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如月舞を歓迎する

 星見野南高等学校――地方の共学校だけど、この学校が……というより、この地域全体の過疎化が進んでいて、何か街興しをしなくっちゃ、ということで、近所にあった『星見野“北”高等学校』と手を組んで――例の『他の学校から選手を誘致できる』って件ね――お陰でメンバーも充実しているし、優勝候補まちがいなし!

 なんで、私がこんなにこの高校に詳しいかというと――

「ああ、桜の従姉妹がいるって話の」

 紗季がスマホで公式ページを見ながら、軽い口調で言う。

「うん、全国大会で会えるのが楽しみだよ!」

 私はウキウキしながら答える。そう、全国大会には私の従姉妹も出場するのだ! 普段はあまり会う機会がないけど、こうやって同じ舞台で再会できるなんて、なんか運命的じゃない!?

 けれど、紗季は淡白。

「個人的な注目はいいけれど、私が言いたいのは優勝候補のことよ。それも圧倒的実力を持つ……ね」

 そう言いながら、紗季は手元のジャージに目を落とした。

「あ、それ、どこのだっけ?」

 私は、そのジャージを広げてみる。素材はしっかりしていて、どことなくスポーツウェアらしい機能性を感じる。胸元には大きく――

「……だから、天峰堂よ」

 紗季がため息混じりに答えた。……ああ、そういう話の流れだったっけ。星見野のことを思い出してついひとりで盛り上がってしまった。

 ジャージを確認すると、たしかに『天峰堂体育大学付属女子高等学校』のロゴが入っている。ひぇ~……ソックリなパチモンとかでなく、ホントに本物か~……

「元々、あらゆる競技で賞を狙っていく、というのが基本理念だからね。どうやら、競技ストリップもスポーツとして認識されたみたいよ」

 なるほど……。フィギュアスケートや新体操、チアリーディングなど、魅せる競技にも力を入れているみたいだしね。そんな人たちの練習着がここにある、ということは――

「天峰堂の強さの秘密はこのジャージにある、ってこと?」

 試しに、私はパンツの裾を引っ張ってみる。この伸縮性……着るだけで強くなれそう……!

「何もないわ」

「……ないんだ」

 紗季に一刀両断されて、ちょっとションボリ。

「あるわけないでしょ。ただのジャージよ」

 ……めっちゃ呆れられた。いや、だってほら、天峰堂ってひとり残らずみんな強そうじゃん!? そしたら、ジャージだって特別製でもおかしくなくない!? これ着て秘密のトレーニングとか!

 すると、紗季はふっと微笑み――励ますように――とんでもないことを口にする。

「桜、そのジャージを着て、天峰堂に潜入してきなさい」

「えええええええええ!?」

 いま何て言った!? 潜入!? 天峰堂に!?

「ストリップの映像……特に、近代ストリップに関するものはほとんどない。だから、その目でトップレベルを見てきなさい。貴女も大会に出場()るのでしょう?」

 と、言われても……

「ごめん、私、大会出ないんだ」

「……は?」

 紗季が驚愕の表情を浮かべる。

「いや、ほら、うち、部員多いでしょ?」

 それは紗季も知っているところではあるけれど。

「だからって、部長が出ないとか、ある?」

 紗季はまだ信じられないみたい。まるで冗談を言われたみたいな反応だ。

「実力でいえば、舞先輩のほうが……三年生だし部長に相応しいと思ってるんだけどね。私はあくまで発起人ってだけで」

「けど、人望でいえば貴女でしょ。というか、舞先輩は人望なさすぎ」

「は……ははは……」

 紗季は相変わらず厳しいなぁ。けど、それは、まぁ……否定できないかも。舞先輩はプロのストリップ・アイドルとして活動してるから、部活に来ないことも多い。もちろん、サボってるわけじゃなくて、プロとしてのレッスンを優先しているのは理解してる。でも、それに加えてあの圧倒的な自信家っぷりがなぁ……。鼻につく人には鼻につくのだろう。けれど、先輩のステージを見せられたら何も言えなくなる。ストリップとしての振り付けだけでなく、歌も完璧。まさに、ストリップ・アイドルの天才だ。

 私は純粋に尊敬しているし、実力も信じてる。でも、全員が私と同じ気持ちってわけじゃない。

「それで自ら補欠に……」

 紗季がため息混じりに呟く。呆れたように視線をわずかに落としていたけど、すぐに顔を上げて微笑みを浮かべた。

「そういうところが、貴女の人望ともいえるかもしれないしね」

 私は思わず肩をすくめる。いや、そんなに深く考えてたわけじゃないんだけどなぁ……。私が出場しなくても、みんなで全国大会に参加できるならそれでいいって思っただけだし。

