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第40話 『次の旅へ』

「おかえりなさい、ルイ君」


「ただいまです、シャルさん」


 いつものようにダンジョンを攻略して集めた魔石を、ドンとカウンターに置いた。


「今日は一段と多いね。……うん、質も完璧! 最近調子いいんじゃない?」


 魔石を慎重に選別しながらも、シャルさんが話しかけてくる。


「それはあれですよ、ダンジョンのコアが元通りになったせいですって。あとは……俺には、『氷姫』もいるし」


「またまた~『魔王』様が何をいっているのやら」


 シャルさんが茶化すように言う。


「やめてくださいよ……そもそもまだ俺には『二つ名持ち(ネームド)』なんて荷が重いです」


 カーバンクルたちの一件からもう三か月ほどが過ぎていた。


 その間にいろんなダンジョンを攻略したし、強力な魔獣を何体も討伐したのは確かだ。


 だが、いくらなんでも『魔王』とかいう二つ名はないだろう。

 ああ、心当たりがないことはないのだが……


「裏社会で暗躍しててギルドでも手を焼いていた『邪神教団』をたった一人で壊滅状態に追い込んだ君が『魔王』でなければ、誰が『魔王』なんだ、って話でしょ。教祖様、取り調べ中に君の名前を出すだけで気絶して失禁するから大変だったらしいよ?」


 ああ、そんなこともあったな。

 あれはちょうどひと月ほど前のことだろうか。


 アグルスにはびこる邪神を崇拝する連中が巻き起こした騒動に巻き込まれたときに、その邪神……として崇拝されていた幻獣とあっさり契約してしまったせいで、教祖の自尊心が崩壊して頭がおかしくなってしまったということがあった。


