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第壱話(その5)
料理の間に入ると、その部屋には既に父上と母上が料理が運ばれるのを待っていた。
父上はもう怒っていない様子だけど、母上は冷たい目で拙のことを見ている。
「あの、母上・・・・・・」
拙が母上に話しかけようとした時、襖が開き、弟の薫が入ってきた。
「あ、兄上。おかえりなさい。帰ってこられていたのですね」
「つい先ほどね」
拙がそう言いながら薫を頭を撫でようとすると、母上が薫の腕を引っ張って自身に寄せた。
「薫! 此奴と話してはいけないと言っているだろう。貴様も薫に触れようとするな!」
母上は薫を抱きしめながら拙を睨みつけてそう言ってきた。
「申し訳ありません、母上・・・・・・」
頭を下げながら謝ると、母上は元の席に戻り、その隣に薫を座らせた。
「夜魄。お前も早く座りなさい」
父上に促されて席に着いた直後、料理が出来たらしく、部屋に運ばれてきた。