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9.7 思い掛けない繋がりが増える事もある

 鈴は俺の前まで来ると俺の耳元へ顔を近づけ小さく囁いた。


「美香ちゃん好きな人いるっぽい。でも多分大江って人じゃ無い」


「あ、そうなの?」


 小声とは言え真横の中澤には聞こえていたらしい。鈴もそれは承知の上で言ったのだろう。鈴は頷き、続ける。


「だからその大江って人が結構頑張らないと無理そうだよ」


「そうか……」


 こう真剣に言われるとまるで俺が言われているような気分だな。そもそも俺は興味すらあまりないのだが。


「じゃあ正直にやめておけって伝えるか」


 特に意識もせず当然の答えを呟いたつもりだったが、直後鈴が俺の肩を強く揺すった。


「えぇ!?諦めるの!?」


「何だよ……そーゆー話だったからな。てかいつの間にお前まで本気になってんだ?」


 あと、その俺に対して言うみたいなのやめろ。何もしてないのに虚しくなる。


「可能性が0じゃ無いんなら挑戦すれば良いじゃんってこと!そんな事してたら美香ちゃんが本当に好きな人と付き合っちゃうかもしれないでしょ!」


 一応柏木達には聞こえぬよう声量は抑えてるが何故か俺が怒られている。


「俺は低い可能性に賭けて失敗するくらいなら諦める選択を取る」


 失敗するくらいなら。成功など要らないのだ。鈴ははぁとため息を吐いた。


「それをどうするかって言ってんの!」


「まぁ言いたいことは分かるけど…‥やれる事が無いんだって。てかそんなことまで俺達が手ェ出すのか?」


 大江に勝手にやらせとけばいいだろ。隣に中澤がいるから言えなかったけど。


「分かった。じゃあ見てて……ねぇ美香ちゃーん!」


 何を思い立ったのか、鈴は突如大きな声で柏木へ呼びかけた。笠原達と話していた柏木もその声には流石に反応する。


「んん?なに?どうしたの?」


 そーゆー優しい声俺相手にも出してくれりゃ良いのに。この差はもう二重人格だろ。


「突然なんだけどぉ……美香ちゃんってさぁ、モテるじゃん?」


 本当唐突だな。柏木も質問の意図を汲み取ろうと少し首を捻りながら応じる。


「まぁ…….そうね……それがどうかした?」


 うわ凄い自信。いや、もう何回も告白されてれば自信ってか事実って感じなのかな。


「好きじゃ無い人から告白された時ってどうしてるのかなぁって……」


 ん?いったい(こいつ)は何が聞きたいんだ?そんな事聞いて大江の事に何が役立つと言うのだろう。柏木もかなり険しい顔をしている。


「普通に断るだけだよ。モテるのなら鈴も同じでしょ?部活中あんたの事見に来てる男結構いるじゃん」


「え?あー……そうなの?」


 予想していない返しだったのだろう。鈴は分かりやすく言葉を詰まらせた。


「え?何?突然。私に告ろうとしてる人でもいんの?それとも鈴、誰かから告られでもした?」


「い、いや!そーじゃ無いんだけど……えっと……」


 なるほどな。鈴はさりげなく柏木本人の口から俺たちへ向けて「大江の告白は難しい」って事を証明したかったわけか。そしてその後に「どうされたら気にする」とかそれっぽい恋バナにでも持っていってヒントでも得ようってか……。


 今はどう見ても詰んでるけど。


「……えっと……そ、そう!お兄が……!」


「は!?」


 苦し紛れかぐるっとこちらへ振り返り勢いよく俺を指差す鈴。それと同時に全員の視線が俺へ集まった。


 あれだけ偉そうな態度をとっておいて無理そうになったら全部俺かよ!?

 

 鈴は「なんとかしろ」とばかりに俺へ強い視線を送る。柏木は状況を把握出来ずに不満そうに首を傾げる。俺にどうしろってんだよ……。


「なに?」


「あ、いや……」


 無茶振りにも程があんだろ!せめて指示くらい出してくれ!


