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3.12 運動会の雑用も楽では無い

なんだこれ?名簿の上に手書きのメモが挟められている。そしてそこには3人の男の子らしい名前と髪型や体型などの特徴が事細かに記されている。


「これ見て探せってことか……?」


どこまでも気が利く男だな。俺のコミュ症はお見通しですってか!ありがたく使わせてもらおう。 さてと……


「あれ?おっさんじゃん」


下方へ焦点を当てるとそこには借り物競争の時のあの小太りな男児がいた。


「ん?なんだお前か。なんか用か」


そいつはシシシと白い歯を見せツンツン頭をポリポリと掻く。


「なんか俺ボランティアの人とペア組めって先生に言われてて……」


「ボランティア……?」


俺はバインダーのキャラクター紹介のようなメモを確認する。すると、2人の名前のうち片方に『ぽっちゃり』『明るい』『短髪』と彼らしい特徴が記されていることに気がついた。それにもう一人の名前には※で担任と書かれている。


「お前が……佐野航大(さのこうだい)?」


「え!?そうだけど何で知ってんの?」


「俺の情報網を嘗めるなよ」


「こわー!」


大袈裟に声をあげ、騒ぐ佐野。


「お前が先生から言われたボランティアってやつ、多分俺のことだ。ほら行くぞ」


「えーマジかよ」


「それはこっちの台詞だ」


よりにもよってこのクソガキとペアを組まされるとはな。俺と佐野は取り敢えず渡された紙面の指示通りに並び腰を下ろした。



順番は割と後方。佐野は前後の児童をつついたり小石を投げたりして落ち着きなく動いている。


本当ならば俺のたち位置の人間が注意するべきなのかもしれないがそんなことは仕事の範囲外だ。俺は遠くを眺めリレーの成り行きを見つめる。


「ほら、遊ばないで。みっともない」


前方にいた児童の母親がパシッと頭を叩き佐野とじゃれあう我が子を抑制。そしてギロと俺に鋭い目を向ける。


「大変ですね、()()()


「はぁ……」


ん?なんか意味ありげな言い方だな……。もしかしてこの母親、俺が本当の保護者だと勘違いしてねぇか?親……ではないよな、さすがに。兄弟とか親戚とかに思われてんのかな。


