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東京テイルズパーク  作者: 蛇子
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支配人 様


 食事そのものは好評だったと言えよう。

 覇王がもりもりと握りずしを食べ、竜王が体積以上の牛肉を飲み込み、妖精王がピンク色の吐息を吐き出す食事風景を終える。

不死王は何も食べない。そもそも見た目からして、口に入ったものが骨の体を抜けて床に落ちてしまうのは明らかだ。


 ギャルソンは不死王の前に水を置くのが正解かどうか悩んでいたが、迷った末に置いた。これが失礼に当たるのではと俺は危惧したが、不死王に機嫌を悪くする様子はなかった。

 骸骨の前に置かれた水は、何だかお供え物みたいである。


 昼食の後は残ったエリアを回り、最後にお土産コーナーまで立ち寄ってもらう。

 覇王は動くオモチャをカゴ一杯に入れており、竜王は案の定食べ物ばかり買っている。妖精王は同じ柄でサイズの違うパジャマを何着も選んでいる。知り合いに配るのだと言っているが、果たして何がそう気に入ったのだろう。

 何にせよ、国のお金で在庫を処分してくれると思えばありがたい事である。


 ちなみに不死王は最後にもう一回だけお化け屋敷に行ったので、お土産は買っていない。

 お土産コーナーの後は、中央エリアを抜けて帰るだけである。しかし、まだ最後の総仕上げにしてメインイベントが残っている。


「人間よ。余は実に満足した。人間が余を楽しませる日がくるなどと、これまで思っても見なかったぞ」


 覇王の言葉に俺は頭を下げる。だが、まだ終わっていないのだ。


「では、最後にあちらをご覧下さい」


 俺の指した方向に、一行が目を向ける。すると道の端から数十人のダンサーが現れた。同時に、パーク内の至る所に設置されたスピーカーからファンタジー色溢れる音楽が流れる。


「なんだ? 何事だ?」


 竜王がきょろきょろと辺りを見回している。

あちらこちらからダンサーや着ぐるみのマスコットが躍りながら登場し、きらきらと輝くモーター仕掛けの馬車が何台も通り過ぎる。


「お? お? おぉ?」


 何が起きたのか、というような表情の一行の前で、花火が連続で打ちあがった。あちこちから追加のダンサーが登場し、マスコット達が可愛らしい動きで歩き回る。花火の他にも、これでもかという程に空ではカラフルなスモークが舞い踊る。


「こ、これは……」


 圧倒されたように目を瞬かせる一行に対し、ショーは進行する。


 過去、これほどの規模でのショーは行われた事がない。国が予算を出すと言うので、遠慮せずにバンバン予算を使って、目いっぱいやった結果がこれだ。

 訓練を重ねたダンサーたちの動きと、演劇仕立てのプログラム進行。最後の最後まで音と光とダンスによる完璧な演出が繰り広げられた。このショーのために人数と金にものを言わせ、総勢、何百人と動員している。

 驚きに満ちた、という表情をしている一行を見て、俺は手応えを感じた。


「如何でしたか。当テーマパークを最後までお楽しみ頂けたでしょうか」


 どうだ、と自信と共に問いかければ、覇王の口角が上がった。


「余は、見誤っていたらしいな」


 くくく、とのどで笑う覇王。


「認めよう。そして、所詮は人間に過ぎぬと侮っていた事を謝罪しよう。非礼を詫びる。支配人、だったな。なるほど。まさに、その名の通りだ。魔王級の力を持っているとは驚いた」


 思っていた感じと少し違う褒められ方だが、各王たちも頷いている。竜王など、俺に頭まで下げている。


「先は相応の武勲を、などと言ってすまなかった。貴様は既に……。いや、貴様などとは呼ぶまい。支配人よ。人の身でこれだけの手勢を配下に置くとは、さぞ修羅の道を歩んだのだろう。もはや誰もお前を軽んじたりはしない。これほどの力を持ちながら、それを微塵も感じさせぬ礼節も持ち合わせているのだ。お前はまさに戦士であり、王である。配下に竜を加えたいとの事だったな。誰も異存はあるまいし、竜とて従うであろう。覇王すら認めたのだ」

