俺なりの高校生活の送り方
読んでいただきありがとうございます。ごじゅおんです。このはなしは朝起きた時に思いついた話を膨らませながら連載していこうと思っています。高校3年間ずっと一人のはずだった男「夏音」のお話です。気に入っていただければ幸いです。
プロローグ
ドクドクドク...
なぜ緊張すると心拍数が上がるのか、俺の頭の中のwikiは「筋肉が緊張するから」との検索結果を出した。そんなことを考えながら、俺は目の前の「子」に緊張が伝わらないように、一度深呼吸をした。
I
俺はなんの取り柄もない普通の高校生である。いや普通とも言えない、昼休みも休み時間も、教室の隅っこで本を読んでいるような悲しい普通にもなれない高校生なのだ。俺の頭の中のwikiにはこういう俺みたいな高校生は大抵「学年一位の秀才」であるとの検索結果を出しているが、実際にその通りである。頭の中のwikiは嘘をつかないが、参考文献には到底なり得ない。そんなことを考えていると一日が終わる、そんな学校生活を送っていたら、もう入学してから半年が経っていた。ある日一人の同級生が声をかけてきた。
「なんの本を読んでいるの?」
俺は声には出さず本の表紙を見せた。だがこの子は何か不思議そうな顔をしている。わかんなかったのか?と思い、もう一度表紙を見せようとすると
「カバーついてるから見えないよ」
と言われた。俺は不覚にも顔が赤くなってしまった。あまりに恥ずかしさに心拍数がどんどん上がっていく。そして慌てて隠れていた表紙を見せると
「それ面白いの?」
と聞かれた。俺は首を縦に振った。「ふーん」と言ったあの子は
「君、かわいいとこあるんだね」
と言った。俺は頭の中のwikiは上がった心拍数を下げながら全力でどういう返答がいいのかの検索をかけた、そして「検索結果0件」という結果が出る前に、あの子は他の子たちと話しを始めてしまった。俺の頭の中のwikiはこういう状況にめっぽう弱い、自分でもよくわかっていないのだが特定の状況下では全くと言っていいほど使い物にならない。「またアップデートしに行くか」と心に決め、いつもの本屋へ立ち寄る。店主の峰さんに今日会ったことを簡単に話し、アップデートに必要なものがなんなのかを聞いた。すると
「お前は恋愛ものを見たことがないだろ?」
と言われた。
「なんでそんなことわかるんだよ?」
と聞くと、峰さんは
「俺の頭の中のwikiがそう言ってんだよ」
と笑いながら言った。少しムッとしながらも俺は峰さんにおすすめされた本数十冊を買い、代わりに必要のなくなった本数冊を売ることで、頭の中のwikiの恋愛コーナーに割ける容量を増やした。家に帰ったあと早速情報のアップデートを開始した、あの時の返答で正しかったのは「ありがとう」だったのか、それともはにかみながら「あはは」と愛想笑いをすることだったのか、答えが出ないまま次の日を迎えた。次の日また自分の席で本を読んでいるとあの子が
「今日は何読んでるの?」
と声をかけてきた。俺は読んでいた本の名前を言う。すると「そんな恋愛小説も読むんだね」
と言われた。
「読んじゃわりーか?」
と俺が聞くと、笑いながら
「ぜーんぜん」
とあの子は言った。俺は少し話をしなみようと思い
「君は本は読まないの?」
聞くと、あの子は
「君じゃなくて。みさきよ、みさき。みさきの『み』にみさきの『さき』でみさき」
とみさきは言った。俺はもう一度
「みさきは本は読まないの?」
と聞いた。すると
「ぜーんぜん、漫画ならけっこう読むけど」と笑いながらみさきは言った。
「そういえば君名前は?」
と目の前のみさきが聞く。俺は
「かのん、かのんの『夏』にかのんの『音』」
と答えた。今考えればこの頃からだろう、俺の人生が頭の中のwiki と予測とは全く違うものになっていったのは。