9.新型コロナウイルス対応と迫りくる病魔
野坂家では、1月24日に保険紛争センターへの申立書、2月10日に労災申請を提出したので、落ち着きを取り戻す。一方、世の中では新型コロナウイルスの感染が大問題で、大樹が住む敦賀でも感染者が増え始め身近な問題となっている。もちろん、大樹の職場でも、新型コロナウイルスに関する対応に追われ、振り回されていた。一方、これが、夏帆の命を救うことになるとは誰もが予想しなかった。
本章では大樹の職場での新型コロナウイルスの感染の影響と夏帆が入院に至るまでを記載しました。
(1)新型コロナウイルス対応
1月24日に保険紛争センターへの申立書、2月10日に労災申請を提出したので、野坂家では落ち着きを取り戻した。
一方、敦賀では新型コロナウイルスの感染が身近になっており、毎日、感染者が多くなってきている。大樹の勤務先では次のようなルールが適用されていた。
①37.5℃以上の発熱がある場合、課長に連絡して、発熱外来に受診して、原則PCR検査の受けた結果、陰性が確認するまで出勤停止
② 同居家族が37.5℃以上の発熱がある場合、課長に連絡して、感染が疑われる対象者が発熱外来に受診し、原則PCR検査を受診した結果、陰性が確認するまでは出勤停止
③職場等において1m範囲に20分以上一緒に行動した濃厚接触者、もしくはその家族が新型コロナウイルスの陽性になった場合は、出勤停止、もしくは出勤中に発覚した場合は、課長は帰宅を指示し、新型コロナウイルスの感染の疑いがなくなるまでは出勤停止
新型コロナウイルスに振り回されるこことになる。
まずは、大樹の職場の課長を紹介する。課長の名前は、松戸であり、40歳前半で落ち着いた感じで、感情的になったことは見たことがない。何に関してもポジティブに取り組み、知的な感じである。性格は、まじめで、少し小心物であるため、石橋をたたくような感じである、大樹は、新型コロナウイルスのルールに振り回されるこことになる。
エピソードとして、まずは通勤バスの対応である。乗車時には座席表が回覧されるので、所属と名前を記載する。これは、新型コロナウイルスの感染当初からこのような対策は取られていたが、敦賀では新型コロナウイルスの行動制限が始まって1年半位は、感染者の発生が無かったので、特に危機感はなく義務感だけで実施していた。しなしながら、2021年10月に敦賀市で1人の感染者が発生してから、徐々に職場にも広がって行き、毎日のように感染者が出るようになった。そうなると、一緒のバスに乗車した者に感染者が出ると、松戸から帰宅や出勤停止命令があり、職場の仲間が急に帰ることも多くなっていた。大樹も他人事ではなく、急に松戸から帰宅や出勤停止になることもあった。そのときは、市内にある本部事務所に出向き、PCR検査を行う。後日、松戸から電話があり「検査結果、陰性が確認されましたので、明日から出勤してください」と言われて、出勤できるということであった。大樹は、担当業務に特に遅れはないため、休めたり、帰れるのはうれしかったが、自宅待機なので外に出られないのは厳しいと思った。特に、金曜に濃厚接触者が発生すると土曜日にPCR検査、日曜日に検査結果の電話を受けるまでは外に出られないので困ったこともあった。
次に、大樹は、昼休憩、職場の敷地内をウオーキングしている。その時に、別の課室ではあるが、町内会等で知り合い仲良くなった前田と一緒に、ウオーキングしていた。 前田は、身長170mではあるが、大学時代にアメフト部におり、コーチをしているが、運動不足であるため大樹について歩くようになった。前田については、今後のシナリオの中で深く関わってくるので、その時に詳細を示す。
ある日、前田から「奥さんが新型コロナウイルスに感染したので会社を休んでいる」とのラインが大樹に届いた。大樹は嫌な予感がしたと同時に、今日は帰れると期待していた。案の定、松戸に別室に呼ばれて、「〇〇課の前田さんと一緒に歩いていますね」と言われたので、大樹は、素直に「歩いています」と言うと「前田さんの奥様が新型コロナウイルスに感染したので、本日は帰宅してもらいます。帰りの足は手配しますので、よろしく」と言われた。大樹は、心でガッツポーズをして、「了解しました。ところで、今後は、連絡を待てばいいのですか」と質問し、松戸は「検査結果は、明日以降に連絡するので、よろしく」と言われた。大樹は、その後、手配された公用車で帰宅した。帰宅後に大樹は、前田にラインしたら、前田からお詫びの電話があった。大樹は、「特に気にしなくてもいい、まあ、今からゆっくりできるから、いんじゃないか」と答えた。次の日の昼過ぎ、松戸から電話があり「前田さんの奥様は、陽性ではあるが、前田さんが陰性だったので、明日は出勤してください」と言われ、大樹は「了解しました。ご迷惑をお掛けしました」と言い、電話を切った。