 でも、紗季の言葉は、ちょっとだけ引っかかる。人望、かぁ……

「本来は私と桜で行くつもりだったけど」

 そう言って、紗季は踵を返す。

「え?」

 それってつまり、最初から私と一緒に潜入するつもりだったってこと!? でも、紗季は話を打ち切って扉へ向かい、まるで何事もなかったかのように少しだけ振り向く。

「ほら、帰るわよ。それは置いていくから、貴女ともうひとり誰かで使いなさい。試合に出ないふたりで行ってももったいないでしょう?」

 視線を落とすと、机の上には天峰堂のジャージが置かれたまま。

「え……えーと……? これは……」

 指を差すと、紗季は一度振り返る。でも、別に取りに戻る気はないみたい。

 ジャージの袖をつまみながら考える。正直、ひとりで行くのは怖い。誰か付き添いがいてくれないと……

 すると、扉の前で紗季がニヤっとして息をつく。

「あの学校、“脳筋”多いから気をつけてね。下手な相手に捕まったら、何をされるかわからないわよ」

 ゾッ。待って!? 急にホラー!? なんでそんな不穏なこと言うの!?

「ねぇ、紗季……私の代わりに行ってくれない……?」

 思わず懇願するように言ってしまった。だって、紗季なら絶対冷静に対応できるし、情報収集とかも上手そうじゃん!? 私より絶対適任だよ!

 でも、紗季は「ふっ」と笑って、軽く肩をすくめる。

「私は部員じゃないもの」

「うっ……」

 最初は行く気マンマンだったクセにー!

 と、ここで。

「ねぇ、桜」

 紗季はふと、私を見つめる。その瞳には、どこか探るような光が灯っていた。

「貴女、もしかして……」

 少し間を置き、そして。

「――“満足”してない?」

「……え?」

 突然空気が変わったのを感じて、思わず息を呑む。冗談かと思ったけど、紗季の目は真剣そのもの。まるで私の心の奥を覗き込むような、そんな視線だった。

 何のことだろう? 私は補欠として、みんなをサポートするって決めた。自分で選んだことだし、後悔してない……はず。

 でも、『満足してるか』って聞かれると――

 考えたこともなかった。そして、紗季はそれ以上何も言わなかった。

 私の表情をちらりと見て、「何でもないわ」と静かに微笑む。

「さ、行きましょう」

「あ、うん……」

 私は紗季に続いて廊下に出ると、部室の鍵を掛けた。最近、不審者が出るってさっき会長さんも言ってたし、しっかり閉めておかないとね。

 でも――

 紗季の言葉が、なんとなく頭から離れなかった。


 そして、次の日の昼休み。今日は部室でお弁当! お昼ご飯をどこで食べるかは日によって違うけど、今日は相談したいこともあるから、みんなに部室へ集まってもらった。いわゆる、ランチミーティングってやつである。

 だからといって、いきなり堅苦しい話から始まるわけでもない。

「でさー、舞先輩ってば、正門をくぐるなり、黒塗りの高級車でご送迎ー、って」

 千夏が、ご飯を頬張りながら、妙にテンション高めにお箸を振る。いつもよりちょっと気合いが入ってるのか、今日は片側だけサイド編み込みにして、毛先をふわっとカールさせたアレンジ! 長めの前髪をいつもの夏みかんピンで留めて、少しだけおでこを出してるのもかわいい。

 そんなおでこに、由香がペチリとツッコミを入れる。

「話を盛らない。普通のセダンだったでしょ。ナンバープレートもちゃんと出してたし」

「でも……スイーって滑るように来て、ピタッと止まったんだよ? あれってもう、絶対危険な車の動きだもん……」

 静音ちゃんが控えめなジェスチャーで、車の動きを再現してみせる。

「わかりますわー! 推理漫画やったら絶対オープニングの事件発生の場面ですやん」

 かがりちゃんも大げさに同意。

「ウチ、生徒会長から不審者の話聞いて、もし暴漢来たら、こー……マンツーマンディフェンスで先輩方を守ってー、みたいなの考えてましてん」

「おっ、頼りになるー!」

 と、千夏がエールを送るものの。

「いざ車が来たら真っ先に引っ込んでたけどね」

 由香によってあっさり暴露されてしまった。

「め、面目ないです……まさか本当に停まるとは思わんかて……」

 かがりちゃん、すごい勢いで縮こまる。いや、まぁ、実際に目の前で実際に起きたらビビるのはわかるけど。

「けど、結局不審者じゃなかったんでしょ?」

 昨日は私だけ部室に残ってて見逃したけど……これは幸か不幸か……見れなくて残念だったのか、出くわさなくて良かったのか。

「うん……普通に舞先輩が乗っていったからね」

 静音ちゃんが安心したようにニコっとして言う。

「けど、車でお迎えって憧れますわ~。朝、玄関あけたら車がスッと待っとるとか、めっちゃ優雅ですやん」

「もしかして舞先輩(マイセン)って、どこかのお嬢様?」

 かがりちゃんと千夏が興味津々に尋ねると――

「いえ、私はプロ・ストリップ・アイドル。私のことを呼ぶときは、プロとアイドルの間にストリップ、とつけるのを忘れずに」

 キリッと言いながらコンビニのおにぎりをモクモクと食べている舞先輩。うーん、どう見てもお嬢様の食事じゃあないよなぁ……。けど、舞先輩がそれだけストリップに誇りを持っていることは間違いない。だからこそ……ご家族とは折り合いがつかなかったのかもしれない。

