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俺のゴミスキル、<水ひっかけ>は実は最強  作者: ガギグゲガガギ25
二章 水ひっかけスキルの真の力
12/24

12話 最後の懸念事項

 俺・リン・サキの三人は俺の父さんを救出するため、ここ数日間森で暮らしていた。

 森は村を取り囲んでいるものだ、かなりデカいし道から外れているから村の連中と会う事は無く寛げる。

 そんな風に森で暮らす事が父さん救出に繋がるのか疑問に多むかもしれないが、繋がる。


 おかげで俺の懸念事項は一つを除きほぼ解決した。


 …………


 俺は茂みに隠れて『砂糖ラクダアリクイ』の様子を窺っていた。

 ややこしい名前だが、そうとしか言いようがない生き物なのだ。

 ラクダのように背中にコブがある巨大アリクイで、コブには砂糖が詰まっている。

 砂糖を含んだ唾液を蟻の巣入り口に発射し、誘き寄せてから食うという生態を持っているのだ。


 まぁそんな生態はわりとどうでもよくて、ラクダアリクイの肉は非常に美味いというのが肝心な点。

 おまけのようにコブから砂糖も取れる。

 ここ数日、何度か狩って食った。


 今日も狩って食うつもり。


「サキ」


 俺の声にこたえるように、砂糖ラクダアリクイの背後の石ころが人の形に変わっていく。

 そうやって人型に変形したサキが、砂糖ラクダアリクイをぶん殴った。


 砂糖ラクダアリクイは怒り、サキを殺さんと振り向く。

 その瞬間俺は”水筒”に貯めておいた水で<水ひっかけ>を発動し、砂糖ラクダアリクイの目にひっかける。


 突然目に刺激を感じた事で、一瞬だけ動きが鈍った。

 その硬直は命取りだった。

 隠れていたリンが目にも止まらぬ速さで飛び出し、貫手で砂糖ラクダアリクイの心臓を突き刺した。


 少々グロテスクな死に方だが、苦しみは無かっただろう。

 なぜならリンは狩りの時、即死させるからだ。

 手間じゃないかとこの前リンに聞いたら『べつに』と答えられた。


「よし。それじゃあリン、死体の処理を頼む」

「わかった」


 リンは砂糖ラクダアリクイの死体を抱えると、少し遠くにある川へ持っていった。

 食えるように加工するには、泥や砂を洗う必要があるうからだ。

 リンの背中越しに、リンが砂糖ラクダアリクイの四肢をもぎ取っていくのがわかる。

<攻撃力強化>スキルは、無抵抗の動物の体を素手で解体出来るくらいのパワーを持っているのだ。


 こんな風に森の中で暮らす中で、俺達は必要だった3つを得る事が出来た。

 仲間・情報・武器だ。


 まず”仲間”について。

 森の暮らしでは、さっきの狩りのように協力せねばならない事態がたくさんあった。

 解決のためにそれぞれが能力を発揮し、理解しあう事で”仲間”と言える程度にチームワークが仕上がったと言える。

 俺達はもう烏合の衆ではない。


 次に”情報”について

 悩みの種だった情報不足はサキを仲間にしたことで、ほぼ完全解決した。


 サキは潜入調査に最適な人材だ、だって石ころになれるのだから道端で人の話を聞き放題。

 空いた時間に村に行かせて色々調べて貰った。


 例えば父さんの状況についてだが、俺の予想通り人質にされているらしい。

 ただ厄介なところにいるので、助けるためには苦労しなければならない。


 そして武器の準備も済んだ。

 俺の右腰には紐で水筒がついている。

 水ひっかけスキルをどこでも使うために作った。


 サキの<形状変更>スキルが水筒制作では役にたった。

 水筒を作るのには色々必要な道具があるが、俺達には用意する金が無い

 しかしサキがナイフやキリの形になる事で、そこら辺を補ってくれたのだ。


 左腰には石斧がついてる、こっちも作ったものだ。

 握りやすい木の棒に、茎などを使って石をくくりつけるドシンプル物。

 スキルがサポート寄りの俺にとっては、火力を出すための生命線である。


 ちなみに俺以外装備品の用意は無い。

 リンは武器が無くても問題ないパワーがあると森の暮らしの中でわかった、むしろ身軽にさせた方がいい。

 そしてサキについては、スキルと装備の噛み合いが悪い。

 <魂転移・石>は次々と違う石ころに憑依していくもの、持ってる武器は置いてけぼりになってしまう。


 準備はほぼ完了である。


「……スパイクさん」


 サキが俺に用があるらしく人型形態で近づいてきた。

 やはり石で出来た彼女の体は神秘的に見える。

 石像に対する俺のイメージだけでなく、スレンダーなのも上品さを醸し出しているのだろうか。


「いつまでここで足踏みしているつもりですか?もう準備は整いましたよね?」

「……もうちょっと待ってくれ」


 そう、武器と仲間と情報は揃った、だがまだなのだ。

 まだ一つやるべき事が残ってる。


「何をどれ程してもリスクは付き纏います。このままでは作戦の成功率が下がるだけてす」

「それは……」


 正直なところサキの指摘は図星だ。

 俺達がやる戦いには、タイムリミットがある。

 父さんはいつ殺されててもおかしく無い状況、悠長にしていられるない。


 でも俺は躊躇していた。

 リンに対して話したい事があるが、それは結構繊細である。

 切り出し方によっては尾を引く問題となって、最悪リンがチームから抜ける。


 ……サキに相談してみるか、丁度モンスターの死体処理をするためリンが離れてるしな。


「………リンは戦ってくれると思うか?」

「そんな事が疑問なんですか?」

「俺は父さん救出したいっていう動機で命を賭ける、サキも目的がある。でもリンはそうじゃない」

「違うとはどういうことです」


 サキは俺の事を監視していたはずだが、そこら辺については知らないようだ。

 四六時中俺を見張ってたってわけじゃないって事か。


「リンは村への不信感や正義感で動いてる、つまり善意で俺達の元にいるんだ。でも俺達がやろうとしてるのは、リンの生まれ故郷と戦う事……善意の人間にそんな事が出来るか?」

