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9.4 思い掛けない繋がりが増える事もある

 興味のある人……?俺が……?漠然と言われても想像すらつかない。そもそもそんなものに興味を持つ神谷の方が謎だ。


 神谷は続ける。


「何にも興味なさそうだからヤナギがそーゆー話したらちょっとは男の子っぽいじゃん?」


「え、じゃあ今の俺は女の子っぽいの?」


「違う」


「あそ……」


 真顔で否定されるとこんなにもダメージが来るものなのか。


「別にそんなんはごく普通の男子高校生と同じだと思うけど?世間一般的に『可愛い』って言われてるアイドルとか女優とかみりゃあそう思うし」


「へぇ……」


「聞いておいて結局興味無しかよ……」


 俺の話を聞きながらお茶を飲み始める神谷に俺は軽く溜息を吐いた。


 するとずっと黙って聞いていた笠原が突然バッと右手を挙げた。


「は、はい!じゃあどんな性格がタイプなんですか!」


「え……!どうした急に!?そんな質問コーナーみたいにしたつもりないんだけど」


 勢いのまま、笠原はじっとその大きな瞳で俺の答えを待っている。そして何故かその問いに再度興味を持ち出した神谷の視線もこちらへ移った。


「だから、性格とかは知らないって。身内以外の人とほぼ関わってこなかったんだから」


 そもそも自分に合う性格なんか知らない。人に合わせずとも生きて行けるとこの数年で証明されたわけだしな。てかそもそもこいつらには俺はどんな珍獣に見えてんだよって話だ。


「俺なんかの話よりお前ら2人の好みの方がよっぽど世の男子諸君に需要あると思うけど?」


 どーせ「イケメンで高身長で優しい人!」とか言うんだろう。いやまぁ男は美人を求めておいて女にはイケメンを求めるなって方が酷な話しか。


 意外にも神谷が迷いもなく先に話し出した。


「私は特に無いかな、まだ誰も好きになった事無いし」


 予想通りっちゃあ予想通りの回答。逆にここですげぇ条件ばんばん言い出したら怖い。


「私は……優しい人……かな。その……誰が見ても分かる人じゃなくて人には見せない優しさみたいな……そんな感じの……」


 頰を染め恥じらいながらもじもじと語る笠原。なるほど、これは既に頭の中に誰か対象者がいる奴だな。


「あ!それジョセフだ!」


「は?ジョセフ?何それ」

「え?あや、どーゆー事?」


 突然飛び出した謎の外国人っぽい名前に俺と笠原は困惑。神谷は何故か何かに確信を持ったように1人だけ満足げだ。


「え?ヤナギ知らないの?『死刑の極意』の23巻から出て来るアメリカ人のジョセフだよ!」


「いや知るかそんな奴……てか、何それ23巻って結構出てるし……」


 まぁその物騒なタイトルっぽいのから何となく想像出来るけどさ。


 どうやら笠原も知らないらしくタイトルとジョセフという名を交互に呟いて首を傾げている。

 

 しかし神谷は俺が知らない事が少し不満だったらしく僅かに頬を膨らませた。


「確かに希美が好きになるのも分かるかも。ジョセフってすごい悪い人なのに家族とか恋人には優しいんだよね。だから世間のみんなからは悪者に見られるけど本当のジョセフを知っている人だけはジョセフが拷問される時凄い泣きながら今までありがとうって言うところとか凄い感動するもんね」


「へ、へぇ……そうなのか……」


 物凄い勢いで莫大な情報を吐露した神谷を前に成す術はない。俺はそれっぽい反応で交わした。


 しかし笠原は違った。


「う、うん!す、凄い感動するよね……!」


 裏切りやがった!こいつ絶対見たことないだろ!神谷は嬉しそうに「そうそう!」と笠原へ笑みを向ける。そして俺へは冷たい視線。


「ヤナギも見ないと勿体無いよ」


「そうか……『死刑の()()』の()()()()()ね」

「『死刑の()()』の()()()()!」


「あー分かった分かった……」


 漫画の話になるとマジで人柄変わるな……。ちらりと正面の笠原を見るとクスクスと腹を抱えて笑っている。こいつ……!