「こ、光栄です……」


 どうにも、内容よりも人数の多さに感動している様子である。

 何だか思っていたのと違う。


 ここで人間の生み出すショーの素晴らしさに感動するとばかり思っていた。展示物とかどうでも良いものに感動しておいて、食事もショーも思っていた程の反応がない。


 楽しんでもらえたなら、それで良かったのではあるが。


「しかし、どうやってこれほどの数を従えたのだ? 人の身では戦って倒すのも限界があろう」

「竜王よ。支配人は何か特殊な技があるのだろう。なにせ覇王の知らぬゴーレム技術と、我も知らぬ死霊術を扱えるのだ。貴様と違って、力だけに頼り切りではないのだろう」

「はは……。私にそんな力はありませんし、何も戦って倒して従えている訳では……」

「ぐわははは! 面白い冗談だ! 兵を統べる者が、軍を統べる者が、国を統べる王が、それよりも弱い訳もなかろう! 支配人よ。これほどの人間を統べる人間、支配人よ。その力は認められたのだ。胸を張るが良い。魔王の名に連なり、肩を並べるに恥じぬ事を誇るが良い」


支配人ってそういう意味じゃない。




 こうして、俺の長い長い一日は終わったのだった。魔王級とか褒められた事以外、特に得られた物は何もなかった。

 そう、この日に得たものは何もなかった。


「支配人」

「あぁ」


 そうして、一か月くらい経ってから、政府を介して覇王から書状が届いた。曰く、この度の遠征では大変に満足したので、その感謝を贈る。そういった旨の内容だった。


 あの後、さらに色々な観光地を巡り、つい先日ようやく異世界に戻ったとの事だ。それからすぐにこの書状が送られてきたらしい。どうやって送ったのかまでは知らん。

 書状の最後には、覇王ガルツ・フォレスト・ブルーソードと日本語で立派な判が押してある。如何にも職人の手作りと言った感じで、どこぞの観光地で作ったのだろう事が安易に想像できる。


 何となく嬉しい気持ちにもなったのだが、書状と一緒に名月が持ってきたものが、もう一つあった。


「感謝と友好を込めた贈り物……だ、そうですが」

「あぁ」


 名月が持ってきたのは目録である。その内容に目を通したと同時に、俺は駐車場に大型トレーラーがやって来るのを見て、駆け出した。

 そこには既に陸奥がいて、バカが勝手に受け取りの判子など押している。数十トンの大型トレーラーが二台である。片方は既に貨物コンテナが変形している。

 俺は変形していない方のトレーラーの荷台を開けた。

名月と目録を見ながら積荷を確認。


「目録によりますと、若い生娘のゾンビが五人。組み立て式の簡易ゴーレムが二体分。そこの……酔っ払って寝ているのでしょうか。酒瓶と転がっている若いダークエルフの男性三人は目録にありません。密航者と思われます」


 酒臭さと腐臭の入り混じったトレーラーを開けたまま、俺はもう一台のトレーラーに目を向ける。まだ一台目でこれだ。あれには何が入っているというのか。


「続いて、竜一頭。ジャバウォック、とありますが……。竜王からの伝文らしき物が記載されています。詳しくお読みになりますか?」

「読もう」


 名月から目録を受け取る。

 政府を介した時に日本語訳されたようで、特に異世界の文字で書かれているという事もない。内容は、こうだ。


 貴殿の力に尊敬と友情を示す。竜王より、支配人の配下に加えるにふさわしい魔竜を選定した。存分にその力を振るわれたし。我が友へ。


「送り返せ」

「王族からの贈答品です。失礼に当たるのでは……?」

「構わん。送り返せ。……いや、外交問題になるとまずいか。政府に、大間さんに連絡を取ってくれ。そんな凶悪そうな竜は要らん。あとあのゾンビは大丈夫なのか? なんか、こう、噛まれて感染したらシャレにならないぞ。世界が終わりかねん」

「陸奥が既に触ってますけど、止めますか?」

「ちょっと心配になるな……。感染しなかったとしても、要は死体だし、なんか悪い病気とか持ってそうだ」

「それと支配人、この五人のゾンビはおそらく不死王が贈ったと思われますが、このままだとこちらからも五人分のお化けを、と要求されるのでは……?」

「しまった! そういう事か、あのドスケベ骸骨!」


 この中で唯一何とか処理できそうなのが覇王の組み立てゴーレムだが、それも果たして放置して大丈夫な代物なのだろうか。組み立てないと勝手に動き出す、あるいは妙な事になる、なんてないだろうな。


「あぁもう……。親父の資料もこんな状況は想定してないぞ……!」

「支配人が自ら作って行くしかないでしょうね」


 かくして、普通のテーマパークはこの日を境に終了してしまう。

世界初、正真正銘の本物の夢と魔法のテーマパークが、無理やり始まってしまったのだ。




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