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俺のゴミスキル、<水ひっかけ>は実は最強  作者: ガギグゲガガギ25
二章 水ひっかけスキルの真の力
14/24

14話 連戦

怒りが人を突き動かし、憎悪が人に力を与え、狭い世界が人を鈍くする。

感情はありふれた唯一無二から生まれ、魂が死にゆく理由になれるのは世界のすべて。

 〇リン〇

 スパイクから戦えと言われ、(リン)はやっとその時が来たかと私は思った。

 村の皆と戦う事は覚悟済み、むしろ随分とこの状況になるまで時間がかかりすぎとすら感じる。 


 戦いなら私にとって望むところだ。


 男が一人だけ視界に入って来る、二軒隣に住んでたおじさんだ。

 たまに野菜をくれた人、口癖は”甘い野菜を食うのは甘え、苦い野菜こそ至高”だ。

 ……私は野菜って味以上に栄養が大事だと思う、ドレッシングかけまくったら品種ごとの味なんて誤差だろうし。


 おじさんの突進には戦術の欠片も無い、それは私達を子どもと舐めた愚策だ。

 すぐさま<機動力強化>を上乗せした飛び蹴りを食らわせ気絶させた。


 私は今のおじさんがどんなスキルを持っているのか、サキのおかげで頭に入ってた。

 村の人間がどんなスキルを持っているのかを、それぞれの外見的特徴含めて調べてくれたのだ。

 だからリスクリターンの釣り合いを考えて戦える。


 今倒した人のスキルは、<農作業><農具長持ち><作る作物の栄養価アップ>で、戦闘用スキルが無い。

 だから私の基礎ステータス強化3種で余裕で倒せた、スキルが有るというだけで経験や素の身体能力の差はあっさり覆る。


「リン。お前知り合い殴り倒して平気か?」

「うん、ちゃんと戦うって約束したでしょ」


 背負ってるスパイクが私を心配しているらしく、声をかけて来た。

 正直心配し過ぎだ、私は知り合いへの暴力そのものへの抵抗は無いのだ。

 というか暴れまわるの大好き。


 殴ったり蹴る感触も、傷ついて死ぬかもしれない時の高揚感も最高だ。

 そういう気持ちは隠した方がいいとパパから聞いてるので、言わないけど。


 私の嫌いなものは不公平な支配や道徳の無い暴力であり、この戦いはそういうのと違う。

 理不尽に捕まっているスパイクのパパを助けるためだし、誤解から痛めつけたスパイクへの詫びでもある。

 迷う理由が一つも無い。


「リン。敵が二人だ」

「また?」


 スパイクのいう通り真正面に敵が二人いる、どちらも成人男性。

 横並びでこっちを見てる。


 右にいる耳が平均より少し大きいのはベテラン。

 一方左側にいる足と腕の長さの比率が良くないのは経験不足、表情に戦いへの困惑が見て取れる。


 サキが調べて来た情報は頭に入ってる、あの人達のスキルはどっちも<刀剣技術>だった。

 つまり刀を上手に振り回せる能力。

 私の<防御力強化>があれば、刀をどう食らおうが大した傷を受けずにすむから、相性は悪くない。


 すぐさま<機動力強化>を活かし、経験不足な方の懐に潜り込んだ。

「ぐおっ」

 今の呻きはスパイクのものだ。

 急な加速だったから、ちょっと苦しかったんだろう。

 でもこの程度の速度なら別に怪我はしない、気にせず目の前にいる敵の腹に前蹴りし一撃で失神させる。


 すぐさま回し蹴りも叩き込み、ベテランの方に向けて経験不足な男を吹き飛ばす。

 ボウリングで弾いたピンがまた別のピンをなぎ倒すみたいになって連中は気絶した。

 あの程度なら、しばらくしたら復活してくるだろう。


