11話 それぞれの力
「それじゃ発表会を始める、皆のスキルのプレゼンをしていってくれ」
俺はサキ、リンとともに円になる。
俺達は一旦、それぞれの能力を見せ合う事にした。
自分達に何が出来るのかをまずは見ない事には、連携のやりようがないのだ。
つまりこの交流は、父さん救出において必須である。
「まず俺の力は<水ひっかけ>だ。使える局面は限られるけど案外強いぜ」
俺は木の枝を投げつけ、そして手の平に掬っておいた水を投げつけるようにしてひっかけた。
コレは効果範囲内なら対象を視認していなくても命中率100%だ、索敵にも使える。
<水ひっかけ>でが出来るのはそれだけ、非常にシンプル。
だがシンプルであるからといって弱いわけじゃない。
「弱くないそれ?」
リンが俺のスキルを酷評してきた。
「弱く無い、相手の目に当てて隙を作ったり出来るしな」
「いいえ!ゴミスキルです!!習得すると他のスキルが習得できなくなりますし!」
リンだけでなくサキからの評価も低かった。
……隠された何かとかを抜きにしてもぼろくそに言われる程のモノじゃないと思う、結構気に入ってるんだけどな。
何度か命を救われてるわけだし。
さて、次はリンの番だ。
「私は攻撃力、防御力、機動力、それらを強化するスキルを持ってる。同時に3つを強化も出来る」
それから何もリンは言わなくなった。
俺とサキは少し待つ、だがリンはヤッパリなんも言わない。
説明はさっきのだけだみたいだ、スキルは基礎ステータス強化というシンプルなものだから話す事が少ないのはわかる。
だが、サキにとって説明が不十分すぎるだろう。
補足させよう。
「お前の能力があがるといってもどのくらいだ?スキル無しのお前とスキル有りのお前はどのくらい違う?」
「えっと、使う前はまぁまぁ強くて、使ったら無敵」
無敵と来たか、たしかにそう言いたくなるくらいにリンはメチャクチャ強い。
でも本当に無敵というわけじゃない。
コイツを殺す手段は色々と俺でも思いつく、俺には実行できない案が多いがそれを用意出来るヤツは世の中にいる。
リンはまだ子供、経験が少ない故に無敵などと慢心しているのだろう。
ちょっとまずい、今のうちに修正した方がいいな。
「スキル使ってる時って、眠くなったりするのか?」
「するけどそれが?」
「なら無敵じゃない、敵を眠らせるスキル持ちとかいたら負けるぞ」
実際にそんな状態異常系スキルの持ち主が存在してるかは知らない、でもたぶんいるだろ。
世界はたぶん広いし。
「……私が眠らされても防御を越える攻撃なんて、パパくらいしか出来ない」
「防御力じゃ溺死を防げないよな?リンが眠ってる間に重りをつけて湖に沈めれたら、死ぬよな?」
「ぁあそっか、そういう弱点あるんだ私」
わりかし素直にリンは納得した。
「よし、じゃあサキのスキルは?」
さて次はサキがスキルを見せる番だ、ここからが本題だ。
俺は自分の能力は当然わかってるし、リンのも見てきた。
だがサキの能力は詳しくない。
そしてサキの能力次第で、今後の方針が全くといっていい程変わる。
「では……お見せしましょう」
サキは劇をやっているかのような大仰な口ぶりをしたかと思うと、姿が急速に変形し石ころになっていく。
「えっ?!!」
「……それがスキルか」
リンが驚くが、俺は冷静だった。
以前森で見たからな。
「こちらです」
「うおっ」
俺は真後ろから声がして飛びのく、いつの間にか人型になったサキがそこにいた。
びっくりしている俺を見ながら、サキの体はまたしても石ころに戻っていく。
「こっちです」
右方向からサキの声
「実はこちらです」
足元からサキの声
「……もう十分わかりましたか?」
そして真正面からサキの声がして、真正面にある石ころが人型になっていき俺がよく知るサキの姿になった。
「スキルの名前は?」
「私のスキルは<魂転移・石>と<形状変更>です」
「どんなスキルだ?」
早く説明が聞きたかった、想像以上にサキのスキルは凄そうだ。
