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1.兆候

 2021年9月、野坂大樹(52歳)は、妻のひろみ(53歳)と福井県敦賀市の古い平屋の借家に住んでいる。

 福井県敦賀市は、福井県の南に位置し、人口約6万人の自然が豊かな山に囲まれた港町で、県庁所在地の福井市から普通電車で1時間、車利用の場合、高速道路を利用して約1時間と遠いが、都会である京都へは特急で1時間、大阪と名古屋へは特急で1時間30分で行ける。また、2024年4月には北陸新幹線の終点駅で交通の要所である。  

 大樹は、IT関連の企業に、ひろみは、スーパの精肉部門でパートとして勤務している。

 大樹とひろみには、二人の子供がいる。長男の敦(27歳)は、3年前に転職して、大手中古車販売の会社の整備士として新潟に行き、その後、転勤して山口に住んでおり、長女の夏帆(24歳)は、福井市の福井北グループの福井北カントリークラブというゴルフ場でフロント業務を行っており、二人とも独立して一人暮らしをしている。

 大樹は、土日祝日が休暇でひろみはシフト制で不定期的な休暇である。大樹は、会社以外にも地区の体育部員の他、2年前に取得したAFP(ファイナンシャルプランナーの資格を活かしてFP協会福井支部主催のフォーラムや北陸支部での無料相談会の補助等の活動を行うなど充実した時間を過ごし、ひろみは特に関与することはなく夫婦関係はうまくいっていた。

 それが、2か月後に夏帆が交通事故を起こしたことをきっかけに、抱えていた多くの悩みや問題が噴出して、その対応に追われるとは、誰もが想像できなかった。本章では、事故を起こす前の状況を記載します。

 2021年9月、大樹とひろみは、新型コロナウイルス感染対策のワクチンをやっと受けることができ、敦も夏帆も受けたと聞いたので少し安堵していた。新型コロナウイルス対策として体育部の活動は自粛し、AFPの活動は、平日に、特急に乗って金沢の無料相談会の補助に行くくらいなので、特に土日は暇であった。

 そこで、大樹は、気晴らしということで、ひろみと休暇が一致する日に、福井県で行ったことがない大野市の方へ行った。大野市は、福井県北部の山間部の街で、敦賀から一般道経由で約2時間の位置にあり、雲海が有名な越前大野城や大野の街中の至るところに湧水がある風情がある城下町で、街はずれには福井県で最も大きい道の駅「荒島の郷」がある。大樹とひろみは、越前大野城に行き、昼食には街中にある古い飲食店でしょうゆかつ丼とおろし蕎麦のセットを堪能し、荒島の郷でまったりしたのち、16時過ぎ、夏帆がいる福井市の方へ向うことにした。大野市から福井市へは約1時間の距離である。なぜ、福井市に行くかであるが、夏帆と待ち合わせて夕食を食べることを計画したためである。

 しかし、前日に夏帆にこのことを伝えると、「残業で厳しいかもとのことでもあり、勤務が終了したら連絡する」とのことであった。また、夏帆の勤務時間は、8時~17時であるが、近頃は、20時まで残業しているとのことであった。

 大野市を出発して17時を過ぎても連絡がないため、大樹は、今日も残業するだろうと思い、せっかくだから三国海岸で夕日を見に行くことにした。三国海岸は、大野市から約1時間くらいなので夕日が見れないかと思い、進路変更をした。

 18時頃に、三国国定公園も海岸沿いの公園に到着した。そこには、たたみ3畳分の大きなベンチがあり、そこに大樹とひろみは、そこに腰かけて、夕日が沈むの待っていた。そろそろ、夕日になり始めて太陽が沈み始めたころに大樹は、便意を覚えた。そこで、我慢しようとしたが、無理だと思い近くの公衆便所に駆け込んだ。大樹は、公衆便所で用をたすのは嫌だと思ったが、背に腹は代えられないため、個室に入った。トイレ内は思ったよりも綺麗だったので、安堵したが、せっかくきたのに日の入りが見れないのは悲しいと思い焦りを覚えながら用をたしてベンチに戻ったら、ギリギリで日の入を見ることができた。  海岸の気が太陽を遮って半分くらいしか見えなかったが、日の入を見て感動した。

