表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

12 ハーレム要員の変化再び




「ねぇ、早紀ちゃん」



 学校からの帰り道、いつも通り美香の家へ向かう途中、美香が口を開いた。

 それまで二人ともずっと無言で、あたしはちらほらと見え始めた、小さな草花――フキ、ノゲシ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ナズナにハコベ、ノボロギクにカラスノエンドウ――を見つけては、もうすぐ春がくるのだなあ、と可憐な姿を探していた。



「今日は、やめとこっか?」



 振り返ると美香は、俯いて足を止めていた。



「今日は……ちょっと勉強したいなって。ほら、私達、ちょくちょく向こうに飛んでるじゃん? 戻ってくる頃には勉強したこと、忘れかけてたりとかするし。っていうか、学期末試験、ヤバかった」


「そうなの」


 一緒に勉強する? と誘わないのは、あたし自身、勉強は一人でしたいタイプだから。

 俯いたままの美香を、下から覗き込む。怯えるように視線をこちらに向けると、美香はすぐに視線を外した。



「ほんとのとこ、学校終わってようやく早紀ちゃんと二人きりなれるのに。その時間、奪われると、早紀ちゃん禁断症状出て、私毎回、ヤバいことになるんだけどさ」



 無理にひねり出したように笑ってみせる美香は、覗き込んでいたあたしを見ようとはしなかった。



「……そーいうこと言うの、初めてね」


「えっ?」



 美香が振り返る。



「美香が言い訳じみたこと言うの。初めてな気がするわ」



 美香は一瞬ひるんだように下唇を噛んだ。そしてにっこりと笑う。



「早紀ちゃんが、そういう可愛いこと言ってくれるのも、初めてだね」



 美香の手があたしの頬に触れる。美香の細い指は冷たい。



「言い訳って、それ。早紀ちゃん、拗ねてる? 私に執着してくれてるってことだよね?」



 そうでしょ? と囁く美香の吐息があたしの唇をかすめる。そしてゆっくりと重なる。柔らかく。

 リップを塗ったばかりのせいで、まるで名残惜しいとでも言うように、勝手にあたしの唇の皮が離れ際、少しだけ美香の唇を後追いする。

 しっとりとした両手であたしの頬を包み込む美香。ふわっと柔らかく。



「早紀ちゃん、ほんとに可愛い」



 そう言う美香の瞳に、情欲の色は見られなかった。春の訪れを知らせる小さな草花が、霜の下で身を縮めていた。






 儀式化していると、それだから、実のところ薄々気がついていたのかもしれない。

 儀式化だなんて。

 そもそも始まり自体が、ただの予行練習だったはずだ。

 ご指導ご鞭撻、どーもありがとーございました。とーっても勉強になりました。以上。それ以外に何の感想を持つべきなのだろう。


 他の感想。

 もし、加えるとすれば薄情なあたしには、ひとつだけある。


 安堵。


 真っ先にこの胸に浮かんだもの。偽りで塗り固められた虚飾に満ちた、退屈な猿芝居の中、偽りのないただ一つ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お昼に読ませていただいておりました((* ´ ` )* . .)) 神無月、が印象的でした⸜(*ˊᗜˋ*)⸝ こちらでは神在月になるのでパワーが増してる感じです♪ オパールってそんな石言葉…
2022/04/05 22:47 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