 これは、私の口から話すことではないけれど――私が先輩を勧誘するためにあれこれ駆け回っていたとき、舞先輩は自宅から通っていないことを知った。ストリップを始める際に家と揉めて、いまではストリップ仲間やスタジオを転々としながら寝泊まりしているらしい。そんな生活をしている舞先輩を迎えに来る車が『黒塗りの高級車』ではなく、普通車だったのは、ある意味ほっとするべきことなのかもしれない。いや、舞先輩が乗っていくと、どんな車でも妙に高級感が出る気がするけど!

 さて、そんな話も一段落したところで。

 今日、私たちが部室でお昼を食べている理由、それは――

「んでー……偵察に行きたい人、挙手ー!」

 私はお弁当の箸を置き、机の上に置かれた天峰堂のジャージに手を伸ばす。一着は私が部長として着るつもり。そして、もう一着は――

 スッ――静かに、しかし迷いなく手を挙げたのは――まさかの舞先輩!?

「プロ・ストリップ・アイドルの人は、この界隈では有名すぎるのでダメです!」

 私は強めに言い切る。すると、舞先輩はホクホクの笑顔で頷いた。……ちゃんと『ストリップ』と入れておいたのが良かったらしい。

「プロ・ストリップ・アイドルともなると、恋人とデートもできないのね」

「恋人じゃないし、デートでもないです! 大会のための偵察ですー!!」

 舞先輩が変なことを言い出したので、とりあえず強めに訂正しておく。それにしても、この偵察、みんな全然行きたがらないのが問題なんだけど……。もし、この体たらくを紗季が見たら、せっかくジャージを手に入れてきたのに、って不機嫌になりそう。で、その紗季は、というと……ここは一応部室なので、お昼には来たり来なかったり。……うーん、どっちかというと、来ないほうが多いかな。ご飯食べながら話し合いが必要なときに参加するくらい。紗季は今回、自分は行かないと決めているから……それ以上言うことはない、ということなのだろう。

 本当なら、こういう情報収集系の仕事は生徒会副会長の奏音ちゃんが最適なんだよね。情報の扱いが上手いし、そもそもこういう『裏で動く系の任務』を得意としている節がある。だけど、今日も生徒会三人組は生徒会室で作業しながらご飯らしい。残念。まあ、生徒会役員が他校に無断侵入って、さすがにシャレにならないか。

 というわけで、残る候補は千夏、かがりちゃん、静音ちゃん、そして由香。……って、みんな目を逸らすなー!

 しばしの沈黙の末……観念したのが約一名。

「……私が行くわ」

 ため息をつきながら、由香が挙手。……まあ、千夏はこういう隠密的な役回りは向いてないし(私もだけど)、静音ちゃんの肝はこういう方向には座ってない。そして、かがりちゃんは……関西では有名なバスケプレイヤーだっただけに、体育大付属ともなると、知ってる人もいるかもしれない。そんな消去法によって自分しかいないと本人も察しているようだ。

「助かるよ!」

 私は手を合わせて感謝を伝える。

 こうして、桜&由香という偵察チームで天峰堂に潜入することが決まったのだった。


 そして、放課後――鞄の中にはちゃんと天峰堂のジャージは仕込んである。蒼暁院の正門前のバス停から、二〇分ほど乗ったところで――

「ここで降りるわよ」

 由香がピンポーンを鳴らしてしまったのでバスは停まる。天峰堂まではまだまだあるんだけどなぁ……と思いながらもふたりで下車。

 周囲を見回すと、高層ビルが立ち並び、行き交う人々がせわしなく歩いている。蒼暁院とて田舎ってわけではないけれど、こっちはしっかりと都会って感じ。マンションなのかオフィスビルなのか、商業施設なのかは一見して判断しにくいけど、コンビニや飲食店が点在し、生活感がある。車の往来も激しく、クラクションの音や信号のアナウンスが途切れなく響いていた。

 そんな喧騒のなか、ふと視線を巡らせると、少し先に小さな公園が見える。遊具があり、子ども連れの親子がちらほら。賑やかな都市のなかにある穏やかな空間。由香はそちらに指を差す。

「そこのトイレで着替えていきましょう」

 ああ、そういえば、どこで着替えるかとか考えてなかったー。ということで、由香に従ってその中でこっそり天峰堂のジャージになる。普段なら絶対に着ない、ピタッとしたスポーツ系のジャージ。袖を通した瞬間、なんだか背筋が伸びるような気がした。こういうのを着ると、それっぽくなった気がして、ちょっとワクワクする。