 少しすると、この絶妙に嫌な間にしびれを切らした鈴が口を開いた。


「そ、そう!お兄がね、好きな人に告白したいからその練習して欲しいんだって!」


「鈴ちゃん!?」

「え?何言ってんの鈴?」


 笠原や柏木は分かりやすく驚いて見せたが俺は言葉すら出なかった。何年間もこのアホな妹と暮らしてれば分かる。こいつは想像を超えるアホなのだ。


 あーもういーや。こっから俺がどう言っても全て不自然になる。そんなら(こいつ)の安いシナリオ通り動いてさっさと終わらせよう。鈴はなんか「上手くいった!」みたいな顔してるし。


 そもそも柏木がそんな事承諾するとは思えないしな。


「まぁ別にいいけど」


「え?良いのかよ」


「まぁ……何?あんたから言ったんでしょ」


「そうだけど……」


 これだけは言おう。断じて俺は何も言っていない。しかし残る3人も興味津々に流れを見ているのでどうしようもない。

 

 側から見れば公開告白みたいなもんだが俺に今更恥じらいなんて無い。気も無い柏木相手だし。早いとこ終わらせて帰ろ。


 俺は取り敢えず椅子から立ち上がり少し柏木の方へと歩み寄った。そう、こーゆーのは間を作ったり言動に時間を掛ければかけるほど羞恥の念が湧くもの。無心のスピードこそが命!


「ずっと前から好きでした。俺と付き合って下さい」


 顔を上げたままでは変な緊張をしそうなので俺は言うとすぐに頭を下げた。


「えぇ……これを私にどうしろと……?」


 そうだよな。俺も分からん。しかし、もっと「キモ」などの冷淡な返しが来るだろうと予想していた俺からすれば少し意外だった。


「いや、こんな感じで変なところあるかって事を聞きたくてだな……」


「変って事は無いけど……なんで私?」


「それは……」


 同じ部活内に2人も女子生徒がいるにも関わらず柏木にお願いしたのは確かに不自然だが……。俺もその理由を聞かれても答えられない。


 すると流石に多少の罪悪感は持っていたのか、鈴が横から口を出した。


「それはほら!希美ちゃんと綾芽ちゃんは結構お兄と仲良いみたいだし、私もお兄の好きな人が誰かは知らないからもしかしたら2人のどちらかかもって思って……」


 何を言ってんだこいつは。もう口から出任せに俺の像を構築していってるだけだろ。


「そ、そんなわけないじゃん!」

「うん……それは無さそうだけど……」


 まぁそんな事は無いけどさぁ。そこまで言われるとあちらから拒否されてる感じでなんかなぁ……。勝手にフラれた気分。


「それで!美香ちゃんってお兄の事嫌いでしょ?それなら……ん?美香ちゃん?」


 早口で謎の解説をする鈴の前で柏木はなぜか俯いている。しかも異常なほどに耳まで真っ赤になっている。


「どうしたの?」


「別に……別に嫌いってわけじゃ無いけど……あ、好きとかでも無いけど嫌いってわけでも無いって言うか……無関心?みたいな?ほら、好きの対義語って無関心っていうじゃん?そんな感じで……」


「へぇ……ま、まぁお兄に関心ある人の方が珍しいと思うけど……」


 柏木は何をそんなに焦っているのか長く束ねた髪を指先で弄りながら珍しく余裕のない様子。


「でも俺は柳橋くんの好きになる人がどんな人なのか気になるけどなぁ」


「あっそう。俺は中澤の好みなんか興味無いけどな」


「ははは。聞かれても言わないよ」


 うるせぇよ。てか言っちゃあなんだが大体予想ついてるし。そーゆー勘は鈍いはずの俺でも察しがつくって段階で俺以外もそれとなく気づいてはいると思う。


 さて、これからどう終わらせようか……。


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