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プロローグ ウィークエンドシトロン
カチャン。
宝石のようなケーキがハルの目の前に映る。
ふんわりと焼き上がった、黄金色のシフォンケーキ。
その上にかけられた、レモン味の糖衣と、薄切りのレモンの果実。
ハルは思わず、うっとりとため息をついた。
香ばしい焼き菓子の匂いが部屋いっぱいに広がり、柑橘類の爽やかな匂いが後を追うように鼻腔に残る。
「これは、何ていうケーキなの?」
ハルが目を上げて訊ねると、アカリはにこりと微笑んだ。
「ウィークエンドシトロン。」
ハルが反芻している内に、アカリはケーキに包丁を丁寧に入れ、自分のケーキを取り分けた。アカリが皿を置いて、席に着いたのを見計らった後、ハルはちらりとアカリを見た。示し合わせたように、声を出す。
「いただきます!」
フォークでケーキを一口サイズに切り分け、口に入れる。
「美味しい、、。」
思わずハルは呟く。
バターの香りがする、ふわふわのシフォンケーキとレモンの甘酸っぱい糖衣が口の中で混ざり合う。レモンの香りが鼻腔を抜ける。
「良かった。」
アカリは嬉しそうにハルが食べる姿を眺め、自分も大きめに切り分けて、頬張った。