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14.3 陰キャも時に対応力が求められるらしい

「それで、明日の計画は立てたの?」


 差して興味がないのが透けて見えるぶっきらぼうな態度で鈴が尋ねてきた。


「いや、特には。祭りに計画って必要か?」


 そう、明日は夏祭りの日だ。俺もさまざまな経緯から今年は参加するが、重要そうな待ち合わせ時間なんかはもうすでに打ち合わせ済み。そもそも、


「計画なんて立てたところでどうせ混みすぎて思い通りにいかないだろ」

「いやいや、普通あるじゃん。『◯◯は絶対食べよう』とか『花火はどこで見ようか』とかさ」

「あー……」


 なるほど。でも柏木のLINEの受け答えからするとそこまでの熱量は感じない。"!"とか"笑"とかスタンプも使わない淡白な文面ばかりだ。


 それに、俺自身祭りと疎遠すぎてどんなものが売ってるかすらあんまり分からないしな……。花火だって一般的にどこら辺から見るものなのかすら分からない。


「美香ちゃんからは何にも言われてないの?」


「そーゆーのはあんまり言われてない気がするな」


 最近の記憶を思い出しながらLINEのトーク画面を順に眺める。

 実はここ数日間、1日数回くらいの頻度では連絡を取り合っていた。というより、あのキャンプの後から柏木からやたらとどうでも良い連絡が来るようになった気がする。

 今日も犬派か猫派かなんて絶対興味ないであろう質問が来ていた。だからついさっき「懐いているなら犬、懐いていないなら猫」とご丁寧に回答したところだ。


「あ、なんか言ってたな。確か『型抜き?』とかいうやつ行きたいって言われてた」


「へー、で、お兄はなんて答えたの?」


 少し興味を持ったのか、鈴はずずっと身を乗り出す。


「まぁその時はよく分からなかったから『美味そうだな』って」

「そしたら?」

「『別に美味しくはない』って」


 てっきりクッキーか何かかと思ったんだが。

 後で調べたら確かに一言目の感想が「美味そう」ってのはおかしかったのだと分かった。


 鈴は俺の答えを聞くや否や「はぁ」と深いため息をついて額に手をやった。


「だめだこりゃ……他には?」

「いや、それっきり」


 どの電車で行く予定だとかその辺の話はしたが、祭りの中身についてはほとんどしていない。


 やっぱあの時ちゃんと調べてから答えるべきだったか……。家族との業務連絡LINEばかりのせいで反射的に既読をつけて今ある知識のみで回答してしまうのは俺の悪い癖なのかもしれない。


「まぁそんな決める必要もないか。鈴も毎年行ってるけど結局最後は時間持て余してる気ぃするし……。色んな人と合流してごちゃごちゃになったりね」


 鈴のとはちょっと違う気もする。俺の場合、仲の良い友達と行くわけでもないし。けど、


「それはなんか嫌だな」

「美香ちゃん取られるから?」

「違ぇよ。予定にない人と会ったりすんのは疲れるからあんま好きじゃないってこと」


 陰キャにそんな対応力あるわけないだろ。

 けどその辺は心配無さそうだ。勝手な思い込みかもしれないが、柏木も俺と似たような感覚を持っていそうな気がする。


 鈴は「お兄っぽ〜い」と雑な相槌を打ち、近くにあった個包装のチョコレートを口に放り込むと、「ん?」とまた眉間に皺を寄せた。


「お兄からして美香ちゃんってどうなの?」

「いや別にどうって言われても……」

「違う。変な意味じゃなくて。普通に友達?として」


 真顔で言われたせいで質問の意を勝手に飛躍させたことが無性に恥ずかしくなってきた。


 それを隠すためにも少し体制を整え鈴へ向き直る。


「まぁ友達なのかどうかは分かんないけど……楽に話せる人って感じ……あんま気も使わずに」


 それは多分鈴の存在も大きいけど。端的すぎたのか、鈴はあまり納得のいっていないように首を傾げる。


「気も使わない……へぇ」


「なんだよ……」


 試されているような目で見られたせいで一瞬「あれ?変なことでも言ったか?」と天井を仰ぎ思考を巡らす。が、思い当たる節はやはり何もなく、再度鈴へと向き直る。


「いや、なんか意外だったから。てっきり怖いとか話しづらいとか言うのかと思って……」


「それはまぁ、まったく思わないってわけじゃないけど。流石に慣れた。あの刺々しい感じにも……悪いやつではないし」


 そう。最近になって思ったこと。

 柏木は普段から語気こそ強いが、その言葉に悪意はあまり感じない。

 それに、すごくキレやすいタイプにも見えていたが、案外そうでもなさそうだ。おそらく小爆発は多いが大爆発はあまりしないタイプ。けど小爆発の威力は高め。

 

「確かにね。あと、結構誤解されやすいけど美香ちゃん本当は凄い優しい人だから」


 鈴はさらりとそう言うと鼻歌を歌いながら部屋から去っていった。

 なんだ、結局大した興味もなく暇つぶし程度に聞いてきただけかよ。真面目に考えて損した気分だ。


「へぇ、そう……」


 カタンと扉が閉まる音にかき消されるくらいの声量で独り言に似た相槌を溢した。


 なるほどね。

 優しい……か……。確かにそう取れる部分もないわけではない。特に彼女の身内贔屓は異常だ。味方に回れば最強って感じ。敵対したらおしまい。


 あと、俺の勝手なイメージでは、柏木は強い言葉は使っても汚い言葉とか中傷に当たるような言葉は口にしない気がする。普段は冷徹な表情で尖った態度だが、自分の好きなことの話をしている時とかゲーセンにいた時なんかは笠原より幼く見える瞬間すらあった気がする……いや、それは言い過ぎか。


 柏木(かのじょ)についてあまりしっかり考えすぎると明日会った時恥ずかしくなりそうなので、俺もスマホの画面を消してリビングを出た。



***



 白昼からドンドンと太鼓の音にベッドを揺らされ目を覚ました。

 バイトもない最後の休日くらい休ませて欲しいのにそうもいかないものかと生あくびを噛み殺す。

 

 クーラー無くして今日の暑さは凌そうもなかったので仕方なくリビングへと向かうと扉の奥からは鈴のキーンとする声が階段中腹まで突き抜けて聞こえてきていた。


 あの野郎またリビングを占領してやがるのか。


 鈴意外の声も聞こえるからどうせまた「お祭り行く時間まで家で遊ぼう!!」的なノリで呼んだんだろ。

 けどまぁ先を越されちゃあ俺から言えることは何もないが。


 仕方ない。

 目立たぬよう食料と水分だけ確保したら扇風機で我慢するか……。


「なんだ、克実起きてたの?」

「あぁ、今起きた」


 自室へと折り返しかけていた背中に今から家を出ようとしている母さんの声が届いた。


「今日はあんたも夏祭り行くんでしょ?」

「まぁ……」


 話が早ぇよ。俺何も言った覚えないんだけど。


「良かったよ、あんたにもそういう友達ができて。気をつけて行きなさいよ」

「あぁ」


 こういう時だけ母親らしい言葉を言ってきやがる。

 ただ母さんの言う"そういう"が柏木を指すような意味合いの言葉では無さそうだけど。

 

 ヨレたシャツから見えていた横腹を隠し、トサカのような寝癖をぐしゃっとボリュームを抑えると軽くノックし俺は静かにドアを開けた。



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