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滅影の彷徨人  作者: シフォンねずみ
6/8

五章 集い

久しぶりの投稿です。

ついに『犯鬼』狩りスタートです。

※この章では某界隈と事件をモデルにしていますが実際の出来事とは一切関係ありません。

夜。街でも有名な繁華街のある場所に私は居た。

周りには私と近い年齢の子達がたくさん居て、座り込んで「ギャハハハ」と笑いながらお喋りなどをしている。

中には厳つい風貌の大人の男性や肌が所々出ている服を着ている大人の女性もいる。

この場所にいる人達全員、派手な服装と化粧をしている。こんな場所に来た事は勿論無い。

(あれ?私、何でこんな怖い所にいるんだっけ?そして私はどうして『こんな格好』をしてるんだっけ?)

遡る事、数時間前…。

放課後になり、真希ちゃんと奈々ちゃんと別れ、1人で帰ろうとしていた。

(あれ?結麻くんが居ない。視線は感じるんだけど。)

そう思った瞬間。

ガサッ!シュタッ!

校舎側の木の上から結麻くんが降りてきた。

「うわぁっ!」

いきなり現れたのでつい声に出して驚いてしまった。

「つっこ!帰ろ!」

結麻くんは立ち上がってすぐ私の方に笑顔を向ける。

「ずっと木の上に隠れてたの?」

「うん。つっこの友達が居なくなるまでね。」

結麻くん。やっと空気が読める様になったんだ。そう感心していたが。

「本当はすぐにつっこの所に行きたかったんだけど。小さい方はなんかうるさいし、メガネの方にはなんか警戒されてるからさ。出るの嫌だったんだよね。」

あぁ、なんだ。真希ちゃんと奈々ちゃんに会うのが嫌だっただけだったんだ。

「そんなに2人のこと嫌?2人とも話せば良い子だよ?そうだ!今度、4人で帰ろうよ!そうすればみんな仲良く…。」

「仲良くなれるよ!」と言いかけた瞬間、

ドサッ!

「きゃあっ!」

私の両腕を押さえて私を壁に押さえつける。

腕が強く押さえつけられて振り解けない上に痛い。

「…っ!痛い!やめて…。」

こうしていると結麻くんは本当に男の子なんだなと実感する。

結麻くんは黄色い瞳を丸くして真顔で顔を私に近づけて言う。

「俺はただつっこと一緒に2人きりで居たいだけ。他の奴らなんて本当は必要無いって思ってる。でもずっと言わなかった。言ったらつっこに嫌われちゃうって思ってたから。でも、つっこと2人きりで居られなくなるって思ったら耐えられなくて言った。」

結麻くんは私の左頬を撫でながら耳元まで顔を近づけて囁く。

「それに俺は必要無い、つっことの2人きりを邪魔していると思った人間はいつでも殺せるんだよ?そんなのつっこは悲しくて嫌でしょ?だからもう俺と誰かを仲良くさせようとするなんて事しちゃダメだよ?俺、そんなのに耐えられないから。」

何でか分からないけど、今の発言で私の事を脅しているのだけは分かった。私の発言に真希ちゃんと奈々ちゃんの命がかかっている状態だ。2人だけじゃ無い他の私達の周りの人達全員だ。

「わ、分かった。嫌だったんだね。ごめんね。今度から気をつけるから。」

この状況と2人の命が奪われる恐れを避ける為、とりあえず結麻くんの言う事を聞く事にした。

「よし、良い子だ。」

そう言って私の頭を撫でる。

元からヤバい子なのは分かってたけど今日の結麻くんは一段とヤバい。そんな事まで考えていたとは。本当はここであのドス黒い感情に呑まれて月光蝶の力を使って結麻くんを殺して消してしまうのが通常な気がするけど何故かあのドス黒い感情が湧いて来ない。ただただ末恐ろしく感じていただけだった。

結麻くんは私の腕からやっと手を離した。その瞬間に私は結麻くんから離れ、少し睨んだ。

「後、例えどんな方法を使っても俺を殺して消す事は出来ないよ。月光蝶の力でもね。つっこには絶対に俺を殺す事なんて出来ないから。」

まるで私がやろうとしているのを見透かしているかのように目を細めて口に人差し指を出して不敵な表情でクスリと笑っている。どこからそんな自信が出てくるのだろうか。だがしかし実際私は結麻くんを睨め付けながらも内心は恐怖心で一杯で何も出来ずにいた。勿論、月光蝶の力も使えない。