「<魂転移・石>は石ころに魂を移します。ただし魂を移せる石ころには条件があり半径10m以内にある拳くらいのサイズのものだけです」
「……」
先程あちこちの石ころからサキの声がしたのは、魂を入れる石ころを次々と変えていたのか。
「そして<形状変更>により、色々な姿に変われます。強度は変化する形状や大きさによって変わってきます。声についてはこのスキルを応用して出しています」
<形状変更>については、人型になるこいつで散々見て来た。
人型になるというのが主な使い方なのだろうが、口ぶりからして他にも色々出来そうだ。
「……最高の能力だな」
父さん救出という俺のやりたい事と、サキのスキルは面白い程相性が良い。
これで色んな問題点が一気に解決した。
だがしかしサキのスキルは万能というわけでもないだろう、どんなものもそれなりに欠点はある。
「……魂が入った石ころが壊されたらどうなる?」
「半径10m以内にある石ころに自動で魂が移動します。ただし<魂転移・石>を使えるサイズの石ころだけしか移動できません。移動に成功してもしばらく思考がおぼつかなくなります」
「……移動先となる石ころがなかったら?」
「死にます」
「死ぬのか」
「はい」
なるほどなるほど、サキの魂が入った石ころが壊されると死ぬ可能性があると。
……待て、コイツがそれを知っているのはおかしくないか?
「死んだ事が無いのに、何でどういう条件で死ぬのかわかった?」
「私と同じスキルの持ち主が身近にいたんです」
「そいつが死んで知ったのか?」
「……はい」
そうか、サキが自分のスキルについて”試しようがないこと”事を知っていてもおかしくないのか。
この世界では、違う人物がまったく同じスキルを持っている事もある。
俺の<水ひっかけ>も、村長が聞かせてくれた昔話だともっていた人物がいたらしい。
サキが自分がどうしたら死ぬのかを知っている事は、あまり気にしなくていいか。
それより大事なのは、やっぱりサキのスキルには弱点があったという事。
つまりサキと相性が悪い敵もいるだろう、そういうのとサキが戦わないで済むよう心掛けたい。
森で、サキの魂が入ってた石ころを沈めたり砕こうとしたのを思い出す。
……あの時森中の石ころ全部壊してしらみつぶしに探そうとか思わなくてよかったぜ。
うっかり殺したら流石にショックだ、俺は意味も無く人を殺す程野蛮じゃない。
「……」
「ん?どうしたサキ」
ちょっとサキのテンションが沈んでいる、顔がくらい。
なぜだ……あ、そうか。
しまった、こいつ身近な人間が死んだとか言っていたな。
それを思い返して楽しいわけがないか。
……なんとなくサキは普通の人間じゃないような気がしていた、完全に石像である見た目とか怪しい部分が多かったりとかしてたから。
だが、わりと普通の感性もあるらしい。
とっとと話を進めるか、あまり死の話題を続けていても仕方が無いしな。
「これで皆の能力はわかった。ありがとうサキ。お前がいる事で俺は凄く助かるぜ」
「私は?」
リンが横から訪ねて来る。
「そりゃ助かってる、お前いないとそもそも死んでるし」
「……あなたのお父様救出作戦は、成功させられそうなのですか?」
サキが聞いた。
「あぁ、15%くらいの確率で成功するだろう」
「「低っ!!」」
リンとサキが同時に声をあげた。
「安心しろ、まだ五分五分くらいまではあげれる」
まだ俺達のチームはそれぞれ出来る事知っただけだ、15%はむしろ高く見積もっている方である。
父さん救出作戦決行までにチームとして踏むべき段階が、まだ少しある。
と言っても大半は深く考えずともすぐに解決していくものだ。
つまり俺達の為すべきことは、ほとんど出来たも同然。
ただし、一つだけそうじゃないのがある。
自分からちゃんとアプローチしないと解決しないが、手を出したくない問題が一つだけ残ってる。
それでも、絶対に解決しておかないといけない問題があるのだ。