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淙淙たる人間の堰成らず、随にて 始

  ……これだけ用意周到でも、羽流ならばこれが用意周到に思えない程簡単に越えて来るかも知れない。何せ羽流は発明することに多大な才能を注いでいた。

  いや、そもそも、それ以前にあの敵が襲来して来ること自体がないのではないか。

  そんなことを思いつつ、羽流にテレパシーで意思疎通を試みるが、やはり何回やっても無理だった。どうやらテレパシーを阻害する波長か何かが近くで出ているらしい。

  羽流と俺ときょうは同じ生物種で、その生物種間でテレパシーを取ることが出来る。


「本当、困ったなぁ」


「あなた、準備出来た? ぼくは終わったよー」


  男が準備することなんて、精々服ぐらいだろう。さすがにきょうよりかは早く終えている。


 きょうはデートでかなり浮かれている様だ。


「俺なんかとデートして、本当に楽しいんだろうか」


「幾ら羽流さんがいないからって、卑屈になったらそこで試合終了だよ! それに、ぼくはあなたと一緒に居れるだけでも楽しいから!」


  きょうは俺を強く励ましてくれた。実際、俺もきょうと一緒に居て楽しくないわけではない。


「今日はボーイッシュで行こうと思ってサスペンダー着てみたんだけどさ、どうかな?」


  女性が男性の着る様な衣服を着用することで、より婀娜やかに仕上がるという、この世界の認知に非常によくそぐう着こなしを見せて来た。が、個人的に小物が足りない様に感じた。


「帽子被ったら? 俺のあげるよ」


 俺は今被っていた帽子をきょうにあげた。


「ふふっ、ありがとう」


  きょうは満足気に微笑む。その笑顔を見て、俺はドキッとしてしまった。姿形が子供だと、心もそれ相応になるみたいだ。


「それじゃ、行こっか」


「大丈夫なのかな……」


「あの人が狙ってるのはあなただけなんでしょ?」


「前来た時はきょうも狙われてなかった?」


「仮に狙われてもあなただっているし、逆にあなたが襲われてたらぼくが助けるから」


  それで手に負える相手だったらいいが、俺達と同じ様に特殊能力を使われたら少々不味いことになる。

  俺達は日によって使える能力が変わり、二週間で一周する。今日使える能力の中で戦闘に落とし込めるものは少ない。


「そいえば、テレポートって帰る時はどうするの?」


「さっき、タイマーをセットした。五時間で」


「じゃあ、早く出ないとだね」


  俺達は所定の位置にテレポートした。基本的に家から外に出る時と帰る時はテレポートを使う。事が収まるまでは。

  さて、俺は敵が出たら検証したいことが一つあった。周りから姿を見えなくする為に、何かしらのテクノロジーを使用しているのではないか。そうではなかった場合、今回は俺達が作った「随の帳」という機械で、姿を見えなくさせる。


「それにしても、なんだこの名前」


「一応あなたが付けたんでしょ? ぼく的には『卓犖としたネーミングセンスだなぁ』って思うんだけどね」


  この「随の帳」は、見た目や大きさはほとんど携帯電話と変わらない。

  暫く歩いて、俺達は一つの本屋に辿り着いた。


「折角の機会だし、前に失くした本買って置いたら?」


  という訳で買い直そうとしたが、件の本が見当たらない。探している途中で興味のあった本を手元に置いて、脳内のカゴに入れて置いた。

  結局あのブツは見つからず、二人共々の興味ある本しか買えず、挙句にはレジ係の人から、


「姉弟なんですか? それとも、親子といったご関係で?」


  と言われた。すかさずきょうが、


「いえ、彼氏彼女ですね」


  と返した。


「あっ、そうなんですね。てっきり姉弟かと……」


「この人が小さいだけで、歳自体は近いんですけどね」


  俺達は清算して店を出た。俺ときょうは学年は同じだが、年齢が同じというわけではない。きょうの方が先に生まれ、肉体年齢も俺が十八、きょうが十九で、何に於いてもきょうの方が歳は上だ。因みに羽流はそのどちらもきょうを上回る。肉体年齢は二十だ。

  本屋の次は飲食店で昼食を取る。注文した物が来るまで、読書したり、話し合ったりして待機を了承した。


「そういえばあなた、『世界教』って知ってる?」


「買い物行った時勧誘された」


「ぼくも家で待ってた時に訪問して来て、パンフレット渡された。『世界をより良い方向に進める為の宗教』だって」


「まさしく怪しい」


  今にして思えば、その予想は的中していた。

  ウエイトレスが来て、オーダーした物の半分をテーブルに乗せた。残りのオーダーはまた後ほど持って来るということだそうだ。

  それもそのはず、俺達は食べる量が尋常ではない程までに多く、外食に行くと、周りの人々がこちらを注視するぐらい、皿によってテーブルの表面積が少なくなる。

  又、どれだけ食べても腹部が痛みを得ることがない。何故かと言うと、「緑細胞」という物を体内に宿しているからだ。

  緑の微光を発することからそう呼んでいる。これを体内に宿すことによって、冒頭でも言及した「緑細胞成人法」が適応される。

  この細胞の特徴は沢山あり、「有していると、心臓を潰されない限り不死身で、病に侵されることもない。また不老」「口腔部と咽頭部以外の消化器全ての機能の代行を務める」「これを有していると、排泄機能の完全な排除を可能とする」といった特徴が有る。

  だから俺達はトイレに行く事もないし、不老不死でもある。何故腹痛にならないかというのは、緑細胞が腹に入って来た飲食物を、栄養素だけ残して細胞内に取り込む事から。取り込んでいる時は細胞が心臓から抜け出すので、心臓を潰されても生存出来る。

  因みに緑細胞の移植手術には、莫大な金銭を要する。これはヒトに移植する時は、一部の消化器に加え膀胱の摘出をしなければならないからだ。俺達は初めから緑細胞を有していたので、わざわざそんなことをする必要も無かった。

  俺達は全ての注文した物を食べ終え、店から出た時に、きょうがこんなことを言ってきた。


「あそこにいる人、前に襲って来た人じゃない……?」


  動揺。

  その果てにある、遥かなる戦慄の域に、感情がマイナスベクトルの膨張を起こした。

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