「さぁ、この話はもうおしまい!ほら!一緒に帰ろう!」

さっきの不敵な表情が無かったかの様に満面の笑みで私に手を差し伸べる。

「う、うん…。」

私は手を取る事をせずに結麻くんから距離をとって歩く。私が今できる精一杯の抵抗だった。

私の気持ちを察知したのか私が付いてくれば満足なのかは分からないけど結麻くんは納得した様子で前を歩く。

家に着くまで会話を交わす事は無かった。

ただ結麻くんが前を歩き、数メートル離れて私が歩くと言う感じだった。

家まで目前の所で1匹の黒猫と女子高生が現れた。

閻魔大王と類菜さんだ。

「やぁ、2人ともおかえり!」

「月子さん、結麻さん、おかえりなさいませ。」

閻魔大王は笑顔で片方の前足を上げていて、類菜さんは私達に向かって深々とお辞儀をした。

「た、ただいま…です。」

「…。」

私は慣れない感じで挨拶を返したが、結麻くんは何故か黙っている。『2人きり』を邪魔されて閻魔大王と類菜さんに苛ついてもいるのだろうか。妙な空気が流れる。

「あ、あの。今日は何か?」

妙な空気を振り払う様に私は閻魔大王に用件を尋ねる。

「今日は2人に頼みたい事があって来たんだ。詳しい事は家の中ででも話そう。」

そう言って閻魔大王と類菜さんは先に家に入っていく。

「美月ちゃーん。お邪魔するよー!『例のモノ』もちゃんと持って来たよー!」

「失礼します。」

「わ、私達も家に入ろうか。」

私はまた流れている微妙な空気を振り払う様に結麻くんに話しかける。

「うん。そうだね。」

結麻くんは笑顔で答える。さっきの言動があるから私はヒヤヒヤしている。今は結麻くんの機嫌を損ねない様に閻魔大王と類菜さんと美月さんの命を守らなければ。

そう思いながら、私も結麻くんと一緒に家の中に入る。

「おかえりー!月ちゃん、結麻くん。」

「ただいまです…。」

「…。」

私が少し変になってる事以外はいつも通りだ。多分。

「?月ちゃんどないした?何だか顔色が悪い様やけど?」

美月さんの目は誤魔化せなかったが、

「い、いや。何でも無いです。大丈夫です。」

私は愛想笑いで返すのに必死だった。

「そ、そうか?なぁ閻魔。今回の作戦、また別の日にした方がええやないかい?月ちゃん、なんか様子が変やで?」

美月さんと閻魔大王は何やらコソコソと話している。

「大丈夫!寧ろ今の様子の方が今回の作戦にピッタリじゃにゃいか!」

「確かに格好的な意味ではそうかも知れへんけど、調子の悪そうな状態で月ちゃんをあんな所に行かせるのは正直心配や。」

「大丈夫にゃ!結麻も付いてるし、類菜ちゃん以外の獄卒も監視につけさせるから!」

「それなら…ええかな…?何かあったらちゃんと月ちゃんを守れるって約束、出来るんやろな?」

「そこは地獄を代表して任せて欲しいにゃ。何ならオレっちも行って何かあった時は本気出すにゃ!」

「…仕方ない。地獄の閻魔様が直接出るんならええやろ。だけど絶対に月ちゃんの事ちゃんと守るんやで?」

「了解っ!じゃあ、今夜作戦決行って事で!」

大体は聞こえてたけど2人のコソコソ話は終わった様だ。閻魔大王と美月さんが私と結麻くんの方を笑顔で向く。

「こほんっ!」

閻魔大王が咳払いをする。

「えー。今から月子ちゃんと結麻の2人には『犯鬼』を殺してもらう為、ある場所に向かってもらう!」

「ある場所…ですか…?」

「へぇー遂に本当の『犯鬼』殺しの頼みか。」

「そう!っとその前に月子ちゃんには少しおめかししてもらうけどね!」

「おめかし…ですか…?」

『おめかし』と聞いて少し首を傾げる。

「つっこ、おしゃれするの?」

「そう!今の格好じゃどうしても行かせられない場所だからね。ってことで類菜ちゃん後は頼んだよ!」

閻魔大王は前足で指を鳴らす。すると類菜さんが私に近づいてくる。

「かしこまりました。月子さん、こちらへ。大丈夫です。前回とは違って怖い事はしませんので。」

「は…はぁ…。」

類菜さんは私を洗面所へと案内する。

「言っておきますが、結麻さん。ついて来たらまた私の舌抜きで両足潰しますからね?」

