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東京テイルズパーク  作者: 蛇子
18/21

大間 様


 何も出来ない時間がしばし過ぎる。


「うちの従業員に撃ち込んだ弾、あれ治るんだろうな」

「あぁ、そう言えば一匹吹き飛ばしたな。さぁな、知らねぇよ。ゾンビって割に大した事なかったな」


 何気なく、悪態の一つでもと思って切り出した質問だった。しかし、俺はジョンの言葉が引っ掛かった。

そう言えば何故、ロットンケーキがゾンビだと事前に知っていたのだろう。


「あの魔法、聖浄化魔法だったな。どうやって仕入れたんだ?」

「……おい、あまり調子に乗るなよ? 日本人らしく、天気の話でもしてるなら聞き流してやる。それ以外の話をするなら、喋れない程度に撫でてやろうか」

「……」


 と、言う事は魔法の仕入れ先を言えない事情があるのだろう。

 この集団が独自に異世界渡航技術を開発したなどと言う事はなく、どこかの国の援助を受けている。

 もし自前なら、こうも突然に脅迫めいた態度をとると思えない。

 どこぞの国のスパイか何かだろうか。


「……」


 いいや。その線もないだろう。公表によってどの国が得をするかわからないが、どの国も公表しない事を約束しているのが現状だ。

 もしも公表で得をする国があるなら、真っ先に疑われるのはその国である。そんな国がゾンビと戦う危険を省みず、しかも日本にまで来るだろうか。

 装備は立派だし動きも統率されているが、俺を監禁する場所が都内の倉庫だったり、どことなくお粗末である。とても国家から支援を受けているようには見えない。


「……」


 ロットンケーキは見た目だけではゾンビとわからない。今でこそ縫い目が目立っているが、それもここ最近の事である。以前までは普通の少女と変わらない見た目であったはずだ。

 残っている映像は不死王が参加したショーくらいだろう。確かに真っ二つになって復活しているが、それでゾンビだと断定できるだろうか。


 ゾンビっぽくはあるが、異世界の存在を相手にそんな曖昧な情報で判断するのは稚拙にすぎる。どんな生態で、どんな能力を持つバケモノがいるかなんて、誰もわからないのだ。それを推測だけで判断して動くだろうか。