 そして、潜入ミッション第二弾。

「ここから走るわよ」

「えっ、ここから!?」

「学校まで一キロくらいだから、少し走って体温を上げて、それっぽく見せるの」

 なるほど! 外でロードワークしてきましたー、って雰囲気を出すわけかー

 というわけで、天峰堂に向かってランニング開始! 街並みは相変わらずな感じで人は多いものの、歩道は広いので走るのに支障はない。歩道の脇には間隔を空けて並木が植えられ、景色に心地よい感じの緑を添えている。商店街の前を通ると、パン屋から甘い香りが漂い、すれ違う人々の話し声が耳に入る。信号を待つ自転車の高校生が私たちを一瞥し、再びスマホに視線を戻した。そんな街の空気を感じながら、私はちょっと考えてみる。自分たちの置かれている状況を。

「ねぇ、由香」

「なに?」

「こないだ生徒会が言ってた不審者って、もしかしてこういう偵察のことなんじゃ……」

「そう思うのなら、不審な発言は控えて」

 由香にピシャリと叱られてしまった。

 いや、でもさ!? この時期に偵察するってことは、当然ストリップ関係者だよね? ってことは、もしかして蒼暁院にも他校のストリップ部のスパイが潜入してる可能性あるんじゃ!? そう考えた瞬間――不覚にも私は“ワクワク”してしまった。

「……何をニヤニヤしているの」

 ここまで走ってきて、少し息遣いを荒くしながら……由香はチラリとこちらに横目を向ける。まさに、不審者を見るような怪訝な目つきで。

「え? いや、なんか……いいなって思って」

「何が?」

「だって、こうやってライバル校が偵察し合ってるってことは、それだけ競技ストリップに真剣ってことだから」

「……まぁ、それはそうね」

 由香は呆れながらも納得したように頷いてくれた。でも、たぶん私が嬉しそうに話していること自体には納得いってないと思う。

 学校の敷地が近づいてくると――やっぱり体育大付属だけに、部活もガチなんだろうなぁ。空気というか、オーラというか、そんな圧力を感じてしまう。

 広々とした正門前には、校名が大きく刻まれたプレートが掲げられ、その周囲には立派な門柱がそびえている。門をくぐるとすぐに、練習に励む部活生たちの姿が目に飛び込んできた。威勢のいい掛け声がどんどん大きくなってくる。

「……やっぱり強豪校って雰囲気あるね……!」

 なんてつい口にしてしまい、由香から思いっきり睨まれてしまった。ヤバいヤバい。いまの私は天峰堂の生徒だった……!

 学校の敷地に足を踏み入れると、どこを見ても体育系の部活ばっかり。広々としたグラウンドでは陸上部がダッシュを繰り返し、体育館からはバスケットボールが床を叩く軽快な音が響いてくる。さり気なく歩いている生徒も、バスケ部、バレー部、柔道部といった屈強な体格の人たちばかりで、文科系っぽい人の姿がまるで見当たらない。徹底的なスポーツ全振り……!

 私も一応運動部のつもりだけど……ちゃんと、運動部っぽくできてるかな? なんてちょっと心配しながら、由香と共に構内を探索する。私だって、事前に校内図は記憶してきたつもりだけど……

「由香、こっち……かな?」

「違うわよ。こっち」

 スッと由香が進むのは別の方向。え、でも私の記憶ではこっちが正解なんだけど……? と思いながらも、私は黙ってついて行く。

 その結果――部室棟はすんなり目の前に。由香の方が正しかった……! まぁ、由香はもともとしっかり者だからね。やっぱり、一緒に来てもらって良かったー。

 こうして、私たちは天峰堂ストリップ部の部室に向かって、静かに歩みを進めていく。

「ここからが問題よ。本当に不審者ヅラはやめてよね」

 由香がピシャリと言い放つ。その目つきはこれまでになく真剣。ああ、かなり深いところまで入ってきただけに、これはさすがにマジなヤツだ。

「う、うん……」

 一応返事はしたものの――不審者ヅラって何!? 私、そんなに怪しかった!?

 自覚のしようもないのだけれど、なるべく普通の顔を心がけつつ(というか、普通の顔って何?)、私は歩きながらずらりと並んでいる部室を眺めている。廊下は広々としていて、ピカピカの白いタイルの床。体育会系って、そういうところきっちりしてそう。壁には各部活動のポスターや試合予定が貼られ、壁には部活ごとの案内板や練習スケジュールを掲示するボードが設置されている。部室の扉にはそれぞれの部のロゴが入ったプレートが掲げられ、どれも力強いデザインだ。スポーツの名門校らしく、全体的に洗練された雰囲気が漂っている。あぁ、さすがは天峰堂体育大学付属女子高。並ぶ部室はサッカー、バスケ、ソフトボールと、見事に運動系ばかり。軽音部とかそういう文化系のはないんだねぇ。それどころか、ダンス系のなかにもバレエやジャズダンスが個別に存在していて、どこもかしこも鍛え上げられた選手たちが行き交っている。

 そして、あの角のところが私たちの目的地――ストリップ部の部室! 中ではきっと、秘密の特訓が……!

