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7.9 陰キャは時に陽キャよりも強くなる

 近所であるためこのショッピングモールには幾度となく脚を運んでいる。ここにくれば生活に必要なものは大体揃うので親の買い物に着いて行く時も高確率でここだった。


 俺は歩き慣れた建物内を歩き取り敢えず神谷に着いて行く。


 靴屋、本屋、ゲームセンター、スポーツ用品店など様々な店が並ぶ前を素通りしどこかへ向けて先へ先へと進んだ。


 途中ですれ違うのは同い年くらいの学生が多く、青春と言う鬱陶しい二文字が頭上にチラつく連中ばかりだった。


 しばらくして神谷の足が止まった。フードコートだった。どうやらここが目的地だったらしい。


 取り敢えず近場の4人席へ腰を下ろした。


「夕飯でも食うのか?」


「別にそれでも良いけど……私夜はあんまり食べれないんだよね」


「あそう。じゃあ何が目的で?」


 半ばどうでも良くなり投げやりに尋ねると、神谷は口を小さく開けながらぽけーっ、と遠くへ視線を飛ばしている。


 何か考えはあるみたいだがまだ口にするほどまとまってはないらしい。まぁ、俺もそこまで興味もないから少し放置しておく事にした。


「ちょっと飲みもんと軽食買ってくるけど何かいるか?」


「ん……じゃあ飲み物お願い。何でも良い」


「了解」


 俺は席を立ち、ふらふらと店の並ぶ通路へと向かった。


 ラーメンやらたこ焼きやら食欲を刺激する匂いが鼻先をくすぐる。しかし、俺は小腹は空いているが夕食を控えているためそこまでガッツリ食べる気はない。


 店を一つ一つ確認しながら先へ進むと、以前鈴と来たハンバーガーチェーン店にたどり着いた。ここならばサイズや値段としては丁度良いが……


「確か柏木がバイトしてたよな……やめとこう」


 多分今は部活中のため居る筈は無い。しかしもしもね、もしもの時の為に避ける方が良いだろう。


 結局俺は隣のドーナツ屋で定番っぽい2種を購入し、俺と神谷用のジュースを買って席へ戻った。


「ほい」


「ありがとう、いくらだった?」


 俺がジュースを神谷の前に置くと、神谷は、ゴソゴソと鞄から財布を取り出した。


「いや、別にいいよこのぐらい。ついでだし」


「ありがとう」


 神谷はそう言うと、ストローに口を付け、スゥッと一口。俺はすぐ近くに置いてあった無料の水を口に含んだ。


「で、何をしに来たんだ?」


「何をしにって言うか……ほら、あそこ」


「ん?」


 神谷の指差す先へ顔を向ける。しかし、見えるのは複数の学生集団が談笑したり飯を食っていると言うどーでも良いものだけだ。


「悪い、全く分からん」


「あの奥の席見て」


「奥?……え、あれって……」


言われるままに目を凝らしてその先を見ると窓際の席に集まる制服姿の女子生徒3人が視界に入った。それもとても見覚えのある雰囲気の人達だ。


「例の人だよな?よく見つけたな。ずっと目で追ってたのか?」


「ううん、なんとなくここかなぁって……前に美香達と来た時にここで見かけたことがあったから」


 神谷は得意げなドヤ顔でニッと口角を上げた。


「へぇー」


 だからって今日もここに居ると思わんだろ、普通。すげぇ計算づくめで当てたような雰囲気出してるけどそーゆーの"勘"って言うんですよ。


「けどこんなとこからじゃあ何喋ってるかも分かんねぇぞ、そもそも盗み聞きってのはあんま良く無いだろうけどさ」


「そうだよね」


 とは言え、ここまで後を付けてきた目的なんか盗み聞きくらいしか無い。器物損害に比べりゃあかわいいもんだろ。


「席、移るか?」


「じゃあ少しだけ」


 かなり罪悪感を抱えたような顔で神谷は席を立った。