 トドメはささない、作戦をやっている間眠っていてくれたら別にそれでいい。

 私は簡単に人を殺せる程強い。

 だから人を殺さなくてもどうにかなる。

 つまり殺す意味が無いのに殺すなんてやりたくない。


 さて、とりあえず三人に勝った、でも油断はしていられない。

 まだ敵はいるはず。


「スパイク、次は」

「ッ………しゃがめ!」


 スパイクの指示にしたがってしゃがむ。

 私の頭上を物凄い勢いで人の手が通り過ぎて行った、それは手刀だ。


 そして私の前に、細身な男が現れた。

 私の首を狙って手刀を繰り出したのは、この人だ。


 細身のスキルは<超速度走行>。

 1000人に1人が持ってるくらいに、広まってるスキルだと本で読んだ事がある。


<超速度走行>は、私の<機動力強化>と似ているけど、明確な差異がある。

<機動力強化>は全動作が速くなるから自然に走りも良くなるけど、<超速度走行>はフォームや脚力など何もかもが走りに最適化される事で速くなるという違いがあるのだ。


 つまり向こうはダッシュに特化してる、その分走力で私を上回ってる。

 ある一点においてハッキリと劣っているのは問題だ、敵がその有利な部分で勝負を仕掛けて来るだろう。


「おいリン!スパイクにたぶらかされたんだろ?!今なら戻ってこれる、戻って来い!」」

「なんで私の事を……」


 だけど、細身はまず私に声をかけて来た。

 まるで知り合いみたいだ、でも話したことなど無いのになんでそんな感じなんだろう?


「村の連中、情報共有してるんだろ」

「そっか」


 答えを出してくれたのはスパイクだった。


「リン、今なら誰もお前を罰さずに済む、戻るんだ。スパイク君の事は諦めろ」


 細身は私に戻れと要求してくる。

 でもこの人、私をぜんぜん理解していないみたいだ。


「私はスパイクが好きだからやってるわけじゃないよ」

「リン、まさか脅されているのか?安心しろ、村の大人は全力でお前を守る」


 ため息が出た。

 どうやら全くと言っていい程私の事は理解されていないようだ。

 気持ち悪い、私とまるで違うイメージが私として扱われるのは、この場所にいる私をないがしろにされているみたいだ。

 文句が色々言いたい、でもそんなことしてる暇は……


「余裕はある、少し話せ」


 私の気持ちを察してくれたようで、スパイクがそんな事を言ってくれた。

 なんでそんな許可を出してくれるのか、全然わからない。

 たぶん私に考えつかない理由があるのだろう。


 スパイクは凄い、私とほとんど同じ場所に居るのに私より広く物事を見てる。

 私と同じ年齢なのに何か根本的に違う気がする、とても不思議。

 今はその異質さに甘えさせて貰おう。


「私は村の皆が憎い。皆に怒ってる。あと悲しかった」

「なにが?何がだ、リン」


 せっかくスパイクがくれた時間を使って私がわざわざ意思を表現しても、やっぱり通じない。

 理解されたくない人はそれで構わないんだろうけど、私はそうじゃない。

 しっかりと人と向き合っていきたいし、そのためなら言葉を尽くしたい。


「村の皆はスパイクを悪と決めつけた、私もそれを信じていた。だけどそれは嘘だったで。皆は私に嘘をついた」

「嘘じゃない。スパイクは"いずれ"手のつかない悪になる。<水ひっかけ>スキルの持ち主はそういうものだ」


 相手が何を言っているのか、理解出来なかった。


「”いずれ”なんて本気で思ってたなら最初から言えばいい、でもみんな言わなかった。つまりみんなわかってるはずだよ、自分達の殺しの動機に正当性なんて無く感情をむき出しにしているだけなんでしょ?」

