまで弱くもなさそうなのに、妙だ。


 たしかにリンパパは滅茶苦茶強い、でもあいつは神みたいな次元が変わって来る存在とは違う。

 あいつは呼吸する、食事する、睡眠する、至極当然な法則からは逸脱していない。

 悪夢に出るどうしようもない化物とは違う。

 あいつが<転移>というスキルを何の理由もなしに倒せるとは思わない。

 対処法があるからこそ、リンパパが勝て奪えたはずなのだ。


 思い返せ、父さんとリンパパが転移を使っている光景。

 これまでの違和感をもった瞬間。

 ヒントはそこにあるはずだ。

 例えば、リンパパが途中で何もして来なかった時間とかあっただろう。

 アレはなんだ。



「……チャージだったり?」

「チャージ?」


 サキが俺にオウム返しする。

 ふと思いついた可能性はサキなら価値があるかわかるだろう。ちゃんと聞いてみるとするか。


「敵が何もしない時間があったんだ。その後から<転移>を連続で使い始めた。その何もしてこない時間って<転移>を使うために必要なものだったりしないか?」


<転移>がチャージ式というのは、結構理にかなっているんじゃなかろうか。

 そうでもなければ、最初からガンガン使って来ていてもおかしくない。


「"チャージ"ですか……たしかに"装填式"のスキルだっていう可能性は高そうですね。話を聞く限りその"装填"もそこそこ時間がかかりそうです」


 ”<転移>はチャージするやつかもしれない”というひらめきにサキのお墨付きがつく。

 でも"装填"と言葉をわざわざ直された。

 そんな事をするのは、スキルの呼び方について研究機関とかが定めてるのからかもしれない。

 ま、この状況で言葉なんて伝わればいいから気にしないが。


「じゃあ、そこがリンパパの弱点だな。弾切れした時が一番弱くなる」


 <転移>をチャージ式と考えるなら対策は耐え続ける事だ。


 <転移>に弾切れがあるのなら、そのうち弾数はゼロになってリンパパは弱体化する。

 あいつは疲労によって身体・精神的に消耗したうえで、手札を一つ失うのだ。

 コレは俺達にとっておいしい。


 そして弱体化させたら、リンに頑張ってもらう。

 あいつも戦い続きで疲れてはいるだろうが、スキルの性質上戦力が下がりにくい。

 基礎ステータスをあげるスキルの持ち主だから、疲れようが火力も耐久力も高いままだ。


 リンパパを消耗させてから、リンを前に出しゴリ押しすれば勝ち切れる。

 最初と違ってこっちにはサキもいるから、リンの援護役も増えてる。

 ゴリ押しはやりやすい。

 そんな結論をだそうとして、懸念点があると気づく。


 ……この森でリンパパと戦い出す前、ありえない先回りしてきた瞬間があった。

 あいつが<転移>を最初に使ったのはあの時な気がする。

 となってくれば、結構前からあいつはチャージしてたんじゃないか。

 下手すると戦闘開始前から。


 そうなってくると、<転移>の弾数はたくさんあるかもしれない。

 その場合弾切れ狙いは非現実的なものになってしまう。

 極端な話、一億くらい弾数があるなら弾切れなんてほぼ絶対起きない


「スパイクさん、どうしましたか?」


 サキが俺の不安を察したようで聞いてきた。


「相手が<転移>をチャージしまくってたら、弾切れ狙いは無駄になるんじゃないかって思った」

「心配いりません」

「そうなのか?」

「はい」

 サキは堂々と返事した。


「……聞かせてくれ、話」

「装填系のスキルは、"装填出来る数に上限がある”か”装填してからしばらく経つと弾数が0になるもの”が多いです。弾切れリスクと無縁でいられるものは少ないです」

「少ないって事は、多少はあるのか」

「本当に極僅かですがありますね。でもあなたの懸念通りなら敵はもっと早くから<転移>を使ってるでしょう。敵の弾切れはもうすぐなはずですよ」

「そうか」


 サキは自信がありそうに語る、最初話すのを躊躇していたのはなんだというくらいに。

 ありがたい、サキがいるおかげでだいぶサクサク作戦が決まった。


「よし、じゃあ弾切れまで耐えるか」

「はい」


 結論は出た。

 とにかく今は耐えて、<転移>の弾切れを狙うという作戦で行く。

 となれば、リンが前衛で俺は援護という現状を維持すれば十分。

 そのままチャンスまで待てばいい。


 リンとリンパパの戦いを見つめる。


 無闇に突っ込んでもリンを邪魔するだけだが、それでも手出ししないといけない時もあるだろう。

 そのタイミングが来た時のため、目を離さない。


 なんだかんだでリンは持ちこたえ続けていた。

 調子メチャクチャよさそうだ。

 あちこちから爆発攻撃を受けてるが、俺が教えた砂巻き上げ対策を織り交ぜたり頑張っててダメージは少ない。


「ん?」


 なんか違和感があった。

 リンから数歩分離れた地面がたまに煌めいてる、爆炎の光を反射しているのだろう。

 でも、そんなに光るものがこの森にあったっけ?


