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東京テイルズパーク  作者: 蛇子
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贈答品御一行 様

 あの日から、半月ほどが経過した。


 魔竜とゾンビとダークエルフとゴーレムがパークに搬入され、半月である。

 当初は大間に連絡を取り、何とか送り返せないかと交渉したのだが、政府から拒否されてしまった。


 ではせめて、竜だけでも何とかならないかと。政府がどこかの山で飼育するとか、そんな事はできないかと打診したのだが、どうやらこの竜は俺に従うように言い含められたらしく、俺以外が無理に触ろうものなら食い殺されるらしい。

 竜王がそう言っていたそうだ。なら多分それは本当だろう。あいつはそんな冗談を言う感じじゃない。


「おーよしよし」


 そのため、俺の朝は早い。毎朝毎朝、ジャバウォックの餌やりから始まるのだ。


「今日もよく食うじゃないかジャバ公」


 政府は餌用の牛の購入費を全額負担してくれる事になった。

おかげで今日も元気に俺は牛を運ぶ。軽トラックに老いた牛を乗せ、ジャバウォックの待つ広場で降ろす。牛は一撃でジャバウォックの腹の中である。


 魔竜ジャバウォック。

 漆黒の鱗に覆われた、体高三メートル程の竜だ。細長い胴体に対して、その腕と脚は筋肉で膨れ上がっている。伸びた爪は大きく、軽く振っただけで土が抉れてしまう。

 牛を丸呑みする程度には口が大きく、その牙の鋭さたるや日本刀のようだ。

 背から広がる翼を使えば高々と空を舞うのだが、空は飛ばないように言いつけてある。


「うん。……いつ見ても、客先に出せそうにないな」


 これだけ凶悪な体をしているのに、力の強い竜ではないらしい。

 

 ジャバウォックのいたトレーラーには、竜王からの詳細な説明があった。説明と言うか、ジャバウォックが如何に優れた竜であるかという自慢話だが。


 曰く、ジャバウォックは単純な力ではなく、強力な魔力とやらに恵まれているそうだ。それも人を狂わせる類のもので、ジャバウォックの咆哮を受けた人はその場で狂い死にするとか何とか。

 そうでなくとも、その瞳に睨まれるだけで一時的な言語障害を引き起こすと。


 要らない。

 こんな過剰戦力、要らない。

 俺だけはジャバウォックの鳴き声も、その視線もまるで平気なのだが、こんなバケモノに誰を近寄らせる事もできない。

 せめてパワーがあるだけならショーにも参加できたものを、こいつに見られただけでアウトとか手の打ちようがない。


「ジャバ公……お前、向こうに帰りたくなったら、いつでも言うんだぞ」


 本人の意思なら、送り返す名目にもなる。だがジャバウォックは首を横に振る。

 この竜、俺の言葉を何となく理解しているらしい事が最近わかってきた。それこそ意訳程度にだが、こちらの指示を理解する。そうでなければ、もうとっくに惨劇が起きていただろう。


 パークの外れにある業者用の搬入路を丸々潰して作られた、ジャバウォックの専用広場。ここから出られないだけでも、相当ストレスは溜まるだろう。かわいそうに。


 おかげで搬入路がなくなり、従業員の駐車スペースを潰して業者を受け入れている。マイカー通勤が出来なくなった従業員は不満たらたらだ。かわいそうに。


 ともあれ、ジャバ公の問題などはまだマシ。こいつは言う事をちゃんと聞くのだから。

 もっと扱いに困る奴らもいるのだ。


「名月。むっちゃんはどうしてる」


 ジャバ公に牛をくれてやった後、パーク内の事務所で俺は名月に訊ねた。


「例のゾンビとショーの稽古を続けているようです」

「三馬鹿は?」

「パーク内にはいるようです。呼んできましょうか?」

「いや、いい。どうせ来ない」


 五人のゾンビ娘は、清潔を徹底させる事で大きく腐臭を減じる事ができていた。しかし従業員のほとんどがゾンビを気味悪がったため、もっとも抵抗の少なかった陸奥をゾンビの教育係に据える他なかった。


