15話 異常者としてみられる
前書き~
今回は続けてリン視点です。
〇リン〇
私達は逃げる、全力で。
私のパパが、こっちをしっかり見ていた。
つまり位置がバレている。
パパと戦うのは避けたい、あっちの持ってるスキルがよくわかってないし、スキルとか関係なく強いし。
……私はパパから格闘技術も教わったことがある。
だから知ってる、パパは殴り合いもメチャクチャ強い、昔どっかの国の兵士だったらしい。
スキルが無くても強いのに、スキルをちゃんと使う人と戦うリスクは大きい。
だから逃げないといけない。
しかし立ちふさがるようにデッカい民家があった。
「リン、最短ルートを突っ切れ」
「わかった」
スパイクに言われた通り、窓を蹴破って中に飛び込む。
無駄に物を壊さないようにとか気を使ってる余裕は無い、そんなこと考えてたら殺される。
飛び込んだところには色んなものが置かれたリビングがあった。
この村にしては珍しい都会風だ、村長が最近先進的な村にしようという試みをしてるらしい。
ソファとかもある。
すぐ後ろで爆発が起きて壁が吹き飛んぶ。
コレはパパのスキルだ。
パパのスキルは不明だけど、何一つとしてわかっていないという程でもない。
スパイクは、私のパパが遠距離で爆発を起こすスキルを使うのを見た。
その時に<水ひっかけ>でパパの目を塞いだ結果、命中しなかったそうだ。
つまりパパの遠距離攻撃は視線が大事という事になる、だからこういう状況では色んな物で視線を遮りながら進む事に作戦開始前から決まってる。
私は素早くソファーを飛び越え、姿勢を低くする。
ソファーで爆発が起きる、何度も何度も。
……壁に空いた穴でパパから視線を通され、連続で攻撃されてしまってる。
このソファは頑丈みたいだから盾代わりになってくれてるけど、そのうち壊れる。
そうなれば、滅茶苦茶に遠距離攻撃されてしまう。
どうにかしないと。
正面には……テーブルがある、その向こうにはドアもある。
ドアからなら逃げ出せるだろう。
けど、ドアノブに手をかけるのは立ち止らないといけないわけで、その時に殺されるんじゃないか?
「リン、テーブルで守りながら進め」
「……!」
スパイクのアイデアを聞いた瞬間、それしかないと感じた。
私は即座に目の前にあるテーブルに飛び乗り、後ろに蹴り飛ばしながら跳躍。空いてる穴を塞ぐように。
爆発音が背後でするけど、気にしない。
「そのままとびだせ」
私はドアを蹴破り外へと飛び出した。
少し先に、木々の群れが広がっている。
森だ。
「もう森に入れ」
すぐさま駆け込む。
パパからの視線をたくさんの"木"が邪魔してくれる。
躊躇なく走る。
こんな夜には普通、走っちゃいけない。
木とガンガンぶつかる羽目になってしまうから。
でも、不思議と前がしっかり見える。
月明かりなんて大したことが無いのに。
なんでだろうか気になるけど考えてる暇はない。
そしてしばらく走ると
「……降ろしてくれ」
スパイクがそう指示を出して来た。
私のパパが行く手を阻むよう正面に立ちふさがっている。
どうやったかわからないけど、先回りしていたらしい。
スパイクを降ろす。
「もう焦る必要は無い、夜の森の中だと敵の増援は来づらいからな」
「……うん」
「それに、敵を倒さなくてもいいなら即座に逃げていいんだ」
スパイクがそれだけいって、木の陰に隠れた。
これは打ち合わせ通り。
一撃食らえば死んじゃうスパイクは、強敵との戦いじゃ逃げてた方がいい。
べつにスパイクが足手まといの雑魚ってことじゃない。
居てくれる方が、陽動の中で雑兵を倒してくには良かった。
なぜかというと普通に勝てる相手と戦う時には、不意打ちや奇策等による番狂わせをどう防ぐかが問題になるからだ。
そしてスパイクがいれば、視野の広さと戦術でそこら辺を補ってくれた。
だけどこれからは、強敵との戦い。
”格下に負けないため”の戦法を続けてたら、負ける。
だからスパイクを降ろした。
ここからは、私達が番狂わせを仕掛ける番だ。
ゆっくりと、パパが近づいてくる。
どうしよう。