類菜さんは結麻くんの方を冷たい目で睨む。

「えー。」

「当たり前や!女の子がおめかししてる所は覗くもんやないで?」

「そうそう!見るのは出来た時の楽しみにしておくものにゃ!」

美月さんは結麻くんを叱り、閻魔大王は何だかニヤついている。

「まーそれなら仕方ないっか。」

「せやで?女の子のおめかしを待つのも男の嗜みっちゅーもんや!」

やけに素直に閻魔大王と美月さんの言う事を聞いている結麻くん。ちゃんとした人がちゃんと言えば言う事聞くんだなと思った。

私は類菜さんと洗面所へ向かった。

洗面所で見たモノを見て私は驚きと戸惑いを覚えた。

「えっ?!あのー…類菜…さん…?」

「はい、何でしょうか?」

「『これ』…本当に私が着るんですか…?」

「はい。戸惑ってしまうのは無理もないのかも知れませんし、私も心が少々痛むのですが…。大王の命令と『犯鬼』を減らす為です。どうかご容赦を。」

私の目の前には肩に穴が空いていて黒いレース2本とフリフリが真ん中に付いている袖がフリフリしているピンクのブラウスにリボン2つと真ん中にボタンの様な物が付いているこれもまた裾にフリフリが付いている黒いミニスカート、黒いニーソックス、そして大きなリボンの付いたやけにヒールと靴底の高い黒くてテカテカしたブーツがあった。他にも大きいリボンの髪飾り二つと化粧品も。

これは、前に真希ちゃんの家に遊びに行った時に雑誌で見たのととても似ていた。こんな格好、一生しないだろうとたかを括ってた。しかしそれによく似たのが今、目の前にある。

「確か…これって…?」

「はい。今、此岸の若い女の子に人気のファッションらしいです。確か名前がじ…何とかだった様な…。」

「『地雷系』…でしょうか?」

「そう!それです!すみません。上司である大王が用意した物の名前も覚えられなくて。」

「いえ。大丈夫です。私も類菜さんの立場だったら出来れば覚えたくないかなーって思いますもん…。」

この会話の間、私と類菜さんは目が死んでいた。それよりも若い女の子向けの雑誌に紹介されていた様な服を閻魔大王が用意していたのが1番の驚きと言うか引くポイントだった。

私は仕方なくこの服に着替え、類菜さんも仕方がない様に髪の毛のセットや化粧の手伝いをしてくれた。

身支度も終わったので私と類菜さんは洗面所から出て閻魔大王達がいるソファのある部屋に向かった。

「…あの…これ、変じゃないでしょうか…?」

私は体をモジモジさせながらみんなの前に立つ。

「おおー!いいじゃにゃいか!とっても似合ってるにゃ!オレっちの目に狂いは無かったにゃ!」

「月ちゃんごっついかわええで!普段とは違うけどこれはこれで似合ってるで!記念に写真撮らせてや!」

美月さんはスマホを取り出し、こちらに向けて写真を撮っている。

「いつものつっこも200倍可愛いけど、今のつっこも200倍可愛いよ。どんな格好していてもつっこは可愛いね!」

まさかの賞賛の嵐に戸惑う。美月さん、写真は恥ずかしいので正直やめて欲しいです。そして結麻くんは相変わらず可愛いしか言ってないし。200という数字は一体何なの?

「あのー。この格好と向かってもらうって言っていた場所。何か関係あるんですか?」

私は閻魔大王に聞いてみた。

「うん。これから月子ちゃん達には『ケイ前』って場所に行ってもらうにゃ。」

「えっ!『ケイ前』ってあの『ケイ前』ですか?!」

まさかの場所に私は驚きを隠せなかった。

「つっこ、知ってるの?」

「うん。この街の繁華街のすぐ近くにある京東ビルって前の付近のこと。最近、沢山の女の子が集まる所で人気の場所で有名なの。」

「へぇー。人が集まる人気の場所ねぇ。『犯鬼』がいてもおかしくないや。」

「そう!月子ちゃん詳しいね。」

「前に友達から教えてもらった事があって。でもあの場所、あまり良い話聞かないんですけど…。」

「その通り!なんせあそこは不良の少年少女とその子達を食い物にしようとしている汚い大人がわんさか集まる所だからね。ああいう場所は『犯鬼』の恰好の餌場でもあり、恰好の隠れ家ってわけ。」