 しかし勝手にゾンビ娘たちのショープログラムを作り、その練習をしていたと知ったのは最近である。そんな事はさせない。

 俺は陸奥とゾンビ娘が勝手に稽古に励んでいる場所に向かった。


 お化け屋敷の裏、控室から出て従業員通路を抜けた所にあった、小さいスペースである。

 はて、前までここには資材が積んであったはずだが、一体どこに行ったのだろう。


「あ、支配人! お疲れ様です!」


 俺の姿を見た陸奥が元気に挨拶。そしてゾンビ娘たちは横一列に整列し、一糸乱れぬ統率で頭を下げた。


「お疲れ様です」

「あぁ、うん」


 ゾンビ娘たちは見た目が良い。

 加えて、血色以外は生きている人間と変わりないようにも見える。


 以前何気なく本人たちに聞いたら、ゾンビを製作する時点で、不死王がある程度見た目を良くするそうだ。

 つまり全員整形美人なのだが、不死王の場合は本物の美人の死体から頭部などの、優れた部位だけを持ってきて交換するため、果たしてそれを整形と呼ぶのかどうかは微妙である。


 それぞれ髪の長さや、目鼻立ちなんかは違うのだが、陸奥がゴシックな服装を全員に着せたため、ぱっと見ただけでは区別がつかない。

 ゾンビメイド隊だそうだ。

 ゾンビの給仕なんて悪い病気になりそうで最低だ。


「支配人! そろそろ皆のショーも完成度が上がって来ましたよ!」


 それをぶっ潰しに来たのだ。


 ゾンビ娘たちは完全に陸奥に任せていた。

 せいぜい陸奥と同じように、裏方の雑用をこなしているとばかり思っていたが、まさかこんな謎の行動に出ていたとは思いもしなかった。


「さくら、あんこ、よもぎ、きなこ、わらび! 練習続けるよ!」


 突然に陸奥が言い出したのは、ゾンビ娘たちの名前である。

 彼女たち曰く、不死王から名前をもらっておらず、生前の名前も思い出せないらしい。好きに名前を付けて良いと言われた結果、陸奥のセンスがこれである。


 どの餅が誰かは俺も把握していない。並んだ時に中央に毎回いるショートカットがきなこだと覚えたが、あとは知らない。あの右端のツインテールの奴がさくらだった気がする。


「あとは、あの三人がちゃんと頑張ってくれたら良いんですけど……」

「あの三馬鹿か。確かにあれはどうにかせんとな」


 あの日、トレーラーの中にいた密航者である。

 

 三人のダークエルフは、こちらの世界に興味を持って来たのは良いものの、ろくに働く事もなくフラフラしてばかりいる。奴らこそ異世界に送り返したいのだが、本人たちは断固拒否。


 政府が言うのでパークで雇用した形をとっているが、役に立たないので扱いに困っている最中だ。たまに気まぐれで魔法を使って客を喜ばせているようなのだが、基本的には何もしない。

 

 せっかく魔法が使えるので、ショーかパレードで活躍して欲しいものの、奴らは絶対に俺のために働かない。


「支配人!」


 大声を出したのは、果たして陸奥ではなかった。

 珍しく焦った様子で現れたのは、名月である。

 何か緊急事態が起きたのか、と身構えると、事態は思った以上の緊急事態だった。


「覇王と不死王が、いらっしゃいました……!」

「え、なんで?」

「もうパーク内に来ています……!」

「え、なんで?」


 大魔王とふわふわ骸骨のコンビがパークに現れたら、それだけでパニックが起きる。

 今日は週末。大勢の客がいるのだ。


「……え? なんで?」


 咄嗟にはそれしか言えなかった。



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