 バレー部の人らが居るあたりは仕切りも少なく開けているため、そう近くには行けないがギリギリ見えない程の近くのテーブルへ移動した。

 すると、耳を傾けようとする前から彼女らの会話が耳へ飛び込んできた。


「あいつヤバくね?」

「分かる〜!凄いよね〜」

「うんうん!」


 1人のボス角のやつにニコニコと頷く2人。ここには明確な上下関係があることが一目で分かった。それなのに話の内容はマジで分からない。


 無駄な声量でガンガンと雑な言葉が飛び出してくる。


「お前らもいつもはあんな感じなの?」


「あんな感じ?」

 

 神谷は、はて、と首を傾げた。

 まぁ、こいつらのいつもなどどうでもいいか。


 さて、本題だ。俺は意識を例の席へ向ける。


「ていうかさぁー、本当にあの子折れないよねー。気付いてないのかな?」

「マジ?あれだけやられて気付かないこと無くない?」


 取り巻きの2人と思われる声がケラケラと上機嫌に聞こえる。そしてそれらをまとめるようにやや強そうな声が聞こえた。


「いや、気付いてるっしょ。それどころか周りの仲間みたいな奴までなんか変な事聞いてきたじゃん?マジキモ」


 んん??変な奴?もしやそれは……。


「なんだっけ?名前言ってたよね?えっと……矢田部だ!」

「えー嘘?柳……なんとかじゃなかった?」

「地味すぎて顔もあんまり覚えてないんだけど!」


 いや、「や」しか合ってねぇし。会ったのはそんな前の話じゃないだろうに……。元から期待してねぇけどさ。


 ふと前を見るとくすくすと口元を押さえて神谷が笑いを声に出さぬよう堪えていた。


「おい、なーにお前だけ楽しんでんだよ」


「ごめん……だって矢田部って……!」


 謎にツボったらしくくすくすと涙目で笑っている。俺は何をしにここまで来たのだろうか。


 はぁ、とため息を小さく吐き、買ってきたドーナツの1つを口へ運ぼうと手にした時、ようやく彼女らの方からそれらしき話が飛び出した。


「亜美はこれからどうするつもり?」


 亜美……おそらくあの中心の女の名前だろう。そして彼女は恐らく柏木の言うポジションの座を奪われたと言う人物。


 少し間を置いて返答が聞こえた。


「そうだねぇ……何か何してもあいつは部活辞めそうに無いけど……このまま他の部員にも色々吹き込めば()()()()空気になるでしょ」


「あー確かにね。周りから言われたら先生も考え直すしか無いしね」


 カラコロと氷を弄る音と共に妙に物騒な話が次から次へと続いた。


「私達今年で最後じゃん?こんなんあり得なくない?」


「まぁそうだよね……実際亜美と実力変わんないし」

「しかも当てつけみたいに自主練ばっかしてるよね」


「本当さっさと辞めてくれないかな」


 ははははは、と甲高く気味が悪い笑いが響いた。


 これは予想以上にヤバい事体なんじゃ無いか?辞めさせるだの吹き込むなど部活内での方が酷い状態であることなど当たり前だったのかもしれない。


「ヤナギ、これって……美香の話……だよね?」


 神谷は先程までとは一変、涙目になりながらこちらを見ていた。


 当然か。親友に位置する柏木が自分の知らないうちにこんな仕打ちを受け、それなのに本人は必死に隠し通そうとしていたなどと知ったらそうなるのも無理は無い。


「これは流石に俺たちだけで片付けていい問題じゃ無いな。早いとこ顧問か担任の田辺先生あたりに……」


「何?盗み聞きしてたの?」


 突如鋭い声が俺の左耳を貫いた。恐る恐るそちらを向くと例の「亜美」と呼ばれていた女を真ん中に3人組が俺達を見下ろしている。


 はい、終わったー。俺の傍には禍々しい負のオーラ。体格もそれほど大きくない筈なのに今まで会った人間で最も大きく感じた。


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