 こんな装備を整えられるほどの集団が、そんな事をするだろうか。


とすると、ロットンケーキがゾンビであると確信できた、という事だろうか。


「あ」


 ゾンビである事を知り、異世界と繋がりがあり、パークが資金援助を受けていた証拠まで握っている奴がいる。

 何なら、恐らく今日俺が事務室にいた事も知っているだろうし、覇王が倒れた後のタイミングを狙う事も容易だったろう。

 ジョンらが襲撃した時、何故シラカミが事務室にいなかったのかと言えば、それはそいつと会っていたからだ。あらかじめ対抗できるカードを潰したという事だろう。


「……天気より、ビジネスの話に興味があるんですが。見ているなら私も一枚噛ませてもらえませんか?」


 頭上のカメラを見て言ってみる。


「バレてますよ、大間さん」


 同時に、ジョンの拳が俺の頬に突き刺さった。

 頭が横向きに吹き飛び、椅子から転がり落ちる。あまりの激痛に意識ごと飛んでしまいそうだったが、これで誰が雇い主かはっきりしてしまった。


「あんた、お喋りが過ぎるな。少し撫でてやる必要がありそうだ」


 ぐうん、と腕を一回転させるジョン。じりじりと俺に迫り、襟を掴まれて起こされる。その拳が振りかぶり、咄嗟に俺は顔を守ろうとして、しかし拳は俺の腹に飛び込んできた。


「っうぇ……」


 内臓のひっくり返るような激痛で、息も出来なかった。

 ジョンの様子からして手加減したようだが、頭が真っ白になるほど痛い。

 痛くて痛くて、とにかく苦しい。


「懲りたなら、おとなしく黙ってな」


 咳き込みながら体を折る俺へ、さらに追撃をかけるべく今度は脚を振り上げた。踏みつけられる、と体を丸めた所で声がかかる。


「その辺にしましょう」


 そして攻撃が止まった。


「支配人さん。よくわかりましたね。……何か魔法でも使いました?」

「……単なる推測ですよ。他の外交官かと思いましたけどね。でもこれだけ準備しておいて、シラカミ君だけ放置して襲撃するなんて考えづらいですから。大間さんかな、と」


革靴の音も高く、倉庫に隣接していた別室から大間が現れた。


「支配人さん、意外とキレ者だったんですね。……それでビジネスですか? 話だけならお伺いしましょう」

「……その前に大間さん、あなたの意図を先に聞かせてもらえますか?」


 大間の静止を受けたジョンは俺から離れる。俺はもう一度パイプ椅子に座り直すと、大間に視線を当てた。まだ腹が痛い。痛すぎる。


「異世界について世間に公表する、というのはわかりました。何故そんな事をされるので?」

「あぁ、それは異世界との関係を絶つためです」


 さらり、と大間は答えた。


「別に隠すような話ではないんですが、支配人さんなら共感して頂けると信じて、続けさせてもらいましょう」


 大前はいつもの調子で語る。


「あのですね。あの魔王といて、おかしいとは思いませんでしたか? あの人たち、その気になればこの国を破壊できるんですよ? 物理的にも、間接的にもです。何たって、魔法とやらに対抗する兵器が我々にはありません。同時に、こちらからは戦車砲を撃ち込んだって死なないんですよ。あぁ、試しましたから。はい。レクリエーションの一環だと言ったら喜んでたくらいですよ」


 溜息と共に続ける。


「例えば、精神支配なんて魔法があるわけです。これ一つでも我が国は崩壊します。政府高官のお偉方を操られてもそうですし、犯罪者がそれを言い訳に使い始めたら否定する根拠を提示できません。魔王らに悪意を持って行使された場合、抵抗する手段はありませんし、操られている人間を判別する方法もありません。何らかの対抗策を実行できるまでに、どれだけの被害が出るか見当もつきませんね」


 彼らはそんな事をしない、というのはこの場合意味がない。何故なら大間のそれは、起こるかも知れないという、その可能性が問題であるとする話だからだ。


「その他もろもろ、一つで脅威的である魔法が、様々な種類あるわけです。魔法魔法魔法。……我が国だけの問題じゃないんですよ。これ、世界の危機ですよ?」


 やれやれ、と頭を振っている。


「なのにどの国も、自分たちが利用できると思っているんですから。その技術があれば、より発展できると。豊かになれると思っているわけです。そりゃまぁ、こっちから異世界に侵略する事は出来ませんからね。和解して懐柔して、せめて利益を上げたいというのは理解できます。ですから、先日まで私もその路線に従っていました。植民地よりもう少しマシな状況を作るため、奮闘していたわけですよ」


 しかし、状況は変わる。


「魔王さんら、死んじゃいましたから。一番ヤバい奴がいなくなった以上、後は魔王より凶悪な勇者さえ消えれば、当面の安全は得られると思いませんか? 異世界への渡航ゲートを塞いだ所で、どうせ何度でもゲートは作られるでしょう。なら、そもそも異世界の事を公表して、その危険性を世界に知らしめるべきです。あとは放っておいても異世界排斥の風向きは強くなるでしょう。なにせ相手はバケモノですから」


 そして締めくくる。


「支配人さん。あなたも連中からは大変な迷惑を被ったんじゃありませんか? 協力して下さいよ」

「……」


 俺は、大間の目的次第では突破口を見出せるような気がしていたのだ。それこそ、ビジネスという言葉を使っている以上、どこかに損得関係があると思ったのだ。

 だが、こいつは損得ではない。本気で世界を守るための行いだとしているのだ。

 理論理屈はわかる。だが、もしかして大間は覇王一行と話をした事がないのではないだろうか。彼らの、何を見ていたのだろうか。


「大間さん。一つだけ良いですか?」

「なんでしょう」

「妖精王が言っていたんですが、どうやらあっちでは人種ではなく、生物単位で違う人たちが住んでいるそうですよ。それも、互いに敵とされる種が出会うと問答無用で殺すんだとか」

「野蛮ですね。そんな思想が流入してくる前に食い止めたい所です」

「いやいや、何を仰る」


 思わず俺は笑ってしまった。


「あなたの言っている主張は、それとどこが違うんですか?」


 異なる相手が、たまたま自分たちより力が強かった。それを理由に、一方的に排斥しようなどと到底共感できる話ではなかった。何よりも、相手が求めているのは平和なのだ。


「それに、一番重要な事があります。他の全てを建前にしたって構いません。これが最も大切な事です」


 もう異世界生まれの従業員だっているくらいなのだ。


「当テーマパークは、夢と魔法の遊園地。その支配人の私が、夢も魔法も本当にあったのに、諦められる訳がないでしょう」


 大間の顔から笑みが消えた。



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