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5.9 人の本心など簡単には分からない

 その日の夜。


 夕飯も入浴も終え、後は寝るだけと言う状態になった俺は食卓の自分の席でパズルゲームのクエストを無心でこなしていた。


 最近は以前に比べてゲームをする時間が減ったため、ウィークリーミッションやら期間限定クエストやらが未クリアのまま止まっていた。 

 

 今では特に楽しむわけでもなくほぼ作業と化しているが、課金もしてしまっているデータのため消すに消せない。もうとっくに飽きは来てるけどな。


両親は既に就寝。リビングにはいつも通りテレビを見ながらスマホをいじる鈴。テレビを除けば大分静かな空間だ。


 画面に映るLOADINGの文字を眺めていると、ふと今日の帰り際のことを思い出した。


 


 やはり、あーゆー女王様系の奴は反感を買いやすいのだろうか。俺のような最底辺下々の人間は特に何とも思わないが、確かにそれをよく思わない人間も多そうだ。女王様のちょい下で下克上狙ってるような奴とかな。

 でもあの時にいた3人組は同じクラスにはいない気がするが……。


「何してんの?もうとっくに画面進んでるけど」


「え、おう」


 顔を上げるとココアの入ったマグカップを片手に薄着姿の鈴が不審な目で見下ろしていた。


 鈴は「はぁ」とため息を吐くと、俺の目の前の椅子に腰を下ろした。


「また何かあったの?」


「別に何も……」


 再度スマホへと視線を戻し、画面に指を滑らした。が、


「なんだよ」


「なんか怪しい。絶対なんか隠してるでしょ」


「なんも隠してねぇって……」


 尚も信じていないようで、鈴はジト目で俺を見る。無視していてもどうも気が散る。


「その目やめろ。そーされてると手元が狂うんだよ」

 

「お兄が隠してること話すまでこのままだから」


「なんだよそれ……あ……」


 すっと目を離した隙に、画面内のパズル盤面がバラバラに崩れ、ゲームオーバーの文字が表示されていた。

  あーあ、これ普通にやってたら勝ててたのにな。


 俺はプツとスマホの画面を切った。


「別にお前に話すことは何もねぇよ。確かに何も無いと言えば嘘だが俺に直接関係あるわけでも俺が気に掛けるようなことでも無い」


 へー、と言葉を漏らすものの明らかに納得していないのがヒシヒシと伝わってくる。今日はやけにしつこいな。


 俺はそこから脱しようと席を立ち、台所へ向かった。


「どーせまた相談部のなんかなんでしょ?変な相談でも来た?」


「だからそーゆーのじゃねぇって」


 半ば面倒臭くなり始め投げやりに返すと、鈴はさぞ不服そうな顔でムッとした。俺を突く視線が強過ぎたので目を合わせまいと、俺はコップに注ぐ烏龍茶へと視線を移した。


「鈴知ってるよ?今日お兄が綾芽ちゃんと一緒に部活見に来てたこと。あんな所で何してたの?」


 綾芽…….あ、神谷の下の名前か。すっかり忘れてた。


 最後の切り札とばかりに得意げに尋ねてくる鈴は、チェックメイトととでも言いたげに勝ち誇った顔をしている。


 だがそんな情報は俺にとって痛くも痒くも無い。


「あいつが部活を見たいって言ったからちょっと見てただけだよ」


 言うと、鈴はじっと俺を見る。だが俺は意地でも話す気はない。まだ事実として確定してもいないことを推論だけで話を膨らませ、噂だけを一人歩きさせるのは良くない。しかもその対象が柏木となれば俺の近くのあらゆる方向が動き出すだろう。