「生まれ故郷と戦えるかという問題?リンさん以前にあなた自身の問題ですよね」

「俺は善意の人ってわけじゃないし、そもそも俺の生まれはあそこじゃないだろ」

「は?」


 サキが何か俺の発言がおかしいみたいな態度だ。

 なにがおかしいんだ、変なことは何も…………いや言ってるな。


「あぁ悪い、あそこをふるさとだって認めたくないだけだ」


 俺はあの村を故郷と思ってなかった、しかし客観的に見ればあの村が生まれ故郷だ。

 俺の前世について知らないサキがあのクソ村は俺の故郷と認識するのに無理はない。

 でもあそこに愛着など無いのだ。

 あの村にいいところなど無い。

 そりゃ家族との団欒はあった、それに関しては良かった。

 でもあの村のせいでそれがぶち壊されたわけだ。


 やっぱり俺の生まれ故郷は前世で過ごした町だ、呪われてるみたいなとこだったけど。


 いやまぁ、俺の感情よりも今大事なのはリンだなリン。


 問題はリンだ。

 リンは人間と、それも見知ったヤツと戦えるのか。


「リンは死ぬかもしれない中で頑張れはする。でも殺されそうになるのと、人を殺す事っていうのは全然違う。リンは見知った相手との殺し合いには耐えられるのか?」

「それが気になるなら、リンさんが誰も殺さなくていい作戦を組めばいいだけの事です」

「……そうしたいけど、そうしてられないかもだからな」

「とにかく話してみましょう。決別するなら早い方がいい」


 とにかく話すというサキの提案は、投げやりなようにも真っ当なようにも思えた。

 だがサキの言っている事は正論なのはたしかだ、どうせ決別するなら早い方がいい。

 ピンチになるなら余裕があるうちに。


 リンが砂糖ラクダアリクイを洗い終えたようで、こっちに死体を運んでくる。

 さっそくサキの提案を実行しようと思う、俺はリンに駆け寄った。


「なぁリン、お前友達を殺せるか?」

「知らない」


 俺の質問に対しリンは即答だった。


「じゃあ父さん救出作戦から外れて欲しい。ここまで手伝ってくれたのには感謝してるけどな」

「え?」

「ちょっと待ってスパイク、なんで急に私が仲間外れ?」


「リンお前わかってるのか。見知った人間と命のやり取りしないといけないんだぞ。友達やその親を殺すかもしれないんだ」

「殺せってわけじゃないんでしょ?手加減はスパイクボコボコにして学んだから大丈夫」

「毎回毎回手加減してられると思うか?」

「……うーん」

「それに殺さなくていい可能性もあるが、殺さなかったらこっちが死ぬ場合もあるんだぞ」

「…………う――ん」


 リンは考え込む、出来ると即座に言えるくらいじゃないと連れて行くのは少し不安だ。

 邪魔になりうるヤツが混じった3人より連携が取れた2人の方が上手くいく、たぶん。

 もちろん連携が取れた3人が一番いいのは間違いないが。


「そもそもさ、友達っていないから知らないんだよ」

「……ん?」

 リンは何やら言い出した。


「私って結構優秀でさ、村の子どもと全然話が合わなかったんだ」

「へぇ」

「パパに連れられて行った数学大会で最年少優勝したり、ちょっと他の子とは違ったからね」

「数学大会で優勝とかできるのお前」

「パパが色々教えてくれたんだ」

「……」

「でも友達の作り方は教えてくれなかったし、私自身そういう才能が無くてさ」

「……」


 話が脱線してるな。

 リンが友達を殺せるのかどうかという話が、こいつに友達がいないという事でややこしくなってる。

 でもいいか。

 リンについてより知れれば、リンが村との戦いをできるのかも多分わかる。