「どうする?」

 相手の本拠地を目の前にして、私はごくりと唾を飲み込む。心臓がバクバクしているのを感じながら、由香にこそっと尋ねてみると、

「普通にしなさい」

 小さく怒られた上で、

「……スタジオのほうに行ってみましょ」

 なんて、普通に答えてくれた。ぬぅ、これが普通ってことかー!

 扉が開いてたり、廊下に人がいなければ、もっと色々と探れたかもしれないけど、そんなに甘くはないよね。

 ということで、そのまま素通り決め込もうと思ってたんだけど――ギクリ。前から歩いてくる女のコに何やらジト~っと懐疑的な視線を向けられてる……? 私たちと同じジャージを着ているので、先生ではなく生徒っぽい。思わず目を逸らしたくなるも、それもまた怪しいので『あ、どうも~♪』なんて笑顔で軽く流そうとしてみたら――

「あっ」

 そのコは思い出したように声を上げ、

「蒼暁院の!」

「!?」

 これには、ここまでずっと平静を装っていた由香も顔色が変わる。なんで? どうしてバレた!? とにかく、こうなったら逃げるしかない!!

「走って!!」

 由香は短く叫ぶと急速反転! 駆け出した背中を私も慌てて追いかけようとする。けれど、相手はスポーツの達人集団。逃げ切れる保証はない。それでも、いまは走るしかない! そんな私たちに向けて後ろから――


「――相撲部の主将!」

 ズザーーーーーーッ!?


 これには思わずズッコケてしまい、無様にも逃亡失敗……。由香も私ひとりを置いていくことはなく、少し行ったところから戻ってきてくれた。

「すいません、私たちは相撲部ではなく……」

 由香が冷静に釈明しようとする。けど、天峰堂の生徒は腕を組み、「むむむ……」と疑わしげな目を向けたまま。

「でも、ほら」

 そう言いながら、彼女がスマホの画面を見せてくる。

 そこに映っていたのは――

「ぶっっっっ!?」

 思わず吹いたわ!

「これ……私たちがまだ同好会のときの……!?」

 画面には、力士の顔が私の顔にすげ替えられたコラ画像。ご丁寧に『蒼暁院女子の相撲部主将』というテロップ付き。

「その画像は生徒会に言って消させたはずじゃ……」

 由香がかけ合ってくれたんだよね。生徒の顔写真が無断でネットに拡散されてる、って。そのあと、すぐに無くなってるのは確認したはずなんだけど……

「あ、スクショ取っといたんだよ」

「何でそこまで!?」

 これには思わず叫んじゃったわ。というか、どうしてこんなことになってるの!?

 天峰堂のコは私からの言及に――本当に、当然のような顔をしている。

「何でって……いずれ、ボクたちの敵になるかもしれないでしょ?」

 天峰堂の生徒が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと腰を落とし、堂々と四股を踏んだ。その動きの流麗さと自信に満ちた表情に、一瞬見惚れかけて――いやいやいやいや!! なんで四股!? 私は思わず二度見し、無意識に後ずさる。

 そんな私に、天峰堂のコは力強く自己紹介。

「ごっつぁんだよ! ボクのことは『駒乃波(こまのなみ)』って呼んでね」

 スポーツの名門ともなれば、相撲部だってあっておかしくないけど。それにしても、四股名まであるなんて本格的だなぁ……。それに、四股の姿勢って、結構下半身に負担かかるんだよね。それをこうも平然とやってのけるのだから、日々ちゃんと練習している証である。とはいえ、相撲部のわりには意外と細身。胸はあるけど、手足はむしろスレンダー。

「は、はぁ……」

 私は混乱しつつも、とりあえず相槌を打ってみた。すると、隣で由香が小さくため息をつく。

「こっちはともかく、私は相撲部ではありません」

「私も違うよ!!」

「えー、違うの?」

 そりゃー、あの写真には『相撲部主将』とは書かれていたけど……

「てか、明らかにコラだし」

 由香が冷静にツッコむ。そう、この相撲部疑惑の発端となったのは、私の顔を力士にすげ替えたコラ画像。どう考えても悪ふざけだし、普通なら信じないよね。

「それはわかるけど」

 わかってるんかーい! 駒乃波さんは腕を組みながら、「でもさ」と続ける。

「強く見せようと鼓舞するために作ったのかと」

「性別変わってんじゃん……」

 もう何が何だかわからない。

「……で、何部と相撲部を兼部してるの?」

「兼部じゃないよ!!」

 駒乃波さんは、どうしても私を相撲部ってことにしたいらしい。

「私たちは、ストリップ部で……」

 つい正直に答えてしまった私の隣で、由香が『マズッ』て顔してる……! あわわ……誤解を解くためとはいえ、軽率だった……!

