漫才「選挙」
漫才・コント37作目です。よろしくお願いいたします。
この作品は、youtubeにも投稿しております。
教室で、ホームルームが始まった。
担 任「来月、番長選挙がありまーす。今日から受け付けるんで、立候補を予定している者は手を上げてくれー」
教室内を見渡す担任。
担 任「えーと、二人か。厽山と、丗川だな」
ノートに名前を書く。
担 任「あれ? 厽山、お前、先月の学級委員選挙にも出てただろ。残念だったけどな。で、今度は番長選挙か?」
厽 山「ええ」
担 任「やめとけやめとけ」
厽 山「なんでですか?」
担 任「どうせまた落ちるんだからさ」
厽 山「そんなこと、わからないですよ」
担 任「わかるさ。こないだの選挙でお前は人気がないってはっきり出ちゃっただろ」
厽 山「そんなことないです。接戦でしたもんね」
担 任「接戦?」
厽 山「39票対38票。たったの一票差」
担 任「あのな、39+38はいくつになる? 言ってみろ」
厽 山「えーと、77」
担 任「このクラスに生徒は何人いる?」
厽 山「四十人ですけど」
担 任「そうだな。77人もいないよな」
厽 山「そういやそうですね。なんでだろ?」
担 任「お前に入っていた票は、一票だけ。自分で入れた一票だけだったんだよ」
厽 山「なんですと?」
担 任「39票対1票だったと、正直に結果発表したら、お前はどうなる?」
厽 山「へこみます」
担 任「そうだよな、へこむよな。生徒が傷つかないように配慮するのも教師の役目でな。俺が一票差で落ちたように結果を細工してやったんだよ」
うなだれる厽山。
担 任「知らなきゃよかったとか言って文句たれるなよな。今のはお前に言わされたようなものなんだからさ。あーあ、教師っていうのは難儀な商売だよなあ」
担任が視線をノートに落として消しゴムをかける。
担 任「これでわかったろ。立候補は辞退でいいよな」
厽 山「いやです」
担任が顔をあげて厽山を見る。
担 任「なんでかな?」
厽 山「前回人気がなかったのは分かりました」
担 任「うんうん」
厽 山「でも出ます」
担 任「どうしてかな?」
厽 山「リーダーになりたいんです。立候補するのは自由なはずでしょ」
担 任「そりゃ自由だけどさあ、お前がへこむ姿を見たくはないんだよなあ」
厽 山「先生は諦めが早すぎますよ。選挙運動はこれからなんですよ。僕は番長になってリーダーシップを発揮したいんです」
担 任「そういうことも大事だろうけど、番長としての基礎的な素質がお前にあるとは思えんのだよ」
厽 山「たとえばどんなところが?」
担 任「おまえ、停学になったことあるか?」
厽 山「ありませんけど」
担 任「ほらみろ。そんなんで不良が務まるもんか」
厽 山「遅刻だったら、したことありますよ」
担 任「そんなの俺だってしょっちゅうだ」
厽 山「ふん」
担 任「教師を殴ったことは?」
厽 山「ないです」
担 任「ほらこれだ」
厽 山「先生の悪口はしょっちゅう言ってます」
担 任「早退したことあるか?」
厽 山「いいえ」
担 任「ずる休みしたことは?」
厽 山「ありません」
担 任「番長っていうのはなあ、半分は欠席するもんなんだぞ」
厽 山「授業中は半分うわの空です」
担 任「けんかしたことあるか?」
厽 山「弟となら」
担 任「かつあげは?」
厽 山「されたことなら」
担 任「やっぱり番長には向いてないよ」
厽 山「次の質問をください!」
担 任「今から隣の教室に行ってあばれることはできるか?」
厽 山「無理ですよ」
担 任「じゃだめじゃん」
厽山が立ち上がって、
厽 山「僕は成績がよくないから。せめて内申書で印象を良くしておかないと」
担 任「・・・なるほど、そういうことだったのか」
厽 山「これしかないんです。学級委員とか、番長とか、リーダーシップを発揮したって、内申書に書いてあれば、進学にしろ就職にしろ、多少は評価してもらえるんじゃないかと」
担 任「お前の気持ちはよーく解った」
厽 山「じゃあ、立候補してもいいんですね?」
担 任「番長はやっぱりあきらめたほうがいい。その代わり、週番をやらしてやろう。どうだ? やってみないか?」
厽 山「うちの学校に、そんなのありましたっけ?」
担 任「お前のために作ってやるよ」
厽 山「はあ」
担 任「名前に番がくっついてるんだからいいだろう、週番やれ」
厽 山「それって一週間だけですか?」
担 任「毎週やっていいよ。お前しかいないんだから。なんなら卒業するまで任せてやってもいいぞ」
厽 山「内申書はどうなります?」
担 任「番を張っていたと書いてやるさ」
厽 山「引き受けます」
担 任「ついでに日直もどうだ?」
厽 山「おお、二刀流ですか?」
担 任「ああ。先生からの、たってのお願いだ」
厽 山「任せてください」
担 任「がんばれよ、お前の粘り勝ちだな」
厽 山「えへん」
得意顔の厽山であった。
読んでいただき、ありがとうございました。