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東京テイルズパーク  作者: 蛇子
10/21

竜王、妖精王 両名様


 結論から言って、陸奥は妖精王マイネイと仲良くなっていた。互いの連絡先を交換していた事は記憶にあるが、妖精王が異世界へと戻った後も交流があったらしい。

 やり取りを見せてもらえば、むっちゃんは恐れ多くも、実にフランクなコミュニケーションを妖精王と交わしていた。妖精王からは景色の写真なども送られて来ていたが、映っている花に牙が生えている。

 異世界と携帯電波が繋がっている理由は知らないが、あるいは魔法とやらが関わっているのかも知れない。 


 陸奥に休暇を許可した翌朝、客人は早速陸奥を迎えに来た。


「あらぁ久しぶり」


 などと言って、朝からパークの入り口に現れたのは妖精王である。白いアロハシャツにスキニージーンズだ。ゆるゆると長い金髪が陽光を反射して眩しい。


「そのカッコ、良いね。どうしたの?」

「前は公式だったし、覇王様もいたからね。こっちに来たら、こっちの服にしないと」


 眼球は黒いし肌は紫色だが、確かに服装が半裸でなくなっただけ、随分と印象が変わる。

 しかし、と妖精王の隣に視線を向けてみる。


「ぐわはは! 今日は個人的な訪問だからな。軽装で充分よ!」


 竜王だ。前回見た時とあまり変わらない。宝石で装飾された革鎧を着ている。

 前は金属の鎧だったが、今回は革である辺りがポイントなのだろう。こちらの服を着こなしている妖精王とはえらい違いである。

 もっとも、この御仁の場合は服装でごまかせる見た目ではないが。


「時に支配人。急に呼びつけて悪かったな? 戦局に差し障りはないか?」

「えぇ。部下に任せておきましたので」

「うむ! 前線の配下こそ宝であるな!」


 陸奥が妖精王とどこへ行こうと知った事ではなかったが、昨日の内に竜王が俺を名指しで指名したのだ。せっかくだから一緒に、との事らしいが、何がせっかくなのだろう。

 とは言え、またも政府が絡んでいる。政府と竜王の機嫌を損ねても得はない。パークの事は名月に任せておけば、数日くらい何とでもなるだろう。


「何でも、病に効果があるそうではないか。加えて能力の向上も期待できるとか。これは是が非でも、今行くべきだと思ったのだ!」


 竜王と妖精王がご所望されたのは、旅行だ。それも、温泉旅行である。


「美容にも良いんでしょう? 肌に特殊効果が付与されるんですって」

「ほう? それはこの竜王の竜鱗と比べてどうであろうな?」


 竜王に頼まれたので、都内近郊の温泉宿を既に予約してある。行った事はないが、竜王の過剰な期待に応えられる泉質かは自信がない。

 ちなみに、当然の如く温泉宿は政府が貸し切った。俺と陸奥の分まで宿泊費を出してくれた形だが、役得だと思っておこう。


「そうだ支配人、かの魔竜はどうだ?」


 ふと、竜王が言った。

 俺はジャバ公の事を考えると、何と答えるべきか悩む。

ジャバ公は人体に悪影響があるので、本当に客前には出せない。三馬鹿やゾンビと違って、活躍している所を見せられないのだ。不死王のように、見学したいなどと言われては困る。


