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7.2 陰キャは時に陽キャよりも強くなる

 ゲーム内のフレンド登録を終え、俺と神谷はそれぞれのスマホを横持ちに、武器等の準備を始めた。


「久しぶりだなぁ……」


 神谷が懐かしそうな声を漏らす。


「でも誰かと一緒にするのは初めてかも」


「それは俺もだ。こうやってフレンド登録なんてした事ないしな」


 ゲーム内でなら簡単に出来るが。まぁそんな顔も本名も性別すら知らない相手をフレンドと表現するのはどうなのかと思わなくもないが。


「そろそろ良い?」


「俺は大丈夫だ」

 

 俺の返事を聞くと神谷は軽く頷き、直後画面がマッチング画面へ移行した。


 ちなみに俺は少しハマっていた時期に使用していた連射能力の高い武器を選択した。取り敢えず長押ししとけば当たるから割と初心者向けなのだろう。


 4対4のチームに別れ勿論俺と神谷は対極のチームとなり、ゲームが始まる。


「あ、これ私とヤナギ以外はbotだからね」


「へー、じゃあお前と戦わないようにすれば勝ち目はありそうだな」


 botの集合地で俺が乱射しまくれば自然とキル数は稼げる。神谷がどんな武器で来るのかは知らないが案外チーム戦って所に勝ち筋が見えそうだ。


「そんなことさせないけどね」


 まるで俺の心を見透かすように神谷は不敵な笑みを浮かべる。


 なんだよ、いつに無く強気だな。まぁあんだけレベルに差があればそう思うか。




「うし!」


 規則的な動きで不用心に近づいて来る敵を淡々と撃ち倒しているだけだと言うのに思いの外快感。しかしそれは神谷も同様のようで「あ!」や「よし!」と時々声を上げながら楽しそうにプレイしていた。