わざわざ説明するのも面倒だしテキトーに謝っておくか。


「あ、なんかすみません……」


ったく、何で俺が謝らねばならんのだ。これ以上居心地の悪い思いもしたくないので後ろを向いてはしゃいでいる佐野の手を少し強めにこちらへ引いた。


「いってー、何おっさん!」


「何じゃねぇよ。お前がはしゃぐせいで俺が居心地悪いんだよ。俺はお前の保護者でも何でもねぇんだからな」


「…わかってるってー!」


一瞬シュンと怯んだように見えたがそんなことはどうでもいい。俺は今前後の母親の視線が痛くてしょうがないんだ。


そもそもこいつの親は何してんだよ。こんな落ち着きのないクソガキ放っておいて逆に心配じゃないのかね。


「あ、あのめっちゃ綺麗な人出てんじゃん!」


「ん?」


遠くを眺めていたが、佐野の『綺麗』という言葉に反射的に首が動いた。が、


「なんだ笠原か」


トラックを進む2つの背中を見ると笠原と大人しげな少女が掛け声に合わせてリズムよく軽快に脚を運び、後続を引き離していくところだった。


綺麗か……。ガキの目にもやはりそう写るんだな。確かに美人ではあるのだろうがこうも毎日見慣れていてはいちいち反応する筈もない。


「おっさんさあの人のこと好きでしょ!」


「ハァ、これだからガキは嫌いなんだよ……」


1度言葉を交わせば「あいつのこと好きなんだろ!」とはしゃぎ。ペア活動でペアを組めば周囲の何人もを巻き込んでからかう。


まぁそれもこれも小学生男子なんてこういう生き物だろって言われればそれまでだが。


「別に、ただ同じ学校の同じ部活ってだけだ」


「つまんねー」


「つまんなくて結構……俺達もほら、掛け声とかどっちの足からかとか決めた方がいいんじゃねぇの?そろそろ足も縛らないとだし」


気が付けば男子の方へバトンが渡っていた。しかし、佐野は動く気配がない。トラックを走る親子をぼんやりと眺めている。


「おいどうした。足出せって俺が縛ってやるから」


「別にそんなのテキトーでいんじゃない。ただの運動会だし。勝っても何があるわけでもないし」


なんだコイツ、急に機嫌悪くなったな。


佐野は人差し指を地面に突き立てぐりぐりと砂を弄りながら目も向けず、呆れたように吐き出す。


「それで良いなら俺もそうしたいところだ。だがな、ここをテキトーにやりでもしたらお前の親、友達、その保護者、教員、相談部員、全ての批判が俺に向くんだよ。お前には分からないだろうがそう言うことも……」


「どうだっていいじゃん周りなんか。あと俺の親なんてそんなの気にしないし」


俺の言葉を遮るように佐野が割り込む。


「あのなぁ、お前が何にそんなイライラしてんのかは知らねぇが俺にも立場があるんだ。無くなってもいい繋がりとこれとは別問題なんだよ」


話を聞いているのかいないのか、一切態度を変えず、それどころか横柄な態度は加速してすらいる。一体何に怒ってるんだか……。とにかく何としてでも説得せねば。


「俺と一緒にやることが嫌だってんなら参加しなかったお前の親にぶつけてくれ。俺はお前の心情なんざ知ったこっちゃねぇからな、他人に迷惑かけない程度にはやることやれよ」


親という言葉に一瞬ピクリと反応した。やはりこの機嫌の悪さは他親子への嫉妬かなんかなのだろうか。


「おう柳橋、お前も二人三脚出るんだな」


「え、まぁ……」


くそ、このタイミングで一番めんどくさい田辺先生が現れやがった。さっきまでどこ行ってたんだよ。


──いや、待てよこの人を上手く利用すりゃあこのクソガキも説得出きるかもしれない。一応先生だし……。


「いやー、ハハハ困りましたよまったく。突然二人三脚やりたくないとか言われまして……」


「お前が相手なら無理もないだろ」


「どーゆー意味ですか」


「お前の思った通りの答えだと思うぞ」


そうですか、……返す言葉もねぇよ。


田辺先生は既にやや日焼けしたようにさえ見える腕を組みふむふむと状況確認のような仕草をとる。


「……うん、いい課題じゃないか。お前の応用力が試される場面だな、頑張れよ」


おいおいまさか丸投げかよ!あんたそれでも教師か。


「目の前の困っている生徒を助けてくれないんですか?」


「勘違いするな、お前の成長を助けてるだろ」


ダメだこりゃ。

そうこうしてるうちに順番は迫り来ている。佐野の態度は依然として変わらない。くっ……どうすべきか……。


数少ない対人経験から無理やり絞り出そうと頭を捻る。


──そして、たった1つだけそれらしき案が浮かんできた。


いや、案と言うか最終手段だな。最善と呼ぶには程遠い気もするが……時間もないしこうするしかないか。


「佐野」


俺はわざとトーンを変えて奴を呼ぶ。これまでとは違う様子にさすがの佐野も勘づいたらしく、少し溢れ出た焦りを誤魔化そうと目を細めわざとふてくされた表情を俺へと向けた。


が、そんなことはどうでもいい。俺は片手に持った足を縛る布を強引に佐野の足首へと巻き付けた。


「おい!何すんだよ」


暴れようが所詮小学生。いくらガリガリ陰キャボッチと言えど力は俺に分がある。ものの数秒で他親子と変わらない形態になった。


「最低限やることは黙ってやれ。お前が誰にムカついてようが周りには関係ない」


必殺“チカラワザ”!身近にいるんだよな、反論できないようぐっと押さえ込むのが上手い例の人が。


どうやら佐野もこりたようでふてぶてしい態度を取ってはいるが反抗は収まった。

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