得意げに閻魔大王は話す。

「そうなん…ですね…。」

私は若干引きながら聞いていた。

「ホンマはあんな所に月ちゃんを行かせるのは美月さん心苦しいねん。怖い場所やし。嫌なら行かんでもええんやで?」

美月さんが心配そうな顔をしている。

「いえ。そこに『犯鬼』がいるのなら行きます。記憶も取り戻したいですし。」

そうは言ってみたものの正直不安だった。行ったこともないしかも良くない話がある場所に行くのだから。それに思い出す記憶もまた嫌なものかもしれないというのも不安だ。

私が少し不安げにしていると結麻くんが私の前に立って両手を私の肩に触れる。

「大丈夫!つっこは俺が守るから!何か不安になったらいつでも俺に頼ってよ!俺何でもするから。」

そう満面の笑みで言ってくれた。

「う、うん。ありがとう。」

私は顔を上手く合わせられずにお礼を言う。

「あの、結麻くんは変装とかしなくていいんですか?」

「結麻ならそのまんまでも充分不良っぽいし、そもそも男用のなんてオレっち持ってないし。」

「それはなんか分かるわ。実際不良みたいなもんやし。」

「普段から不良っぽいのも悪くないという事ですね。」

「まっ、俺はつっこと居られて守れれば別に何でも良いけど。」

「それにしても月ちゃんの服とかよく用意出来たなぁ。男用が無いのが気になるけど。地獄でもこういうの売っとるんか?」

美月さんが閻魔大王に尋ねる。

「まぁね。今はネットで何でも買える時代にゃからね。彼岸と此岸を繋ぐ裏のネットワークとか宅配の業者とかもいるんだよ。」

「へぇー。そうなんか。」

「それに今回の服は俺っちの大事なコレクションの一つにゃからね!」

「へ?コレクション…って…閻魔、こういう趣味やんか?」

「あっ!しまっ…!」

「えぇ、そうですよ。此岸の女子中高生が好むファッションやセーラー服を集めるのが趣味ですから。」

「こら類菜ちゃん!変な誤解を生む様な言い方をしない!これはあくまで調査の為であって!」

「何が調査の為ですか、あれ全部大王が鑑賞したり着たりする為の物じゃないですか。コレクションって言ってる時点でアウトですよ。」

(うわー。)

この時点で私達はドン引きせざるを得なかった。

「類菜ちゃーん!それは誤解だってばー!」

「いや、誤解じゃなくて事実じゃないですか。実際に着ている時の写真も撮ってありますから。」

「ぎゃあー。地獄の大王であり上司でもあるオレっちを脅すなんてー。この鬼っ!悪魔っ!」

「はい。一応、鬼ではありますけど。」

「そういうことじゃなくて!っは!3人ともこれは違うからね?類菜ちゃんが言ってること全部嘘だから!」

「へぇー、そうなん。まぁ、そういう事にしておくわ…。」

「ちょっと!全然オレっちの話信じてないよね?」

「へぇー、閻魔大王って可愛い服とか好きなんですね。意外です…。」

「月子ちゃん?だからこれは調査の為なんだって!だからそんな冷めた様な目で見ないでー!」

「ゴタゴタと言い訳ばっか並べてうるせーんだよ。さっさと自分が変態である事を認めろよこの変態大魔王が。」

「月子ちゃんのストーカーしている君にだけは変態とは言われたくないね!それにオレっちは変態じゃにゃーい!」

閻魔大王は一生懸命に無実を訴えているが閻魔大王以外の全員が冷めた様な眼差しで閻魔大王を見つめていた。

「つっこ、こんな変態猫は置いといて行こう?」

「う、うん。そうだね。行ってきます…。」

「気をつけてなー。結麻くん。ちゃんと月ちゃんを守るんやで!」

「いってらっしゃいませ。後で私も他の同僚とこの変態猫と一緒に向かいますので。」

閻魔大王をほっといて私と結麻くんは美月さんと類菜さんに見送られながら『ケイ前』へと向かう。

…そして今に至る。

うぅ、まさか閻魔大王が趣味で集めている物。しかもこんな奇抜な物を着せられるとは…。

しかも髪型も上に二つ結びなんてした事ないし化粧も勿論した事ないから物凄く違和感がある。

「うわー。今のつっこと似た様な格好してるのばっかり居るね。まぁ、俺は誰がつっこかなんてすぐに見抜くけどね。でも色んな匂いが混ざってて鼻が利きづらいや。」

確かに地雷系のファッションを身に纏っている女の子たちが沢山いる。そこに大人の人も混ざっててすごい光景だ。それにしても結麻くんは鼻がよく利くらしく、それで相手が『犯鬼』かどうか判断しているらしい。結麻くんの鼻が利きづらいとなると『犯鬼』探しは少し難しくなりそうだ。

