伯爵家のミソッカス⁉︎ 1
享年25歳。
新人教育係を終え、ついにチームリーダーを任されたばかり。
後輩達が開いてくれたお祝いパーティーの帰りだった。
「先輩っ! 本当におめでとうございます!
オレ、ずっとついていくっす! 」
新人の中で1番のお調子者だった彼は、苦労したかいもあって、よく懐いてくれている。
「おう、ありがとな。
でも小林、俺じゃなくて部長にゴマすっとけよー」
「えっ、まさかオレは不要っすか? 」
「いや違うけど………もしかして、お前知らないの? 」
「え゛」
手がけるプロジェクトは俺が入社する前から、狙っていたらしいイタリアの老舗家具メーカーからの案件だ。
デザインの祭典、ミラノサローネで毎年人々の視線を独占する光景は、まさにイタリアが誇る王者。
そのメーカーからのデザイン依頼となれば、デザイナーはもちろん、所属会社の名も一躍世界に羽ばたくだろう。
「社運をかけた仕事だからな、主要メンバーはイタリアを拠点にするんだ」
「つまり? 」
「俺、来月からイタリア」
「まじっすか」
「そ。だから田口さんあたりが面倒見てくれると思うけど、部長との関わりも増えてくるはずだ」
課長の方が関わるはずなのに、あの人俺らに任せちゃうからなー。
この前だって、「あっ、この企画書すごく良いと思う! だから君が部長に持って行くと良いよ。多分、僕より君の方が通ると思うし! 」と、丸投げされてしまった。
まあ、部下を信頼して自由にやらせてくれるのは、凄く有り難いけど。
ん〜、もうちょっと出世欲を持って欲しい。
「そんなっ‼︎ オレっ、どうすればイイんすか!
先輩の腰巾着になって、エリートコースに乗るつもりだったのにー‼︎ 」
「おまっ」
なんて正直なヤツなんだ。
いや、そこがコイツの良いところではあるんだが………不安だ。
俺が居なくてもやっていけるんだろうか。
まず、エリートコースは入社の時点で決まってる。
既に手遅れだぞ。だが、結果を出せばエリート関係なく上がれる。結果、残せるのか? 小林に出来るのか? 全く想像が出来ん。
あれ。すげー心配になってきた。同期の杉野に頼んでおくか?
田口さんだって暇なわけじゃないし、1人ではダメだ!
―――ハッ! いっそ部長に直接…
「聞いてるんすかっ、先輩ぃぃ! 」
「えっ、あ゛悪い。聞いてる聞いてる。
まー、なんだ。しっかりやれよ。返信遅くなるかもしれんが、困ったらメールしてこい」
「うっ、ぜんばぁいぃ゛〜!
イヤだ! 置いてかないでぇ‼︎ 」
「あー、ほら泣くな。そもそもド新人のお前と俺が組むのは無理がある。一緒に仕事したいなら成長しろ。
日本に帰った時、お前が使える男になってたら、引き上げてやるから」
通行人の視線が痛い。
もういっそ、タクシーにぶち込むか、コイツ。うるさいし。
「せっ、ぜん゛ぱあい゛! すきぃっ!もはや抱いてぇ!
やぐそくでずがぁらねー! 」
「うわっ、ひっつくな。おい、やめろ! このスーツいくらすると思って………うそだろ、まて寝るな、起きろ!
このっポンコツがぁっっっ‼︎ 」
祝われる側の俺が、祝う側の後輩を介抱し、家まで送り届けた1ヶ月後。
「まじか」
イタリアに向かう俺達を乗せた飛行機は、あっという間に墜落した。
即死だったと思われる。体感的に。
――――――――――
――――――
―――
「速報です。〇〇発、〜〜〜行きーー便が本日未明、……沖の海上で墜落しました。尚、生存者不明、乗客に日本人がいたか、現在――――、あっ! 只今入ってきた情報によりますと、乗客123名。123名、うち日本人と見られるのは42名!………――、―――」
各国の懸命な捜索も敵わず、その半年後。誰1人遺体が見つかる事はなく捜索は打ち切られ、旅客機墜落事故は、乗客123名、パイロットを含む乗組員7名全員死亡で幕を下ろした。
「あちゃー、魂消滅したから、身体消えちゃったかぁ。
でもどうでもいっか。私のせいじゃないし――あら?
1体だけ魂が残ってる。まさかあの衝撃から逃れたの?
ふぅん、面白いじゃない。とは言え身体は残ってないのね〜。
そうだっ、この子を別の世界に転生させちゃお!