「そっかぁ、希美も2次元の方だったのかぁ」


「あ、あや!?私そんな事言った!?」


 慌てながら、でも完全否定はしないよう気使う形で抵抗。アホが。テキトーな嘘を吐いた報いだな。ぜってぇ助けてやらねぇ。


「え?ジョセフじゃないの?じゃあ実際に誰かいるって事?」


「あ……いやぁ……そうじゃなくて……あー!もうこの話終わり!」


 顔を真っ赤にした挙句手をブンブンと目の前で交差させ必死の中断。相当焦っているらしい。


「えぇー……なにそれ」


「だよなぁ、ジョセフをこえる奴が誰なのか知りたかったよなぁ?」


「ちょっと柳橋くん!」


 弱りきった奴をとことん追い詰めるのは俺の仕事だ。笠原は俺へ膨れっ面を向けた。


「そ、それで!?結局この相談はどうするの?」


 なんとかこの不利な状況から脱しようと笠原は話を例の相談へと半ば強引に戻した。


「どうするって言うか……ルールで決められてるものは私達にもどうにも出来ないよ」


「そうだな。面白半分で手ェ出しても哀れな敗者を1人生むだけだ」


 そいつの素性は何も知らないが。どの道本人が行動しない事には何も変わりやしない。


 笠原は2人の意見を聞くと渋々パソコンに何かを打ち込み出した。



***



 それなりに時間も経ちそろそろ帰宅かと言う時、駆け込むようにして見慣れない顔が部室に転がり込んできた。


「うわすっげぇ!これ自分達で揃えたの!?」


「そうだけど……どうしたの大江くん?」


 大江……確か中澤の取り巻……友達の……。道理で見たことあると思った。


 驚きながらも笠原は優しく尋ねる。


「いやぁ、笠原さぁ、あのメール見た?あれ、俺なんだよねー!」


「え!?メールって……あの野球部の人のメール!?……でも大江くんってサッカー部だよね?」


 確かにそうだ。中澤含めあの3人は全員サッカー部で構成されていた筈。


 大江はまだ軽く息切れをしながら話し出した。


「いやぁ、こーゆー相談にも乗ってくれんのかなぁって思っててさぁ!ちょっとキツめの条件にして試してみたわけ!でもやっぱ付き合えるなら出来るだけ早く付き合いたいじゃん!?だから直接来ちゃった」


 あまりの勢いに圧倒されながらも笠原は頷きながら聞いている。俺も取り敢えず聞く姿勢は取っていたが神谷は大江を見た途端「なんだお前か」みたいな感じでスマホを弄り出した。話くらい聞いてやれよ……。


「えっとじゃあ……大江くんはサッカー部のマネージャーさんの事が好きって事?」


 若干困惑しながらも笠原なりに整理した答えを出した。しかし、手を張りそれを否定した。


「違う違う。俺が好きなのは、柏木!ほら笠原達と仲いいだろ?」


「えぇっ!?」

「え!美香!?」


 今の今まで興味なさげにしていた神谷までガバッと大江の方へ振り返る。


「いやいや、そんなに驚く事じゃないでしょ……柏木ってかなり男子人気高いよ?ねぇ柳橋くん?」


「え、ああ……そうかもな」

 

 確かに容姿は良いしスポーツ万能だし頭も良いらしいし。まぁ性格においてはかなり難有りな気がするが。


 てか、こいつ俺の名前知ってたのか。


「えっ!ヤナギも美香のこと!?あ!だからあんなに……」


「おいおいおいおい勝手に話進めて納得すんな。俺は別にそんなんじゃねぇよ」


「なに?柳橋くんと柏木ってなんかあったの?」

「何もねぇよ」

「なら良かった」


 どの道お前は敵じゃねぇよ、とでも言いたげな顔で大江は微笑む。そして、顔の前でパシっと手を合わせた。


「まぁそーゆーことだからさ、ちょっと協力してくんね?」

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