 オロオロする私に、駒乃波さんは露骨に嫌そうな顔。

「え~……ストリップ~?」

 いや、ストリップ部の部室の前でそれ言う!?

「ストリップって、廻しも脱ぐんでしょ?」

「そういう嫌がり方!?」

 どんな発想!?

「廻しひとつで、己のすべてを懸けてぶつかり合う……それこそが、相撲の真髄だよ!」

 駒乃波さんがしみじみと言う。うん、相撲愛が深すぎて、なんかもうツッコめなくなってきた。

「女子相撲は中に水着も着てるけど」

 由香が冷静に指摘すると――

「そこ! そこなんだよ!!」

 駒乃波さんが突然めっちゃ食いついてきた!

「やっぱり、相撲ってのは廻しひとつでぶつかり合ってこそ! 中に水着なんて邪道だよ!」

 なんか無茶なこと言い出したー!?

「女のコでも!?」

「女のコでも!!」

 あまりに過激な発言に私は思わずマジツッコミしちゃったのに、駒乃波さんは自信満々に頷く。けれど、急に肩を落として。

「……って相撲部で主張したら、めっちゃドン引きされちゃって……」

「でしょうね……」

 由香があまりにも素直な反応をする。けど、駒乃波さんは何故か残念そう。

「廻しひとつのコラ画像作るくらいだから、わかってくれると思ったのに……」

「私が作ったんじゃないよ!!」

 この相撲部疑惑を生んだ『蒼暁院女子相撲部主将』のコラ画像、私の知らないところで作られてたんですけど!? あのときは消してもらえて良かったー、なんて安心してたら、まさかこんなところでデジタルタトゥーになっているとは。

「正直廻しって、水着着ててもキツいけど」

 由香が存外辛辣なことをつぶやくと。

「廻しも脱いじゃうキミらがそれ言っちゃう?」

「そう言われると、反論の余地もありませんなぁ」

 駒乃波さんの指摘に、私は苦笑いしながら肩をすくめる。

「ということで」

 駒乃波さんはストリップ部のほうを向く。

「どうすれば相撲部のみんなを説得できるか、ストリップ部に相談に来たんだよ」

「無理そう」

 由香が即断する。

「キミたちもストリップ部でしょ? 一緒に相談に乗ってよ!」

 駒乃波さんがぐいっと身を乗り出す。

「いやいや、どうしてそうなるの!?」

 相撲とストリップじゃ、全然勝手が違うって! 私たちが戸惑っているうちに、駒乃波さんは『じゃあ、早速イッてみよう!』と言わんばかりに部室の扉をコンコンとノックしてしまった。

「え!? ちょっ……!?」

 止める間もなく、ストリップ部の扉が開く。

 そして。


「あ、蒼暁院からストリップ部のスパイが来てたよ」

「えええええ!?」


 騙されたぁぁぁぁ!! 私たちは慌てて逃げようとするも、振り返れば駒乃波。さすがは相撲部。立ち会いのスピードは大したものだ。

 なんて感心する間もなく――ドーンッ!! ふたりまとめて勢いよく部室の中へと叩き込まれてしまった!

「じゃ、あとはそっちで対処してね」

 駒乃波さんはあっさりと私たちを見送ると、そのままパタンと扉を閉める。まるですべて計画通りだったかのような、堂々たる態度で。

 ……どうしよう……私たち天峰堂ストリップ部に捕まっちゃったよ! やばいやばいやばい!! ここで揉め事起こしたら全国大会が……というか、相手はマッチョ集団! 五体満足で帰れる保証もないよ!!

 部屋の中には三人の女子――そして、お揃いのジャージ――間違いなく部員だろう。窓際で爽やかな雰囲気をまとっているコ。部屋の中央で堂々と胸を張って腕組みしているコ。そして……背中から孔雀の羽根みたいなのをビョンビョン出しながら椅子に座ってるコ。一番派手なのはもちろんビョンビョンだけど、腕組みのコが一番強そうではある。だ、誰が部長なんだろう……?

「あらあら、スパイとは穏やかではないわね」

 窓際の部員が、困ったような笑みを浮かべながら言うと、ビョンビョンさせた部員が、余裕たっぷりに肩をすくめる。

「まあ、うちくらいになると他校からも注目されてるからね。ドローン退治なんて茶飯事よ」

 えっ、ドローン!? 何それ、そんなに警戒されてるの!?

