11.退職や入社に伴う手続きと辛い退寮
3月23日、夏帆の手術は、大樹とひろみは、成功してホッとしたが、やるべき課題が山積しているので、ゆっくりはできない。それは、夏帆が3月31日に、福井北カントリークラブを退職し、4月1日に株式会社アストラムに入社するためであり、2社との調整や退寮に関する作業を行わないといけないためである。
本章では、大樹が行った福井北カントリークラブとアストラムとの調整、大樹とひろみで実施した退寮に関する作業をまとめたものである。
ここで、高額医療請求とは入院や手術を行った場合、事前に申請しておくと医療費負担が3割から1割になる制度である。また、休職時に会社へ健康保険・社会保険を請求されるのかと言うと、これらは、会社が1/2で、従業員が1/2負担であるが、会社が建替えて払うためである。
次に健康保険の任意継続について、健康保険は、会社を通して加入しているので、退職後は返納することになる。その場合、だいたいは国民健康保険に加入することになるが、2年間の間、所属していた会社の健康保険に加入することもできる。但し、保険料は会社が負担することはないので倍額となる。
(1)退職や入社に伴う手続き
3月23日、夏帆の手術は無事成功し、大樹とひろみは、ホッとしたが、やるべき課題が山積しているので、ゆっくりはできない。
3月24日、大樹は、夏帆が入院したことと残された課題を確認するため、福井北カントリークラブの事務一般を総括する福井北グループの春日へ電話した。やり取りは、次の通り。
①傷病手当金申請書の請求(2月と3月)と高額医療の申請確認 → 健康保険組合に申請終了
②支払い(寮費、住民税、社会保険料等)の確認
大樹は、これらについて、質問したら、次の回答があった。
寮費:12月~3月まで借りている状況なので払ってほしい
住民税:昨年度の部分を月額で会社が建替えて支払っているので払ってほしい
社会保険料:事業者が1/2、従業員が1/2を払うようになっているが、従業員部分を払ってほしい。
大樹は、質問の回答に対して納得し、「了解しました。本日の夕方に振り込みます」と言った。
③退寮
大樹が「夏帆が入院しているので、3月26日と27日及び31日に荷物を出したいので、寮に入室したいのですが、よろしいですか」と言うと、春日は「いいですよ。鍵はありますか」と答える。大樹が「鍵は娘から借りました。ところで、31日までに退寮は終わらそうと思いますが、間に合わない場合もありますので、それは大丈夫ですか」と言うと「大丈夫です。そのときは言ってください」と答えたので、大樹は「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」と言って、電話を切った。
大樹は、春日が凄く気を使っていたように話していたので、労基から何か言われたのかな・・と感じた。
次にアストラムに電話する。大樹は「はじめまして、私は4月1日に入社を予定していました野坂夏帆の父親の野坂大樹と申します。担当の朝倉さんをお願いします」と言うと、事務の方が「少々、お待ちください」と言って、朝倉が電話に出る。「お待たせしました。朝倉と申します。」と言う。電話の声は若い女性であった。大樹は「夏帆のことで、娘から入院したとの電話があったと思いますが、昨日、手術をしまして、しばらく入院となりましたので、ご連絡いたします」と言うと、朝倉は「わかりました。それではどのくらい入院になりそうですか」と言われたので、大樹は「わかりませんので、4月1日の入社は厳しいと思います。そちらに迷惑となりますので、入社辞退でも致し方ないと思っています」と言うと、朝倉は「先日に夏帆さんから連絡をいただいたときに、入社延期を検討していましたので、それでよろしいですか」と言われたので、大樹は、え・・待ってくれるんだと思いながら「ありがとうございます。では、退院したら本人から連絡するという形でいいですか」と言うと、朝倉は「それで大丈夫です」と答えたので、大樹は「では、よろしくお願いします」と言い、朝倉は「連絡、ありがとうございます。お大事に・・」と言い、電話を切った。