「ねぇ、結麻くん。本当にこの人混みの中に『犯鬼』がいると思う?」

私はふと尋ねてみた。

「鼻は上手く利かないから確実とは言えないけど、雰囲気的には居そうな気がする。」

「そうなんだ。私にはサッパリ分からないや。ハハ..。」

愛想笑いをしたが、何だかぎこちない気がする。

この慣れない喧騒と雰囲気のせいか、この格好のせいかそれとも…。あまり放課後の時のことは考えたくなかった。

「…どうしよっか…。」

「あまり気が進まないけどあの人混みに入って何か情報がないか聞き込むしか無さそうだね。もしかしたら中に『犯鬼』が紛れ込んでいてつっこに近づく可能性もあるし。」

「うん。そうだね。行こう。」

結麻くんがまともな案を出してきたことに少し驚きながら人混みの中に入ろうとするが恐怖で少し体が動かなかった。

「?どうしたのつっこ?」

結麻くんは私の方を振り向いた。

「うん、ちょっと怖くて…。」

私は素直な気持ちを伝えた。

「なら手繋ぐ?そうすればはぐれないし怖くも無くなると思う!」

男の子と手を繋ぐなんてこと初めてだったので多少戸惑ったがはぐれて万が一私が動けなくなるのは困ると思ったので。

「うん、分かった。いいよ。」

そう言って結麻くんに手を差し出す。

「えへ。よかった。じゃあ手離さないでね?まぁ、俺が離す気無いんだけど。」

そう結麻くんに言われた。そして結麻くんは自分の指を私の指の間に通して絡ませるかの様にギュッと掴んできた。

「ほら、つっこも握って。」

「こ、こう?」

私は言われるがまま握ってみる。

「よし!それじゃあ行こうか。」

「う、うん。」

(…あれ?私が思ってた手を繋ぐとなんか違う気がする。はぐれない様にする為の握り方なのかな?)

そう思いながら今度こそ人混みの中に入る。

人混みの中では明らかに私達と近い年齢の子達が幾つか円を作ってはしゃいで踊ったりその姿をスマホで撮影してたりしていた。

中には2、3人くらいの女の子達が自撮りで写真を撮っているという光景もあった。

見た感じ、何だか明るい印象を受ける。本当に友達と遊んでいる様な感じだ。とても悪い話が出ている場所とは思えない。

しばらく歩いていると突然私達の背後に衝撃が走った。

「きゃっ!」

「…!」

何事かと振り返るとまた私達と歳が近いであろう女の子が缶ジュースの様なモノを持ちながら私達の肩に手をかけていた。

「いえぇーい!楽しんでる?ねぇ、お2人さん私達と呑まないー?」

何だか様子がおかしめなテンションの高さで嗅いだ事のない変な匂いもする。

結麻くんの横顔は邪魔されたかと言わんばかりの表情をしていて肝が冷ついた。どうしよう、この状況。

「あ、あの。えーっと…。」

私が答えに戸惑っていると

「うん。別にいいけど?」

結麻くんが私の代わりにOKの返事をした。

「ノリいいじゃーん!じゃあ、行こっ!こっちこっち!」

「ゆ、結麻くん?!」

意外な返事に驚いてつい名前を呼んでしまう。

「大丈夫。話を聞くだけだから、つっこはいつも通り彼女としていれば良いから。」

コソッと私にそう伝えてきた。

いや、いつ私が彼女になりましたか?

それより、結麻くんがこういった誘いにOKを出すのが意外過ぎた。いつもなら嫌そうに暴言吐きながらあしらって私と2人きりの状態を保とうとするのに。本気で『犯鬼』を探しているのだろう。

