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3.10 運動会の雑用も楽では無い

気持ち悪かったしこりも解消し、再び沈黙が降りてきた。中澤が目の前に居ることもあり、先程招待されたLINEグループにも参加。メンバーは俺で4人目だった。いつぶりだろうな、俺の所属するLINEグループが出来るなんて。


程無くして、目的のコンビニに到着した。神宮寺は相変わらず言葉も交わさずに1人で飲料コーナーへ進んでいく。

そんな様子に中澤も「仕方無いな」と呟き、俺と共に弁当、おにぎり、パンなどのコーナーへ進んだ。


「うーん……ここまで種類があると適当って言われてもな……それぞれの好みくらい聞いておくべきだったよ」


棚前で立ち尽くす中澤を他所に、俺は幾つかの菓子パンを買い物かごへ入れていった。おそらく昼時のサラリーマンによるものだろうが弁当は大方無くなっている。


「何でもいいだろ。食いたくなけりゃ食わなきゃいい」


「そうも行かないよ、自分で選ぶとやっぱり自分がどれになっても良いように好みで選んでしまうからさ……俺達ばかり好きなものを選ぶのは悪い気がする」


まったく、どいつもこいつもお人好しかよ。


「じゃんけんとは言え俺らがパシりに使われてること忘れたのか?そんくらい良いだろ……お前も早く選べよ」


かごを中澤に押し付ける。中澤はそれを受け取ると遠慮がちにおにぎりやサラダなどを入れ始めた。


「ちょっと、これ、僕と会長と田辺先生の分だから。先会計するのでお金貸して貰えます?」


3人分のお茶と幾つか残っていた大きめの弁当が入ったかごを俺達2人へ見せつける。


「……ああ会計別にするんだね……はい」


中澤が戸惑いながらも預かっていた5000円を手渡すと、それを雑に受け取りレジの方へ歩いていった。


「本当徹底してんな」


「……うん、そうだね……俺達も早く買って戻らないと」


続いて飲料コーナーへ移動する。すると、買い物かごに躊躇なく入れられた予想外のものに目が行った。


「しじみ汁……何でもいいだろうとは思ったけど流石にこれはマイナー過ぎだろ」


「そうかな?おにぎりならこういうのの方がいいって人もいるかなって思ったんだけど」


「いねぇよ。おっさんか」


中澤はそう?と不思議そうに棚へ戻した。こいつもちょいちょい抜けてんのか?まあどうでもいいけど。


「俺なんかよりさ、神谷とか鈴ちゃんのことなら柳橋くんの方が良く知ってると思うからその二人の分は柳橋くんに任せてもいい?」


「別に良いけど」


言うのが遅すぎる。まあ俺も若干その2人の好みそうなものを予測して選んでいた節もあるので別段問題はない。




買い物を終えコンビニを出た。神宮寺が計算もせずに買ったため俺たちの方はややお金が足りず、俺が出す羽目となった。ったく、弁当は反則だろうが、あれ1つで500円越えてんじゃん。


しかもそのせいで、


「本当に申し訳ない。俺も少しは出すよ」


ずっと中澤はこの調子だ。鬱陶しい。


「良いって言ってんだろ300円くらいしか出してないし」


なんなら神宮寺から金をむしりとりたいね。プライドお化けもここまで来るとさすがにウザい。


帰り道も行きと同様中澤が時々俺に話しかけ、それに俺が応じるという一連の流れが繰り返されていた。


小学校へ戻ってきた。木陰で1つにまとまった城北高のボランティア連中は俺達を見るや否やテントの下へと誘導し、此方も言われた通りその後ろへ付いていった。


中は長机とパイプ椅子。5月初めということもあり、さほど暑くもないがじめっとした木陰で食べるよりかはいくらか良いだろう。


「昼休憩の時だけこのテント借りられることになったから、ここで昼ごはん食べてね」


買い出し組の3人へ会長が伝え、俺達も適当な場所に座った。3人掛けの机に左から順に俺、中澤、剛田と座り、前の机には神谷、笠原、鈴、と座る。生徒会の2人は田辺先生のいる隣のテントへ向かっていった。