 リンは、フットワークで守備しながら、光る何かへ近づいてる。

 その行動は無意識だろう。

 煌めきには気づいていなさそうだ。



「リン!前に出ろ!湖だ!」


 俺はとっさに叫んだ。

 緊急性が高い事だったから、勝手に体が動いた。

 リンは指示に従って、ちょっと無理して前に一歩出る。

 爆発を顔面に食らうという、ヤなダメージを受けてるが仕方ない。


 あのままだと、リンは湖に足を突っ込んで体勢を崩し大きな隙を晒していただろう。


 この森には湖がある、村から逃げる時に使ったヤツだ。

 リンパパはそこにリンを追い込もうとしていた。

 だが俺が水面による光の反射で、リンパパの狙いに気づき防げた。それは良かった。

 だが……少し問題が生まれた。


 今、リンパパが俺に視線を向けた

 それは、俺を"すぐ排除すべき対象"と認識した冷たいもの。


 リンパパの作戦を看破したのはいい、その結果向こうで俺を処理する優先順位が変わった。


 俺は素早くしゃがみ、こぶし大の石ころを左手で拾い上げる。コレは必要になる


「リン!固まれ!防御だ!二人で防御を固める!」


 俺は目立ってしまった、そのせいでリンパパが俺を狙う優先順位をあげた、さっきの目でわかる。

 コレはマズイ、リンと合流しないと俺がこのまま殺される。

 強引に押し切られるのが一番きつい。


 ………弾切れ狙いなんて悠長な作戦もうだめだ。

 ジリジリやる戦いを今やったら、負ける。

 相手が<転移>を持ったままでも勝てる戦法に変えないと。


「サキごめん作戦変更だ!一度でいいから盾になれ!」


 俺は木の影から飛び出しながら、サキに指示を出す。


「急ですね、まぁいいでしょう」

「あぁ!助かる」


 右手に持ったサキの形が変わり、円形になる。

 持ち手は無いので端っこを掴む。


 これが盾だ。


 サキの魂が入った石ころは、壊れると死ぬらしい。

 でも、壊れた時に近くに石ころがあれば魂をそっちに移すだけで済むそうだ。

 だから、俺は石ころを拾ってサキが安心して盾になれるようにした。


 リンパパが俺の視界に一瞬入る、俺を指さしてる、それは攻撃の予備動作。

 あの遠距離攻撃が来る……とか考える前に、盾を構えた、反射的な行動だった。

 攻撃を受け、盾が爆発して砕け散る。


 上手くやれた、俺もなんか調子がいいみたいだ。


 左手の石ころがもがもがと動き出す。


「……あ――。えっと、あぁ大変な状況でしたっけ……あぁリンさんの父親との戦いでしたっけ」


 サキがこっちの石ころに魂を無事移せたようでなにやら喋ってる。

 一度壊されたせいか、混乱しているみたいだ。

 サキがこうなったら、形状変更が使えないから盾も作ってくれない。

 それは少しの間だけだが、その少しが危ない。


 <転移>を使ったリンパパがさっきと違う場所から俺を指さし、”二発目”を狙っている。

 サキが盾にもう一度なるより、リンパパの攻撃の方が速い。

 しかし、問題なかった。

 リンが俺とリンパパの間に割り込んで<防御力強化>で遠距離攻撃を防いだのだ。


 サキの盾は、俺とリンの合流を確実にするための布石だった。


「スパイク!なんで?」


 リンが、リンパパの遠距離攻撃から俺を守りながら叫ぶ。

 なんでこっちに来たのか、と問いたいのだろう。


 何を言うべきだ?