そんな風に考えながらも女の子の友達らしき人達の居る場所に着く。

「みんなー!あっちの方でカップルが仲良さそうに歩いてたから連れてきちゃったー!」

女の子は相変わらずのテンションだった。

女の子の友達らしき子達も私や女の子と同じ様な格好をしていた。そしてそれぞれ話しかけてくる。

「もう、急に居なくなるから何処行ってたのかと思ったー。」

「ねぇ!早く続きしよー!」

「へぇー、彼氏の方イケメンじゃん。彼女の方も可愛い!一緒に自撮りしよー!」

「恋人繋ぎしてるとかマジで仲良さそう!良いなー私も彼氏欲しいー!」

「へ?恋人…繋ぎ…?ですか…?」

「だって今もしてんじゃん。マジいいなー。」

この手の繋ぎ方、はぐれない様にする為の繋ぎ方と思っていた数分前の自分を殴りたい。

結麻くん、こういう所が策士なんだよなぁ。もう勘違い通り越しているんじゃないんかな。

「あのね!この子がみさきでこっちの子がゆっぴ、でこっちの子がもえちんでこの子がみゆちん。で、私がゆゆてゃ!よろしくね!あなた達は名前なんていうの?」

「えーっと月…」

自分の名前を言おうとすると結麻くんがコッソリと耳打ちをしてきた。

「つっきーって名乗って。ここで本名言うの多分、危ない。」

私は頷いた後

「つ、つっきーです…。」

「…ゆま…。」

「へー。つっきーとゆまね!よろしく!それじゃ、つっきーとゆま、私達とのも!」

ゆゆてゃと名乗る女の子に誘われて輪の中に入ることにした。

「ねぇ、結麻くん。結麻くん名前そのまんまだったけど大丈夫なの?」

心配になり、私は結麻くんにコッソリと耳打ちをする。

「俺なら大丈夫。何処にも所属してないし。つっこは学校行ってるでしょ?知ってる人とか居たらまずいんじゃない?」

そう耳打ちで返してきた。

なるほど、そういうことか。確かにこんな所にいるのが学校にバレてしまうと色々と面倒な事になる。本名を名乗るのを避けるのは無難というわけだ。結麻くんなりに考えてくれているんだなと感心した。

それにしても紹介して貰ったのは良いものの、みんな同じ様な服装に同じ様な化粧をしているから誰が誰かまだ覚え切れていないのが現状だった。

「つっきー!ゆまー!何イチャイチャしてんのー?早くこっちきてよー!」

私達をここに連れ込んできた女の子、ゆゆてゃが私達を呼ぶ。

「あ、今行きます!」

私達は輪の中に入ると早速缶を渡された。

「多めに貰っといて良かったー!はいコレ!つっきーとゆまの分!」

渡された缶は見たことの無いデザインとロゴだった。

(何の飲み物なんだろう…コレ?)

そう思いながら缶を見つめていると結麻くんがまた耳打ちをしてきた。

「つっこ。コレお酒だから飲んじゃダメだよ。飲むフリをするだけでいいからね。」

「お、お酒?!」

飲み物のあまりの正体につい声が出てしまった。

「え?そうだけど。ここではみんな呑んでるし。っね!」

「そうそう!」

「コレが無くちゃ盛り上がらないっしょ?」

「つっきーもしかして呑むの初めて?」

良くみると『アルコール度数9%』と書いてある。

お酒なんて初めて見た。美月さんはお酒を飲まないから何も知らなかった。

「それじゃ!この出会いを祝して、ケイ前にカンパーイ。」

「「「「かんぱ〜い!!!」」」」

ゆゆてゃちゃんと友達らしき人達は躊躇いなく缶の中のお酒をグビグビと飲んでいる。

私は飲むフリをしたが中のお酒が少し口に入ってしまう。甘いジュースの味と共に感じたことのない味覚が少しした。が、私の思っていたお酒の味と予想以上に違って飲みやすかった。

