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東京テイルズパーク  作者: 蛇子
9/21

ダークエルフ御一行 様


 不死王は大満足だった。

 秋葉原で大量のホラー映画とモニター一式を買い、パークのお化け屋敷を周回して、ロットンケーキを相手に無双して、最後は俺がプレゼントしたホラーゲームを遊ぶために、ゲーム機を買った。


 それはそれはもう、大満足であった。自分の事を我とか言うくせに、今回ほとんどがエロ目的だった。

 エロ骸骨が覇王と一緒に帰ったのは、パーク内のホテルで一泊した翌朝である。

覇王にも得るものがあったようで、いつもの獰猛な笑みが戻っていた。


「要らぬ心配と世話をかけた。この感謝はいずれ形にして渡そう」


 要らない。

 覇王は俺に何か下賜したい様子だったが、恐らくゴーレムだ。そうじゃなくても、また竜が増えたり密航者が来たりすると嫌だ。要らない。


 笑顔で異世界へと去って行った二人だったが、残された俺たちは安堵の溜息を吐く暇すらなかった。というのも、話題になってしまったのだ。パークの新しいオトモダチが。


 ロットンケーキ共は不死王に惨殺されたものの、やっぱり裂け目がくっついた。不死王が腕の一振りで蘇生させてしまったのだ。

 舞台裏で並んで寝かせた連中に、不死王が「甦れ」と声をかけたら再生したのである。縫うまでもなく、肉と肉が勝手に結合し、裂けた痕も塞がってしまった。


「支配人、これを」


 ゾンビが復活して喜んでいたのは陸奥だけだったが、名月が俺に手渡してきた資料には俺も喜んだ。

 ネット上にて、例の骸骨の行く末として今回の舞台が大きく話題になっていたのだ。

 これでとりあえず、骸骨が異世界産である事実から目を背けられるだろう。未だ異世界との交流について情報が不足している中、まさかテーマパークの従業員をやっているとは誰も思わないはずだ。政府に文句を言われずに済む。


 と、ここまでは事前に想像していた範囲内。

 しかし、この後の流れは俺が思っていたのと少し違っていたのだ。


「やってくれたな、ロットンケーキ……」


 事務所で頭を悩ませたのは、ロットンケーキの絶妙な人気ぶりである。


「次回公演の問い合わせが殺到しています」

「勘弁してくれ……」


 骸骨についての動画が拡散されてから、現在おおよそ半月程度が経過している。

 浮かぶ骸骨の話は沈静化したのだが、今度は一緒に撮られていたロットンケーキが話題になってしまった。しかもそれは、賛否両論の吹き荒れる感じで、だ。


 ロットンケーキは本当に魔法を使った舞台を演じたため、話題になるとは思っていた。実際、あの三馬鹿の使った魔法なら間違いはなかった。

 だがゾンビの使う暗黒魔法は、小さいお友達にあまり評判が良くなかった。ドクロとか出してたし。

 その分、大きいお友達には好評であった。物凄い演出だった、と感動されている。

 しかして、最大の問題は魔法ではない。


「イリュージョンだったと説明しておけ」


 そう指示したのは、最後に真っ二つに裂けた事への釈明である。これが賛否両論の元であるのだ。

 子供たちの前で、あまりにグロテスクに過ぎる演出だと非難ごうごう。反対に、素晴らしい演出だ、どんな仕組みなんだ、という称賛も同じくらい。どんなも何も、本当に裂けている。


 俺個人としては、こんなものを客前に出す事を許可した奴がいたとしたら、そんな奴はクビで良い。もちろん俺の事ではない。俺は許可などしていない。ありゃ不死王とゾンビ共が勝手にやったのだ。俺のせいではない。