「えぇ、そうですね……。元気ですよ」


 俺はとりあえず、曖昧な言い方でお茶を濁す。嘘は言っていない。事実ジャバ公は元気だ。


「で、あれば何より。このしばらくで、魔竜の加護を受けるまでになるとはな。魔竜にも認められているようで、さすがは支配人と言った所か」


 巨大な口で、がははと竜王が笑っている。……加護? 加護ってなんだ。


「あの……。加護を受けているとは、私が、ですか?」

「何を今さら。それほど強力な魔気を纏う者はそうはおるまい。まさしく魔竜の加護ではないか」


 どうやら俺はジャバ公から謎のパワーを受け取っているらしい。もしや、俺も魔法とか使えるのだろうか。


「もっとも、この世界の人間がその力を扱う事は不可能だろうがな。何せ元となる魔力がないのだから、何をする事もできまい」


 それはつまり、俺は単にジャバ公に好かれているだけ、という事だろうか。

 不思議パワーみたいな特典がないなら、そんな体に悪そうな加護は有難迷惑も甚だしい。


 ジャバ公は俺以外の人体に有害なのだ。そんな加護など……。

 ……まさか、俺だけ平気な理由は、まさにその加護とやらが原因なのだろうか。だとしたら最悪である。

 何となくジャバ公に監視されているような気がして、寒気がした。


「では、温泉とやらに行こうではないか!」


 竜王が豪快に言う。俺たちは温泉宿に向け、政府の用意した車に乗り込んだ。




 そこは実に風光明媚な旅館だった。現代建築と伝統技術を見事に取り合わせた、絵に描いたような温泉宿である。

 巨大さという面では、リゾートホテルの方が見た目の豪華さはある。しかし横に広い木造の旅館は、ワビサビという面で圧倒的ですらある。


 果たして、この良さが異世界人や小娘に理解できるのだろうか。


「うはー! すっごい所を予約してますね!」


 クソださい私服のむっちゃんが大声を出している。へたれた犬が描いてあるパーカーで、とても旅行に着ていく服ではない。こんな服どこで売っているのだろう。


「あらぁ? 良い所じゃなあい」


 妖精王は機嫌良さそうだが、竜王は腕を組んで首を傾げている。


「……ここは温泉を保管しているのであろう? 重要施設がこんな脆い建物で良いのか? 石と金属で要塞化するべきと思うが」


 この竜王なら一撃だ! と続けると思ったが、そこまでは言わなかった。この人は本気で戦いの事しか頭になさそうである。魔王的にはそれで正しいのかも知れないが、ちょっと会話について行けない。


 何はともあれ、俺たち一行は受付にてチェックイン。女将さんはさすがと言うか、竜王の姿を見ても表情を変えなかった。貸し切るに当たって、事前に説明があったのだろう。俺や陸奥と同じように、黒い耳栓をしている。

 と、女将さんが笑顔で俺たちに告げた。


 お連れの方はもう到着されていますよ。


「連れ?」


 全く心当たりがなかった。それとも覇王か骸骨あたりが来ているのだろうか。

 女将さんの手が示した方向に視線を送ると、そこには見知った顔が玄関ホールの高級そうなソファに座っていた。卓を囲んで、日中から堂々と酒を飲んでいる。


「お、お前ら……!」


 かける言葉が続かなかったが、そいつらは俺たちに気づくとのんびり立ち上がった。


「ちっす。先に飲み始めてるんで、支配人もどーすか?」

「マイネイさん! お久しぶりです! あ、アレネンタ様も、どもっす」

「マイネイさんマイネイさん、これマジおすすめ。一緒に飲みましょうよ」


 三馬鹿だった。


 紫色の若い連中が、ウェルカムドリンクをボトル単位で飲んでいる様子は、女将さんに申し訳なくてならない。


「一郎、二郎、三郎……。お前ら、どうしてここにいるんだ?」


 一応聞いてみると、三人は顔を見合わせた。そしてさも当然のように言う。


「そりゃだって、俺らの王様が来るんですよ? お世話の一つもしねーと。俺らにもメンツってもんがありますからね」


 お前らにそんなものあったのか。


「お邪魔はしねぇんで、安心して下さい。俺らは俺らで、どっかで適当にやってますから」


 お世話をするんじゃないのか。


「良いんじゃない? 何だか賑やかで楽しいわぁ」

「忠義ご苦労! 大いに励むが良い!」


 肝心の王が二人とも了承したので、三馬鹿の参加が決定した。


「えっと、えっと、あたしもオッケーです!」

「サンキューむっちゃん!」


 陸奥に是非の決定権はないし、誰も聞いていなかったが、三馬鹿は片手を上げて反応した。


「ではひとまず、部屋に荷物を置きましょうか……」


 一泊二日の温泉旅行は、最初から気疲れでいっぱいだった。



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