「…美味しい。」

素直な感想が口から溢れる。

「でしょー!コレ飲みやすいのにすぐキメられてサイコーなの!」

ゆゆてゃが嬉しそうに話す。  

「つっきー!飲んじゃったの?!大丈夫?」

結麻くんが慌てて聞いてくる。

「ごめん。飲むフリしてたんだけど口の中に入っちゃったみたいで…。今の所変な感じとかしてないけど…。」

私は謝りながら慌てて言い訳をする。

「仕方ないなー。後は俺が飲む。」

「えっ?ちょっと?!」

結麻くんは私から缶を取り上げて平然と飲んでしまった。

「わー。ゆま、いい呑みっぷりぃ!」

「彼女の代わりに呑むとか優しい彼氏ー!カッコいいー!」

「間接キス!アレ間接キスだよね?」

「ヒューヒュー!」

「か…!間接…キス!?」

『間接キス』という言葉で私の顔が赤くなる。

恐る恐る結麻くんの方を向くと嬉しそうな顔をしてニヤリと笑ってこっちを見ている。

お酒に酔ってあんな表情になっているのか間接キスの成功を喜んでいるのかどっちか分からなかった。

「つっきー達って何でここに来たの?やっぱトッキーとか見てきた感じ?」

「えっと…。」

「まぁそんな感じ。面白そうだったのと探してる人がいて。」

私が答えに詰まっていると結麻くんが上手く答えてくれた。

因みにトッキーとは有名なSNSで呟きや写真、動画を誰でも投稿することができるサイトだ。

「だよねー。大体トッキーからって子達が殆どだし。」

「そうそう。ここ、自撮りの名所だし!」

「それにこうしてリアルでトッキーの友達と出会えて楽しいし、親とかに内緒でお酒飲めるしもうサイコー!」

彼女達は楽しそうに話してくれた。

「因みにお酒ってどうやって手に入れてるの?買うのって出来そうに無いけど…。」

私は疑問に思っていたことを彼女達に聞いてみた。

「あぁ、この辺りを通るおじさんとかがいつも奢ってくれるんだ。」

「そうそう。みんなに配ってくれるんだ。」

「本当にありがたいよねー!」

「たまにお金くれたりするしマジありがたい!」

「えっ!?それって大丈夫なの?」

未成年の子達にお酒やお金をあげる大人がいるのに驚きが隠せなかった。

「大丈夫、大丈夫。みんな貰ってるし。つっきーって心配性なんだねー。まー、初めてみたいだしね。」

お酒やお金をあげている大人達は一体何を考えているのだろう。嫌な考えが頭を過って少し怖くなる。

「それで、探してる人って誰?ここら辺有名な人いっぱいいるからさ。」

ゆゆてゃちゃんは結麻くんに尋ねる。

「しばらくすればあっちから来るんじゃないかな?」

結麻くんは意味深な話し方で答える。

「あっちから来るって?トッキーで知り合った人とか?」

ゆゆてゃちゃんが不思議そうに聞く。

「まぁ、見てれば分かるよ。」

結麻くんは不敵な笑みを浮かべる。

5人とも「?」と言った感じの表情で見つめ合っていた。

私には分かる。恐らく結麻くんの探している人というのは『犯鬼』のことだろう。そしてあっちから来るというのは私の『霊力』を狙って近づいてくるということだ。だけど本当に来るのだろうか?

