01 放り込まれたのはハーレムパーティー
地球ではない、よくわからない世界に放り込まれるようになったのは、一年前のこと。
始まりは中学の理科の授業中だった。
それはよくある、蒸留実験。水とエタノールの混合液を、沸点の違いを利用して分離するアレ。誰でも知っている、基礎中の基礎。どこに謎の隠れようもないシンプルな実験。
アルコールランプで加熱する。ごく当たり前の手順。
それなのに突然フラスコが爆発し、沸騰石が飛び散り、なぜか七色に輝いたかと思うと、その瞬間、あたしは教室ではない、見知らぬ場所に降り立っていた。
実験グループの同じ、卓也と美香とともに。
そのうちなぜか卓也は勇者だと崇め奉られ、魔王城だとかいうわけのわからない恐ろしい場所へ冒険に行かなくてはならなくなり、パーティーとかいうものを組むことになって。あたしも美香もそのパーティーの一員にされていた。
RPGになじみのある卓也と美香はすぐに馴染み、だけどあたしは混乱するばかりで「おまえはヒーラーな。後方支援っつーか、足手まといになんねーように、バトル中はどっか隠れとけ」と言われても、意味が分からなかった。
そんな中で、勇者様、勇者様、と卓也はいつの間にかパーティー内外からちやほやされるようになった。
パーティーのメンバーは気が付けば女だらけ。卓也のハーレム状態。
美香は呆れながら「あ~あ。卓ちゃん、よくあるハーレム勇者になっちゃった」なんて溜息をついた。
「だけど、こうなる前から、私は卓ちゃんが好きだった。だから早紀ちゃんにも負けないよ?」
そんな宣戦布告を受けて、負けず嫌いのあたしが「あたしだって、負けないんだから!」と返して、それからどれくらい経っただろう。
あたしも卓也も美香も、ずっと向こうに滞在し続けるのではなくて、ステージをクリアすると地球、いや、日本に戻ってくる。あたし達が姿を消したはずの瞬間に。タイムラグはない。
あたし達三人は、通常の人生の倍くらいの時間を享受しているのか、もしくは本来あるはずの未来を削って、時間と体力とを異世界で戦っている分に充てられているのか。それはわからない。
ひとまず時間の喪失という点においては、日本で日常生活を送ることにさほどの支障はなかった。
自分の脳みそが混乱することを除いては。
卓也は中学でも、偉そうにふるまうようになった。
美香は中学でも、卓也に媚びるようになった。
あたしは。
あたしは、日本の普通の中学校で、あちらにいるときと同じように素直に卓也に縋るなんてことは、自意識が邪魔して、どうしてもできなかった。
いや、違う。
あたしは向こうにいるときだって、素直じゃなかった。