11.9人脈は関わる人間によって増えていくらしい
外の景色はすっかり山道へ変わったようだが、到着まではまだかかるらしい。俺はバスに揺られながら静かに欠伸をした。そして、ふとある事を思い出す。
「そう言えばお前、体育祭の時の笠原との事は……」
「ちょっ!声がデカいって!」
「あ、すまん」
中澤に制止されて言葉を紡いだが、危うくご本人様の前で言ってしまい中澤に激怒されるところだった。
にしてもこの焦りよう。相当本気らしい。
「で、どうなったんだ?」
「何だよ急に……そんなに面白いか?」
少し不機嫌そうに言う中澤。それを横に見るのは確かに少し面白い。
「別に急って事もねぇだろ。俺は今日の打ち合わせが進んでた時から中澤は何か好機を狙ってんじゃねぇかなって思ってたけど」
中澤はため息を吐き呆れたように俺を見る。
だが俺としても裏のアレコレを知りながら両者と接するのは無駄に気を使うようで嫌なんだ。何も知らされていないのに、後になって「お前あそこは空気読めよ」とか言われるのが1番ダルい。
「そーゆーのはこそこそやりたいんだろうが、1人くらいアシスタントがいた方が楽じゃねぇのか?無理にとは言わんけど」
特に応援はしてないけど無意識に邪魔はしたく無い。今後も関わっていく間柄だ。
「うーん……そうなのかな……確かに少し距離が縮まらないかなって期待してたところはあるけど……」
恥ずかしいのか、視線を俺とは反対方向へ向けて小声で言った。
「俺も体育祭の時で片足突っ込んだ身だ。自然消滅とか1番つまらん終わり方されたら俺の行動も全部無意味になるだろ」
「うん……そうだな」
少し納得したように頷く中澤。そしてついに、
「分かったよ……でも俺も何か計画があるわけでは無いからな」
「了解」
あれ?なんか俺がめちゃくちゃ囃し立てたみたいになったな。多分ウザがられた。まぁ良いや。
ぽつりぽつりと雑談を広げ、窓を眺めながら少し進むと例のキャンプ場らしき景色が見えてきた。
***
家族……子供……老夫婦……同僚?……まぁ色々な人達が居る。それぞれ取るべき間隔を空けながら各々のキャンプを楽しんでいるようだ。
そんな中俺達は、人だかりから少し離れた河原にて準備を始めていた。
「これをこうして……よし、出来た!」
「凄い!中澤くんやっぱり手慣れてるねぇ!」
「そんな事ないよ」
手際良くテントの組み立てを終えた中澤に賞賛が集まる。やはり中澤はこーゆーのに手慣れているようだ。周りへの指示まで完璧にこなすとは流石としか言えん。
「じゃあ私達はあっち行ってくるね!」
そう言うと笠原達3人は水道へと向かって行った。今回はあらかじめ段取りとして火起こしを俺と中澤、簡単な調理を笠原、神谷、柏木の3人で行うこととなっていた。
「じゃあ始めようか」
中澤がテキパキ動くから俺もそのペースに乗せられるように動かざるを得ない。
火を起こすと言っても殆ど中澤が率先してやってくれた為、俺はほぼそれを真似るだけに終わった。
思いの外早く終わり食材が来るのを待つ。
「なぁ、なんで柳橋くんはこの高校を選んだんだ?」
目では揺れる炎を捉えながら中澤が口を開いた。恐らく興味は無いが他に話す話題がなかったって感じだろう。
「家から1番近いから。あとは俺の中学あんまりレベル高くなかったからこの学校でも難しい方に分類されてて受ける人が少なかった」
「あー、そうなんだ……確かに倍率高いと大変だしね」
「ん?……ああ、そうだな」
解釈はちょっと違うがまぁ良いだろう。
「中澤は?近場にもっと良い場所無かったのか?」
「俺はなんとなくかな。色々と考えてたら」
なんだその曖昧な答えは。そんなんみんなそうだろ。深く聞くほど興味はねぇけど。
「あ、そう言えば……」
「ん?」
何か思い出したように中澤が話し出した。
「生徒会の選挙もうすぐだったよね?」
あたかも誰もが注目する一大イベントのように言う中澤に少しイラッとし、無意識に俺は横目で見る。それに中澤は「ん?」と首を傾げた。
「それがどうした。俺には関係ない……いや、今年は関係あるのか?」
そうだ。去年は最終的に誰が選ばれたのかすら知る必要もなかったが今年はもしかしたら……。
「え?どーゆー事?」
「ほら、また相談部で何か手伝えとか言われかねないだろ?そーゆーの笠原は好んで手伝いそうだし」
またしても雑務を投げられると思うと今から気が重いな。
「いや、まあ、そうかもだけど…….」
「何?仕事回されたらお前もやれよ?サッカー部が忙しいから、とか無しだからな」
「分かってる分かってる……厳しいな……ハハハ」
やっぱり逃げる気でいたか。こいつは肝心な忙しい時にこそ姿をくらませるから油断ならない。次こそは労働を押し付けてやる!
「いや……それもそうなんだけど……今回の選挙で笠原が生徒会長に立候補するらしいって……」
何故かあまり覇気のない尻すぼみの声で中澤が言った。
「へぇ、そうか。それは良い」
一瞬にして現れた気怠さが直後に拭い去られ思わず声を上げてしまうと中澤は少し驚いたように俺を見る。そして、
「そう……だよな、そう言うの向いてそうだし、絶対笠原がなるべきだよな……」
まるで自分に言い聞かせるような口調で頷いた。こいつは何を言いたいのだろうか。俺にはまるで理解できない。
「は?そんなん誰がなろうが俺はどうだって良い」
「え?じゃあなんで?」
「だから、あいつが立候補するとなればあいつは自分自身の仕事に忙しくなって手伝いどころじゃなくなる。そうなれば自然と相談部全体も断りやすくなるだろ?」
全く。ところどころあるんだよな。俺と中澤とで話が噛み合わない事。生き物が違うから仕方ないけどさ。
「あ……そう言うことか……柳橋くんらしい」
納得したように笑う中澤。
でも変だな。さっきの言い方じゃあまるで笠原の立候補に賛成しているようには見えない。
「お前は笠原になって欲しいって感じじゃねぇの?……まさかお前も立候補するつもりだったとか?」
「え……いや……」
マジかよ。どーでも良いけど。
まぁそうとなれば真っ向から笠原と勝負するのは気が引けるのかもな。中澤もだけど笠原もかなりの票集めそうだし、単純に一筋縄ではいかない強敵になるだろう。
「もし、そうだとしたら柳橋くんはどっちに入れるんだ?」
中澤は何気ない感じを装いながら俺に尋ねる。俺は足元に落ちていた小枝を火の中に投じた。
「公約も無いのに選べってのか?人気投票かよ」
俺は多分その時の気分だな。前までは1番簡単な名前の人にしていたが。
「そうだな、今聞くのはおかしいか」
「けどまぁ実際公約なんて気にして選ぶ奴殆ど居ないだろ?実質人気投票みたいなもんだし」
平等にチャンスがあるように見せながら、どうしようとも埋まらない大きな差が存在するのが生徒会選挙だ。とても不平等なシステムとは思うが仕方がない。ポテンシャルという不平等な条件に目を背けた平等なのだ。
手頃な枝を砕き再度火の中へ投じたところで、ワイワイと楽しそうな声が近づいてくるのが聞こえた。
どうやら準備は整ったらしい。