「スパイク、友達ってどういうもの?」

「そりゃ一緒に遊んだり話したり、そういうのをしようって思える相手が友達なんだろ」

「ってことは…………スパイクが初めての友達だね」



 リンは俺に微笑んだ。その表情は妖艶で、どきりとした。

 棘のように何かを俺の心に突き刺して、目を逸らしたくなるほどの存在がそこにあった。

 本当に子どもなのか?こいつは。

 前世ではこいつより何十年も年を食った連中を見て来たが、こんな存在そのものが普通じゃないと思わせるヤツは会ったことが無い。


「サキは二人目の友達になるね」

「いえ、私が貴方を友達と思っていないので違います。敬語を使いなさい」


 サキはリンに対して平然と接する、すごいな。


「スパイク、私村の人とは戦うつもりあるよ、ちゃんと協力する。出来る範疇で殺さないようにするけどそれは構わないでくれるよね?」

「あ、あぁ」


 圧倒されて、少し返答が遅れた。


「話は終わり?」

「実は、ここまでの話は前フリなんだ」

「え?」


 友達とか知り合いをリンが殺せるかというのは、本当に俺が気にしていた事ではない。

 殺さないですむ道を進んでいく事も不可能では無いからな。

 村の連中は俺とリンが逃げ出す時捕まえられなかった程度だ、手加減しても十分ぶちのめせるだろう。


 そもそも殺す方がデメリットはデカい、あんまり敵を追い詰めると手段を選ばなくなるだろうし結果父さんに危害がいくかもしれないしな。


 ただ……友達を殺せるくらいじゃないと、最大の問題を乗り越えることができない。

 最後の懸念事項についての話は、ここからだ。


「頼みがある、お前の父親を殺してくれ」


 俺は本当に話したかった事を切り出した。

 敵としてリンの父親が出てくることが、一番の問題なのだ。


「スパイク?!なんてことをなんて頼み方を!」

 じっと話を聞いていたサキが大声をあげる。


「理由は?」

 リンは対照的に静かだった。


「お前の父親は強いし異質だ。あいつとの戦いを避ける事は無理だろう」

「うん」

 リンパパとは運命的なものも感じる、ヤツは進むために避けて通れない山なのだろう。


「だがあいつは強い、殺す気でやらなかったら俺達は全滅だする。だからあいつを殺す。お前の父親に対しては”殺すかもしれない”じゃなくて”殺す”としか言えない」

「うん」


 リンにとってこの作戦は、共に過ごしてきた家族を殺めるという事になるはずだ。

 仮に自身の手でやらなかったとしても、作戦に加担する事自体が耐えがたいかもしれない。

 だから俺は切り出すのを躊躇していた。


 ちなみに俺達の戦力でリンパパを殺せるかというとわりと怪しい。

 準備も作戦もあるが、ここに関してはわりと賭けだ。


「スパイクをボコボコにしてる時、パパは私を褒めた」

「………」

 俺は黙ってリンの話を聞く。

「だけどあの人なら、スパイクが悪党じゃないと知っていたはずなのにそうした。そして家族ごと命を奪おうとした」

「…………」

「私の結論は最初から決まってる。村よりもスパイクの味方をすべき、だから私のパパと戦う。殺す事になっても」

「あぁ」


「……なんでこんな精神持ってんでしょうこの子」

 ぼそっとサキがつぶやいた言葉が耳に入る、俺も口にはしないが同感だ。


 リンは本気だ。

 こいつは自分の父親と事を構え、殺すという覚悟を決めている。

 命について重大なものであると認識しながらなお、そう決めたのだ。

 それは異質なものである。


「わかった、ありがとう」


 だが、リンは考えず感じずで父親を殺すと決めたわけではないだろう。