袋2つ分の食料を振り分けるため、向かい合わせになるよう机をくっつけ、中央にパンや飲み物が広げる。


「これどれでもいいんですか?」


「うん……一応誰っぽいなぁってのは考えて買ってきたんだけど」


剛田は空腹を露に身体を乗り出すも、中澤にやんわりと制された。もうほとんどしつけされてる犬だろ。


「俺が剛田と笠原の分を選んで、柳橋くんが神谷と鈴ちゃんのを選んだんだけど……はい!」


手際よく笠原と剛田の昼食を取り分け2人の元へ渡していく。


剛田はコーラ、ホットドッグ、肉巻きおにぎりと見ただけで胃がもたれそうな肉肉しいもの。剛田も「優也さんやっぱ分かってますね!」と満足げだ。


それに対して笠原にはミルクティ、コーンサラダ、サンドイッチという健康的なチョイス。彼女もまた嬉しそうな表情。


中澤は2人の反応を確認し、「良かった」と胸を撫で下ろすと残ったものを袋ごと俺へ差し出してきた。


「お前のは取らねぇの?」


「俺は最後で良いよ。誰でも食べられそうなものを選んだから交換したい人がいればしてもらって構わない」


こいつがそう言うならまぁいっか。俺は手元に来たレジ袋をガサゴソ探る。そして1割の記憶とそこから得た9割のイメージから選択したそれらを彼女たちの眼前に並べた。


「私のはこれ……?」


「ああ」


「リンゴばっかり……」


神谷用に選んだのはリンゴジュース、アップルパイ、リンゴのゼリー。まあ当然その反応ですよね。


「悪いな、お前の好きなものリンゴジュースくらいしか知らなかったからさ、リンゴは確実に嫌いじゃないだろうと思って……」


少ない情報の中で外れを引かないためには得策だったんだよ。失敗する確率が1%でもある道は選ばないってのが俺のポリシーだからな。100点を狙わず50点キープって感じ。


「だからって克実さんそれはヤバイって!」


「うーん……柳橋くんぽいって言えばそうだけど……」


「お兄ホント無いわ」


剛田、笠原、鈴という三連撃を受け、さすがの俺も僅かばかり反省し押し黙ってしまった。というより圧に負けた。


しかし、当の神谷は何事もなかったかのようにその小さな口で平然とアップルパイを頬張っていた。


「私は好きだから良いけど……」


神谷の本音なのか情けなのかよく分からない発言にフォローされ、その場は一悶着。と思ったのも束の間、今度は鈴の方からの苦情だ。


「クロワッサンと、このサラダは分かるんだけど……何でルイボスティー?」


「お前好きって言ってなかったっけ?カタカナのナントカティー。それじゃないの?」


「あーお兄全然ダメだ。鈴が好きなのはジャスミンティーだから」


知らねぇよ、ナントカティーって覚えてただけマシだろうが。俺がいなけりゃ誰か一人はしじみの味噌汁だったんだぜ。まあその事もあってか中澤は特に口を挟まずやり取りを眺めてるだけだけど。


残ったものはお茶2本とおにぎり2つ、サラダ2つとほぼ丸かぶりだったので俺と中澤でそれぞれ選んだものを取り、各々食べ始めた。


食事中は寄せ集めメンバーにしては想像以上の盛り上がりを見せていた。主に笠原と剛田が中心となり、その流れに乗るようにして中澤と鈴がコロコロと会話を運んでいく。思いの外神谷も輪の中に入り込んでいた。


ただコンビニで買ってきた昼食を食べるだけでここまで楽しそうな顔が出来るとは……。俺との感性の違いを見せつけられた気分だった。

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