(2)迫りくる病魔
2月は、職場における新型コロナウイルスの対応に振り回されているうちに、3月になった。3月1日に大樹は、夏帆に「労基や保険紛争センターから連絡あった」と聞いても、夏帆は「特に連絡はない」と言った。大樹は、さすがに時間がかかるな~と感じた。更に、大樹が夏帆に「会社から連絡きたか」と言うと、「12月、1月、2月の傷病手当の申請書は提出したが、特に連絡はない」と言ったので、大樹は、夏帆に「福井北グループに連絡して、いつまでに退寮が必要かと聞いておいて」と言い、夏帆は「わかった」と答えた。大樹は、3月31日での退職なのでそれまでには出ないと行けないな・・・と思っていた。
次の日、夏帆は「3月31日までに出ればいいよ」と大樹に答えた。大樹は、ひろみと夏帆に「19日は、町内会関連で無理なので20日位から、福井に行って少しずつ荷物を運搬しなければならないよな・・・、大物は冷蔵庫だけかな」と言うと、夏帆は「冷蔵庫だけだよ」、ひろみは「20日からなら大丈夫」というので、20日から福井の寮に行き少しずつ夏帆の荷物を運搬するように決めた。
3月14日、6時30分頃、夏帆が「腹痛が激しいから起きれない」という。ひろみが駆け寄り「どうしたの」と聞いていた。6時40分に大樹が起きてきて「どうした」と聞くと、ひろみが「夏帆がお腹痛いみたい」という。大樹はひろみに「会社の規定では、同居家族が38.5℃だと、出勤停止なので、夏帆に熱を測ってもらって」という。ひろみは、夏帆に体温計を渡して体温を測る。すると、約39℃であった。
この時点で、大樹の出勤停止は確定となり、ひろみは、職場への相談となる。次に大樹は、会社からもらっていた敦賀市における発熱時の対応マニュアルを確認する。対応方法としては、病院へ行くのではなく、まずは発熱外来に行くことになることを確認した。ここで、大樹は、ひろみに「8時頃に職場に電話して、出勤の有無を確認して、俺は、8時30分頃、職場に電話する。次に、9時に保健所に電話して相談する」というと、ひろみは「わかった」と答える。
8時頃、ひろみがパート先のスーパに連絡したところ、休んでくれと言われたので、休暇が確定し、大樹も松戸に連絡して出勤停止となった。9時頃、大樹が保健所に連絡したところ「近くのクリニックで11時からの検査を受けてくれ」とのことだったので、大樹が、クリニックに電話連絡をして予約を取った。大樹もひろみも、症状が腹痛であることから、新型コロナウイルスの感染ではないだろうと思い、胃腸炎か何かだろうと高を括っていた。
11時頃、天気は小雨で、敦賀の3月はまだ寒い。大樹と夏帆は、近くのクリニックに行く。駐車場につくと誘導員が案内して指定する駐車場に車を止める。その後、受付番号と名前を聞いてきたので、大樹が答えると、車の中で呼ばれるまで待機して下さいと言われて、待機する。大樹は、夏帆に寒くないかとか気を使いながら車の中で待機する。約1時間立ったころ、誘導員がこちらに来て、車庫みたいなところに移動してとの指示があったので、移動する。しばらくして、看護師に夏帆が呼ばれたので、夏帆1人で診療室に向かう。しばらく待っていると、夏帆が帰ってきて看護師から「抗原検査の結果、新型コロナウイルスは陰性で、胃腸炎か何かでしょう。抗生物質と解熱剤を出して様子をみますので、薬局へ行き薬をもらってください」と言われたので、大樹と夏帆は「ありがとうございます」と答えた後、帰宅した。大樹とひろみは、新型コロナウイルスの感染ではないとのことで安堵した。
昼食後、ひろみは、買物の次いでに薬局へ行き、大樹は、松戸に検査結果の連絡をした。大樹は、松戸に「検査結果は陰性ではあったが、抗原検査であることを伝えると」、松戸は「困ったな、PCR検査ではないと出勤停止は解除できない」と言われたので、大樹は「保健所に相談して、再度、連絡します」と答えて電話を切った。大樹は、煩わしいと感じながら保健所に連絡した。保健所から「現在、PCR検査をしている発熱外来はありません。しかし、抗原検査にも精度が高い検査もあり、明日の13時から、国立病院でありますので、連絡してください」と言われたので、大樹は「了解しました」と答えて電話を切り、すぐに国立病院に連絡して現状を伝えた。国立病院から「予約を承りました。念のため、他の検査もしましょう。但し、抗原検査以外は別途費用となりますがよろしいですか」と言われたので、大樹は「お願いします」と答えて電話を切った。
