4.7 変な部活は部員も顧問も変わっている
俺が居ないとダメな用事でしかもどこかに寄らなければならない?まるで検討がつかない。
「時間とか……大丈夫……?」
「え、ああ、まあ……今さら時間の心配かよ。てか時間なかったら最初の時点で先帰ってるから」
「そうだよね。ごめん」
「いや別に良いけど。どうせ急いで帰っても寝るだけだし」
神谷の電車時間から考えると寄りたい場所というのは、数分で到着しそんなに時間も要しない場所なのだろう。自宅へ向かいかけていた身体を神谷の向く横断歩道へと向け直した。
5分ほど歩くと近くの公園へ着いた。近くに幼稚園がある関係で数人の園児が遊具で遊ぶ様子を母親らしき数人が微笑ましく見守っている。
公園の砂地に踏み込んだ辺りで神谷の足は止まり、その場でキョロキョロと辺りを見渡していた。
「懐かしいな、昔ここでよく遊んでた気がする……こんなところになんの用があるんだ?落とし物かなんかか?」
「ううん、そうじゃなくて……あ、あった」
神谷は遊具のある方向へてくてくと進んでいく。俺も目的も見えないままそのあとを追いかけた。
子供の遊ぶ大きな滑り台の脇を通過し少し進んだ先にある股がって遊ぶパンダの遊具の隣に立った。え、まさか……
「おいお前それに乗るの?いくら神谷でも流石に高校生の遊ぶ物じゃないぞ」
「そんなわけないでしょ。いくら神谷でもってどういうこと?……はぁ、私が用があるのはこっち」
そう言って指を指した先には数台の自動販売機。それを端から順に目を通している。
「自販機なら学校にもあるだろ。何でわざわざここまで……」
「ヤナギ好きなの選んで」
「え?なんで」
理解が追い付かず俺は神谷に視線を向ける。すると神谷はごそごそと自分のバッグの中を探り、何かを取り出した。
「これ……買って貰ったから。そのお礼。どうお礼すればいいか分からなかったから考える時間が欲しくて、でもヤナギはすぐ帰ろうとするから部室に無理やり呼んだの。それはごめん」
手に持っていたのは今日体育の時に神谷に買ったスポーツドリンクだった。
「いやいいけど……お礼って……別にそんなもののお礼とかいいから。俺も喉乾いてたからついでに買っただけだし……で、何でここ?学校のほうが安いじゃん」
「学校は種類が少ない。これも学校にはない」
神谷は自分の持つペットボトルを俺の方へ向けて見せた。
「けどまあ俺は別にいいよ。見返り求めてた訳じゃないし」
第一、ジュース1本にお礼なんかされちゃあ俺は鈴から莫大なお礼をされなければならなくなる。まあ、あいつに関しては少しくらいなんかあってもいいんじゃないかと思うけど。
「ヤナギ、選んで」
俺の声は全く聞きそうにないな……。
「……分かったよ。じゃあお言葉に甘えて」
すでに入金されていたので、俺は手近にあったコーラのボタンを押した。
ゴトンと音がして落ちる。その冷たいボトルを俺は拾い上げた。
「そういうのも飲むんだね。なんか男の子って感じ」
「まあな、基本的に好き嫌いはないから。俺の数少ない取り柄だ」
「そうなんだ」
くっと肩を竦めて笑う神谷。幼い顔から夕日に照らされた微笑みが溢れた。
「おい、そろそろ電車来るんじゃねぇの?」
「あ、そうだった!……ごめんねこんなところまで連れてきて」
少し申し訳なさそうにそう言うと神谷は自分の持っていたペットボトルをバッグへしまった。
「じゃあな、また明日」
「うん、バイバイ」
神谷はやや急ぎぎみに駅の方へと去っていった。
ふぅと一息吐き、コーラを一口含む。バチバチとした刺激が口と喉を突き刺し反射的に涙が浮かぶ。
コーラの刺激のせいか、気づけばあれほどまでに俺を襲っていた眠気が今は殆ど感じられなくなっていた。
***
ドアの隙間からバラエティー番組の話し声が微かに聞こえてくる。自室にいてもこれだけ耳につくのだからリビングに居ては到底身体が休まるとは思えない。
日頃からテレビを見る習慣はあるものの、これといって興味のあるものも無いので録画をして見ることはまずない。
同世代の男子はお笑いやらアイドルやら色々有るようだけどな。俺はサブスクで目についたアニメをたまに見るくらいだ。それ以外は惰性でしか見ない。
ベッドに仰向けで寝転がり自然と目が閉じるのを待つ。それこそが俺の娯楽の最高峰だ。
コンコンガチャ!