 ともあれ、いくら俺のせいではないとは言え、対処するのは俺である。


「次回公演は近日中にやる。これだけ人気が出てしまった以上、今更やりませんとは言えんだろ。しっかりした舞台の用意ができたら公演する。グッズも用意しないとな。少な目に。まずはぬいぐるみからだ。部署に企画書を作成させてくれ。……あぁ、腹が裂ける仕掛けとか要らないからな」

「中にポプリを入れてみては?」

「名月、ふざけている場合じゃないんだ」

「申し訳ありません」


 そんなやり取りをしていると、事務所のドアがノックされた。入室許可を出せば、陸奥に連れられて三馬鹿がやって来た。


「おぉ、よく来たな三人とも」


 確か三人を呼び出したのは昨日の内だったが、来るまでに一日かかったか。まぁ仕方ない。呼んですぐ来るとは俺も思っていなかった。急ぎの用でもない。別に良い。こいつらはそういう奴らだ。


「何か用っスか?」

「俺ら暇なんで、忙しいんスよ」

「支配人と違ってやる事ねーから、大変なんスわ」


 まともに取り合って会話すると、精神が擦り減る事は既に知っている。これがダークエルフだ。仕方ない。

 魔法の出来があまりに良すぎたので、俺はこの三馬鹿を何度も働かせようとした。

父の遺したマニュアルがあれば、と思ったのだ。しかし、俺は舐めていた。こいつらはその精神構造からして人間とは違うのだ。こいつらは絶対に働かない。

 働くくらいなら死ぬという奴ですら働かせるはずの、その父のマニュアルが全く効果を成さないのだ。お手上げである。


 今回、この三馬鹿を呼び出したのは働かせるためではない。不本意だが、それでも成果と報酬は釣り合わなければならない。そのためだ。


「一郎、二郎、三郎。今回お前たちが見せた魔法に対する、賞与だ」


 一人あたま十数万程度の現金を、俺は封筒に入れて渡した。


「こ、こりゃあ……一体……」


 不思議そうな顔をして封筒の中身を見ている。


「あの魔法は大いに話題になったし、俺個人としても素晴らしいものだったと感じた。あのショーで唯一、手放しで褒められるのはお前らの魔法だけだった。それに対する報酬だ。あれを発注したと仮定すると安すぎる金額だが、まぁ普段の勤務態度と相殺でこんなものだ」


 こいつらに渡すと一晩で使い果たすのでは、と名月は心配していた。しかし構わない。どうせこいつらはパーク内にいつもいるのだ。使った金がパークに還元されるなら、多少渡した所で結局は返ってくる。


「っべぇ、マジやっべぇこれ」

「な? やべぇなこれ」

「マジかー」


 三者三様……ではなく、三人とも似たような反応をしている。そして携帯を取り出すと、写真を撮り始めた。……携帯?


「おい、お前ら携帯なんていつの間に……」


 どうやって通信契約して購入したのだろう。そう思いつつ、いつからこいつらは日本語を読めるようになったのだろうと疑問も抱く。そんな頭の良い素振りはなかった。勉強などする訳がない。