 俺が狙われた以上、リンとの距離が離れてると各個撃破されてしまうから固まった、そこまではいい。

 でも、これからどうする。

 この状況は、とっとと勝負を決めないとまずい。


 リンパパはまだ<転移>とあの遠距離攻撃を組み合わせて俺達を狙っている。


 リンがどうにか体で止めたり、攻撃を仕掛けてリンパパを退けたりしてるが、いつまでも成功させられるものでもない。


「<水ひっかけ>で相手の先を読む疲れで相手の隙は増えてるはずだ、そこを狙え」


 なぜか作戦がポンっと思いついた。

 不思議と、コレがベストだという確信がある。

 調子がいいのは体だけじゃなく、頭もみたいだ。


「わかった」


 リンはそれだけ言った。


「……私はどうしますか?」


 サキが聞いてきた。


「ピンチっぽいところのカバーしてくれ」


 俺は手に持った石ころ(サキ)をその場におろす、ある程度自由にさせておいた方がたぶんいい。


 そして腰にくくりつけた水筒を、紐を引きちぎりながら取る。

 中身はもう少ない、スキルを使えるのは一度きり。

 水を湖で補充する余裕もない。

 これがラストチャンス。


「……<水ひっかけ>!!発動!!!対象はリンパパだ!」


<水ひっかけ>は対象に100%水をひっかける事が出来る。

 目にひっかけて隙を作ったり、どこに水が行くかを見切る事で敵の動きを予測したり。

 そういう事が出来る強力なスキルだ。


 リンパパに対してほとんど使わなかったのは、上手く使えても大した効果が得られないからだ。 

 リンパパは強く、何かに意識を取られようが動きを読まれようが、リンの攻撃を平気で捌いていた。


 でも今は、戦い始めた頃より弱体化している。

 <転移>の弾数も、あんだけ使えばもうほとんど残ってないだろう、その焦りもあるはずだ。



 だからここで<水ひっかけ>を使う。

 どこに水がいくかで動きを先読みし、最大火力をぶちかますのだ。


 めきゃり。


 いきなり俺の腕が曲がった。

 肘が普通と逆方向に折れた。

 なんだ、コレ。

 こんな事起きたことが無い。


「ぐぁああああ!」


 痛みが駆け巡る。

 反射的に地面に手と膝をついたが、腕が勝手にうねうね動く。

 俺の関節をないがしろにして、ねじれて、バキャ、ブチ、と筋肉も骨も捻じ曲がる。


「スパイク?!」


 リンが叫ぶ。俺の異様な状態に驚いているようだ。


「コレ”も”俺のスキルの力だから大丈夫!気にするな!チャンスまで耐えろ!」


 俺はリンを万全にするため嘘をついた、リンの調子を崩すのが一番まずい。

 でもちょっと嘘のつき方が最悪だ、大丈夫なんて言ったらもう悲鳴をあげられない。

 別の言葉にすればよかった、全然大丈夫じゃないんだから。

 痛い、苦しい。


 なんだこれは、俺の腕に何が起きている。

 折れたままの腕が見えない何かしらに強引に動かされ、ブチブチとかいう変な音出して激痛で俺を甚振っている。


「リン!スパイク君!何をする気だ?!」


 リンパパの声がした、その方向に腕が動いた気がする。

 でもリンパパが転移した事で、すぐさま腕の動きが別方向に変わる。


 まさか今の異常は<水ひっかけ>のせいか?

