9.6 思い掛けない繋がりが増える事もある
「相談部ってこーゆー相談まで協力してるんだね。俺あんまり参加できてないから分からなかったよ」
ハハハと謎の笑いを含め中澤が言う。
確かに中澤は部活動の参加は全くと言うほどしていない。今のところ目立った仕事は運動会の手伝いくらいか?でもあれは剛田や鈴も参加していたしなぁ……。是非これから活躍してもらいたい。
「お!もしかして優也くんも乗り気!?」
笠原はパソコンに向かいながら顔だけをこちらへ向けた。
「そうだな…….大江から何度か聞いてたことではあるし……」
「……あるし?なんだよ他にもなんかあんの」
意味ありげな語尾だったので俺は迷わず問う。
「あぁいやまぁ……ほら、もし上手くいったら俺の時も協力して貰おうかなぁとか思って……ははは」
中澤はぽりぽりと頭を掻き照れくさそうに笑った。けっ、つまらない冗談言いやがる。
「お前なんて協力要請する必要ないだろ。お前から言い寄られて誰が断るんだよ」
「確かに!中澤くんモテるから私達が手伝う事なんて無さそうだよねぇ……でもいざとなればいつでも協力するよ!」
笠原はグッとガッツポーズを作ってみせた。恋愛関連なら誰だろうと首を突っ込みたいらしい。
全員がソファの定位置へと着いたところで話は始まった。
「まず、私達が思うに今美香に彼氏はいません!」
笠原が断言すると隣に座る神谷もうんうんと頷いた。いつになく前のめりだな。やっぱ柏木の話となるとモチベーションも違うのか。
「そうだな。それは俺も鈴から聞いた」
「あ、へぇ。鈴ちゃんと柏木は仲良いのかぁ」
「なぁ、お前だけスタートが遅れすぎてんだけど」
ごめんごめん、と中澤は笑う。こいつ今日何しに来たんだよ。
「でも!好きな人?って言うかなんか気になってる人……みたいな人は居そうなんだよ。ね!あや」
「うん。それも多分最近だと思う。お化粧の感じが変わったり前よりも髪型に凄い手ぇ掛けたりしてる」
「確かに、女の子のそーゆー変化は何かあるのかもね」
中澤も興味深そうに頷く。見かけの小さい変化とかは確かにいつもを知るこの2人でなければ気付くのは難しそうだな。
「柳橋くんはなんか分かった?」
「いや、鈴に聞いたが何も知らないって言われた挙句めんどくせぇって言われて終わった」
「あらら……」
なんだか凄く憐れむような眼で神谷に見られた。
しかし俺としてもこの場で何か有益な情報を言わなければ中澤と同じ部類になってしまう。何か……何か……。
「あ、そう言えば大江の事なんだけど今良い?」
俺が悩み更けていると先に中澤が切り出した。そうか、こいつは大江サイドの話があんのか!
「大江は多分告白とかはガッていくタイプだと思うんだよ。そーゆー人は柏木はどうなのかな?押しに弱いとか」
「うーん……どうかなぁ……」
どう見てもそーゆータイプじゃないだろ柏木は。例え告白されようが気のないやつなら「は?」の一言で突き返しそうな気しかしない。
「そっか!大江くんに情報教えるだけじゃなくて美香にも何か仕込めばいいんだ!」
まるで物凄い大発見でもしたかのように笠原はぽんと手を叩く。
「そうにしても柏木に何をどう仕込むんだよ」
「それはその……大江くんの良いところ教えたり?」
やっぱりこいつは馬鹿か。何の考えもなしに思ったことを口走っていただけだと……。
「怪しすぎんだろ。お前が大江に気があるみたいに思われるぞ」
「えぇ?私が!?全然ないよ全然!」
そんな言ってやるな。大江が可哀想だろ。
「それにしてもターゲットが柏木ってのはちょっと厳しそうだよな。彼女結構ガード堅そうじゃない?」
中澤は真剣な顔で言う。大江だって今は無理なら無理で良いって感じのこと言ってたしそこまで真剣にならなくても……と俺は思ってしまう。
「そうかなぁ?美香は結構話すの好きな子だと思うけど……ねぇヤナギ?」
「ん?確かにな。この前うち来てた時も2人だと沈黙きついなぁとか思ってたけど俺相手にも割と話し掛けてきたし」
「「「え?」」」
神谷の質問へ何気なく一言。が、それに3人の視線が一瞬で集まった。
「ん?……あ、いやその……柏木が、鈴と遊ぶ為にうちに来てた時少し話したんだよ」
あらぬ疑いを持たれても困る。俺は何も気にしていない風を装いながらお茶を一口飲んだ。
「え、でも今2人でって……」
「ヤナギもやっぱり美香のこと……?」
「こんな近くにもライバルがいたなんて……だから何も話さなかったのか…!」
んん?完全におかしな方向に進んでるな全員。何故か今は1対3の修羅場に感じている。
「だから。鈴と遊びに来た時だって、あいつが早く着きすぎたからって事で先に家に入れてたんだよ」
俺だって事情ありきの行動だっての!どこの陰キャが好き好んであんな面倒そうなの家に上げるかってんだ。
「まあその話はまた後でするとして……」
「しねぇよ。何もねぇんだから深掘りしようとすんな」
仕切るように言ってきた中澤がなんかムカついたので俺はひとまずここで区切りをつけておいた。そして本題へと戻る。
「私達が出来ることはもうあまり無いよね……」
何か探そうと思考を巡らす神谷に笠原が助言を加える。
「あとは大江くんの気持ち次第になるけど……もし予定通り体育祭で告白するとしたら2人だけになる時間を作ってあげる事とかかな?そもそも美香の気になっている人が大江くんって可能性もあるしね!」
「そっか!それなら私達も手伝えるね」
何でそんなにノリノリなんだよ。俺も親友の事を好きと言う女の子が現れでもしたらこうなるのかな……まず親友を作る、いや、友達を作ることから始めないとならないけど。
2人の勢いに感化されたのか中澤も頷きながら俺の肩に手を置いた。不慣れな対応に俺は思わず避けそうになってしまう。
「大江の方は俺と柳橋くんに任せてくれよ。」
「俺は大江のことなんかよく知らないんだけど……」
まぁその辺は今まで働いてこなかった中澤くんに任せると言うことで。
取り敢えずの方向性は確定。話も区切りは着いたらしい。時間的にはまだあるから少しゆっくりして後は帰るだけだろうと思っていたら開け放しだった扉に2つの影を感じた。
「あんた達またここでなんかしてたの?まだ終わん……」
「あ!み、美香っ……!」
「ど、どうしたの!?珍しいねここに来るなんて部活は終わったの?」
わたわたと飼い主を見失った小型犬のように慌てる神谷と物凄い早口で柏木へと迫る笠原。どちらも分かりやすく焦っている。
「どしたのあんたたち……?」
「いやー、まぁ色々話してたんだよ」
2人の代わりに俺の隣から中澤がにこやかに返すと柏木の視線がちらとこちらへ向く。
「へぇ……そう……」
「凄い賑やかですねー!」
柏木の後ろからひょこっともう一つの影の正体が顔を出した。
「鈴ちゃんも!?どうしたの!?」
いやそこは焦る必要ねぇだろ。俺もう話してるし。
鈴はおそらく笠原と神谷の迎えに来た柏木に着いてきただけだろう。鈴はぐるりと部屋を見渡し俺の存在に気付く。するとズンズンとこちらへ向かって来た。
これは……どーゆー意図だ?