「開けていいー?」
「ぐっ!……って鈴!お前な答える前に開けんなよ……マジで心臓に悪いわ」
この家において俺のプライバシーは無いのかね。鈴も親も平気でズカズカ入ってきやがって。こちら高校生男子ですよ……。
「何?変なことでもしてたの?マジキモ」
「結論が早ぇよ……んで?何か用?」
鈴はあっ!と声を漏らして目を開き何かを思い出したような素振りを見せる。
「そうそう。今週末鈴の友達泊まりに来ることになったから……」
「へーそう。それがどうした?そんな報告今までしたことなかったじゃん」
鈴は小学生中学生と頻繁に友達を連れてきてはお泊まり会的なことをしている。両親の寛容さと家の自由度からかハロウィンやクリスマスなどのイベントではことあるごとにパーティー会場と化していた。
まぁ当然?そうとなれば俺は穴熊生活をすることになるわけだが、普段からそんな感じなので問題はない。いくらうるさくてもさすがにヘッドホンを着ければ寝られるし、食事は自室で風呂は先にシャワーを浴びれば良いだけだ。
まあ強いて言うなればトイレにと1階へ下りてきた時に偶然鈴の友達と出くわした時くらいか。あれは気まずい。たいてい互いに会釈をした後、俺が引く。
「まね、そーなんだけど。でも今回はさお父さんもお母さんも居ないからご飯とかどうするかなって」
あー、今週末温泉かどっか行くんだっけか?あの人たち。まったく自由人過ぎるだろ。それはそれで楽だから良いけど。
「一緒に食べる?」
「バカか!何でお前の友達に混じって俺が飯食わねばならねぇんだよ。気まずいわ。ラーメン屋かどっか行って食うわ」
鈴はキャハハハ!と甲高い声で笑った後、「りょーかーい」と指で輪を作った。
「あ、でも1人しか来ないよ。しかも家にも何回も来たことある人だし。バレー部の先輩」
「ん?……バレー部の先輩……?」
「どうかした?」
「いや、別に……」
バレー部で鈴の先輩……。一瞬にして恐ろしい人物の影が過った。けどまあうちの学校のバレー部は部員多いしな……、流石に……ないよな。
「すっごい優しい人なんだ~。中学の強化合宿から仲良くしてもらってる人。………あ、けど確かにお兄はあまり会わない方が良いのかな……」
「それはどーゆー意味だ?」
うーん、とポリポリ顎を爪で掻きながら考える鈴。
「相性、みたいな?」
うまい言葉が出てこなかったのだろう。鈴は苦笑いで誤魔化した。
「それなら問題ない。今まで俺と相性が良いやつなんぞ1人も出会ったことがないからな。俺も合わせる気はない」
「うーわ出たよお兄のひねくれモード。めんどくさっ!だから友達できないんだよ!…………ま、別にそのままでもいいけど」
オエーッ、とジェスチャーを入れて拒絶された。そこから小声で何かを付け足していたようだがよく聞き取れなかった。
鈴の俺に伝えるべき用件は済んだようでガチャンと乱雑にドアが閉められた。
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