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8.4 陰キャに出来る事など限られている

 俺の答えは苦笑いで流された。笠原からしてみても「めんどくせぇこいつ」って感じなのかもしれない。だが安心しろ、ボッチは今更ボッチである事を気にしたりはしない。寧ろ数少ない話のネタなのだ。


「でも裏表があるのって悪いことなのかな?」


 ふと思い立ったように笠原が虚空へ呟いた。


 雑談を持ち掛けたはずが思ったより真剣な方向へ向かってしまったらしい。やはりコミュ力の問題は否めん……。


「俺は羨ましいと思うけどな」


「どうして?」


「見方を変えりゃあ幾つも居場所があるってことだろ?人によって態度変えるやつとかも相手の求める姿形(なり)に意図的に変われるってことだし。仮にその裏ってのが本性だとしてもそれを見せなきゃ誰も気づか……」


「あぁ……なるほどぉ」


 またつらつらと陰キャ特有の長文が出てしまったと気づき言葉を止めたが、笠原は思いの外真剣に聞いていて納得したように頷いていた。


 

「じゃああれか!物は()()()()って言うやつ?」


()()()()だろ」


「へっ……?」


「聞きようってそれ聞く側に問題があんじゃねぇか。……まぁあんま変わんないか」


 それもあながち間違ってない気もする。メディアのニュースがどうとかって話でも聞いたことある気がする。


 てか、こいつやっぱ頭悪いのか?よく堂々とこんな間違い言ったもんだ。


 ちら、と笠原の方へ視線を向けると夕日も相まって色白の肌が真っ赤に染まっていた。


「いや、こ、これはただの言い間違えただけで……し、知ってたからね!」


 ほぉ、こいつ意外にもプライドが高いタイプなのか?なんであれこの焦りようは見ていて面白い。


「そう、その間違いは初めて聞いたけどな……ふっ……!」


「ちょっと!絶対馬鹿にしてるでしょ!本当に知ってたんだから!」


 思わず吹き出た笑いに笠原はさらに顔を赤くし甲高い声できぃきぃ言ってきた。しかし、その動向がなおさら俺の笑い袋を刺激する。


 俺はうちからこみ上げてくる高揚を必死で堪えながらゆっくりと呼吸を整えた。


「もう……そんな笑うことないじゃん」


  未だ鎮まり切らない余波を鼻息で吐き出す俺に笠原は僅かに頬を膨らまし拗ねた子供のような顔。その仕草一つを取っても今の俺には刺激が強いので、そっと目を地へ向けた。


「でも良かった……柳橋くんが本気で笑ってるの初めて見れた」


 笠原はそう言うとどこか安堵を浮かべながらにこりと照れたように微笑む。


「本気で……?別に作り笑いとかしてた覚え無いんだが。まぁ愛想笑いはしょっちゅうだけど」


 特に田辺先生相手には。

 いまいちピンときていない俺を見て、


「あ、変な意味じゃないからね!?なんか今思えばあんまり柳橋くんの笑った顔見たことなかったなーって思っただけで……」

 

