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パレード

 放課後、教室には2人の男子生徒が向かいあっていた。牧島と明だ。


「石田だっけ? 何の用?」

「牧島 武蔵、今すぐ一ノ瀬 朱里以外との関係を切れ。彼女だけ見てやれよ、お前にはその責任があるはずだろ」

「……はぁ? なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ、てかなんの責任だよ」

「嘘をついた責任だ。一ノ瀬 朱里を火事から助けたという噂、本当はお前が助けたんじゃないんだろ?」

「ッ!?」


 牧島は分かりやすく動揺した。

 そんなに分かりやすいのによく今まで嘘をついてこられたな、と明は心の中で笑う。


「お前が一ノ瀬 朱里以外との関係を切らない場合、俺はその事実を学校中にバラす」

「ッ!? おま、何テキトーなこと言って」


 往生際の悪い牧島が何か言おうとしているが、その前に明はシュルシュルと手に巻いてある包帯を解き牧島に見せつけた。そこには酷い火傷の痕が残っている。

 いまだに肌が突っ張ったようになるし傷は痛む。


「手だけじゃない、身体にも火傷の痕は残っている。一ノ瀬 朱里を本当に助けたのは俺だ、牧島」

「お、お前が朱里を……!? じゃ、じゃあなんで今まで黙ってたんだよ!」

「言ったろ、お前が一ノ瀬 朱里だけを見ていれば俺は今こうやってお前の前に現れる事もなかったんだよ」


 それを聞いた牧島の整った顔が歪む。


「お前は朱里のなんなんだよ!? アイツは俺の女だ! これは俺達2人の問題だ! お前に関係ないだろ!?」

「……確かに、俺には関係のない話だ。痴話喧嘩なんて勝手にやってろって思うよ」

「それなら──」

「だが自分が一度助けた奴がその後にまた苦しんでいるのを知ったとして、それを知らないフリなんて出来るかよ。自分がきっかけなら尚更だ」


 きっかけ。


 そうだ。全ては明が自分勝手に彼女を助け、何も言わずに立ち去ったことが原因だ。

 例え嘘から始まった交際も、一ノ瀬 朱里が幸せなら別に良かった。

 しかし現実はそうではない。

 ならば自分がその間違いを正さなければならない。その責任が明にはある。


「どうすんだよ牧島」


 正面から牧島と睨み合う明。

 そしてついに。


「……分かった。朱里以外とは別れる」


 牧島は肩を落としてそう呟いた。


「そうか」


 明も張りつめていた雰囲気から解放され、長いため息を吐く。

 これでもう大丈夫だろう。


「良かったな一ノ瀬」


 そう小さく呟き、悲しそうに笑っていた少女に思いを馳せる明。

 だがこの時、明は気づいていなかった。

 教室の入口で1人の女子生徒が2人の話を盗み聞きしていたことに。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 それから明の生活は一変した。


『あきら君おはよ♪』

『あきら君、一緒にご飯食べよーお弁当作ってきたんだ』

『あきら君一緒にかえろー』

『あーきら君! えへへ、呼んだだけ♡』

『推しが今日も尊い、好きぃ♡』

『ねぇ、あきら君に貢ぎたいからなんか欲しいもの言ってよ~。え? お金? 配信で結構稼いでるから心配しないで♪』


 そう。

 何故かことあるごとに一ノ瀬 朱里が話しかけてくるようになったのである。


 ───あの後、一瞬で牧島 武蔵との破局を宣言した彼女は今度は明に露骨な好き好きアピールをし始めた。そして今では好きを通り越して一緒に住もう等と言ってくる始末だ。

 牧島が好きだったんじゃないのか?と言ったが『あんな嘘つきで身体目当てのクズ、もう顔も見たくない』との事だった。

 いやそれは事実なのだが、だからといって明のほうに来る意味が分からない。

 女心と秋の空とは言うがいくらなんでもこれは変わりすぎである。

 少し前まで晴れていたのにいきなり雷と暴風雨に晒されたような気分だ。


 牧島のほうも一ノ瀬に振られてからというもの立て続けに他の女子生徒にも振られ、改めて彼女の大切さに気づいたらしく(厳密には一ノ瀬ほど顔が可愛い女子生徒が他にいないため)、何度も一ノ瀬に復縁を迫っていた。そしてその本人は絶賛明に夢中。

 なので明に明確な嫉妬心と敵対心を剥き出しにしていた。流石に廊下ですれ違う度に中指と股間を立ててくるのは勘弁願いたかった。

 

 そして明が何より驚いたのは一ノ瀬 朱里が登録者1000万人越えの大人気vtuber 《キタナ アイ》だった、ということである。(内緒で教えてくれた)

 めっちゃ有名人だった。


「……一体何がどうなってんだよ」


 明は机に突っ伏して考える事を放棄したい気分に陥った。最近はずっとこうだ。

 あまりにも情報量が多すぎる。


「あーきら君♡」

「……一ノ瀬、耳元で喋るな」


 顔を上げれば、すぐ近くに件の一ノ瀬 朱里の顔があり、明の事を真っ直ぐ見つめていた。

 切れ長の瞳、筋の通った綺麗な鼻、カサつきとは無縁のぷるんとした唇、喋れば誰もが虜になりそうなカワボ。

 間違いなく美少女だ。

 そんな美少女がたった1人の男だけを見つめて囁く。


「好きです、付き合ってください」


 果たして、これで頷かない男などいるだろうか?

 いや、いない。


「無理」


 いた。


「なんでぇー!!?」


 もう何度目の告白か分からない。それを明は断り続けていた。

 理由は簡単だ。

 明は肩をブンブン揺すられながらため息をつく。

 教室内の視線が痛い。


(目立つからだよ)


 明はなろう主人公らしい目立ちたくない系の男であった。


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