3.第2騎士団
騎士になって2週間。第2騎士団の仲間たちと同じ家、第2騎士団の本拠地で暮らし始めて1週間と3日が経った。
今日は私が朝食の当番。いつもより早くに起きて、朝食の準備をする。30分ほどして、
「ティサラちゃん、おはよう」
食堂にやってきたのは、私と同じ新入りのモニカ。真っ白な髪をみつあみに結い上げて前に垂らした、アメジストの美しい瞳を持つ女の子だ。いつも穏やかで、17歳で、年も変わらない。すぐに仲良くなった。
「モニカ、おはよう。見て、この卵焼き!」
「わぁ、キレイなきつね色だね」
「でしょ。我ながら、うまくできたと思うんだ~」
「待って、ティサラ。なんでごみ箱にバナナの皮が捨ててあるの?」
腰まである超ストレートの赤髪に、同色の瞳をもつお姉さん系美人の女性が、口をへの字にしてやってくる。
「あ、おはようございます、ルナ先輩」
「ええ、おはよう。それよりこの甘い匂い……バナナが焼ける匂い。まさか、その卵焼きに入ってるんじゃないでしょうね」
「よくわかりましたね」
「ティ・サ・ラ~?そのバナナはね、バナナーツ領で育てられた超高級品なのよ。それ一本で一体いくらすると思っているの?200ジュエルよ、に・ひゃ・く~。市場で売られてるバナナはひと房で200ジュエルなのに!がんばれば100ジュエルまでまけるのよ?それをあなたはーーー」
ルナ・サルトニー先輩。レベル11という、美しい見た目からは想像もつかない強さを持つ第2騎士団の副団長。炎の強力なスキルをもち、国内にとどまらず、国外でもその名をとどろかす有名な騎士だ。その強さと美しさから、ファンクラブまでもがあるらしい。
「聞いているの?ティサラ!」
先輩の仕事中の様子を知らない私にとっては、ただのおかんだが。
「そんなに大事なものなら、先に言っといてくださいよ」
「昨日言ったわよ!」
「も~。朝っぱらからうるさいんですけどぉ~」
「リリィ。あなた、昨晩は夜中までどこほっつき歩いてたのよ!?」
朝からばっちりと化粧を決めてるこの先輩はリリィ・アスカミーン。
「マー君のお家~」
ふんわりカールした菫色の髪に、上下にかけてグラデーションする桃色の不思議な瞳を持つ先輩だ。といっても、起きてくる時から完璧にセットされているから、髪は巻いているかもしれないし、瞳はカラコンかもしれない。
「リリィ、これからケン君とデートだから~」
「ちょ、待ちなさい!」
そういえば、団長はいつ帰ってくるのだろう。朝食のフレンチトーストを焼きながら、物思いにふける。
騎士試験を合格したあの日、第2騎士団に入ることが決まって団長と試験会場を出た瞬間、
「用があるから、そこで待ってろ」
と言われて放置された。結局、あの人が来ることはなく、ミク先輩が迎えに来てくれた。そしてあれからずっと団長を見ていない。ここにも帰ってきていないらしい。ルナ先輩は、いつものことだから、と言っていたけど、やっぱっり気になる。
「あ、やば」
フレンチトーストの焦げる匂いがして、慌てて火を止める。適当な皿に移し、テーブルに朝食を運ぶと、
「ルナ、ちょっといい?」
仕事からロニック先輩とガラ先輩が帰ってきた。
「あ~、腹減った」
ガラ先輩はソファに倒れこんだ。
「ちょっと、邪魔!どいて、ガラ」
と、ガラ先輩の巨体を床に引きずりおろしたのは、試験会場であった青緑色の騎士ーミク先輩。
「ねえ、本部から通達があったよ」
手紙を持ってきたのは、ミク先輩の双子の弟ミツグ先輩。一卵性なので、二人の顔はそっくりだ。
その言葉に、みんながミツグ先輩のところに集まる。
「次の仕事の話みたい。えーと、隣国からくるアマリリス王女様の護衛、リリィとルナ先輩、指名だね。」
ミツグ先輩が内容を要約する。
「アマリリス王女殿下、か。これはなかなかに面倒くさいわね」
ルナ先輩がため息をつく。
「あ、あともう一つ、……第1騎士団と第3騎士団の騎士との共同任務だね。リューレン魔地域においての魔物狩り。いつものやつだ」
「いつもの?」
首をかしげると、
「あそこは王都にも近い地域だから、定期的に魔物の数を減らしに行くんだ。魔地域では、魔物が大量発生すっからな」
ガラ先輩が卵焼き(?)を咀嚼しながら答えた。
「この時期は魔物もそんなに強くないから、どう?行ってみる?ティサラ、モニカ」
『はい!』
騎士になって初の任務だ。
「そう、念のため、ミクとミツグもついて行ってくれる?」
『わかった』