「<水ひっかけ>のスキルを持ったものは、殺さねばならない。不吉なものなんだ。騙されるな」


 私と相手の会話は悲しいものだった。

 心が通じ合わない、取引にもならない。

 つまり話す意味なんて無い


 でも話せて良かった、なんとなく調子が出て来た。

 自分の考えた事や感じた事を遠慮なく言語化していくのは、心地が良い。

 自分という存在を、強く自分で見返しているようだ。


「……敵スパイクが何かをやったから私はここにいるんじゃないよ、村のみんなの行う全てが気に食わないから戦いに来たんだ」

「じゃあ、戦うしかないのか」

「そっちが退かないなら」

「悪いな……楽に死なせてやる自信は無い」


 話し合った結果、私が決して村に戻る事はないと納得してもらえたようだ。

 そして殺す事にしたらしい。

 ……敵も、私と同じく、言いたい事を言った結果調子が出たっぽい。迷いが晴れた顔つきだ。


 細身は私に向かって豪快に走って来た、人と衝突すれば殺せる速度で。

 体当たりされれば私も<防御力強化>を使ってるとはいえダメ―ジを受けるだろう。背負ってるスパイクも下手したら死ぬ。


 でも<超速度走行>は都合のいいものじゃない、何かに衝突した衝撃はしっかりと受ける。

 直接ぶつかっていくなんて使い方は、普通しない。

 だから細身のこの突進はフェイントと捉える事も出来るけど……ちょっと余裕を持ってサイドステップ、細身は私がいた場所を当然のように突進していった。


 ……やっぱり、ぶつかってくるつもりだったみたいだ。


 反撃に移ろうと敵を睨む、一瞬で何十mも離れたところに行ってしまっているから無理。

 攻撃後即離脱が出来るあのスキルはやっぱり厄介だ。


「リン、敵はだいぶリスク度外視だな。でも焦る事は無い、普通の事だ」

「うん」


 スパイクの言う通り、敵があぶなかっしいやり方をしてきても全然困惑する必要は無い。

 村人の中には回復系スキル持ちもいる、後で治そうなんて考えの人も出てくるだろう。


「リン。このまま戦ったら勝ち目はどのくらいだ?」

「わかんない」


 スパイクの質問には正直に答える、嘘をついても意味が無い。

 ……私が細身と戦って勝つには、相手が近づいてきた時にカウンターくらいしかないだろう。けど、どのくらい成功させられるかわからない。


 細身が私に向かって走って来た、今度は左右への切り替えしを超高速に繰り返すジグザグダッシュだ。

 狙いを絞りづらい、カウンターのタイミングも取りづらい。

 どっちに逃げればいいのかもわかりにくい。


 何を選択するにしても、タイミングを間違えば手痛いダメージを食らってしまうだろう。


 どうしよう。

 細身を倒せたとしても、大して意味は無い。

 まだ敵は残っているし、こんなところで怪我してられない。


 そして敵が私の間合いギリギリまで来て……一気に加速して体当たりをぶちかまそうとしてきた。


「ッ!」


 思い切り右足踵を地面に突き刺し、軸にして回転。

 止まる寸前の独楽みたいにぐらりと体を捻り、ギリギリのタイミングで避けれた。


 細身を睨む、既に私の間合いから離脱してしまってる。

 また走って来るつもりだろう、スタートダッシュの体勢を整えている。


 どうしよう、小回りは私が上だし回避し続ければ相手のスタミナは尽きる。

 でもそんな事してここで立ち止まっているわけにはいかない。

 1人に足止めを食らうと、どんどん敵が集まって来て磨り潰される。


「リン!水使うぞ!」

「もう!?」

「こんな雑魚に時間体力かけてられるか!」


 スパイクが〈水ひっかけ〉を発動したようで、水が飛んでいくのが視界に入る。


 私は水を追いかける。

 水は一見意味不明な、誰も狙っていないかのような方向に飛んでいた。それでもかまわなかった。

 細身が走って来る、今度もジグザグダッシュ。


 私は二つに集中する

 飛ぶ水の行く先と、向かって来る敵に。

 細身が水の着弾点に自分から引き寄せられたように入って来る。


<水ひっかけ>水をぶち当てるための最適な位置に送り込むスキルだ、なぜか敵がどう動こうと命中率は100%。

 この運命を書き換えでもしているみたいな動作は<水ひっかけ>の基本である。