大樹は、アストラムの対応について驚いた。それは、本来ならば内定取り消しになっても仕方ないと腹をくくっていたからである。更に、現状の人手不足だから人材を確保したいのかな・・・とか、も感じていたとともに、また、この対応に感謝した。、
(2)辛い退寮作業
3月26日、天気は小春日和の快晴であった。ひろみは、午前中、パートなので、昼食後に福井市にある夏帆の寮に向う。前にも記載したが、夏帆の寮は、自宅から下道で約1時間30分、高速で約1時間かかる。
自宅では大樹の実家等から荷物が送れて来たときの段ボールを保管していたので、それを、約10箱と乗せ、ひろみがマジックを持って自宅をでる。道中の車の中で、ひろみと役割分担を決め、ひろみが箱詰めと段ボールに品目を書き、大樹が車に運搬する。
夏帆の寮に着くと、ひろみは寮の中に入り、できるだけの窓を開けて、箱詰めを行い、大樹は、車の後の座席を倒す。車がワゴンRであるため、大樹は、どのくらい乗せれるかな・・・と不安を感じながら、荷物を積み込む。荷物を積み込んで約2時間程で車は荷物で一杯になった。大樹は、さすがに汗だくで腰がパンパンであったが、ひろみに「もう乗せられないので帰ろう」と告げる。ひろみが疲れた顔で「わかった」と答える。荷物は、来た当初より約半分になっていた。
5時頃、大樹とひろみは帰路に着く。大樹は「今日の夜どうする」と聞くと、ひろみは「さすがに夕飯作るのはキツイ・・・」と言うので、大樹が「どこかで食べて帰る」と言うと、ひろみが「弁当でも買って帰りたい」と言うので途中のコンビニで弁当を購入して帰宅する。
帰宅後は、積んだ荷物を夏帆の部屋に降ろす。部屋が3割程、埋まった。
3月27日も同様に、夏帆の寮で荷物の積み込みと運搬をすると、約8割位の作業が終了した。帰りの車の中で大樹はひろみに、「あと一回で終わりそうなので、31日は、午前中に俺が電車で夏帆の部屋に行き、冷蔵庫の掃除と運搬の立会、お前は仕事後にこっちに来て」と言い、ひろみは「了解した」と答えた。自宅に帰宅後、夏帆の部屋の半分が埋まった。
3月31日、大樹は有給を取得して電車を利用して寮の片付け、ひろみは、パートの終了後に自家用車で寮に向かう予定である。
天気は、朝から晴れている。大樹は、6時30分に家を出て、最寄のバス停から敦賀駅までバスに乗り、7時6分の北陸線の普通電車で福井へ向かう。福井までは1時間位の距離である。大樹は、憂鬱だった。なぜなら、今までの運搬では冷蔵庫を開けなかったので、中がどうなっているかわからないためである。1時間程で福井駅に着く。その後、えちぜん鉄道に乗り換える。えちぜん鉄道は、三国港まで行く三国・芦原線、勝山まで行く永平寺・勝山線があるが、夏帆の寮に行くには、三国・芦原線に乗り継ぐ、電車に乗って20分位の新田塚駅に着く。夏帆の寮までは、郊外の住宅街を通りながら歩いて行くが、途中で公園があったので、ベンチに座りタバコを吸いながら、今から始まる憂鬱を思っていた。その後、気合を入れて、寮に向かい、鍵を開けて夏帆の部屋に入る。時間は9時頃だった。
大樹は、マスクを着け、電気は、ブレーカを落としていたので、ブレーカを上げる。次に、寮の窓を開け、ゴミ袋が十分あるのを確認して、冷凍庫を開けた。強烈な異臭が漂う。その中には腐った肉が入ったパックと肉汁を含んだ溶けた水が溜まっていた。凄く臭い!!吐き気を押さえながら、腐った肉等の食材をゴミ袋に入れ、水は雑巾に吸わしながら、バケツに受けて流し台に捨てた後、持ってきたお掃除シートで拭き上げた、冷凍庫の清掃を終了!!次に冷蔵庫を開くと冷凍庫程臭くないが、カビも生えているので辛い。冷蔵庫の食材と調味料があったが、全てをゴミ袋に詰めて、お掃除シートで拭き上げて終了した。冷蔵庫の掃除は終了したが部屋は臭いので、寮の外側にあるゴミの収集ボックスに、いままでのゴミを運搬した。時間は10時30分になっていたので、業者を待つ間、休憩をした。すると業者がきたので冷蔵庫を引き渡した。
次に、床に引いていた騒音防止のクッションをはがした。クッションは、再利用を考えていたが、汚れがひどいため、やむを得ずゴミ袋に入れて、床はおそうじシートで拭き上げ、大分、綺麗になって、異臭はなくなった。
それから、事前に持ってきた段ボールに残りの小物を詰めて午前中の作業は終了した。春先の暖かい晴れの日なのでよかったが、かなり汗をかき、疲れた!!
