伯爵家のミソッカス⁉︎ 4
ドタドタドタッ
バンッ――――…
「アシル坊っちゃま! 助けて下さいませぇっ!」
何事?
そして、どうして衣類が乱れているのデスカ?
え、これ誰かに見られたらヤバくないか。
泣いているメイド(服が乱れている)が俺の寝室
で床にへたり込んでいる。
マズイマズイマズイ!
「えっと、ドアは閉めて!
じゃなくて、何があったんだ?
あ、ドアは閉めて」
当然、女物の服などない為、ひとまず羽織をかけてやった。
俺のだから、小さくて心許ないけど仕方ない。
だって完全に隠せる布なんて、シーツと掛け布団くらいしかないし。
ほら、アウトじゃん。それって。
シーツぐるぐる巻きで出ようものなら、俺の不名誉な噂が広まっちゃうからね。冤罪ダメ、ゼッタイ。
「ゔうっ、ありがとうございますぅ」
「あー、泣くな。
で、どうしたの」
「実は坊っちゃまに魔法で綺麗にして頂いた後、質問攻めに合いまして。
坊っちゃまがして下さったって言ったら、何か特別な化粧品を貰ったと勘違いされて、さらにヒートアップしちゃって……」
「お、おお」
「さっき、汗を流そうとしたら――、持ってるんでしょ!って、先輩方に服を無理矢理……ぐす」
お風呂入ろうとしてたのかぁ〜、ハッ、いかん。違うだろ、俺!
女性の美に対する執着は、どの世界・時代でも共通なんだな、やっぱ。
「そうだったのか。それは悪いことをした。
きっと皆驚くだろうとは思っていたんだが、そんなに追及されるとは」
「うぅ。これじゃ仕事になりません!
どうにかして下さいませぇっ」
「どうにかって……あ、無効化出来るか試してみる?
俺もやった事ないし、ちょうどいいや」
うん。万事解決じゃん。
元に戻れば、夢でも見てたんじゃないですかー?でイケるし、スキルの練習も出来る。
「え゛。何でそんな睨んで、、、怒ってるの? 」
ほっぺをぷくっと膨らませて睨まれても、可愛いだけなんだが。
「坊っちゃま! 私はせっかく理想の色白を手に入れたのに、戻れって仰るんですかっ! あんまりです! 」
えー。
「じゃあ、どうしろと」
「うっ、それはアシル坊っちゃまが考えて下さいよぉ」
図々しいな、おい。
ていうか、坊ちゃんだよね、俺。
同僚でも、友人でもないよね。
いくらフレンドリーでも、越えられない壁があるはずじゃん。
俺は仕えるに値しないってか。
「めんどう」
「ええっ⁉︎ そんな、酷いじゃないですかぁ。
私をこんな身体にしておいてーっ! 」
「うん、ちょっとボリューム下げようか。
誤解されるから」
「誤解なんかじゃありませんっ!
坊っちゃまが、私をこうしたんですっ。
もう、私…ぐす、アシル様なしではっ」
「やーめーてー、今すぐやめて!
お願いします、口を閉じて下さい。
俺まだ子供だから。こんな歳からヤンチャBoyと思われたくないからっ! 」
わざとか、わざとなのかっ!
ひとまず、メイド長に相談することにした。
マリアンヌはめちゃくちゃ嫌がっていたが、俺の知ったことではない。
「アシル様、如何されましたか」
どうやら彼女は、何か誤解している様だ。
なかなかの形相でマリアンヌを見ている。
いやでも、きっと普段からやらかしているに違いない。
ダメイド臭がする。
「ちょっと相談があるんだ。
マリアンヌにスキルの練習に付き合ってもらったんだけど、メイド達の中で騒ぎになっちゃって」
「……彼女を見れば、おおよそ検討はつきます。
騒ぎを収めれば宜しいのですか? 」
「うん。まぁ」
「他にも何か」
ゔっ。メイド長のこの目、苦手なんだよなー。
ピンと伸びた背筋に、ピッチリ撫で付けられた髪。極め付けは、感情を感じさせない顔。
はっきり言おう。怖いです。
ディオン兄やクレア姉より、怒られた記憶がある。
俺は知ってるぞ。先月のお見合い、会ってすぐ断られたらしいじゃないか。36歳、独身。
この世界では、完全に行き遅れだ!………とは、思ってません。嘘です。だからその目止めて下さい。
「その、練習は続けたいな〜なんて。
だけど、スキルの副作用とかは何も分かってないから、少しずつ試したい、な」
「つまり。揉めない様に私に仕切れ、という事ですね」
「はい」
「分かりました。後ほど希望者を募って、シフトを作ります」
「宜しくお願いします」
「では失礼致します」
こえ〜。綺麗な顔なんだから、もう少し笑えば良いのに。
ちなみに。お見合いで即断られたのは、先月で6回目だ。
無表情に加えて、言葉がキツいからな。言ってる事が正しいだけに、余計億劫になるのだろう。世の男性は。
どうか早く、結婚相手が見つかりますように。
ただの恋人でも良い。メイド長を軟化させてくれ。
「わぁ! メイド長にお任せすれば、安心ですね〜!