大樹は、夏帆とひろみに「明日に国立病院で検査を受ける」と言い、ひろみは「また、受けるの・・」と言い、夏帆はつらそうな怪訝な顔をして頷く、大樹は「勤務先の事情なので、悪いけどよろしく・・・」というと、ひろみと夏帆は、しぶしぶ頷いた。大樹は、その後、松戸に電話して事情を話すと「了承しました。それでは、明日も休むということで了解しました」と納得してもらった。
大樹は、一連の作業を終えるとドッ。。。と疲れが押し寄せ、昼寝をした。ここで、大樹は、職場の松戸がそのときは融通が利かないな~とも思ったが、しかし、松戸が納得していたら、大変なことになっていたので、ゾッ・・・と背筋が凍るとともに、職場のマニュアルと松戸の対応に感謝することになる。
(3)突然の入院
3月15日、今日も相変わらず曇っている。朝の7時頃、夏帆の体温測定の結果、約38℃で若干、熱は下がったが腹痛が酷く、昨日から食事がとれないので、カロリーメートの液体を与える。7時30分頃、ひろみは、昨日の夏帆の抗原検査が陰性で出勤が許可されたので職場へ向かい、大樹は出勤停止なので、自宅待機して夏帆の面倒を見る。
11時頃、大樹は、13時頃から国立病院へ行くため、夏帆に食欲あるかを聞くが無理ということで、自分とひろみの昼食を作る。もし、夏帆が食べれそうならおじやでも作ろうと思ったが、食べれないので、トースト、ゆで卵、生野菜、ハムという簡単な昼食を作り、先に食べて、12時40分頃にひろみに「今から国立病院へ行く」と言い、国立病院へ向かう。国立病院の駐車場に着くと3台停車していた。ここでも誘導員がいて、名前を確認してきたので、名前を告げると、駐車場の別スペースに案内されて、「夏帆さんだけ降りて、お父さんはここで待っていてください」と言われたので、夏帆は病院の中に入っていった。大樹は、昨日からの疲れから、睡魔に襲われ昼寝した。
しばらくすると、看護師がコンコンと窓をたたくので、窓を開けると、「先生から話がありますので来てください」と言われたので診察室に入る。大樹は寝ぼけたまま、椅子に座ると内科医から「抗原検査は陰性でしたが、血液検査から異常な数値が見られたので、経過観察のため、入院したほうがよい」と言われたので、大樹は「お願いします」というと、看護師から「入院手続きをしますので、こちらへ・・」と言われたので、大樹は「私は、平日、対応できないこともあるので、妻を呼びたいので、今から帰り、呼んできますので、待ってもらいますか」というと、看護師は「わかりました。着いたら受付から○〇を呼んでください」と言われ、自宅に帰り、ひろみに事情を説明して、再度、病院へ向かい説明と手続きをした。
ここで、通常と違うのは、新型コロナウイルス感染対策で面会禁止なので、荷物は受付に預けてくださいと言われた。
手続き後、一旦、自宅に帰り、ひろみは、荷物を纏め、不足する物を買物して病院に行くため、再度、出かけた。大樹は、松戸に連絡して「娘の検査結果は、陰性でしたが、血液検査の異常から入院することになりました」と伝えると、松戸は「娘さんの検査結果の陰性は了承しましたが、入院に関しては心配ですね、では、新型コロナウイルスに関する出勤停止は本日で解除しますが、明日はどうしますか」と言われたので、大樹は「現在は面会できないので、何もすることがありません。対応は妻が行いますので、出勤します」と答えて、松戸は「では、明日から出勤と言うことで、お大事に・・」といい電話を切った。
ひろみが帰ってきたのち、大樹は「まさか入院とはね・・・・」といい、ひろみも「まさかね・・・・」と答えた。大樹とひろみは、夏帆の病状が手術を受けるまでひどい状況とは、このときまでは、思ってもみなかった。
3月16日、大樹は出勤し、松戸に挨拶後、何時帰宅する可能性もあるので、チームの朝礼でメンバーに娘が入院したことを伝えた。
世の中では新型コロナウイルスの感染が大問題になっている。大樹の勤務先でも、新型コロナウイルスに関するマニュアルが整備され、その対応は煩わしく、大樹自身もPCR検査の受診や出勤停止に振り回される。しかし、このルールにより、夏帆が血液検査を受けるようになり、入院することになったので、このマニュアルが無かったり、始めの抗原検査結果に所属長がゴネなかったら大変なことになっていたので、背筋が凍るとともに、職場のマニュアルと所属長の松原の対応に感謝することになる。
ついに、夏帆は、入院をしたが病状が酷く手術を受けるとこまでになっているとは、大樹やひろみは想定しなかった。次章では、夏帆の手術と残された課題を記載します。