 今はまだ神谷からもそれらしき言動は見られなかったし俺の思い過ごしの線が大きい。


「はぁ、なんかすっきりしないけどまぁいいや」


 鈴は欠伸をしながら席を立つとガヤガヤと雑音を鳴らしていたテレビを消した。


「もう寝る」


「おう、おやすみ」


 部屋から去る小さい背中からは当然のように何も返事はこなかった。しかし、その代わりという事なのかふにゃっと右手を挙げてきた。大御所女優かよ……。



***



 6限終了のチャイム鳴る。


 ざわざわと動き出す人の波はもう見慣れた光景だ。


 授業の中盤から爆睡していたためまだ頭は靄がかかったようにぼんやりとしている。こうなるのも仕方ないよな、今日は金曜日なんだし。


 どうやら運動部はこの週末からポツポツと大会とやらが始まるらしく、クラス内ではその話題がそこら中から聞こえてくる。


 あまりノロノロしていると掃除当番の人に睨まれるので俺もそれなりに急ぎながらバッグへ荷物を押し込み廊下へ出た。


 

 掃除が終わるまでの間はいつも廊下で待っている。まあ、そのまま帰れば早いだろと思うかもしれないが、常に置き勉をしているせいで授業終わりに咄嗟の支度が出来ないのだ。


 他の陰キャくん達も基本はそうして過ごしているから俺だけではない。たとえボッチでも何人も集まればそれはもうボッチとは言わないよね。


 特に考えもなく吹き抜けの柵に寄りかかり一階を見下ろす。ここから見える一階はポツポツと机椅子が並べられた勉強スペースとなっている。多くの人からの目もありより集中して取り組めるみたいな意味合いがあるのだろう。


 まぁ基本は仲良しをアピールしたい陽キャグループかカップルしか居ないんだけど。


 こんな変な作りの校舎も見慣れてしまえば真新しさも感じない。他の階からの雑音もよく響き寧ろ迷惑なくらいだ。



「ねぇ」


 背中をツンと尖った何かが突ついた。俺に対してこんな呼びかけをする人物など1人しか考えられない。


「ん?……どうした?」


一瞬違っていたらどうしようかとヒヤリとしたが、振り返ると予想通りそこには神谷が立っていた。

 

「部室で話があるって」


「え、何?誰が?」


 何それ。今どきそんな呼出しする人居んのかよ。このシチュエーションはヤンキー漫画でタイマンになるやつじゃん。


「私もあまり良く分かんないけど……希美がそんな感じのこと言ってたから」

 

「そうか……分かった」


 あれ、俺なんかしたっけ?直接話をしたのはラーメン屋に行った時が最後だし…….。


 神谷はそれだけ言い終えると俺の横に荷物を置き、すとんと腰を下ろした。


「帰んねぇの?」


「いい。終わるの待ってるよ。どうせ電車が来るのもあと1時間くらい先だし」


神谷は不満そうにスマホの画面に視線を落とした。田舎は本当不便なものだな。



***



 久しぶりに部室の前に立った。相変わらずうるさい生徒会室の隣は明かりのみが照らされている。誰かはいるようだ。


 俺は妙な緊張から一呼吸おいてドアを開けた。


「あ、柳橋くん!ここで会うとなんか久しぶりな感じだね!


 うん。ひとまずタイマンでは無さそうで良かった。


 笠原は何やらバタバタと忙しそうに書類を机に並べている。少し近づきその書類を見ると、そこには“体育祭"の文字がデカく描かれていた。


「体育祭の資料か……」


「うん、もう1ヶ月前だからね〜」


  笠原は手に持った書類にひと段落つけわたわたとこちらに来た。


 重ねられたものをペラペラと捲ると簡易スケジュールや大まかな競技内容などが記載されている。

 どうやらこれの冊子を作るいわゆる"雑用"を頼まれたわけか……。もう雑用部でいいじゃん。


「えっと……何か忘れ物でも取りに来たの?」


 キョトンとした目で俺の顔下から覗き込むように尋ねてきた。


「え、お前が俺に用事があって呼んだんじゃねぇの?」


「え!?私が!?」


 は?どーゆーことだよ。こーゆーの1番気まずいんだけど。呼ばれてもないのに呼ばれたとか言って来るやつとか自意識過剰のレベルじゃない。


 けどまぁ……どの道手伝うことになりそうだしまぁいいか。


 



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