 夕日も沈み18時30分になっても夏帆から連絡がないが、廻りが暗くなってきていたので、福井市の方へ向うことにした。三国海岸から福井市までは約30分位の位置で19時頃に到着したが、夏帆からの連絡が無かったので、夏帆の寮の近くの本屋で時間を潰した。20時頃に夏帆から連絡があり、20時30分に寮へ迎えに行き、自宅がある敦賀にはない韓国料理屋のチェーン店に連れて行きご飯を食べた。その時、夏帆は毎日、残業してしんどいこと、職場の状況が悪いので転職活動していること、たまに腹痛があり、手が黄疸のようになっていたことを大樹とひろみに伝えた。大樹とひろみは、転職はしょうがないと同意し、腹痛と黄疸については、栄養不足ではないかと思い、栄養を取るように助言した。また、夏帆から日頃通勤で使用しているダイハツエッセのエンジン音がおかしいとのことも言っていた。この点、大樹は、2020年の冬に、福井北グループの整備会社である福井北自動車に車検に出したときに異常がないと返された。夏帆は、異音がすることに不安になり、帰省していた敦に相談した。敦が車を確認したところ、エンジンオイルが減っていることを発見してエンジンオイルを入れ、クレームを入れたが、そっけない態度であったことがあり、このままエッセに夏帆を乗せるのはヤバいと感じた。

 そこで、大樹は、車の購入を検討し始め、10月の始めの3連休に1日の有給を使って3泊4日で山口の敦のところに行く計画をしていたので、敦に軽自動車のいいのがあるかを尋ねた。

 10月、大樹が、山口に行ったとき、敦から製造から4年のスズキワゴンRを手ごろな値段で売ってくれるとのことだったので、山口から帰宅後にひろみと相談して購入することに決定した。

 大樹は、購入した車を夏帆にあげるのではなく6年前に購入した現在使用中のダイハツムーブを夏帆にあげて、大樹とひろみは購入した自動車に乗り、エッセは廃車にするようにした。

 ワゴンRの納車は、10月31日まで点検や車検を行い、11月の初旬に敦の会社の福井支店で受け渡すことになった。

 車の入替えに伴い夏帆には福井北グループの保険代理店に、自動車を入れ替えることを伝えるように指示し、夏帆は、保険代理店に伝えた。保険代理店から車検証をFAXしてくれとのことだったので、大樹からFAXを送るとともに、電話で、「この保険と同じにしてください。また、本人限定を外し、保証金額も注意してください」と伝えて了承を得た。

 11月の始めに、大樹とひろみは、福井市に向かい、夏帆のエッセで、敦の会社の福井支店に出向き、廃車の手続きをしようとした。ところが、敦の会社の担当者が「車検証がない」と言われたので、夏帆に「車検証を別にもらった」と聞いたが「わからない」というので、夏帆の会社の整備工場に連絡したら「知らない」とのことだった。大樹は、通常、車検証は、ダッシュボードの説明書が挟んでいるファイルに保存されるはずで、夏帆が扱うしかないから、整備工場が車検後にダッシュボードに入れ忘れているのではないかと推測し腹が立ったが、今は廃車手続きを優先するため、軽自動車協会に行き、車検証を発行してもらい当日の廃車手続きと納車を無事終了させた。そのときに、敦の会社の福井支店からは。一連の廃車の流れの説明と自賠責の払い戻しの金額の説明があったが、この時の説明は、その後に役に立つことになる。

 その後、3人で、福井市内にあるリーズナブルな天ぷら屋 てんじゅうに行き、大樹は、天ぷらとおろし蕎麦のセット、ひろみと夏帆は、天ぷらとうどんのセットを頼み、終わった感を味わいながら堪能した。

 大樹とひろみは、これで、夏帆の自家用車に関する不安が解消できたので、安堵し、平穏な生活に戻っていた。

 今思えば、野坂大樹は、兆候を確認した時点で、防げそうなポイントがあると思われる。まずは、病気の面であるが、時々腹痛を起こし手に黄疸がでていることを見つけた次第で、栄養不良と認識せずに病院へ行くようにすすめるか、どうしても拒む場合は、連れて行くべきだったのかも知れない。今後の連載にも記載するが、早期発見で、入院が必要だとしても、手術に至らなかったこと、手術をしても困難にならなかった可能性があるとともに、うつ病や多重債務も早期発見ができたのかもしれない。一方、多くの方にも共通すると思うが、当事者である夏帆は、多忙であることと面倒くさいことを理由に病院にも行かないし、大樹もひろみも悪いことから背を向けたいと思ったことが、対応を遅らせたと思う。

 次に、自動車保険の件であるが、夏帆は、保険証券の内容が理解できていなかったこと、大樹とひろみは、それに気がついて、自動車を切り替えたときに、夏帆と一緒に保険証券を確認して、不明点は保険代理店に問い合わせ、納得がいかない場合は、見積もりを要求して切り替えを行えばよかったと思う。更に、保険代理店の対応が悪い場合は、解約するなどの措置を取るべきであった。一方、大樹とひろみは、まさか限定付きの車両保険があることも知らず、更に、そのような内容に切り替わっていると思ってなく、福井北グループの保険代理店を信用しすぎてたことが後のトラブルにつながったと考えられる。

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