「はぁ……割と笑ってると思うけどな」


「そうかもだけど、なんか……」


 次の言葉を搾り出そうと歯痒さを全面に出す笠原を黙って待っていると、急にパシッと手を叩き軽い音を奏でた。


「上手く言えないからもうこの話終わりね!」


「お前が言い出したんだろ」


「あー……うん、そうだけど!ほら、もう柳橋くんの家着いちゃったし!」


 ぴたりと足を止めた笠原に続いて自然と立ち止まると確かに見慣れた家の前まで来ていた。危ねぇ……こんな感じでこの前は通り過ぎたのか。


「じゃあまた」


「うん、またね」


 なんだろう。結局釈然としないまま俺の心だけ覗かれたような妙な気恥ずかしさだけが残った。



***



 2日後の放課後。と言ってももうすぐ完全下校の時刻が迫っている。俺は体育館のギャラリーに来ていた。


 何故こんな似合わない場所にいるのかと言うと、理由は一つしかない。例の計画を実行する為だ。


 それなりにやるべき準備はし終えた。あとはタイミングを見計らって実行する。言葉で言えば簡単そうだが実際はこれが1番重要だ。


 柵にもたれ体育館を見下ろす。いつも通り活気のある運動部集団が右往左往していたが徐々に片付け作業が始まっていた。


 こんな時間にギャラリーにいるやつなんか当然俺だけで、時折「あの人何?ストーカー?」みたいな視線がジリジリと伝わってきた。


「もっと普通に待ってるとか出来ないの?」


 すっかり静まり返った体育館で澄んだ声が俺の右側から届いた。柏木美香だ。


 俺は今日柏木の部活終わりに時間を貰えるか頼んでいたのだ。


「普段は気配すらないくせにこーゆー時だけは変な目立ち方するのね」


「すまん、疲れてるところ」


「別に問題ないけど……要件は何?」


 問題の渦中にいる人物とは思えないこの堂々たる態度。これが女王様と言われる所以か……。などと勝手に感心していると柏木は「早くしろ」と言うように顎を軽く上げた。


「また亜美さんとかの話?なんとなくそんな気はしてたけど……何もするなっていったでしょ?」


「まぁ言われましたよ何度か」


 頼む、そろそろ……


「じゃあ今度は何?」


「いやまぁ……」


 やはり俺のコミュ力では限界か……


「何も無いなら帰るわ」


「いや、ちょっと待て……」


「じゃあ何?」


 あーもう限界か……


 自分の実力に限界を感じ、ここは引き下がって策を変えようと思い始めた時、柏木の背後、つまり俺の正面から人影が現れた。


「柏木さーん?まだ帰んないの?」


「いえ、もう帰ります」


「そう……」


 現れたのは3人組の女子生徒。亜美と言う女を真ん中に構えた例のグループだ。それはまさに俺が待っていた人物。よし、なんとかここでの失敗は防げたようだ。


 亜美さん?はギロと俺に明らか憎悪のこもった視線をぶつける。


「彼は?」


「ただの知り合いですけど」


 あんなことがあったんだ。絶対覚えている筈だが、亜美さんは初見のような感じで俺の立ち位置を柏木に確認する。


「じゃあ私は帰ります。お疲れ様でした」


「お疲れ様ー」


 柏木は俺に背を向けスタスタと降りる階段の方へ向かって行った。


 柏木との接触を餌にこの人達を誘き出すってのは計画のうちとは言えこの状況は流石にビビるな。


「あんたまだ私らに付き纏ってんの?マジでキモいしうざいんだけど。なんなん?私達のやったこと暴いてなんになんの?」


 こわいこわいこわいこわい……!めちゃめちゃキレてるじゃん……!まだ柏木が近くにいるからか声は小さいが圧が凄い!しかしここからだ、頑張れ俺!


「これ以上はもう辞めませんかそういうの」


「だから、あんたに関係ないでしょ?」


「あります」


「何が?」


 よし、流れは順調。計画通りここで少し間をとってそれっぽく装い、先ほどより大きめの声で、


「俺が柏木のことを好きだからです。これ以上は俺が許しません」


「……は?きっも……!」


 ですよねー……。それは俺も同感です。我ながらキモい計画を作ったもんだ。


「で、どうすんの?」


「え……?」


「だからぁ、何か証拠でも報告するわけ?」


「いや……」


 そう来たか……。予定ではここで、俺のあまりのキモさにひいて帰っていくって予想だったんだけど。


「この間……もう1人ちっちゃい子居たよね、あの子は」

「あいつは関係ないんで。あの日は無理やり俺が呼んで俺の見解を話しただけで……」


 神谷にまで怒りの矛先を向けられるのは厄介だ。この人達なら躊躇なく手を下すだろう。


 けど証拠って言われてもなぁ……。俺の傘くらい?いや、あれはもう新品になったし。


 あれ?手詰まりじゃね?


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