 いや、きっとそうだ。

 だって<水ひっかけは>100%命中するスキルだ、そこに俺の意思は無く腕が勝手に動く。

 きっとこうやって腕がグチャグチャになるのは、そうしないと水を命中させられないから。


「……ッ、リン!集中しろよ!」

「うん!」


「知ってるか!この湖って普通の奴は近くによる事すら出来ないんだ」


 リンパパの声が響く。


「ここには神がいて、ここに来る資格があるものには力を与えるそうだ!俺はここに来るとやけに調子がいいからよく来てた!」


 前から、後ろから、上から、全ての方向から声が響く。

 リンパパは連続して<転移>を使用し、俺達に位置を悟らせない。

 それに呼応しているように俺の腕は異様な動き方をし、ぶちぶちぶちぶち大事な神経や肉が千切れていく。


 でも、いい。


「……だから、あの夜スパイク君がこの湖に来た時思ったよ。”殺すべきだ”と」


 敵の位置を予測するという事に関して<水ひっかけ>は実は最強だ。

 俺の腕が、真っすぐ真正面に振り下ろされる。


「俺の目の前だ!!!!!!」


 俺の目の前にリンパパが現れる、俺の顔面に指を突きつけていた。

 だが、俺は死ななかった。


「ぐおおっ?!」


 物凄い勢いで、リンパパが横にぶっ飛んでいく。

 急いで目で追う、リンが飛び蹴りをぶちかましていた。

 俺の指示を信じて、リンパパが<転移>したところに手痛い打撃を食らわせたのだ。


 その一撃は、クリティカル。

 たった一発だが<攻撃力強化>を使ったリンの本気の一撃はデカい。

 食らえば内臓が破裂し、口から血を吐き出しながら死ぬくらいの一撃だ。


 これはもう俺達の、勝ちだ。


 ……………………


 リンパパが這いつくばっている。

 泥まみれで、疲れ切った背中だった。

 リンの一撃を受けてもまだ生きている、普通アレで死ぬだろうに。


 とはいえ、さすがに全く元気は無さそうだ、全然動こうとしない。

 ぐったりしてる。


<転移>を使えばこの状況からでも逃げだせるはずなのに、そうしないのは弾切れだからだろう。


 俺はトドメを刺そうと思って、右の方を見る。

 石ころが飛んできて右手に収まり、小刀に形を変えた。

 コレはサキだ。

 サキは俺のやりたい事をよくわかってる、<テレパシー>でも持っているのかと疑いたくなるけど、単純に察しがいいだけだろう。


「……なぜだ」

「は?」


 始めて感情的な声を、リンパパはあげた。

 くぐもった声だ。


 ちらりと隣のリンを見る。

 なんだろうか、不愉快そうな表情だ。


「俺は妻と息子を殺した、革命を制圧するうえでそうすべきだったからだ。手にかけた後悔はない」

「……」


 リンパパの言葉に、嘘は感じられない。

 淡々としていて、無感動。


「だがなぜか、俺は家族のために戦えるお前が憎い」

「リンパパ……」

「お前俺の事そう呼んでるのか……」


 リンパパの姿はみじめで、情けなく、なんか可哀想に思えた。

 なんか、どうしようか迷う。

 殺すつもりで戦ってたのは、必要だと認識していたからだ。


 でも今の俺は思ってしまった、殺す必要あるのだろうかと。

 だって殺さず倒せたのだ。

 放っておいたら復帰してまた攻撃してくるだろうが、気絶させるなり工夫すればそれで十分なのでは?

 そういう可能性を検討した。


 そういう甘さが、良くなかった。

 ……いや、甘いのが悪いというか、馬鹿なのが悪い。

 俺はこんな大事な局面で油断したのだ、間違いなく馬鹿だ。



「スパイク!!」

 リンの叫びが耳から入ってキーンと響く、耳が痛い。


「私のパパにそんな心は無いよ!!」

「え」


 リンの言葉には焦燥があって、俺は慌てて警戒し直す。

 いない、リンパパがいない。

 まだあいつ<転移>の弾を残してやがったのか、消えてしまった。

 クソ、弱った状況でも反撃のチャンスをうかがってたのか!

 あいつどこにいった?!



 俺の思考も行動も、何もかも遅かった。


 リンが後ろ向けに倒れていくのが見える。

 その次に夜空が見えて、俺の視界がおかしいと気づく。

 逆だ、後ろ向けに倒れていってるのは俺だ。


 足の感覚が無い、何か食らってふっとばされたのか?

 視界が勝手に上向きになっていく、反射的に眼球を下に動かす。

 俺の腰から下が無い、腹部をリンパパの攻撃で消し炭にされたようだ。


 驚愕はしたが、悲鳴をあげようとも俺はしなかった。

 いきなり真っ二つにされると、驚きが恐怖に勝る。


 あと、こうなるのは俺だけなんだろうけど、前世の死に様みたいだなと頭の片隅に浮かんだ。


 元から暗い夜空が、完全に闇に包まれ同時に俺の全身も何かに包まれる。

 冷たいものが口と鼻に入って来る、コレは水だ。水に俺は包まれてる。

 上半身だけ吹っ飛ばされて湖に落ちた。

 まずい、どうする。


 寒いと感じると同時に、眠いと感じる。


 ……痛みが薄れていく。

 夢の中にいるかのように、全ての現実感が失われていく。

 失神する理由はいくらでもある、疲労による体力低下、出血、内臓損傷、準備無しに寒中水泳。

 これらはこのままだと、俺の死因になる。


 でも、俺が死んでいく理由を自力解決するのは不可能だ。

 体が動かない。

 かといって他力も期待できない。


 さっきまで手に持ってたサキはいつの間にかいない。

 たぶん、リンパパを倒しに行ったのだ。

 そうしないと、リンとサキが俺を救助しようとしても邪魔される。


 でもリンパパを倒すのには時間がかかるだろう。

 助けを待ってたら俺は死ぬ。

 やっぱり自力でどうにかしないといけないって思うんだけど眠くてたまらない。


 なんか不思議だ。

 俺は転生者のはずなのに、これから初めて死ぬように感じてならない。


 痛くは無かった。

 悲しくも無かった。

 自分の存在がどんどん薄れていくのが、当然に思えた。


 ごぼ。


 俺の肺から空気が無くなる音がする。

 随分と鮮明で、生き物が発する音として生々しい。

 最後に感じる音として、不思議なまでの納得感があった。


後書き。

最終回っぽいけど、ぜんぜん最終回じゃないから安心してください

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