 まあ、あれは事故みたいなものだ。俺は悪くない。

 ちなみに俺と契約したあと、邪神はすぐに『神域』に帰ってしまったのでここにはいない。


 というか……


「そもそも論なんですけど、せめて『魔王』以外の二つ名にならなかったんですかね?」


「うーん……それは私が決めた話じゃないし。ごめんね☆」


「ギルマスか! ギルマスのセンスか! チクショウ!」


 ちなみギルマスは首都に出張中とのことだ。

 俺はやり場のない怒りをカウンターにぶつけた。


「『魔王』という称号がふさわしいのは貴方を置いてほかにいない。……素敵」


「ソーニャ、君もか……」


 彼女の熱っぽい目(だが無表情)が、俺を見つめている。

 俺は頭を抱えた。


 ……まあ、二つ名を与えられるのは冒険者としては最高の名誉だというのは理解している。


 一般的には、英雄の類だ。

 俺だってそれはよく理解している。

 ただ、納得していないだけだ。


「それとルイ君。話は変わるけど……風のうわさで聞いたんだけど、しばらくアグルスを離れるんだって?」


 ああ、そういえばシャルさんにちゃんと伝えていなかったな。


「はい。今度はずっと北、ソール大凍結湖の向こう側にある『魔界』の奥地にあると言われる遺跡を攻略してみようかと思っています」


「……それじゃあ、長くなるね」


「多分半年くらい、ですかね」


「そっか。……ちゃんと帰ってきてね」


 シャルさんが少し寂しそうに笑う。

 彼女にはちょっと悪い気もするが、そうして帰る場所に待ってくれる人がいるというのは、とても温かい気持ちになるものだ。


「はい。絶対に帰ってきますよ。なんたって俺は『魔王』ですから」




 ◇




「おい! 『魔王』様のお通りだ! お前ら、頭を下げろッ!」


「オス!」「オッス!」「シャオラ!」


 城門前の大通りに野太い声が響く。

 見れば、何十人ものどう見てもカタギには見えない男たちが直立不動で道の両脇に整列していた。


 通行人がドン引きした様子で、そそくさとその脇を通り抜けてゆく。


 ……うわぁ……


「……おいカーバンクル。いったいこれは何の真似だ?」


「おお、兄貴! 待ってました! ご苦労さまです!」


 直立不動の大男たちの影から、優男が出てきた。

 光の霊獣カーバンクルの人間の姿こと、カールだ。


 カールはドン引きする俺の前までやってくると、ドヤ顔で大男たちの方を振り向いた。


「コイツら全員、僕のファミリー『赤の輝き』の幹部なんですよ。兄貴の門出を一目見たいって、みんな聞かなくって」


「おいカーバンクル。今すぐコイツらを解散させろ。俺はお前らと関わる気はない。何度言ったら分かるんだ」


 俺が邪神と契約したせいで発狂した教祖をぶっ飛ばしたせいで、裏社会の一大勢力でだった邪神教団が壊滅し、勢力図が完全に書き換わってしまったのは知っている。


 だがそのせいで「アグルスにはとてつもなくヤバい冒険者がいる」と裏社会の連中にたいそう気に入られてしまったのは……完全にに誤算だった。


 ちなみに元はチンケな金貸しだったカールはどういう手管を使ったのか、そのどさくさに紛れ裏社会の連中をまとめあげ、一大勢力へとのし上がってしまった。


 その結果がこの大惨事だ。


「またまたー冗談きついっすよ兄貴!」


 俺の心中を知ってか知らずか、カールが例のヘラヘラ顔で話を勝手に続ける。


「いやー、僕らもあのクソ忌々しい邪神教団には手を焼いてましたからね。ヤツらをあっという間にぶちのめした兄貴の姿はマジでスカッとしましたからね。それで幹部連中はみな心酔しちまったんですよ。男の中の男だ! ってね!」


「ウス!」「ウッス!」「シャオラッス!」


 イカツイ大男たちが一斉に俺を見た。

 もちろんカールもだ。


「ウソだと言ってくれよカーバンクル……」


 俺は頭を抱えた。


 そいつらが一人残らず、伝説の英雄を見た子供みたいなキラキラした目で俺を見ていたからだ。

 もちろんカールもだ。お前……幻獣だろ……


 新しい旅路に向かおうというのに、すでに心が折れそうだった。


「……ルイ君、ここで皆斬り捨てておく? ちらほらと生死問わずの賞金首が混ざっている。ギルドか衛兵に引き渡せば、路銀の足しになるはず」


「ひっ!?」


 凍てつく空気をまとわせ大剣を抜くソーニャに、大男たちが青ざめた。

 『氷姫』は裏社会でも有名だ。

 まあ彼女は斬ると言ったら斬る女だからな。


「いいよソーニャ。ケチが付く前に早く行こう」


「……貴方がそういうのなら」


 ソーニャが大剣を納める。


「「「ま、魔王様、行ってらっしゃいませ!」」」


 畏怖と安堵の入り混じった野太い声に見送られながら、俺たちは城門をくぐったのだった。




 ◇




『ふう、ようやく一息付けたのじゃ』


『わふ』


 城門を抜けると、ウンディーネとフェンリルがポーチから出てきて、俺と並んだ。


 ウンディーネも最近は街で買い物に行けるくらいには人見知りも治ってきたのだが、さすがにあの野郎どもの前では無理だったらしい。


 まあ、俺もポーチに入れたなら入りたかった。


 ちなみにドリアードはいつものように、ポーチの中で昼寝中だ。


「ウンディーネ、今度の幻獣はどんなやつだ? 魔導書の記述じゃちょっとよく分からなかったからな」


 俺は街道を歩きながら、ウンディーネに話しかける。


『うむ。あやつ……ベヒモスは、山のような体躯で重力を操る『神獣』じゃ。気位も高く、容易に人間と契約をするヤツではない。それに邪神やドラゴンよりもはるかに強力じゃ。心してかかる必要があるじゃろうな』


「そうか……だが、相手にとって不足はないな」


「ルイ君ならば、きっと問題ない」


『うむ。我ら幻獣の力を使いこなすお主ならば、きっとベヒモスにその力を認めさせることができるじゃろうて」


「ああ。想像するだけでワクワクするな」


 最強の召喚術士になるその日まで、絶対に歩みを止めない。

 そう心に誓って、俺は街道を進むのだった。





 了

お話はここまでとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言]  面白かったです。スライムウンディーネ可愛かったですね、あと、カーバンクルは憎めないキャラでしたw  良い物語をありがとうございました。
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