「……んっ?」


 そこで俺は気が付く。この三馬鹿、あの翻訳耳栓をしていない。もしや、と名月を振り返ると、名月も目を見開いていた。


「お前ら、いつから日本語を使えるようになったんだ……?」


 思い返すと、三馬鹿の言葉は両耳に聞こえていた。ゾンビ娘とのやり取りもあるため、翻訳耳栓を付けっぱなしにしているのだが、もしかすると三馬鹿は馬鹿ではなかったのか。


「んー……? ここ来てすぐ覚えましたわー」


 そう言えば、妖精王も携帯を使いこなしていた。日本語も喋れていた。だが、だからと言ってこんな事があるとは。


「まぁでも、周りみんな日本語っスからね」

「誰でも覚えるんじゃないっスか?」


 どうやら妖精王の頭脳が優れているというより、ダークエルフ全般の頭脳が優れているらしい。


「トゥイラーにアップしようぜ。初ボーナス」

「あー……でもまた、肌が紫、しかコメントもメッセージも着てねぇな」

「お前も? 何なんだろうなこれ。そもそも肌の色なんか同じ奴いねぇだろ」

「なー? 自分と同じ肌の色っているか? なんで俺たちだけ言われてんだ?」


 いやさすがに紫は擁護できない。

 複雑な文化や思想に言及しかねないが、少なくとも先天的に紫なのはお前たちだけだ。珍しいのは事実だからして、コメントはよく理解できる。

 と言うか、こいつら三人とも同じ紫色に見えるが、ダークエルフ的には違う肌の色として認識されているのか。色彩感覚が違うのかも知れない。


「やー……しかし、支配人。ボーナスどもっス。また何かあったら言って下さいよ」

「そーね。俺らも忙しいけど、あんなもんで良いならね」

「俺のシャボン玉見たガキ共の顔、見ました? また呼んで下さいや」


 またやってくれるのだろうか。

 こいつら、あれだけやる気なさそうに参加していたというのに、どういう心境の変化なのだろう。


「んーじゃ、俺ら動画の撮影あるんで」

「今度のは魔法使ってみっか? 大食い企画とか全然人気出なかったし」

「今更俺らの魔法見せてもなぁ……。ありゃガキだから通用しただけだろ」


 などと言いながら部屋を出ていく三人。


「……んん? おいおいちょっと待て待て!」


 しかし俺の言葉で立ち止まったのは陸奥だけだった。三人は出て行ってしまう。


「なんですかー?」

「お前じゃないお前じゃない」


 三人は聞き捨てならない言葉を言っていた。


「あいつら……動画投稿なんてしてるのか……?」

「あぁ、そうみたいですよ。たまにパークの裏で色々やってます。事務室でパソコン借りて編集もしてました。あたしも一回だけ一緒にやりました!」


 動画の編集? いつそんな技術を身に着けたのだろう。異世界にそれを学べる場所があるとも思えない。


「超、勉強してましたよ? あたしも頼まれてパソコンの本を何冊か買ってあげましたし。他にも色々と勉強してました」

「な……」


 そんなバカな、と俺は狼狽える。あんなにも努力とか労働とか、それに類する言葉が嫌いな連中が何故そんな事をしているのだろう。

 日本語もマスターしているようだし、もしかすると俺は何か勘違いしていたのだろうか。

 あるいは、労働や勉強、努力などは別々のものとして認識しているのだろうか?


「そう言えば、確か親父のマニュアルだと……」


 何か思い出せそうであった。だが、むっちゃんの陽気な声がそれを遮る。


「あと、今度お休み下さい!」


 唐突な頼みだった。


「まずは申請書を出して下さい」


 名月が冷静に対応すると、むっちゃんは困ったように言う。


「え、でも……その、明日からでも急にお休み欲しいんで、今からお願いしてたら間に合わないかなぁーって……」

「どうした。身内に不幸でもあったのか?」


 別に陸奥が一人いないくらいで、パークの運営に問題が起きたりはしない。ロットンケーキの公演もすぐさまやる予定ではないし、何なら陸奥じゃなくても司会はできる。


「何かあったなら、別に何日か休みを取っても構わないぞ」

「ありがとうございます!」


 嬉しそうな様子だが、とすると身内の不幸というような話でもなさそうである。では何だろうと首を傾げた所で、むっちゃんが楽しそうに言いやがった。


「マイネイと旅行に行くんですよー。今しかこっちに来れないって言うんで、どうしようかと思ってたんです!」

「支配人」

「あぁ」


 俺は事務所のドアを閉め、むっちゃんに椅子を差し出してやる。


「アレネンタさんも来るそうです! お土産買ってきますね!」


 どっちがどっちの名前か忘れたが、その名前には聞き覚えがあった。

 むっちゃんを座らせると、俺は優しく訊ねてみる。


「妖精王と竜王が、なんて?」


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