……… せっかくだから、私の加護もつけてっっっと。うん、悪くないわ。ふふっ、私に感謝することね! 只人には勿体ない力を与えてあげたんだから」
見た目は艶やかな女性、しかし中身は大人になれていない悪戯っ子な少女が。
まるでアバターをカスタマイズするかの様に、新しい生命を生み出した。
「さあっ! 行ってきなさい。私を退屈させないでね? 」
◇◆◇◆
XXX年 1月16日
とある貴族の家に、男児が産まれた。
ーーーー前世の記憶を持ったまま。
『バルトン王国』
建国324年、今はなきアストラ帝国から独立して生まれた。
当時、絶大な力で侵略を繰り広げ、凄まじいスピードで周辺諸国を取り込んでいった帝国の内状は、悲惨なものだった。今から約400年前、若者達を纏め上げ、帝国に刃を向けた青年ーー後の初代国王バルトン・ディ・サヴァールは、共に立ち上がった仲間、家族、合わせて1604名の犠牲を出して辛くも帝国の支配から抜け出した。
彼を含め、逃れた者は僅か200名程だったと言う。誰もが直ぐに追手に殺されると思ったが、ついぞ追手が放たれる事はなかった。
5年後。帝国の支配はさらに力を増していたにも関わらず、植民地であった旧バイア国の土地を自領とし、バルトンは独立を宣言した。
この出来事はバルトン史上、そして帝国史上、最大の謎と云われている。
そして、独立を宣言した年と建国と定められた年に、70年程の空白があった。
語られない空白の70年である。
しかしこれは、また別の物語―――。
王都にほど近いサルヴェール領を治める、サルヴェール伯爵邸はお祭り騒ぎ状態だった。
使用人達は忙しなく走り回る一方で、1人の美丈夫と幼い子供2人は目の前のお茶にも手をつけず、
ソワソワしている。
「奥様っ! おめでとうございます!! 元気な男の子にございますっ」
「ああっ、サリー、早く顔を見せてちょうだい」
メイドに抱かれた我が子を見ようと、奥様と呼ばれた女性が手を伸ばす。
「旦那様! 旦那様! ミレーヌ様が無事ご出産されましたっ」
「っそうか」
「おとうさま〜、いもうと? 私のいもうとが生まれたのぉ? 」
「ねぇたまっ、ちがう。マクのおとおとだもんっ! 」
「いもうとよ! マーク。ぜったい、いもうと! そうでしょ? 」
美丈夫等が待つ部屋に、執事が駆け込んだ。
彼等はその知らせに色めき立つ。
旦那様と呼ばれた男は、口数は少ないものの、完全にニヤケ切っている。
子供達は産まれた子供が、妹か弟かで大興奮の様だ。
「………どちらだ、ラルフ」
「はい、男児だそうです」
「そうか。もう部屋へ行っても良いのか? 」
「っっっほら! おとおとだって、マクがあってた! 」
「ええ、ミレーヌ様も安定されているので旦那様だけでしたら問題ないかと」
「ええー! なんでいもうとじゃないのぉ⁉︎ いもうとがイイっ! 」
「そうか。子供達を頼む」
「かしこまりました。クレア様、マーク様、参りましょう」
執事に任せると、男は早足で部屋を出た。
ずいぶん我慢していたのだろう。
「やらっ、マクもかあさまのとこ、いく! 」
「マーク、おかあさまはおつかれなのよ。わがまま言っちゃ、めっ」
「だってぇ」
「マーク! 」
長い間、大人しく待っていたマークは、さらなる待ちぼうけに駄々をこねた。
クレアは母を気遣い、弟を叱りつける。
そんな幼い姉弟の姿を微笑ましく思いながら、執事は話しかけた。
「マーク様、おやつにクマさんクッキーをご用意しております。
ミレーヌ様に会われているうちに無くなってしまうかもしれません」
「やっ! マクのクマさん! はやく、クマさん! 」
「ラルフ、私の分もある? 」
「もちろんございますよ。クレア様のお好きなお花型も」
「ほんとっ? マーク待って、はしったらあぶないわ。あと、お花は私のだからね! 」
パチリーーーー
え、ここドコ。
何で外人さんに囲まれてるの? というか、何? コスプレ?
助からないと思ったけど、上手いこと不時着したのか?
それにしては俺以外、コスプレ集団しかいないけど………あれ、待てよ。
俺、抱っこされてない? え。
「ええ゛ぇ゛ぇぇーーーー!!!!! 」
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宜しくお願い致します。羊
『転生令嬢の優雅なティータイム』
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