 強そうな部員――堂々と腕を組んでいた彼女が低く落ち着いた声で告げる。

「我々は逃げも隠れもしない……と、言いたいところだが、この大会は発想が勝負の分かれ目となる。故に、あまり大っぴらにするわけにもいかんのだ」

 ってことは、私たち、かなり危険なことしてるんじゃ……。なんだかシリアスな雰囲気になってくるけど……ビョンビョンのの部員が、ゆるく笑いながら付け加える。

「ま、幸いみんなスタジオの方に行ってるし、試作品くらいは見せてあげてもいいんじゃない?」

 ああ、どうりで人が少ないと思った。三人じゃ大会にも出れないもんね。

 座ってるコがニッと笑いかけるも、窓際のコは苦笑い。

「余裕ですね、それ作ってるの、私なんですけど」

 一方、腕組み部員も公開支持派らしい。

「そう警戒するな。大会にて進化した完成版に驚いてもらうのも一興ではないか」

 これは、見せてもらえそうな雰囲気……! 偵察に来た甲斐があったよー。

 てところで、天峰堂の人たちの自己紹介。

「申し遅れたな。我が名は剣崎(けんざき)(みお)。天峰堂体育大学付属女子高等学校ストリップ部主将を務めている」

 主将!? ……さすがはスポーツ名門校。部長ではなく主将と名乗るあたり、やっぱり体育会系なんだなぁ……。澪さんは背が高めで、シャープなウルフカットからは凛々しい印象を受ける。ビシッと背筋の伸びた姿勢と腕組みが堂に入っていて、いかにも“強い”って感じがする。絶対この人、運動神経抜群だ……!

 次は窓際の女のコ。

「私は弓水(ゆみず)ひかり……衣装担当」

 衣装担当!? そんな専門職がいるなんて……さすが天峰堂……! ひかりさんは、さらさらのロングヘアを風になびかせながら微笑んでいた。涼しげな顔立ちに、どことなく優雅な雰囲気が漂っている。まるでモデルみたい……!

 最後はビョンビョンのコ。

「そして私が顧問の高木(たかぎ)美奈(みな)! よろしくねっ、蒼暁院の皆様!」

 うわっ、この人、部員じゃなくて先生だった! 高木先生は、襟元で髪をすっきりと束ねたスレンダーな女性。一見クールそうなのに、身振り手振りがやたら大きくて、ものすごい存在感。背中からビョンビョンと孔雀みたいな羽根(……のような装飾?)が揺れているせいで、さらにインパクト倍増……!

「は、はぁ……」

 予想外に歓迎ムードすぎて、思わず拍子抜けする私たち。こんなにフレンドリーな感じでいいの? 私たち、捕まったはずなのに。

「さーて、せっかく来ていただいたんだし、ここは先生が人肌脱いであげましょうか!」

 高木先生が衣装? 装置? を背負ったままひょいと立ち上がると、ひかりさんに向けてパチンと指を鳴らす。

「本当にやるんですか?」

 ひかりさんがそう言いながら、スマホを操作する。すると、音楽が流れ始め――そして――!

「…………!!」

 これにはビックリして、私たちは言葉を失ってしまった。だって……高木先生のストリップが始まるなんて!

 その衣装にはまるで孔雀の羽根というか、後光というか、そんな感じのがついていて――結構軽やかに、それでいてバランスもしっかり取っているので、背中のアレは意外と軽いらしい。

 けれど、それがゆっくりとしなだれて――バラ、バラ、と崩れていく。わおー……すごい……。『衣装』の種目の衣装に電源は使用禁止。だから、アレは糸とか何かで外れるような仕組みになっているのだと思う。そして、ジャージも脱いでゆき――当然、本番ではまったく違う衣装で、違う脱ぎ方になるんだろうなぁ。おそらく、曲も別物。だからこれは、先生が顧問として、自分たちの力を見せたいってことなのだと思う。

 その自信が全身に表れていて――その動きは、以前ダンススクールで見学したときのことを思い出す。私たちは基本的に見様見真似なんだけど、一度、舞先輩の紹介でレッスンを見学させてもらったことがあったんだよね。そのときのコーチのお手本は、どれもなめらかでいて正確――そして、ここは体育大付属高校――部員も全員、このレベルであると考えたほうがいいに違いない。

 先生の動きはまさにスクールで見たもの。けれど、それがしっかりとストリップに応用されていて――プロの実力者がストリップに転向してきたらこうなるんだ……という地力をマジマジと見せられてしまった。

 舞先輩は、ダンスだけでなく歌までひっくるめてパフォーマンスを魅せる。けど、先生のはそれをダンスに全振りした感じ……!

 さすがはストリップ部の顧問というべきか、その脱ぎっぷりは堂々としたもの――シュっとしたスタイルを最大限に活かした美しさの表現はダンスの域を超えていた。

 これが――全国レベル――!

