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4.3 変な部活は部員も顧問も変わっている

懐かしい顔の並ぶ教員のページを通り越し各クラスごとの個人写真へと捲られていく。


俺と鈴の通っていた中学は1学年5クラスと、田舎にしてはそこそこ大きい学校だった。よって、アルバムを眺めても、部活もしていなかった俺は後輩との接点などまるでなく圧倒的に目立っていた数人の顔しか知らない。


「懐かしいなー」


時々手を止めながらも1枚1枚ページが捲られていく。俺も自然とそれを横目で見ていた。


「ごめんお兄見ても面白くないよね。鈴の学年に知り合いいないし」


「まあ……そうだな」


うん、知り合いって枠組みにされるとマジでいなくなるんだよ。俺が一方的に知ってるやつが少しだけいるくらいだからさ。


知り合いって思ってた人も居たよ。

中学2年の1学期の間図書委員でペアだった1個下の山田君。


ペアが変わって半月くらいにあった体育祭で「久しぶりだね」って話しかけたのに「どっかでお会いしたことありましたっけ?」って言われたときは流石に悲しかったよ。そこからは俺の中で他人枠に戻した。だから今は他人。


「あーあ」


バタンとアルバムを閉じ、鈴は両手を挙げてソファーへ体を投げ出した。


「どした?いきなり……」


「いやーやっぱ若干見飽きた感が否めないなーって。週3くらいで見てたからさ」


「そりゃあ見すぎだろ、中身が変わるわけでもないし」


「そうかなー。意外と途中まで気づいてなかった写真とかもあるけどねー」


背もたれに頭をごろごろとしながら鈴はテキトーに会話を続ける。こいつはどんだけ中学が楽しかったのやら。


「やっぱお兄の卒アル見てみたいな、希美さんのことも確かめたいし」


「笠原のことなら本人に聞けばすぐ分かんだろ?学校始まれば俺は部活同じなんだから」


う~ん。と天井を見ながら唸る鈴。出身校なんて隠す意味もないだろ。それに隠したところで同中のやつは必ず1人はいる筈だ。何をそんなに悩んでいるのか俺には分からない。


「鈴ね、この前聞いたんだ。『出身校どこですか』って。そしたら『恥ずかしいから内緒』って言われたの」


「恥ずかしい?」


鈴は浅くコクンと頷く


「そ、通ってた中学校名で恥ずかしいなんてことあるのかなぁ?」


なるほど。確かに意味が分からない。

私立では入試形態によって僅かながら意識されるらしいが、公立は皆同じだ。それをしかも出身中学校で?家から近い学校に通うだけなのに一体何を恥じることがあるのだろうか。


「けどまあ、うちの学校では無かったよな。多分」


「なんで?」


口をぽかんと開けてずっと天井を見ていた顔がくるっとこちらを向いた。


「だってよ、あんな奴いたら3年間同じ学年で知らないわけないだろ」


「あんな奴………って?どういう?」


やっぱ女子同士では分からないか。ならば教えてやろう。


「あんな人形みたいな目鼻立ちでそこら中の男を手玉にとるような振る舞いの奴ってことだよ」


「あーはいはい。誰もが目を引くほどの美人さんでお兄みたいな面倒臭いボッチ男子にも優しくて胸が大きい人ってことね」


「あーそうそ……ん?最後なんか足されてね?」


嫉妬みたいなのが付け加えられていた気もするが当の鈴は「何が?」ととぼけた顔をしているのでこれ以上聞き返すのはやめた。


「卒アルはお母さん達帰ってきたら聞いてみようっと」


「好きにしろ」


俺はテーブル上に置いていたスマホを持ち立ち上がった。せっかくのゴールデンウィークなんだ、休まな損だな。もう一眠りするとしよう。


「部屋戻んの?」


「ん?ああ。……なに?まだなんか買ってこいとか言わねぇよな」


もう外へは出る気になれない。さすがに次は断るぞ。


「いや、そうじゃないけど……パスタ食べないのかなぁって」


少しバカにしているともとれる妙な笑みで鈴はチラリと俺を見る。


「あ!やっべ忘れてた!」


急いで電子レンジへ向かい袋を開けたが、完成から既に何分も経っていたそれはぬるく、味も以前食べた物とは違うものになってしまっていた。



***



ゴールデンウィークが終わり、また今まで通りの日々に戻った。少しずつ暑くなり始めたがまだ十分過ごしやすい気候といえる。


結局休み中はシュークリームを買いに行かされたあの日以外ずっと家でニート予備軍のような生活を送り、挙げ句の果てアニメのサブスクまで始めてしまったのだからこれ以上の生活はないと謎の達成感に満ちていた。


そんな日々からまた退屈な学校生活が始まると思うと憂鬱にもなるよな。

思い出話が飛び交う中俺は静かに机に伏せた。


「おはよう。相変わらず眠そうだな」


雑踏の中でも真っ直ぐ鼓膜へと突き通されるような声。数秒間だけ閉じた瞼を持ち上げた。


「そう見えているなら話しかけないで貰いたいんだが」


「ごめんごめん、ちょうど教室に入って行くところを見かけたからさ」


綺麗な茶髪、額と頬に汗を光らせる中澤はカタリと目の前の席に腰を下ろす。ジャージ姿で首にもタオルをかけていることからも朝練でもしてきたのだろう。


「こんな朝早くから練習か……さすがスポーツマン」


俺には到底できそうもない。そう言う体力的なものは素直に尊敬する。


「今の時期は割と朝練してる部活は多いよ。地区大会が近いからね」


「なるほど、どおりで教室が騒々しくて汗臭いわけだ」


「はははは……言い方」


タオルで髪を拭きながら苦笑を浮かべた。


地区大会か……。高校2年ということもあり昨年より気合いの入っている連中が多いのだろう。人によっては今年で引退するってこともあるだろうしな。


本来俺には関係のないイベントだがこんなところで弊害が生じるのは想定外だった。朝から汗と制汗剤の入り混じった空気がモワッと沈殿する密室に閉じ込められるのも気分の良いものではない。


「そんで、俺の睡眠を邪魔するほどの用件とは?」


「あっはは……そう言われると言いにくいんだけど……今週は部活顔出せないかもしれないってことを……」


「何を今さら、そんなの前からだろ」


中澤がフルで参加した日があるのかも怪しい。そもそも常に4人必要な部活じゃないしな。それに、


「そういう話は俺じゃなくて笠原に言えよ。あいつが部長なんだから」


「俺もそうは思ったんだけど、彼女も今は忙しいみたいで……ほら色んなところの助っ人で」


そうか、そういう大きい大会にはあいつも駆り出されんのか。相談部はあくまで部活としての名を置く場所みたいなもんだったわけだしな。ってことは残るのは……。


「なぁ、俺と神谷だけで相談部活動する意味あんの?」


「……?どういうこと?」


中澤は俺の発言の意味が理解できないといった具合に小首を傾げる。


「神谷には悪いが俺らが目的で相談持ちかけるような人は居ないってことだ。ま、運動部の人も今は……その……忙しい時期みたいだしさ」


全く経験ないから知らんけど。


パソコンに来てる相談なんてその日返さねばならないとかそういうわけでもない。部室に直接来るのは誰かが連れてこない限りはあり得ない。そして今は人を連れてきそうな2人は部活で忙しい。条件は揃っている。


中澤は少し考えてからゆっくりと口を開いた。


「そうだね。……正直なところ俺も今はサッカーに集中したいし、それは笠原も同じだと思うから。彼女には俺から伝えておくよ」


時計を確認し中澤は自分の席へと戻っていった。


こうして“相談部”は一時活動休止となった。

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