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6.3 誰しも隠し事は存在する

 前の2人はやはり部活動について話が合うようでよく分からない内容の言葉を話している。


 後ろの2人はというと無言沈着を貫いている。神谷相手ならそれも普通になりつつある。


 距離にすれば僅かだが今日はやたらと長く感じた。良かれと思ってした行動がこうもうまくハマらないのもここ最近ではあまり無い。うん……やっぱむずいな、人間関係。


「ヤナギ」


 急に左側から名前を呼ばれ、どうした?と応じるも返事はない。見ると神谷は何か考えているような表情で首を傾げている。


 俺もそれを黙って待っていると、分かれ道へと差し掛かり足を止めた。


「なんか言葉がまとまらないから後でLINEで送るね」


「おう……分かった」


 LINEで送るという聞き馴染みのない会話文句に一瞬たじろぎながら俺は軽く頷く。


 それを確認すると神谷は中澤と共に横断歩道を渡って行った。


 伝えたい事でもあるのか……。言葉をまとめなければならないこととなると尚更気になる。


「柳橋くんってLINEとかあまりしない人だと思ってたよ」


 2人きりの沈黙を気まずく思ったのか、笠原が独り言か話しかけているのかよく分からない声量で言った。


「そりゃあ相手がいなきゃしないだろ」


「あ、そっか!」


 うん……。そんな綺麗に納得されたら返す言葉も無いけども。公式ラインに話し掛けてた事とかは黙っておこう。


 俺は静かにスマホの画面へ視線を落とす。こーゆー話すことも特に無い気まずい時はこれが1番だ。テキトーにニュースでも開いておけば勝手に時間は過ぎて行く。


「ねぇ、柳橋くんは普段何してるの?」


 再び沈黙を避けるように笠原が言う。


 俺は取り敢えずスマホの芸能ニュースを閉じ、顔を上げる。


「普段って言われてもな……起きて飯食ってスマホいじって寝るだけだ」


「へ、へー……そうなんだ……」


 困るなら聞くな。別に返事はしないけど。


「あ、スマホではいつも何のゲームしてるの?」


 まだ続けるのか……?ネタ切れバレバレなんだからやめた方が良いだろ。


 しかし、笠原からは次の答えを待つような視線がジリジリと感じるため俺も答えないわけにはいかない。


「これ、知ってるか?数年前に流行ったパズルゲーム。あとはニュース見るくらいか」

 

 基本的に暇潰し要因な訳だし。


 笠原はほう、と感心するような声を挙げた。


「ニュース!なんか頭良さそう!」


 その発想がもう頭悪そう。


「じゃああんまりSNSとかはやらないんだね」


 笠原は不思議そうに小首を傾げる。


 SNS……ああ、LINEとかInstagramとかTwitterとかそーゆーやつか。当然連絡手段のLINEしか利用してない。

 

 珍しいのか?まあ確かに、今時の若者はこーゆーのを駆使してコミュニケーション取ってるみたいだからな。コミュニケーションを取る必要のない俺にはどれも使う理由はない。


「まぁな。その辺はどうも詳しくも無い。……LINEだって友達申請を許可するみたいな奴この前神谷に言われて初めて知ったくらいだ」


 家族のはいつも鈴辺りがパパッとやってくれるし、中澤の時は……多分あいつがなんかやったんだろう。


「そっか……だからこの前……」


「ん?」


 ボソボソと隣で何か話していた気がしたので聞き返したが、笠原はぶんぶんと手を振り不自然な笑顔を向けてきた。


「あ、ううん!……柳橋くんって意外とスマホとか詳しく無いんだね」


「うるせーよ。陰キャだからって機械系詳しいとか思うなよ。俺はアナログ人間なんだ」


 ははは、と再び愛想笑い。この顔は彼女の必殺技らしい。


「あ!ごめん!こんなにのんびり歩いてたら柳橋くん用事が!」


「え、あー、そうだな」


 そうだった!そーゆー設定から今帰宅してたんだった!

 

 笠原の歩く速度が加速する。俺も無意識にそのスピードへ移行していく。


 笠原は俺への配慮なのか口数は格段に減り、到着だけを目的としたような顔つきで足を動かしている。

 こいつ、一体どんな大事な用事だと思っているんだ?


 ふと前を向くと、まだ空は明るい。容赦なく日差しが突き刺す道を俺と笠原は進む。そろそろ日によっては冬服がしんどい時期になってきたなと肌で感じる程の夏日だ。


「あ、もう着きそうだね!」


 そう笠原が向く数十メートル先には、俺の家が見えた。俺は何のために早足で家を向かっているのだろうと思いながらも、その勢いのまま玄関へと曲がる。


「じゃあね!柳橋くん!また明日!」

 

 玄関前に立ち止まった笠原が優しげに微笑みかける。


「……おう」


 一応返答はするが、そんな笑顔で手を振られても俺は困る。何なんだよそのテンション。


 このままいても引き時がわからなくだけだろうと、俺はドアノブに手を掛け手前に引いた。


「あれ?克実お帰り……あ、あなたこの前の!克実の部活動の!」


 ———はい、終わった。


 偶然出掛けに出た母親の突然の登場に俺も笠原も動きが止まる。前回の事もあり、当然笠原も苦笑いを浮かべていた。


「あぁ……お久しぶりです……」


 笠原は既に帰路へと向けていた身体をギギギとこちらへ向けて畏まった挨拶をした。


「久しぶりぃ!笠原希美ちゃんだよね!」


「は、はい!笠原希美です!」


「久しぶりって言っても私は昨日鈴の大会で見かけたんだけどね」


「そ、そうなんですねー……」


 明らかに戸惑っている、この強烈なおばさんの勢いに。それもそうだろう。俺だったら適当に「急いでいるので!」とか言って逃げ出すレベル。


「どうぞ!上がってってー!私はこれから買い物に出るけどゆっくりしてってねぇー」


「あ、いえ、私はそーゆー……」


俺を挟んで行われる言葉のキャッチボール。いや、無限乱射マシンガン。笠原は答えに迷うがうちの母親は超が付くほどの陽気っぷり。


 ここは俺が終わらせるしかなさそうだ。


「別にうちに呼んだ訳じゃねぇよ」


「え?そうなの?いいじゃないゆっくりしてって貰えばぁ。ねぇ?希美ちゃん」

 

 母親は陽気を保ったまま再び笠原へ問いを投げかける。

 陽気なこの人に俺の話なんて通じる筈ねぇか。すっかり忘れていたよ。


「あははは……でも今日は柳橋くんも用事があるみたいですし私はこれで……」


「用事?あんたなんかあんの?」


 親にさも当然のように暇人扱いされた。まずい……。これは非常に良くない流れが来そう。


「いや、まぁ……」


「なにあんた、そんなのないでしょ?あんたの用事なんて通販の受け取りくらいじゃない」


 さすが母さん!よくご存知で!


 どうやらもう俺に選択肢は無さそうだ。ちらりと笠原の方を見やるも、なんとか状況を把握する事で精一杯の様子。


 仕方ない、こうなったら一応は笠原を家に上げると言う体で母親を追い出し、出掛けたらすぐ帰ってもらおう。


「……買い物行くならもう行ったほうがいいと思うけど」


 今すぐここから去るよう間接的に促すと、腕時計を確認して頷く。


「そうね、じゃあ希美ちゃん、ゆっくりしてってね!」


「は、はぁーい……」


 笠原の愛想笑いにニコニコと手を振るおばさんは軽自動車に乗り込み去って行った。







お読みいただきありがとうございます!60話投稿終えました。よろしければ評価、感想等お願いします。

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