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4.2 変な部活は部員も顧問も変わっている

端から見たらただ退廃的な生活を送り続けているようにしか見えないのかもしれないが、こんな俺ですら1ヵ月前まではアルバイトをしていた。

無論俺が自発的に始めた訳ではない。


中学を3年間帰宅部で通し、高校でも勿論そのつもりでいたが、それを危惧した母親が半ば強制的にバイトを勧めてきた。


月に3万前後と額にしてはさほど多くは無いのだが、特に買うものもないのでこれでも十分余る。


「何で突然バイト辞めたの?」


『あんまり興味ないけど』という感じで鈴が聞いてきた。別にふざける訳でもなく普通に答えようと思ったのだが、


「なんで……か……。そう言われるとこれといった理由はなかったな」


母親から進められたとはいえなんとなく初め、しばらくは困らないくらいの貯金ができ、約1年という区切りだったので辞めた。それだけだ。


それらしい理由でも転がってないかと紅茶を一口含みながら考える。


すると、目の前から呆れたような声が聞こえてきた。


「なんそれ?じゃあまた始めれば?」


「何でそうなるんだよ」


「え?だってお兄ちゃんの貯金つきたら鈴が困るし」


当然でしょ?みたいな感じのその目をやめろ。今は悪魔にしか見えねぇぞマジで。

謎の悔しさに奥歯がギリと鳴った。


「それに……そうしたらその……変な部活もやめられるでしょ……?」


鈴はさっきまでとは雰囲気を変え視線を逸らしながら呟くように言った。

いや、意味がわからん。ここでなぜ相談部が登場する?この感じだと鈴は俺に部活を辞めさせたいってことか?


「え……?それはどういう」


「やっぱなんでもなーい。ほら、早くシュークリーム買ってきて!」


わざとらしく言葉を被せ俺を声量で抑え込む。


「だから、行きづらいから嫌だって言ったろ?」


「いいからお願い!後生の頼み!お兄ちゃんのも買ってきていいから!」


ここに来て早口の畳み掛けか。勝負を決めに来たな。

まぁ今後のことも考えると行きづらいとか言ってらんないか。俺は一生この家に居座る気だし。親の脛はかじり尽くすつもりだし。徒歩圏内の店も他には殆んどないし。


「分ーったよ……。てか『後生の頼み』なんて言葉どこで覚えたんだ?しかも、『俺の分も買って来ていいから』って俺の金なんだから当たり前だろ」


しっかりとツッコミを入れたところで鈴は『そうでした!』と額をペチと叩き幼くタハハと笑った。


くそっ!結局いつもこれに騙される!



***



外へ出る最低限の身だしなみを整えて家を出た。別に連絡が来るわけでもないスマホを右手に3千円程入った財布を左手に持っている。


歩き慣れた歩道をただただ進む。俺の働いていたコンビニは学校までの通り道にあるため平日なら学校帰り、休日なら部活帰りの生徒が結構集まる。


そのため、城北高校の生徒はあまりこのコンビニで働きたがらず、常に人手不足なのだ。まぁそんなことは俺には関係ない。同級生とあって気まずくなることもないからだ。そもそも認知されていない。


周囲を見渡しても建ち並ぶ住宅の隙間に舗装道路が入り組んでいるだけというなんともつまらない景色だけが広がっている。


それもそのはず、都会でもない新潟県の中でもギリギリ5本指に入る程度の都会度。車が無いと不便ではあるが生活には困らない程度の都市なのだ。


同級生の話(盗み聞き)によると家から半径2キロ圏内にコンビニもスーパーもないなどと言っていたので、それに比べればいくらかマシな方だろう。


時間にして約5分程度で目的地に到着した。


いざ到着してみるとやはり、足がすんなりとは動かなかった。


「……やっぱ気まず」


休日の午後なんて人も少なく、なおさら入りづらい。店長にでも出くわしたら絶対何か言われるしな。


がらがらの駐車場で張り込み現場張りに中を覗いていると、


「ねぇ、あんた何してんの?フツーにキモいんだけど」


「うぎっ……!」


くっ、不意打ちによる驚きのあまり思わず変な声が出てしまった。


明らかに刺々しく俺の耳に突き刺さる声の主を確認しようとゆっくりと振り返る。


するとそこには、明るい長髪を1つに束ねスポーティーな帽子を被っている若い女性が立っていた。服装は上下白いジャージ姿で頬もやや紅陽していることからたった今まで運動していたのだろう。


「何キモい声出してんの?遠目でも分かるくらいキモかったんだけど」


そうそれは俺を冷めた目で見る……柏木……だよな?いや、なんかいつもと雰囲気が違うような……。


目深に帽子を被っていて全貌は見えないが、前見たときの美人でいてかつ尖った印象とは打って変わって、なんだか柔らかな雰囲気を感じる。てか普通に可愛く見えてしまう。もしかしてこの人は別じ……。


「なに」


「あ、いや……ははは……」


こっわ!間違いなく柏木だ。思わず目を逸らしちまった。確かこういう時の対処は目を合わせつつ後退りするんだよな。熊とか。


「……部活か?……あ、でもバレー部は今日休みか」


そのせいで俺がパシられてたんだった。


「は?なんであんたがうちの部活のこと知ってんの?」


「いやそれは……」


鈴が同じ部活である以上俺の存在は隠している筈……。ここで暴露するのは多分良くないよな。なんか俺犯罪者みたいな扱いだね。


「あっ!」


柏木は突如はっとした表情でそう発すると被っていた帽子をさらに深く被り直し、バッと顔を両手で覆った。


「……なんだよ」


「べ、別に!何でも無いわ!私はただコンビニに用があっただけだから!」


なぜか半ギレでそれだけ言い残すと柏木はずんずんと店内へ入っていった。


俺もあまり時間を掛けすぎるとまた鈴にどやされるので手早くシュークリームを1つ購入した。



***



「遅いんですけどー」


リビングに入るとグデーっとしたナマケモノが1人不服そうにソファーに横たわっていた。


「パシらせといて文句言ってんなよ」


ほらよ、と片手に持っていたシュークリームを渡し、俺はさっき食べ忘れていた昼食を摂ることにした。


がさごそと手当たり次第漁っていると冷凍庫にパスタがあったのでそれをレンジへ放り、慣れた手つきでボタンを押した。


「その速さは最早プロですな」


リビングから見ていた鈴が「ほほぉー!」と敬服の声をあげていた。


あいつが俺を誉めるなんていつぶりだ?なんか嬉しい。


「ふふん、コツを教えてやるよ、これは……」


「あーいいですいいです。一生要らない技術なんでー。お兄って変なとこに自信満々だよね」


おい、兄そろそろ泣くぞ。取り敢えず『お兄』と呼んでくれる事がまだ救いだけどな。これが『おい』とか『おめぇ』とかになったらおしまいだ。


パスタの温めが終わるまで少し時間が掛かるため、俺はソファーへと戻る。すると、目の前のローテーブルに出掛ける前にはなかったアルバムらしきものが置かれていた。まさか……。


「え、俺の卒業アルバム見つけたの?」


「違う違う。これは鈴の。さっきそんな感じの話してたら久しぶりに思い出に浸りたくなって……」


鈴はそれを両手で持ち昔を思い出すような顔を作った。


「お前卒業してまだ2ヶ月しか経ってねぇだろ」


鈴はまた『そうでした!』といった具合にタハハと笑うとそのアルバムを捲り始めた。

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