伯爵家のミソッカス⁉︎ 3
一夜明け、朝練の時間になった。
いつも俺達は若手の近衛騎士、数名と一緒に訓練を受けている。
ディオン兄は、もう即戦力なレベルだから、メインメンバーに混ざって訓練したり、たまにコッチ来たりと日によって違う。
マーク兄はまだみたいだな。
あの人、朝苦手だもんなー。
訓練場に着くと、団員達が俺の話で盛り上がっていた。
「おい、聞いたか。アシル坊ちゃんのスキル」
「ああ。可哀想にな」
「でも武芸のスキルなしでこのままだったら、なあ? 」
「騎士団は諦めて、良家の婿入り狙いってのはどうだ? 」
「いやあ、坊ちゃんの身形は悪くないが、上の兄達がアレだろ? そりゃ、将来が約束された美男子の方が良いに決まってる」
「はあ、生まれが違ったらな。将来の騎士団員候補で、容姿もまずまず。引くて数多のはずなんだが」
「違いねぇ。生まれる家、間違えたな」
「おい、その辺にしておけ。そろそろいらっしゃる時間だ」
は、入りずれぇー!
え、ていうか何。もう皆さんご存知で?
「おや、入らないのですか、アシル坊ちゃん」
「爺さん……タイミング悪いっす」
爺さんこと、若手の育成を任される元副騎士団長のスミス・コビナー、御年58歳。
普通ね、60歳間近の人が若い騎士を扱き倒しまくるなんて、あり得ない話だが、それが出来ちゃう恐ろしい人だ。
しかし、今の声かけで皆んな気づいちゃったよ。
うーわ、気まずっ。
「「「おはようございます! スミス様! 坊ちゃん!(ヤベェ、絶対聞こえてた)」」」
「うむ、さっ始めるぞ。
……次男坊が居らんな。くっくっく、あやつめ特別メニューにしてくれるわ! 」
マーク兄、ご愁傷様。
「おはようございます」
挨拶だけして、さっさと練習ポジションについた。
程なくして、マーク兄も合流し、ギクシャクした朝練は終わった。
「おい、爺さん! これはいくらなんでもキツくないか! 」
「はーうるさいの、遅刻するお前が悪い」
正確には、マーク兄以外、終わった。
日本と違い、10歳の子供はまだ学校には通わない。
つまり、俺には長〜い自由時間があるわけだ。
勿論、家庭教師はついてるが。
よぉし、今のうちにスキルでも調べるか。
・・・。そもそもの発動条件というか、対象がさっぱり分からん。
ここは、アニメっぽく「スキル 発動」とか言っておくか。
「スキル、発動」
――しーん
ですよねー。うん分かってた。何か恥ずかしい。
美、きれい、美容……。清掃とか?
「部屋、クリーン」
――しーん
クリーンって、既にあるスキルだったな。
じゃ、美容か? って言っても化粧なんかしねぇしなー。
「んー、あ、剣だこ と ささくれ綺麗になれ」
――パァッ
「えっマジ⁈ 」
すごい、治ってる。しかも心なしか、爪までピカピカに?
なるほど。対象は人か。
「髪、綺麗になれ」
――ホワッ
おおっ! 艶のある茶髪になった。天使の輪も出来て、サラサラだ。
次は……そうだな、最近日焼けして袖と素肌の境目がクッキリになってしまった。これはどうか。
「日焼け、綺麗になれ」
嘘だろ。
境目どころか、訓練で小麦色に焼けていた肌が、母様譲りの色白に戻った。
しっ、白い。正直小麦肌が良かった。
あれ、どうやって説明すれば良いんだ?
恐いよな、数時間会わなかっただけで肌真っ白って。
しくった。
「戻れ」
――しーん
「綺麗になれ」
――ほわっ
ツヤッツヤじゃないか!
男がマシュマロ肌になってどうするっ!
いかん、顔が平凡なだけに似合わない。
これではオネエ疑惑まで出てしまう。
はっ! 周りも全員綺麗にしてしまえば良いんだ。
よしよし、イカツイ男性陣も皆、スベスベピカピカにしてしまえ。
赤信号 皆んなで渡れば怖くない
いやー、日本人の悪いところだよな。うん。
さーって、第1犠牲者は〜っと♪
第一村人発見。
うーううーうやーいやぃ、おーぅいぇええー。
そういや、母さん好きだったな。『ダー○の旅』
「ちょっと君、待って」
「いかがされました、坊っちゃ…ま゛っ⁈
どうされたのですかっ! お顔が真っ青、いえ全身真っ白⁉︎」
予想通りの反応をありがとう。
でも君も、数秒後には仲間だから。
「ねぇ、スキルの練習台になって欲しいんだけど」
「は、はい。どうぞ」
「じゃ、早速。“肌綺麗になれ” 」
「えっ! ええっ⁉︎ 」
あれ、失敗か?