大樹は、近くにあるセルフサービスのめしやに昼食を食べに行った。ものすごく腹が減ったので、とんかつ、ご飯、味噌汁、小鉢、デザートを取り800円支払った。仕事を終えたので、昼食は美味しかった。一方、セルフのレストランは安価な印象であったがつ、ある程度を取ると高くなるな・・・と感じた。
昼食終了後、タバコを吸った後、少し住宅街を散歩して夏帆の寮に戻った。残りはユニットバス(トイレ)である。春先なので少し寒いが気合を入れて洋服を脱ぎパンツだけになった。
まずは、トイレであるが、長い間使っていないこともありカビが生えていたがゴシゴシ、ブラシで磨き綺麗にした。バスの中もカビが生えていたので、こちらはスポンジで磨ききれいにしたのち、床もきれいに磨いて水を流して終了した。さすがに春先なので足は冷たく少し寒い。洋服を着て、最後にシンクの掃除を終了した。時間は14時位であった。
大樹は、携帯を確認したところ、ひろみが、13時30分頃に敦賀を出ているので、もう少しで到着する予定である。大樹は、一息いれるため、「近くのコンビニでタバコを吸う」とのLINEを送り、コンビニに行った。コンビニまでは徒歩10分位の幹線道路沿いにある。コンビニではコーヒを購入し、達成感を感じながらコーヒを飲みながらタバコを吸っていた。すると、ひろみがコンビニに到着したので、車に乗って、寮に向かった。
寮に着くと、ひろみは、持ってきた掃除機を持って入り、掃除を行い、大樹は残りの荷物を運び出し、約1時間30分後の15時30分頃に夏帆の寮の荷物の運び出しと掃除が終了し、ブレーカを落として鍵をかけて寮をでた。
大樹とひろみは、福井北グループの本社に到着して受付にいくと、春日がたまたまそこにいたので、「こんにちわ、部屋を片付けましたので、鍵を返しにきました」と言う、春日は「わざわざすいません。急がなくてもよかったのに」と言う。大樹は「いつかは、片付けないといけないので、今日で終わるようにしました」と言う。更に大樹は、「娘がお世話になりました。また、最後はご迷惑をお掛けしました」と言うと、春日は「少し時間がありますか」と言うので、大樹は「あります」と言うと、春日は「では、こちらに」と言い、大樹とひろみは、1階にある会議室に通される。春日は。離職票等の複数の書類を渡してきて、「野坂さん、離職票をお渡しします。次の勤務先やハローワークで必要になりますので、大事に保管してください。また、健康保険はどうしますか」と言われたので、大樹は「夏帆は入院中で、国保に切り替えるのは面倒くさいので任意継続にします」と言うと、春日は「この書類を持って福井駅前にある保険事務所に行ってください。手続きができると思います」と言う。大樹は「教えていただき、誠にありがとうございました」、大樹が時間を確認すると16時過ぎたところだったので、「保険事務所の受付は17時までですよね」、春日は「そうですが、10分位で着くと思いますので、今から行けば大丈夫です」と言われたので、大樹は「それでは、手続きをして帰りますので、今まで、お世話になりました」と言い、福井北グループ本社を出る。
約10分位で福井駅近くのパーキングに入り、健康保険組合が入るビルに入る。ビルは建ったなかりの綺麗な場所で1階にカフェがあるおしゃれな構造である。大樹とひろみは、健康保険組合の事務所に着く。既に16時30分を過ぎていた。待っている人がいないため、すぐに受付に案内される。
健康保険事務所では、先程、福井北グループでもらった書類を渡して手続きを行うとともに、高額医療の手続きを行う。また、現在までの保険証は所属する会社に送ることなどの説明を受けた。
大樹が「娘は3ヶ月まで休職していたので、傷病手当金をもらっていること」を伝えると、事務員は「3月31日までは会社を通して、それ以降はこちらに書類を送ってください」と言われたので、大樹が「え・・退職後ももらえるのですか」と言うと、事務員は「傷病手当の支給日から1年半、同じ病気であればもらうことが可能です」と言われたので、大樹は「そうですか・・・わかりました。すいませんが手続きよろしくお願いします」と言い、健康保険事務所を出た。大樹は、ファイナンシャルプランナーの試験の勉強で傷病手当は知っていたが、退職後にもらえるとは知らなかったため、びっくりしたとともに助かったとも思い、ひろみにもそのことを伝えた。このことは、いい勉強になったとともに、今後の大樹の運命を左右することになる。
時間は、17時過ぎだったので、大樹はひろみに「韓丼で食べて帰ろうか」と言うと、ひろみは「いいよ」と言う。韓丼は、焼肉丼等の韓国料理の店で福井市には店舗があるが、敦賀では店舗がない店である。
大樹は、鯖江店に着き、スンドゥブとカルビー丼のセット、ひろみはスンドゥブとご飯のセットを頼み達成感を味わいながら食べて自宅に帰った
大樹とひろみは、夏帆の寮の片付けも終わり安堵するが、4月に入ると労基や保険紛争が本格化し始めるとともに、他に大きな問題が噴出し始めるので、ますます大変になることは、この時は思ってもいなかった。
大樹は、福井北カントリークラブとアストラムとの調整を行うとともに、最大の課題である夏帆の寮の退寮作業を3月31日までに終えることができ安堵した。一方、1月に始めた労基や保険紛争が本格化し始めるとともに、更に大きな悪魔が潜んでいるので、野坂家では凄い状況になっていくのである。
次章では労基や保険紛争に関する対応と潜んでいた悪魔がいたことがの判明するきっかけまでを次章に記載します。




