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4.10 変な部活は部員も顧問も変わっている

 教室内には女子生徒が3人。荷物の置かれた一つの机を囲って居た。彼女らが居るのは教室後方。運良く俺の先は前方なのでバレない程度のチラ見をしながら自席へ座った。


 椅子を引いた際にカタリと小さな音が立ってしまったが話に夢中の彼女らには気付かれなかった。そう!こーゆー時に影の薄い陰キャは本領を発揮するのだよ!


 恐らく誰か人が来たらやめるのだろう。陰口というのはそう言うもんだ。俺の存在に気づいて居ないので当然その()()()に対する悪口は止まらない。むしろ加速してすらいる。


 スマホのゲームを開き、田辺先生が来るまでの時間を潰そうとしてもどうしても後ろの会話が耳に付く。


「わかるー。何様って感じだよね」

「あいつうちらに嫌われてんの知ってんのかな」

「ホントウザくない?最近マジで調子乗って……」

「ちょっと……!」


 ———会話が止まった。


 気のせいかもしれないが背中に視線を感じる。


………気のせいか。気のせいってことにしよう!うん!


「帰ろ」

「うん」


 嫌な空気が流れた後、かつかつと足音が遠ざかって行く。ふう、地獄空間はなんとか切り抜けたようだ。


 後ろを振り返ると彼女らの囲んでいた机にはぬいぐるみのようなキーホルダーが幾つも付いたバッグ一つが置かれているだけ。なるほど、そのバッグの持ち主がターゲットってことか。


 俺のチラ見した限りでは2人の顔は見えたがどちらも知らぬ顔だった。少なくともこのクラスのものではない。残り1人は会話の流れ的にボス格。後ろ姿でも分かる派手な印象だった。そして全員が運動部と思われるジャージを身につけていた。