そう思っていた時だった。

「来たか。」

結麻くんがコッソリと呟く。

「あれ?ゆゆてゃ?今日はここにいたの?」

突然、ゆゆてゃちゃんの名前を呼ぶ男の人の声が聞こえる。

「あっ!レオンさん!」

ゆゆてゃちゃんが嬉しそうに声を上げる。

男の人の方を向くと身長が高く、長い金髪頭の成人男性が立っていた。

「レオンさん、今日、来てたんだ!ゆゆてゃ会えて嬉しー!」

ゆゆてゃちゃんはレオンさんという人に近づいて思い切り抱きついていた。ゆゆてゃちゃん、まるでいつもの結麻くんみたいだ。

「ゆゆてゃ本当にレオンさん好きだよねー。」

「トッキーでもすごい呟いてたもんねー。」

「それにしてもレオンさんカッコいいー!」

ゆゆてゃちゃんの友達らしき人達もはしゃいでいる様子だ。

「ねぇ、ゆゆてゃ。その人は?」

私は男の人についてゆゆてゃちゃんに話しかけた。

「えっ!つっきー知らないの?レオンさんはこの辺でもすごい有名な人なんだよ?」

「そうそう。私達みたいな子達にご飯くれたり話しかけてくれたり色々としてくれるんだよ。」

ゆゆてゃちゃんの代わりに友達らしき人達が答えてくれた。

「そ、そうなんですか?」

私が尋ねるとレオンさんは答えてくれた。

「うん。僕は団体でここにいる子達の居場所提供の活動をしているんだよ。君は見ない顔だね。初めまして、僕は猫田雅夜。ここでは何故かレオンさんって呼ばれているんだ。」

「そうなんですね。初めまして、私はつ、つっきーっていいます…。ゆゆてゃちゃんに誘われて一緒に居たんです。」

「はは。そうなんだね。ゆゆてゃ、お酒臭いよ。今日も悪い人からお酒貰って飲んだんだね。」

「のんでないもーん。ゆゆてゃはいつものゆゆてゃだもん!」

相当酔っ払った様子でゆゆてゃちゃんはレオンさんにしがみつく。

「全く、ゆゆてゃはしょうがない子だなー。よしよし。」

レオンさんはまるで私の頭を撫でている時の結麻くんの様に優しくゆゆてゃちゃんの頭を撫でている。

「あ!レオンさんだ!」

「マジ?!あ!本当だおーいレオンさーん。」

「ねぇ、レオンさんにくっついてるのあのゆゆてゃじゃない?すごい本物じゃん!」

すると周りから沢山の子達が集まってきた。どうやらレオンさんだけではなく、ゆゆてゃも有名人の様だ。

「やぁ、みんな今日も相変わらずだね!これから炊き出しするからみんなちゃんと並ぶんだよ?」

「やったー!」

「ラッキー!」

「俺、ちょうど腹ペコだったんだよな。」

「今日も飯代タダとかマジ感謝!」

周囲の子達は炊き出しと聞いてとても喜んでいた。

「あの炊き出しって?」

私はレオンさんに聞く。

「あぁ、ちょうど仲間があっちの方で用意してるからつっきーも良かったらどうぞ。」

「あ、ありがとうございます!」

レオンさんが指差す先で若い大人達が机や鍋を用意している最中だった。

炊き出しの情報が流れていったのか周りにはどんどんと若い子達が集まってきてすごい人集りになっていた。

「つっこ!」

そう結麻くんに呼ばれた途端、私は手を引っ張られながら人集りから少し出ることが出来た。

「ハァハァ、いきなり人が集まり出したからビックリしちゃった。ありがとう結麻くん。」

そう言って見上げると結麻くんは何やら鋭い真剣な顔をしていた。

「?結麻…くん?ど、どうしたの?」

その表情に私は狼狽える。

結麻くんは私の両肩に手を置いた途端下を向いて「はぁー…。」と大きなため息を吐く。そして顔を上げて言う。

「良かった。つっこったら急に俺から離れて『犯鬼』に近づいて話しかけていくんだもん。食べられないか凄い心配したよ。」

「あー、そうだったんだ。ごめんね。気が付かなかった。」

「いや、警戒し過ぎて動かなかった俺も悪かった。」

珍しく謝ってくる。

「それにしても、まさかレオンさんが?!」

「あぁ、いつもみたいに鼻が利かないから探しづらかったけど血生臭い気配とつっこに向かって近づいて来たからそれで分かった。」

「そんなあんな人気なのに…。」

「頭が回る『犯鬼』なんて大体あんなもんだよ。人の中に紛れる様にして人を狙う。そして大量の『霊力』を喰らう為にはそれだけ沢山の人が必要になる。だからああして注目を集めて常に近くに人が寄り付く様に仕向けるんだよ。そして狙った人には気に入られる様、努力もする。その努力を別の所に向けて欲しいもんだけどね。」

結麻くんが『犯鬼』について説明してくれた。その説明を聞いた途端、1つの不安が過ぎる。

「あっ!ゆゆてゃちゃん!ゆゆてゃちゃんが危ない。助けなきゃ!」

私はゆゆてゃちゃんを助けに行く為にまた人混みに戻ろうとしたが、結麻くんが私の腕を思い切り掴んだので動けなくなった。

「結麻くん。手を離して!ゆゆてゃちゃんが死んじゃう!」

「つっこ落ち着いて!今の状態で『霊力』を喰ったり、罪を犯そうとはしないはず。だから今はつっこだけでも離れてて!」

そう言った後、私を引き寄せて私の耳元で囁いた。

「それに夕方に言ったよね俺はつっこと2人きりで居られればいい。それを邪魔する奴と必要ない奴は平気で殺せるってね。」

あの時の結麻くんの表情を思い出し、戦慄が走った。

どっちにしろ今のこの状況でゆゆてゃちゃんを助けに行くことが出来ない。あの人混みからゆゆてゃちゃんを『犯鬼』であるレオンさんから引き離して人混みから出せたとしても今度は結麻くんがゆゆてゃちゃんを殺すかも知れないからだ。

「じ、じゃあ。どうすれば…?」

私は震えて涙声になりながら結麻くんに尋ねる。

そして今の体勢のまま結麻くんは答える。

「とりあえず、アイツが尻尾を出すまで監視する。炊き出しが配り終えたらアイツに近づいて尻尾を出すのを伺う。こっちからも揺さぶりをかけてみる。何か反応があるかも知れないからね。」

「でもその前にゆゆてゃちゃんが連れてかれたりしない?」

「大丈夫、アイツは今注目の的。それに背が高いから見逃すことも無いよ。」

「…分かった。今は結麻くんの言う通りにしてみるよ…。」

私は結麻くんの作戦に納得しておいた。

「うん。それでいいんだよつっこ。つっこが心配する事なんて無いからね。」

そう言って後ろから私の頬に優しく触れてくる。その手で私の顔を引きちぎったりしないか不安になったがそんなことは無かった。

私はまた結麻くんに脅されているかの様な形となり、作戦を決行する為、炊き出しの方に向かうことにした。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回の投稿は来年になります。

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