 手を血に染める恐怖も、罪悪感も、苦しさも、わかったうえでそう決めたはずだ。

 だから俺はリンに感謝を伝える。



 そして少し時が経った、俺達は焚火を囲んで砂糖ラクダアリクイの肉を焼いて食していた。

 美味しい。

 俺は普通に食べ、リンは早食いながらも綺麗な食い方だ。


 俺のすぐ傍に、石臼がある。

 肉を置いて、木の棒でゴリゴリすり潰すと

「あー……」

 と気の抜けた女の声が石臼からし、置かれた肉は溶けるように消えていった。


 この石臼は形状変更を使ったサキだ。

 そしてこれがサキの食事らしい。

 なんか普通に舌で食うより美味いそうだ。

 木の棒を押し付けられるのも肩コリ治しマッサージみたいで気持ちがよく、つい声が出ると言っていた。

 ちなみに肉のすり潰し方が雑だと、不愉快って怒られる。


 この前『体が石じゃ消化吸収機能無いのに飯食う意味ある?』と聞いたら『あるから食べてるんですが、何言ってんですか』と答えた。

 何かしら必要性があるのだろう。


 さっきまでの重苦しい空気は無い、メシが美味いとなんか空気も和む。

 サキはリラックスしてるし、リンは親を殺すがどおうこう言ってた時と比べ物にならない気の抜けた顔だ。


 本当に俺達は命がけの戦いに赴こうとしているのか、わからなくなるほどのゆるい空間。

 俺の頭もなんとなくぼんやりしてくる、落ち着く。


 …………冷静になってみると、リンって俺に対して恋心でもあるんじゃなかろうか。

 だって十歳にも満たない奴が故郷の方針を疑い、親に背いて、村中から殺されそうになっている俺を助けてくれるのだ。

 愛とか恋とかじゃないと納得できないレベルの行いな気がする。

 だとしたらまずい。俺は実年齢が大人だから子供であるリンは恋愛対象外。

 一応確認しておくべきか。


「………突然聞くがリン。まさか俺に恋したりしてないよな?」

「あ?」


 リンは俺を睨む。親の仇に向ける程の鋭い目つき。

 いやまぁこれから親の仇になる可能性はあるんだけども。

 でもまだやってないんだから、やっぱそんな目で見られたくないというか。

 いややったとしても見られたくはないけど。


「すいません」


 自然と俺は謝っていた。

 リンの殺意は凄い、リンパパに近しい。


「私が戦うのは村がスパイクを殺そうとしたのもスパイクのパパを攫ったのも間違ってるから。だから、例え殺し合いになっても………私は、やる」


 一瞬で空気は凍り付いた、リンの表情は鋭く近くにいるだけでぞくりとする殺気を出している。

 俺は安心した、この殺気を出せる人間が戦えないわけないじゃないか。殺せないわけもない。

 最初から心配する必要なかった。


 …………懸念は片付いた。


 空を見上げると、薄明るい。

 今日も月が出ているが、前見た時よりも欠けている。

 明日はもう少し暗くなるだろう。


「よし決めた、次の夜に作戦を決行しよう。それまでは休む」

「……わかった」「やっとですか」


 リンとサキは俺の提案をスッと受け入れた。

 最後の懸念事項のおかげでもたついたのがむしろよかったかもしれない、覚悟を決める時間があったからだ。

 もしかしたら一番覚悟が出来ていなかったのは、俺だったのかもな。

 とにかく、明日に備えよう。


 父さん救出作戦はもう始まる。

次回からスパイクが父を助けるために村と戦う予定です。

スパイクから見える景色だけじゃわかりにくくなりそうなので、戦いを色んな人の視点から書くつもりです。

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