タウン0 フェイズ5
昨日の夕食が焼き鳥だったので初投稿です。
対戦よろしくお願いします。
とあるアパートの一室。
少年、石田 明は火の手が大きくなっていく中、自らが焦げるのにも構わず進み続けていた。
先程、外にいた明の耳に届いた『助けて』という声。(他の人間には聞こえていなかったようだが)
"間違いない、まだこの建物の中には人がいる"
明はそんな確信を持って人々の制止も聞かず火の海に飛び込んだ。
消防車はまだ来ていない。
外の人間に消防は呼んだのかと尋ねた時『誰かが呼んだんじゃね?』などと言っていたが、こんなに火の手が大きくなるほど到着に時間がかかるものだろうか?
「はぁ……はぁ……! どこだ!?」
明は額の汗を乱暴に拭いながらそう叫んだ。
────この時、明は知るはずもないが何を隠そう外にいるこの近隣住民達、誰も消防車を呼んでいないのである。
何故なら、火事の起こっているアパートの外には大勢の人間がいたからである。
傍観者効果、ここに極まれり。
"自分が通報しなくても誰かが通報するだろう"
そこにいた全員がそんな思考で火事を傍観していたのだ。
『火事ですって、大変ねぇ』
『めちゃくちゃ燃えてるよ、オレんちじゃなくて良かったぁ』
『消防車おせーな何してんだよ』
そんな他人事のような会話をしながら。
故に、ここから誰かが気付きようやく通報するに至るまでの約10分間、救助が来ることはない。
助けを求めていた誰かを救えるのは、今この瞬間この場所においてこの石田 明を除いて他にはいなかったのである。
そして、そんな中ついに明はSOSの発信源にたどり着く。
玄関を抜け、入った部屋には1人の少女が倒れていた。
部屋の扉に施錠するようなものはない。
にも関わらず彼女が部屋の扉にもたれかかるようにして倒れていることから予測するに、彼女は火事になった事に動転して本来押さなければ外に出られない部屋の扉を内側に引っ張り続けてしまったのだろう。
火事の現場ではよくあることだ。
人間、極限状態になるといつも当たり前に出来ていた事が出来なくなったりするものである。
明は他に誰かいないかの確認のためチラリと部屋の中に視線をやる。
人の姿はない。
代わりに、そこにはパソコンなどの機材がたくさん乗った机が見えた。
彼女は配信者か何かなのだろうか?
「悪いが、アレは持ち出せない。まぁ命よりは安いだろ」
明は意識のない少女にそう語りかけ背中に背負うと、元来た道を引き返そうとした。
が、通ってきた廊下はすでに火の海になっており、もう通ることは出来そうにない。
もう一度、部屋の中を見渡す。
外に出られそうな場所はこの部屋の中で1箇所しかない。
「……窓から出るしかない、か」
幸い、ここは3階建てアパートの2階。
飛び降りようと思えばどうとでもなる。
迷っている時間はなかった。
窓に向かって駆け出し施錠を外す。
ベランダから見下ろせば野次馬達が明を見て騒いでいた。
もう火の手はすぐそこまで迫っている。
「馬鹿野郎! 邪魔だァッ!」
野次馬達に向かって明は叫び、少しの躊躇もなく飛び降りた。
◆◇◆◇◆◇
あれから、ギャーギャー騒ぐ野次馬達に少女を預けると明はすぐにその場から立ち去った。
何人かが『酷い火傷! 救急車呼ばないと!』と、止めてきたが関係ない。
あそこにいればきっとめんどくさい事になる。
質問責めにされるだろうし『危ないことをするんじゃない!』と、何もしなかったくせに偉そうな大人から理不尽な説教だって食らうだろう。そんなのはごめん被る。
明は面倒くさいことに時間をとられることが嫌いだった。
「うわ、グロ」
歩きながら手を見ればいつの間にか手のひら全体に酷い火傷をしていて、そこがジンジンと脈打っている。
遠くで、けたたましいサイレンの音が今さら鳴り響いていた。
───そして、明が助けたはずの少女 一ノ瀬 朱里と彼女を火事から助けたという少年 牧島 武蔵の交際の噂が明の耳に届いたのはその数日後のことだった。
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