これで私も助かりましたぁ」
あー、うん、そうね。君はね。
俺は、また1つ株を落としたけどね。
「じゃ、そういうことで。仕事に戻りなよ」
「えーっ! せっかくサボれると思ったのにぃ……っあ」
聞かなかった事にしてやろう。
というか、関わらないでおこう。
「マリアンヌ、戻れ」
「ハイ、タダイマッ」
にしても、全く役に立たないスキルだな。
性別間違えた。せめて顔が良ければ………。
効果の持続時間にもよるが、美意識の高い令嬢相手になら、良い商売になるかもしれない。
社交界シーズンは長いから客にも困らなさそう。
―――胡散臭いな。安直に商売を始めるのは危険だ。
サルヴェールの名に傷がついても困る。
嗚呼、神よ。何故俺なんですか。
「本当っ、失礼ね!
だいたい私は、男神じゃなくて女神よ!
間違えないで。あと敬いなさい。信仰が足りないわ」
「いや、男神か女神なんて今関係な―――い゛⁈ 」
部屋に急に女の人がっ。身体のラインが出る、装束みたいな白いドレス着てる! しかもテロンテロン。もはやスケスケと言っていい。エロ……じゃなくて、痴女だ! 変態だ!
―――っじゃなくて。不法侵入、賊か! しかし間違っているぞ。
父様やディオン兄なら納得だが、俺を暗殺しても百害あって一利なし。残念だったな!
「アンタ、それ自分で言ってて、哀しくないの」
「事実だから仕方ない……え。声に出てた? 」
「出てないわ。でも全部丸分かりよ。今考えてることも」
読心術か? すご、ファンタジー!
丸分かりで十分なのに、全部を付け足すところが嫌味だな。
「だから、それも丸分かりだからね」
「あっ。そうか」
で、本当にどちらさん。
「アフロディーテ。分かるでしょ? 」
「いや、分からん」
「はあ? 信じらんない。私を知らないの?
あーやだやだ。こんな子に加護なんてあげなきゃよかった」
え、もしかして、女神様ですか。
夢か? 夢だな。ついに気が狂ったか、俺も。
「アンタ、いい加減にしないと天罰を下すわよ。死にたいの」
「死⁈ まさかこれしきのことで?
女神って心狭いんだ」
「ちょっと。何でアンタが呆れてるのよ。
罰当たりね」
何用ですか。スキルチェンジとかしてくれるんですか。
ぜひして下さい。可及的速やかにお願いします。
「喋るのやめて、心の中で話すのやめてくれる? 」
別に声に出さなくても分かるなら、良くないですか。
つか紛らわしいっすね。「喋るのやめて、心の中で話すのやめる」って。字面だけだと意味不明ですよ。
「おい人間、死にたいのか。
このアフロディーテ様が降臨してるのよ。平伏しなさい」
古代エジプトの石碑に描かれた、神に平伏す民のポーズを真似してみた。
アレだよ。ドラマの水戸黄門様に「ははあっ!」ってやるヤツ。
「そう、それが本来あるべき姿よ。
――だというのに、むしろ馬鹿にされている気がするのは何故かしら」
さあ。
「……よく分かったわ。特別に加護のレベルを上げてあげる。私を信仰する者からすれば、アンタは生きた聖遺物に見えるでしょうね」
「何故に」
「嫌そうだったから。
だからもっと強くしてあげたの。これじゃ、他の神は避けるでしょうね。よぉ〜っぽど、物好きでなければ。
フン。光栄に思いなさい」
性格悪。嫌がらせかよ。
たしかに俺も失礼だった。確実に失礼だった。
だけど、相手は女神じゃん。俺人間じゃん。器が小さ過ぎやしないか?
「言っておくけど、誰が聞いてもアンタが悪いわよ」
「さいですか」
更新が遅くなり、申し訳ありません。
ブクマ有難うございます!