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第7話 『一方、バレットたちは①』

「おいバレット! 俺の取り分、たったこれだけかよ!」


 ギルドの年季の入ったテーブルの向こう側で、ゲインが不機嫌そうな声を上げる。


「ちょっとバレット! あたしもなんか少ないんですけど!」


「僕もだぞ! なんだこの額は!」


 ゲインの抗議を皮切りに、シルビアとフェイも俺に文句を言ってくる。

 ザコどもがピーピーうるせぇな……!


「半分も魔石を持ち帰れなかったんだから、当たりめーだろ! むしろあの状況で生きて帰ってこれただけ、マシだろーが!」


 はあ……心底うんざりだ。


 あの悪夢のようなダンジョンから命からがら逃げ延びられただけでも十分だってのに、コイツらときたら……!



 ――ツタの魔物が目の前に現れた、あのあと。


 俺は気づくとシルビアに介抱されていた。

 魔物の一撃で胸甲はひしゃげているし、息をするたびに激痛が走る。



 が、シルビアの持っていた回復薬のおかげで一命はとりとめたらしい。

 まだ息をするだけで痛みが走るが……まあ仕方ねえ。


 しかし、シルビアはただのビッチだと思っていたが、たまにはいい働きをするじゃねえか。

 今度、酒の後に誘ってやるか。


 ……その後、あのツタの魔物があとから何十体も追いかけてきた。


 マジで死ぬかと思った。


 そいつらをどうにかしのぎ切って命からがら第一階層までたどり着いたときには、追ってきた魔物のあまりの多さにダンジョンが崩壊しかけていた。

 どうにか脱出するまで、生きた心地がしなかった。

 

 だが、そうやって苦労して持って帰ってきた魔石は半分以下だった。

 荷物持ちの『へっぴり虫』の野郎が大半を持っていたからだ。


 そのおかげでギルドからは規定量を満たしていないと文句を言われ、報酬どころか違約金を払わされるところだった。


 だがそこは、この俺だ。


 どうにか規約の裏を突いてみたり担当した職員の態度に文句を付けてみたりとゴネにゴネて、どうに違約金を免れ、多少ながらも報酬をもぎ取ることができたのだ。


 こいつらに感謝されることはあっても、非難されるいわれはない。

 

「でもよ、バレット。この額はないぜ。これじゃダンジョンに置いてきた『へっぴり虫」と変わらねえよ。なんとかならねーか?」


 なおもゲインが食い下がってくる。

 くれてやった銅貨十枚を厭味ったらしく見せながら、だ。


「どうにもならねーよ! だいたい満足に報酬が出なかったのは、テメーが『へっぴり虫』の野郎から魔石を回収しなかったせいだろうが。銅貨十枚でも多すぎるくらいだ!」


  ちなみに『へっぴり虫』の奴は『あまりにも使えないから』という名目で『除名(クビ)』にしておいた。


 死亡を確認する暇はなかったが、もともと自分の国だか家だかを追い出された身寄りのないヤツだ。

 まあ、問題ないだろう。


「ああ!? 俺のせいってか? あの状況でどうやってだよ!? そもそも俺がテメーを担いで退避してなきゃ、その『へっぴり虫』の野郎と一緒に魔物のエサになってたんだぞ? つーかよ、そもそも油断して魔物にやられたのはテメーだけなんだよ」


「あぁん? 斥候職ごときが、おもしれ―ことほざくじゃねーか。俺にケンカで勝てるとでも思ってるのか?」


 そろそろ限界だった。

 最近ゲインは調子に乗ってやがる。

 ここらで一度シメて、誰がリーダーか分からせてやる必要があるな。


 俺は側に立てかけてある大剣を握った。

 ちょっとした脅しだ。


「クソが、なめんじゃねーぞ!」


 だが、ゲインは本気にしたようだ。

 生意気にも腰の短剣に手をかけやがった。


 ほう、上等じゃねえか。

 ……マジで分からせてやるか。


「ちょ、ちょっと二人とも! こんなところでケンカしないでよ!」


 慌ててシルビアが止めに入ってきた。


「フェイ、あんた男でしょ? 止めなさいよ!」


「フ、フン……僕は野蛮なこいつらとは違うんだ。魔術をケンカなんかに使うつもりはない。放っておけばいいだろう」


 だが俺は、フェイの手が震えていることを見逃さなかった。

 こいつの魔術は使えるが、後ろから魔術を打つだけの腰抜けだ。

 この状況じゃ、虚勢を張るくらいが精いっぱいだろう。


 だが、シルビアは違ったようだ。

 スッと真顔になると、静かに席を立つ。


「はあ……もう限界。あたし、抜けるから」


「おい、シルビア!?」


 ゲインが慌てて短剣から手を放し、シルビアを呼び止める。


「邪魔しないで」


 だが、シルビアはゲインの手を振り払ってギルドを出て行ってしまった。


「…………」


「…………」


「…………」


 気まずい沈黙が、取り残された俺たちの間に流れる。


 なんて女だ。

 たったの一度、ちょっと報酬が少なかっただけでパーティーを抜けやがった。

 ありえねーだろ!


 だがさすがに、この後もゲインと言い合いを続ける気にはならなかった。

 ゲインも、同じ考えのようだった。


「チッ。今回は我慢してやる。次報酬を渋ったら、俺も抜けるぞ。おーいシルビア、待ってくれって!」


「……僕も用事がある。次はきちんとした報酬を頼む」


 そう俺に言い捨てると、ゲインは慌ててシルビアを追って出ていった。

 そのどさくさに紛れて、フェイもそそくさとギルドを後にする。


「オイコラ、何見てんだよ!」


 どうやら近くの冒険者どもや職員が俺たちの様子を見物していたようだ。

 だが俺がひと睨みしてやると、全員がサッと目をそらした。


 フン。腰抜けどもが!


「しかし、まずいな……」


 実のところ、今回の依頼で飲み屋のツケを返済する予定だったのだ。

 飲み屋には、バックに裏の連中が付いている。


 今日はどうにか拝み倒してやりすごすつもりだが、そう何度も使える手じゃない。


 クソ、どうにかして金を工面しないとマズいな。


 

「よし、明日からは毎日ダンジョンに潜るか」


 つまるところ金だ。

 金は、ギルドに魔石を収めりゃどうにかなる。


 まあ、ゲインどもはあれこれ文句を付けて取り分を減らせばいいだろう。


 今までだって、俺の取り分は五分で我慢してやっていたんだ。

 次回からは八分でいくか。


 ククク……我ながら完璧な計画だな!


 さて、今後の目途が立ったならやることは一つだ。


「~~♪」


 俺は鼻歌を歌いながら、なじみの酒場へ向かうのだった。

お読みいただきありがとうございます!


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