肌は艶々になったが、肌色はそのまま。
もしかして日焼けしたことないのか?
「なあ、日焼けとかしないの? 」
「何コレ、肌がすべす……はい? 日焼けですか?
してますが」
なるほど。日焼けと指定しなかったのが悪いのか。
まあ、たしかに、俺みたいに小麦肌が良かった人もいるし。
綺麗な肌=色白 には、ならないよな。
「日焼けしたい派? 地色に戻りたい? 」
「?? そりゃ、日焼けしてない方が、お嫁にも行きやすいですから、まあ」
「ん、りょーかい。“美白” 」
「おおっ? すごい! すごいです、坊っちゃま! 」
思ったより白くなった。
君、意外と焼けてたんだね。健康的で良いと思うけど。
「どう? 何か変なとこある? 体調とか」
「ないです! ピンピンしてます! 」
「良かった。悪いんだけど、異変があったら報告してくれる? 色むらがあるとか、そういうの。
あと、どれぐらい効果が持続するかも知りたい」
「お任せ下さい! 」
「ありがとう。ごめんな、練習…と言うより、実験台みたいなことして」
「何を仰います! メイドとして、お仕えする御子息のお手伝いをするのは当然です。
むしろ、今後もお手伝いさせて下さいませ。
ぜっったい! 呼んで下さい、私を!
あっ、坊っちゃま。私の名前ご存知ですか? 」
圧がすごい。
およそ、メイドと主人の子供の関係じゃない気がする。
別に良いけど、父様とかディオン兄にはアウトだぞ、それ。
「マリアンヌでしょ。最近入ってきた」
「はいっ!
いつでもお呼び下さいねっ、アシル坊っちゃま! 」
「あー、うん。頼むよ」
「約束ですからねー」と、手をブンブン振りながら言うマリアンヌに、底知れぬ不安を感じた。
あの子、大丈夫だろうか。どうやって採用されたんだ。
まあ、でも、悪い気はしない。
可愛いメイドなんて、男の夢だもんな。
今の状態だと、ただのお姉さんだけど。10歳だし。
副作用とかあると困るし、今日はマリアンヌだけにすべきか。でも男も1人実験しときたいな。
そうだな、見習いの料理人あたりはどうだ。
皿洗いと下処理ばっかりだろうから、手荒れが酷そうだ。
ちょうど今は、昼食の準備中で居るだろうし…突撃するか。あまり邪魔にならない様に気をつけるから許してくれ。
「すまない、少し邪魔するよ」
「これは坊っちゃま、どうされましたか?
何か今朝の料理に不備でも」
料理長が手を止めて来てくれた。邪魔してすまん。
「いや、違うんだ。
朝食はいつも通り美味しかった。
実は協力してもらいたい事があって。
見習いに用があるんだ。直ぐに済む」
「まさか、何か粗相を⁉︎ 」
うわっ、声がデカい!
ビックリして皆んな見てるじゃないか。
あーもう、やりにくいな。
「いや、だから協力してもらいたいだけ。
スキルを試させてもらいたんだよ」
「坊っちゃまのスキルをですか? 」
「ああ。見習いだったら、手荒れが酷いんじゃないかと思って。それをマシに出来るか試したいんだ」
「あれ、坊っちゃまのスキルって治癒だったんですか?
珍しいスキルだって聞きましたが」
「治癒じゃないよ。
俺もよく分からないんだ。
けどほら、俺を見て何か思う事ない? 」
「んん゛〜、いつもより儚げというか、中性的、ですかね」
100%肌のせいなんだけど、面と向かってそう言われるとショックかもしれない。
凡人から更にランクダウンした気分だ。
「・・・、とりあえず見習いを呼んでくれ」
「あっいや、いつもの凛々しさに磨きがかかったって意味ですよ! 坊っちゃま。アハハ。
―――私がそのお役目引き受けさせて頂きます」
凛々しいと儚げって逆だよな。同義じゃないよな、全然。
その申し出は、自白と見ていいんだな?
「・・・手、出して」
「はい…」
「そこまで荒れてないけど、いっか。“肌荒れ綺麗になれ” 」
「―――たまげた、ささくれもガサガサしてたとこも治ってら」
「うん、だから治したんじゃなくて、綺麗にしたんだよ(さっき、自分でも剣だこ治ったって思ったけど)」
「一緒じゃありません? 」
「断じて違う。スキルが違う。むしろ治癒のスキルだったら、どれほど良かったか! 」
それなら、まだ家の役に立てただろうから。
「「「坊っちゃまっ!(うるうる) 」」」
「やめろ、気持ち悪い!
というか仕事しろ。聞き耳立ててたのか、お前達」
「「「いいえ、全く」」」
ほう、そうか。よーく分かった。
お読み頂き有難うございます!