 となると……部活関連ってことか?てか、そんなこと俺が気にしてどうすんだよ。


「お!いたいた!すまん柳橋。ちょっと遅れた」


 息を乱した田辺先生がキキーッと教室の前でブレーキをかけて駆け込んできた。


「もう帰っても?」


「おう。カメラだけ預かるよ、お疲れさん。それと……はいこれ」


 色々と書類の入ったカゴから1つの飲み物を取り出し俺に手渡す。

 そう言えば手伝う条件にそんなこと言ったっけか。にしても……。


「ありがとうございます。……コーラ……?」


「おう。お前がコーラを好んで飲むと風の便りで聞いてな」


  いや絶対神谷だろ。それしかない。実際好きだから良いけど。


「残念ながら俺の好みなんざ風ですら興味持ちませんよ。じゃ、失礼します」


 教室を出る際にふと、時計を確認すると18時20分を指していた。なんだよ、結局部活ある時より遅いじゃんか。



***



 夜道を進んで家に着くと家には誰も居なかった。暗いリビングに明かりをつけるとテーブルには2人分の夕食が置かれている。


「なるほど、あの人らはもう出掛けたってことか」


 土日に出掛けることは鈴から聞かされていたが金曜の夜からってことは知らなかった。どちらにしろあんまし変わらないから良いんだけど。


「ただいまー」


 玄関から疲れ切った鈴の声が届いた。少ししてリビングに現れ、俺を一瞥。


「今日なんかしてたでしょ」


 自分の荷物を床に放ると同時に「全て知ってますよ」みたいな目で俺を見る。


「なんかってなんだよ」


「放課後!カメラ持って田辺先生と何してたの、盗撮?」


 ホント、どいつもこいつも……。俺ってそんな変質者に見えるか?……見えるか……。


「ばーか、違ぇよ。あの人に頼まれてパンフレットの写真撮ってただけだ」


 聞いているのか聞いていないのか、特に返事もせず鈴は荷物の片付けを始める。やたら刺々しい口調やらそっけない態度やら……なんかいつもと違うな。


「おい鈴。なんか俺に怒ってんの?」


 キュっと蛇口を開けると俺には見向きもせずに答えた。


「別に……あれだけ面倒臭いって言ってた部活なのにわざわざ部活が休みの日にも手伝ってんだなぁって思っただけ」


「部活じゃねぇよ、今日は個人的に手伝わされてただけだっての。……てかそんなことでなんでお前が不機嫌になんだよ。俺が何してようがどーでも良いだろ?」


「まあそうだけど」


 そうなんかい!ここは「お兄ちゃんが心配だから!」とか言ってくれる場所だろ。それをマジトーンで返されたら返す言葉もないわ。


「でも、鈴に嘘ついたり知らないところでコソコソされるのはなんかムカつく。お兄の分際で」


 鈴は口を尖らせてそう言うと蛇口を閉めた。おい、最後一言余計だろ。


「別に嘘をついた覚えもねぇし何か隠してたつもりもねぇよ……しかもムカつくって……この前他の奴にも言われたわ」


 ほぼ1人ごとの声量で言った言葉に鈴はピッと反応。並べられた夕飯の前に座りながら俺に問うた。


「お兄友達出来たの?」


「この流れでなぜその質問が出る?出来たばっかの友達にムカつくって言う奴いねぇだろ。そんなん出来てねぇよ」


 悲しいこと自分の口から言わすなよ。鈴はモグモグと小さな口でサラダを食べながら質問を続ける。


「じゃあ誰?希美ちゃん?」


「違う。笠原(あいつ)は人にそう言うこと言えるような奴じゃない。お人好しだからな」 


 鈴は「確かに!」と頷く。


「じゃあ誰だろ……お兄に話しかける人ってだけでだいぶ絞れるしなぁ……鈴の知ってる人?」


「え、まあ知ってるとは思うけど……」


 いつのまにかクイズみたいになっていた。やめろよそんなの。その感じで行くと遅くても後5人以内で正解出ちゃうだろ。


「分からん!降参!」


「諦めんの早いな。もう少し考えろよ」


「やだよ面倒臭い」


 既に湯気の立っていないハンバーグを頬張り、鼻で笑われた。

 1人でギブアップか。兄貴切ない。友達でもなく知人ってだけでここまで名前が上がらないのも稀だろうな。


「で?正解は?」


 キョトンとした目で尋ねて来た。


「正解?」


「うん。さっき降参って言ったじゃん」


 あー、あれって答え言えってことだったのか。まぁ勿体ぶるものでもないしな。


「柏木って言う女王様気質の奴だよ。目が合うたびすげー睨まれる。バレー部だからお前も……」


「え!美香ちゃん!?」


「なんだよいきなり……」


 おいまさかこの反応……。嘘だろ。


 鈴は目を大きく見開いたまま食事の手が止まっている。そして不安色をチラつかせながら事実確認をする様に問う。


「え、お兄は美香ちゃんに嫌われてるの?」


「まあ、そんなとこだ……理由はよく分かんねぇけど」


 言っても理由なんて「なんかうざい」とかその程度だろうがな。


 目の前の鈴は「あーマジかー」と小さく嘆き、カチャと箸を置いた。


「明日うちに来るの美香ちゃんなんだけど」


「そうか、俺はだいたい予想ついてから別に驚きはしないな」


 と言っても最悪の場合としてだけど。しかし、俺が部屋にいれば良いだけの話だ。今までも遊びに来た鈴の友達に遭遇することなんか滅多になかった。


「ごめん、お兄と美香ちゃんが仲が悪いなんて知らなかった」


 鈴は申し訳なさそうに言った。


「仲が悪いってのはまた違うだろ。仲の良し悪しを判断するにはそれなりの期間が必要なわけで、僅かに言葉を交わした程度の関係だけで決められるもんじゃないからな。それに」


「あーもう!分かった!分かったって!」


 耳を塞ぎながらわーわーと俺の声を排除する。最後にご馳走様とだけ言うとシンクに食器を置いた。


「鈴もお兄と美香ちゃんが仲良くなれるように出来ることやってみるから」


「別にそんなことしなくていい。仲良くなりたいわけでもねぇし」



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