 威力がゼロという欠点を穴埋めするみたいに無駄に高度な事をやってるスキルなのである。


 大事なのは<水ひっかけ>を避けようとしても無駄で、絶対になぜか当たってしまう事。

 そう………つまり飛んでいく水の弾道と着弾点を見極めれば、敵がどこに来るのかわかるという事。

 フェイントには、意味が無い。


「やっぱり」


 私は水がどこで敵に当たるのか予想し、全力の一撃をぶち込める場所に移動していた。

 水が細身に当たって散る、私の右前蹴りが脇腹にぶち込まれる。

 細身は気絶した、勝った。


 殺してはいない、あえて脇腹という微妙な位置に蹴りを当てた。

 クリーンヒットさせてたら、殺してしまったろう。


 さて、勝ったけど喜んでる暇はない。

 敵はまだたくさんいる。


「真正面に走れ!」


 スパイクから突然の指示、すぐさま走ってこの場を離脱。

 細かいニュアンスはわからないが、スパイクの指示は何かしらの考えがある時が多い。

 たまに雑な指示もあるけど、そういう時は”とにかくなんかやるしかない”って切羽詰まった時だから余程無茶苦茶じゃない限り従う事にしている。


 私達がさっきまでいたあたりにたくさんの人の気配。

 どうやら細身と戦っている隙に、取り囲まれてかけていたみたいだ。

 危ない、あのまま立ち止まっていたり細身との戦いに時間をかけてたら集中砲火を浴びていただろう。


 ……あ、さっきスパイクが私と細身の駄弁りのを許してくれたのって、敵が集まってきていたから?

 あそこで立ち止まってるだけで敵が時間をかけて集まって来てくれるなら、私達は囮として凄い成果を挙げられるって事になる。そうしたらサキがスパイクのパパ助けるのも楽になるだろう。


 あと、敵を一か所に集めた方が逃げやすいっていうのもあるかな?

 こうして包囲されるギリギリで離脱出来た今、むしろ私達は安全だ。

 敵はあそこに密集してるから、そこさえ切り抜けちゃえば敵なんていない。


「ちゃんと前見ろ!」


 スパイクが叫ぶ、気づくと木の陰から男が飛び出して来ていた。

 なんでここに敵が?!待ち伏せ?!いや、私達を取り囲む動きに遅れた人?!

 ……どうでもいい!!今は目の前の敵の方が大事!


 男の手に握られた刀は、激しい電気を帯びている。

<電気発生><電気制御>のスキルを使っている奴だ。


 まずい、敵は刀を振りかぶっているから攻撃準備万端。

 でも私は走る事に集中してて、無防備。

 このまま攻撃を食らえば電流による痺れは私も多少受けるし、私を通してスパイクにもダメージが入る。

 強引に避けたら、それはそれでスパイクが急激な加速によるダメージを………


 私が行動を起こすよりも速く、男の頭に石斧がぶち当たって倒れる。


「俺って結構反射神経いいんだぜ」

「………さすが」


 スパイクが石斧を投げて敵を倒してくれたみたいだ。

 とりあえず石斧を拾おうと屈む。


「やめろ!すぐ逃げろ!」

「え?」


 スパイクが叫んだ、私はまたしても咄嗟に走り出す。

 石斧を拾う事は出来なかった。


「せっかく作ったのにいいの?」

「かまうな、逃げろ。さっき敵群の中にお前の父親がいた」

「ッ……」


 私は納得して走る、石斧なんて気にしてる場合じゃない。

 私のパパは強い、戦いたくない相手。


 ……パパは昔、どこかの国で非常に優秀な兵士だったらしい。

 それを疑う者は、一目でもパパを視界に入れた人間の中に一人たりともいないだろう。

 鉄が見ただけで硬いとわかるように、焦げた肉が見ただけで不味いとわかるように、パパが強いと見ただけでわかるのだ。

 見ただけでわかる理由なんて、私には説明をつけられない。


 でもそんな相手と戦うのは損だって事はわかる、だからこうして逃げる。

 ……そんなに強い相手から逃げ切れるのかというと、無理だ。


 こうやって逃げるのは時間稼ぎに過ぎない。

 きっと私達は追いつかれ、戦うしかなくなる。

 これまでの戦いとは違う。


 村の皆との戦いは、最善を尽くせば死ぬ事は無かった。

 でも、パパとの戦いは私たちの選べる事全てが最善でも死ぬかもしれない。

 ここから先は、正念場だ。


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