 曲が終わり、思わず拍手してしまった私に、由香からさり気なく肘で突く。けれど、先生は恭しく一礼で返してくれた。全裸で。やっぱり、整った姿勢ってのは、裸であっても美しく見えるよね。むしろ、神聖な姿にさえ感じられる。

 そして――バラバラになった残骸を、ひかりさんがせっせと拾い集めていた。

「風見がこれを、当日までに仕上げてくれることだろう」

 澪主将は自信満々に宣言する。振り付け自体もさることながら、この柄だけの衣装が完成したら、一体どうなってしまうのか……。ここは当然、恐れ慄くところなのだろう。けれど私は――やっぱり、ワクワクしてしまう。きっと、すごい舞台が見られるのだと。それに、千夏だってきっと負けてない。どんな勝負になるのか、楽しみで仕方がない。

「さすがに、これ以上は企業秘密……ってことで♪」

 高木先生がさっとジャージを羽織ると、澪主将がズイと歩み寄る。

「我が校の指定服は没収させてもらう。これ以上悪用されても困るのでな。替えの服はあるのだろう?」

 やっぱり、そうなるよなぁ……。用意してくれた紗季には申し訳ないけど、ここは明け渡すほかなさそうだ。

 けど……人前で脱ぐ、となると……つい遊び心が芽生えてくる……というか。

「~~♪ ~~♪」

「ちょっと、ここで……!?」

 由香は止めようとするけど……ほら、私、補欠だし。文化祭で踊った『今だけのドレス・フリー』――身体に染み付いてるから、伴奏がなくても踊れてしまう。

 これに――由香も渋々認めてくれた。どっちかというと、諦めた、って感じだけど。だって……あんなすごいものを魅せられたら、私だって踊りたい!

「ほぅ、それは……」

 腕組みの姿勢を崩さず、澪主将は私の一挙一動に注目している。それどころか、ひかりさんや、高木先生まで。これはもう……!

「明日は~まだ、見えないけど~♪」

 もうアカペラでも歌っちゃうよ! 勢いのままに下着まで全部脱ぎきって……!

「なるほど……貴様が話に聞く、蒼暁院の鈴木部長か……」

 踊り終わった私にポンポンと軽く拍手をしながら、澪主将が感慨深そうに口にする。うわ、私、意外と名前、知られてる……?

「そのスタイルを見るに……貴様も我と同じ『総合』だな?」

 まあ、つい歌っちゃったからね。けど……

「ふっふっふ……何を隠そう、私は……『補欠』だっ!」

 全裸のまま胸を張って答える。すると――これには誰もが呆気に取られ……けれど、澪主将はニヤリとして頷く。

「これだけ踊れる者が補欠とは……」

「他のみんなはもっとすごいですから、甘く見ないでくださいねっ」

 そんなやり取りを――由香は、ヤレヤレという表情で見守っていた。


 つい勢いで下着まで脱いでしまったけれど、改めて蒼暁院の制服までちゃんと着直して――

「では、外までお送りしよう。他の部からもあらぬ疑いをかけられるやもしれぬからな」

 スタジオのほうも見てみたかったなー……なんて思うけれど、まあ、見せてくれるわけないよね。特に世間話をする雰囲気でもなく、私たちは正門まで戻ってきた。

 そこで、澪主将は思い出したかのように。

「おお、そうだ、如月舞に伝えておいてくれ」

 その名前が出た瞬間、私は思わず息を呑む。どうして、ここで急に舞先輩……? 不意を突かれた所為か、胸の奥がドキドキする。由香もまた、静かに眉をひそめていた。

「我ら天峰堂は、いつでも如月舞を歓迎する、とな」

「…………!!」

 私たちの驚いた顔を見届けると、澪主将は満足そうに部室棟へと戻っていく。その背中を――私たちはしばらくただ呆然と見守っていた。


 帰りのバスは、校門の近くから。時間が遅くなったこともあり、行きより道も混んでいるように見える。

「ご、ごめん……」

「何が」

 私の謝罪に、由香は窓の外を向いたまま。うぅ……やっぱり怒ってる……よねぇ……?

「つい、調子に乗って……」

 手の内を明かすようなことしちゃって……もちろん、大会で文化祭の曲を踊ることはないのだけれど。

 これに、由香は深くため息をつく。

「私が気になっているのは、そこじゃないわよ」

「そうなの?」

 だったら、何……? 私の問いに答えるように、由香がぽつりと呟く。

「天峰堂は、如月舞を歓迎する……」

「……あぁ……」

 それもビックリしたよね。まさか、いきなり舞先輩の話題が出るなんて。

「あれって、宣戦布告、だよねぇ……」

 舞先輩を堂々と迎え撃つ、っていう。

 けど……ん? 由香の表情は相変わらず見えない。けれど、何だか……変な感じ。どこか、もどかしいような。言葉に詰まっているような。

「敵として、ならいいけどね」

 その言葉が妙に引っかかった。どういう意味? どこかに含みがあるようで、私の胸の奥に違和感が残る。

「……うん?」

 由香の言葉が何を意味するのかはわからない。けど――この先、何か良くないことが起こるのでは――そんな気がしていた。


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