パパはきっと仕掛けて来る、でもそれはいつだろう。
私のスキルには<防御力強化>がある以上、一撃で殺される事はまずない。
<機動力強化>と<攻撃力強化>のおかげで、一撃で殺す事は出来る。
「ッ!!」
私は奇襲気味にパパに殴りかかった、常人では避けようが無い当たれば死ぬ威力のパンチを放った。
でもパパは、避けた。
やっぱりだ、パパは強い。
兵士時代は、犯罪者達を何千人も殺したそうだ。
その事を納得させるような現役さながらの俊敏さをパパはしていた、引退して何十年も経ったはずなのに。
ダメだ。
心のどこかでそんな考えが浮かぶ。
一瞬のやり取りで、相手の実力の高さがわかってしまった、私よりやっぱり遥かに高い。
「だぁあああああああ!!!!」
私の叫びは自然と溢れるものだった。
ダメだからって、なんだ。これで諦めるくらいならこんなとこに来なきゃいい。
ダメだからといって、すぐさま何もかも止める小さな覚悟は持ってない。もっと大きい。
パパに対して連撃を繰り出していく。
私の右脚前蹴り、をサイドステップで避けたパパを追いかけるよう外側に回す蹴り、をスウェーでいなしたパパに素早く接近して、二発ジャブ。
私の攻撃の巻き添えを食った木に、思い切りもぎ取られたかのような大穴が空いた。
木はゆっくりと倒れていく。
そこに掌底して、パパに向けて木を物凄い勢いで倒す。
でも、パパはすばやく避けた。
私の攻撃は躱されるし、受け流される。
でもパパからの反撃も来ない。
私は全ての攻撃を、食らえば大怪我もしくは死ぬ威力で出している。
だから、パパは反撃に出れない。スパイクの方を狙いに行く事も出来ない。
下手な事をすると、ただ私にやられる。
<防御力強化>を持った私は、生半可な攻撃の効果を受けないから、ちょっとした牽制で隙を作るような真似も出来ないのだろう。
パパはあの遠距離スキルを使う暇もないみたいだ。
私もパパに致命傷をくらわせられそうにないけど、時間を稼ぐことは出来る。
「リンッ!」
スパイクの叫び声がどこかからする、それと共にどこかからか水が飛んできた。
スパイクの<水ひっかけ>によって飛んできた水が、パパの目に命中する。
これは、パパの隙だ。
今だ。
私は威力フルのパンチを繰り出した。
「あっぶね」
パパは避けた。
視界が悪い状況で、あえて私の方に”向かって来た”
そして私を飛び越えて、私の後ろに着地することで……攻撃を躱した。
なにそれ……?
私は振りむきざまに、裏拳を繰り出す。
パパは避けた。
まずい、どうしよう。
パパに隙が出来ても、私の実力じゃそこをつけなない。
「数日ぶりだなリン、お前父親と殺し合う気か?」
パパは平然と話しかけて来る、私との格闘戦をこなしながら。
パパは息をつく暇も無い全力戦闘の最中、普通にベラベラ喋れる。
兵士時代に習得した技術だと昔聞いた。
激しい戦いをしながら仲間に指示を出したり、敵を説き伏せるためらしい。
「うん」
私も格闘戦を続けながら話す。
パパにやり方を教わった事がある、あんまり上手く出来ないから長台詞は無理だけど。
「なぜ、そんな事ができる?」
パパは私への問いかけを続ける。
話したいんだろう。
じゃあもしかして、戦わないこともできるんじゃないか。
そんな期待を今、私はした。
「気になるの?」
「ちょっとな」
もしも、会話が完全な悪手ならスパイクから”やめろ”って言われるだろう。
でも、そんな指示飛んでこない。
パパと殴り合いながら話してみる事にする。
戦わずに済むんだったら、それが一番いい。
「村の皆のやる事がおかしい、止めなきゃいけない」
私はパパの質問に答えた。
コレに共感してもらえるのなら、それでいい。
「偉いぞ、その理由を口にするって事は戦いが大好きだと言わない方がいいって覚えてるんだな?」
「え?」
パパの返事も反応も、予想外だ。
なぜだか嬉しそうだった。
私の連続フックを避けつつ、パチパチと拍手までしている。
「でも、村の皆を止めなきゃいけないにしても俺を殺す理由はなんだ?お前俺以外は気絶させるだけで済ませてるだろ?」