 両チームのキル数はほぼ変わらず試合が続き、これは勝てるかも知れないとふと思った次の瞬間、


「え?あぁ?」


 突如俺のキャラが地べたに倒れた。おいまさか……。


「ふふ……やったー」


 俺の画面にはたった今俺を倒したプレイヤー、つまり神谷のキャラクターと『ぽん』と言うプレイヤー名が表示される。


「クソ、スナイパーかよ」


 どおりで気付かなかったわけだ。建物の窓から狙ってやがったのか。


「うん、これなら一撃で殺せる」


「物騒な言い方すんな」


 俺はすぐ復活し、敵の集う広けた場所へ走る。が、


「はぁ!?おまっ…….」


「やったー」


 一瞬で仕留められた俺の画面にはまたしても『ぽん』の文字が映る。なんかこの名前腹立ってきたな。


 斜め前の神谷はふふふと静かに笑う。あのレベルとランクは伊達じゃ無いってことか。じゃあ俺もぼちぼち本気で行くしか無い。



***



「お前強すぎだろ……」


 続け様に何戦するも結果は全敗。Mr.克実は悉くポンのスナイパーに打ち負かされた。ここまで力量に差があると途中からbot君達が可愛いくてしょうがなかった。


 神谷は前髪を触りながら照れたように微笑む。余程俺に圧勝したのが嬉しかったのだろう。解せぬ。


「……もう一回やる?」


「俺は良いけど……お前時間大丈夫なのか?」


「あ、そうだった」


 壁にかけられた時計を見やると時間は6時手前。どうやらこのゲームを1時間以上もしていたらしい。日も長くなったせいで全く気が付かなかった。


「私もう行かないとだ」


「だよな」


 バタバタと身支度を整えて神谷はバッグを肩にかける。しかし、何かに気づいたように鞄をまたソファーへ置くと窓ガラスの方へ駆け寄った。


「電気とか窓とかは俺やっとくから帰って良いぞ」


「ありがとう。じゃあよろしく。また明日ね」


「おう」


 また明日ってのはいつも通りの挨拶的な意味なのか、それともこのゲームをまたやろうって意味なのか。どちらでもあまり変わらないか。


 俺はのんびりと戸締りと消灯を終え部室を出ようと出入り口をくぐる。


「まったく、うちはいつからゲーム部になったのかね」


 やれやれと首を振りながら見慣れた女性教師がドアの横で凛と立っていた。


「うわっ……!いつからいたんすか」


「10分前くらいかな、そろそろ終わり頃かと思ってきてみれば楽しそうにゲームしてたから邪魔しないでおいてやったわけだ」


「先生はそこでなにを?」


 俺の問いを待ってましたと言うように田辺先生はガッと俺に画面を見せつけ得意げに笑う。


「あまりに楽しそうだったから私も入れて見たんだよ!ほら!まだダウンロードも完了してないけどな!今度やろうぜ!」


 それは教員のやるべき事では無いだろ。あんたは一応業務中じゃ無いのか?


「考えておきます」


「よし、お前ももう帰れよ?私も帰る」


 あー、その為に一応顧問として部活を閉めにきたのか。納得。けどよく考えたらこの人体育教師だよな?


「先生は運動部の顧問とか持って無いんですか?」


 話しかけられると思っていなかったのだろう。おっ?と自分のスマホを覗き込んでいた顔を上げた。


「それがなぁ、無いんだよ。副顧問は4つ掛け持ちしてんだけどな。あ、でも暇なわけじゃ無いからな」


「へー……」


 副顧問4つ?そんな事あるのか。でも慌てて付け足した感じからして多分暇なんだな。


 これ以上特に話すこともないので俺は軽く会釈し「さようなら」とだけ言い田辺先生の脇を通り抜ける。


「気を付けて帰れよ」


「あ、はい」


 なんで毎回最後だけ教師っぽいんだよ。いっそ「じゃあな!」とか漫画の主人公みたいな返しをされた方がやりやすいんだけど。



***



「うし!」


 俺の発した弾丸が敵の頭を捉える。まるで俺のプレーを盛大に祝福してくれているように「ヘッドショット」の文字が輝いた。んー、悪くない!この調子なら……。


「あんたさっきからずっと何してんの?1人でぶつぶつぶつぶつ気持ち悪い」


「なんでもいーだろ」


 最後の気持ち悪いは居るのかな?否定は出来ないけどさ。


 今日の惨敗に俺はどうにも納得がいっていなかった。レベルも格上の相手とはいえあのぼんやりほわほわした神谷にあそこまでめためたにされるのは俺の薄っぺらなプライドにも傷が付く。


「そーゆーのオタクって言うんじゃないの?」

 

「ゲームくらい男子高校生なら誰でもやってる」


「そうなの?でもあんたどっか外に出かけたりもしないでしょ。家の中ばっかりでさぁ……」


 洗濯物を畳みながら深くため息を吐かれた。親として俺には分からない何か不安でもあるのだろうか。


 そんなこと言われても用事がないのだから仕方が無いだろ、としか言えない。とは言えこのまま指摘され続けるのも面倒だ。俺はアプリを落とし、ソファーに寄りかかり大きく伸びをした。


 目を細め俺を見る母親はしばらくして洗濯を畳み終え、突如思い出したように音を出す。


「あ、今日さ、鈴傘持って行ってた?」


「そんなん知らねぇよ。保育園児でもあるまいし」


 何故俺が知っていると思った。確かに今日の予報は曇りだったが、高校1年の妹をそこまで気に掛けるほど暇では無い。


 俺の返答に返しもせず母親は玄関へと姿を消す。


「あー!やっぱり忘れてる。あの子もたまに抜けてるとこあるからねぇ……克実、届けてきてやってよ」


「は?なんで俺が?無いなら無いなりに友達の借りるとかなんとかすんだろ」


「借りるなんて悪いでしょ?もうすぐ部活終わる時間なんだしあんたの運動不足解消にもなるんじゃない?」


 人に物を借りる事は良くないのに息子に雨の中妹の傘を届けさせるのは問題ないんだ。もっと息子を大切にして欲しいところだ。


「だったら車で迎え行けば良いだろ」


「鈴は良く裏道から来るから入れ違いになったら良くないじゃない。ほら、早く行ってきて」


 人使い荒すぎんだろ。鈴のあの気の強さ、いや俺への当たりの強さは母親譲りだったことがよぉーく分かったよ。

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