「だって手加減してたら私達が殺されちゃう」
「あちゃー、そんな理由じゃダメだぞリン。”パパに虐待されてた”と言いなさい、”パパがママをいじめ殺した”でもいい」
「なんで?私はパパの事大好きだよ、そんなウソつきたくない」
パパの言葉の意味がわからなかった。
私にママがいないのはパパと噛み合わずに離婚しただけだし、私は虐待された事なんて一度も無い。
パパは沢山の事を教えてくれた、沢山遊んでくれた、私のやりたい事は自由にさせてくれた。
私が構って欲しい時はいつでも構ってくれた。
本当はとても忙しい仕事についているのに、無職なんだとしばらく勘違いしてたくらいに私に構ってくれていた。
私はもっとパパの子どもとして過ごしていたかった
「やっぱり俺に似てるなお前、流石娘だ。お前頭おかしいよ」
「……………?」
よくわからなかった。
「いいか、恨みが無い大好きな親を殺せる人間は異常者としてみられる。隠しておいた方が無難だ」
「なに言ってるの」
「……家族殺しは、俺も経験があるからわかるんだ」
「”も”?」
凄惨な話に私の拳が鈍る、だけど、攻撃を止める事は出来ない。
「俺は昔兵士をやって、たくさんの犯罪者を捕まえたり殺してた。その時期は俺にとって最初の嫁と子供がいた頃でもある」
それは知ってる。
「だが、国では革命が起きてしまってな。革命側に行ってしまった家族を俺は殺したんだ」
「……」
それは、ちゃんと聞いたことが無かった。
なんとなくそうじゃないかとは感じてたけど。
「俺は家族が大好きだった。でも兵士って仕事を選んだんだから家族でも殺すべきだろ?そしてその事については泣いたり酒に逃げたりせず、何にも感情表現しなかった。その結果同僚から不気味がられ、後の仕事には支障が結構出たのさ」
「……そんなアドバイスをしてくれるって事は、私を殺すつもりが無いって事?」
「ああそうだ、アドバイスしてるのはそういうことだ。俺達みたいなヤツは人に”納得”して貰える感情表現を嘘でもいいからしていくべきだと」
パパには私を殺すつもりがないらしい。
私の攻撃が鋭さを失っていく。
話せば話す程、殺し合わなくていいんじゃないかっていう気がしてくる。
「そっか、私を殺すつもりは無いんだ……」
「そりゃ殺さないといけないのスパイク君だけだからな、お前は別に手足もぐ程度の怪我でも無力化できりゃいい」
「え?」
やっぱり駄目だ、殺し合うしかない。
パパにはスパイクを殺す気はある、そういうのを許せないから私はここにいるのだ。
「……このっ!」
精彩を取り戻したストレートを放つ。
パパは思いっきりバックステップでかわした。
その瞬間に私は全力で思い切り前へと出る。
やはり、後ろに思いきり下がった結果パパは背中を木にぶつけた。
表情一つ変えていないが、吐息が漏れてる。
この大きなチャンスを逃すわけには……
……パパは人差し指を私に向けていた。
そして、私の右眼で爆発が起きる。
「ッ?!」
今の隙はパパがわざと作ったのか、そして遠距離攻撃スキルを繰り出したというわけか。
危なかった、普通なら私の顔面は吹き飛び中身が飛び出しただろう。
でも私には<防御力強化>がある、激しい発光と刺激によって涙が止まらなくなるだけですんだ。
左目でパパを見る。まずい、距離を取られてる。
このままじゃ……!
無数の爆発が、私の顔面を襲った。
「ぐうっ……!!」
爆炎のせいで視界がダメだ、結構熱い。
どうにか逃げようと足を動かすけれども、パパは上手く狙いをつけ私の顔面にばかり爆発を起こしているようだ。
でも、一発一発のダメージは低い、食らい続けたって死ぬまでには時間が相当かかる。
一旦考えよう、どうしよう。だめだ頭がぼんやりする。
眠い。
なんでだろうこんな時に、あくびをしそうになる。
上手く考えられない。
やっぱ眠い。
―――ッ
スパイクの声がした気がした。
なんだろう、なんだっけ、なんか考えがグチャグチャになってる。
スパイクと色々話した記憶を振り返る、こういう状況だとどうするか作戦たてたっけ?
そういえば眠らせてくるようなスキルを持った相手だと、私が負けるかもしれないみたいな話をした気がする。
でもそれは関係ない、パパは爆発を起こすスキルを使っているのであって睡眠とは………………………………
………………いや待って、この症状”酸欠”?
そうだ、爆発が顔の周りで連続して起きたら当然酸素は減る。
代わりに吸い込んではいけない成分の濃度が高くなる。
「リン!土を巻き上げろ!」
スパイクの声、今度はハッキリと聞こえ自然と足が動いた。
思い切り、靴で土を跳ね上げ一瞬しかもたない壁を作る。
私の”目の前”で爆発が起きる。
つまり、私から少しだけ離れた場所で起きた。
爆発したのは、今巻き上げた土だ。
「リン!行け!」
「近ッ!」
凄く近くにスパイクがいた、爆発の中で声を通らすためにリスクを取ったらしい。
すぐさま抱きかかえ、<機動力強化>で近くの木の陰に一緒に隠れる。
………パパの気配はする、こっちに近づいては来ないみたいだ。
なんで追い詰められた私達に、さらなる攻撃を加えてこないのか理由はいくらでも思いつく。
下手に近づかないよう警戒しているのかもしれないし、休憩してるのかもしれない、もしかしたら私達の消耗狙いかも?
ともかく、この状況は良い。
スパイクとの話が出来る。
「リン。敵は”指の先から見えない弾丸を飛ばす”んだろう、それが"何かに着弾した瞬間に爆発する”。そういうスキルだと思う」
「なるほど」
スパイクが、私のパパのスキルについてまとめた。
これまでの戦いで何となく概観はつかんでいたけど、言葉でまとめてもらえるとスッキリ。
ぼんやりとしか見えてないものが、くっきり見えて来る感じだ。
「………それがわかっても、どうする?私はパパに勝てなそうだよ」
「希望はある、こっちの戦力が増えたからな」
スパイクは石で出来た剣を見せつけた。
なにそれ?そんなもの用意した記憶はどこにもない。
スパイクがコッソリ作ったものなのかな?
「リンさん、私です」
剣から声がした、これはサキの声だ。
どうやらサキが、<形状変更>で剣になっているみたいだ。
スパイクのパパを助けに行ったサキがここにいるって事は……
「スパイクのパパ、助けて来たんだね」
「いいえ」
「えっ」
「まだあの人は囚われています」
サキは役目を果たしたからここにいると思った、でも違うみたいだ。
「でも、じゃあなんでここに?」
「それは………」
「ッ!!」
サキの話を最後まで私は聞かず、木の陰から飛び出しパパを探す。
本当はそんな事したくないけど、パパの気配がいきなり消えたのだ。
つまり何か仕掛けて来るというわけで、作戦会議なんてしてられない。
<防御力強化>を持った私が目立って、集中狙いされないと。
スパイクとサキはどっちも攻撃を食らうリスクが大きい。
爆発が私の頭頂部で起きる。
”上”からの攻撃だった。
パパは木に登っているのかと疑い、見上げるけどどこにもいない。
とりあえず腕で顔面周りをガード、さっきみたいな酸欠症状になったら負けだ。
今度は背中で爆発が起きた、”後ろ”からの攻撃。
ダメージは少ないけど、ちょっとヒリヒリとはする。
不快だ。
そして今度は、”顎”で爆発が起きる。これは”下”からの攻撃だ。
歯と歯がぶつかり、ちょっとした痛みを得る。
鬱陶しい。
………………どういう事なんだろう?
上とか下とか、どこからでもパパの攻撃が私に襲い掛かって来る。
どうやっている?
まずい。
何もわからない。
この戦いは、パパの方が優勢だった。
そして今、パパは何かしらの秘策を繰り出して決着をつけに来ている。
こんな状況で私は一体、なにをどうすればいい?
焦るだけで、何も思いつかなかった。




