表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

白髪少年の自分語り

  初めに言っておくべきだったかも知れないが、今俺達が住んでいるこの世界は、俺自身が創った物だ。それだけでなく、全ての世界、その世界を内包する一つを除く全ての次元、及び全ての世界のほぼ全ての法則に至るまで、俺が創造した。

  そんな俺も今や白髪の少年と化した。身長百八十八センチで少し筋肉の付いていたあの体が、身長百六十センチで少し手足の細い体に。

  俺達は三つの人型の体に変化することが出来る。今回変化したのは敵から逃れる為だ。

  今日は家で夏休みの課題をしていた。きょうは今までと同じ、身長百八十七センチ、ショートの金髪碧眼でスラッとした体型で活動。閉め切った部屋でないと集中出来ないので、地下のリビングで勉強することにした。


  きょうは俺が額に巻いている包帯を見て言った。


「何かあったの?」


「ちょっとした事故で、頭に包丁がぶっ刺さった」


「えぇ!? それ大丈夫なの?」


  かなり深刻な表情をしている。

  俺からしたら、ヒトじゃあるまいし脳天に包丁が刺さったぐらいどうということはないのだが、逆の立場になったら自分も心配するだろう。


「別に。仮にこれで死んでもすぐ蘇生出来るし、寧ろ脳に刺激を与えたことで脳が活性化した」


「幾ら生き返られるって言ったって……何か体に異変あったら言ってよ?」


「そっちもね」


  先述の通り、俺達は人型なだけで、ヒトではない。脳は六つ、心臓も六つある。他にも色々人外な要素があるが、それらは追々話していく。

  今は、簡単に出来る作業を延々とやらされる所為で、集中力が途切れた所にある。こういう時に別の脳が役に立つ。直ぐに活動させる脳を切り替える。


「ねぇねぇ、この宇宙って本当に相対性理論?」


  課題に相対性理論絡みの問題が出たから、この宇宙の創造者に訊いて来たのだろう。自分で自分を創造者と呼ぶのはどうかと思うが。


「この宇宙はそうなるように創ったはず、他の宇宙にはそれにそぐわないのもあるけど」


  課題が全て終わる頃には午後四時になっていた。そろそろ買い出しに赴かなければいけない。前と同じ姿のままのきょうには家で待機してもらった。きょうは俺が家を出るまでずっと俺の身を案じていた。それだったら自身の心配もしてもらわないと困る。

  スーパーの中は半額シールの付いた惣菜を鹵獲せんとする人々が度々観測された。俺は夕飯の食材と菓子類を少し買って店を出た。

  外は空に浮かぶ茜色の海が覆い尽くしていた。まだ油断出来ない、周辺を獣の様な警戒心をして、疑惑満ち足りて帰宅。六つある心臓のうち三つが心拍数百六十に達していた。

  あれ以来、まだ一回しか襲われていないのに、いっそこのまま乂寧してくれればいいのにと思ってしまう。そんな惨憺たる心境を察したのか、きょうがそれを上回る程の混乱で出迎えてくれた。


「何処も怪我はない? 襲われたりしてない? 無事に言った物を買って来れた? 誰かにすり替えられてない?」


「そっちがすり替えなんて言うから、逆にこっちがすり替えられてないか疑っちゃう」


「そうやって冷静に言い返して来るのはあなたしかいないか、良かった……」


  冷静かそうじゃないかで言えば、冷静ではないだろう。現に心臓がバクバクして煩い。下手すれば自分だけライブハウスに在る様な錯覚に陥るかも知れないぐらいに心臓の鼓動が喧しい。

  心臓も脳も、一つあれば日常生活は問題なく活動出来るので、今バクバク言っている心臓らを止めたいが、それだったら夕飯作っていた方が僅かに効率的なので、大人しく効率に従うことにした。

  きょうが「焼き鳥を作ってみたい」と言うので、今日の夕飯は自分達で焼く焼き鳥。七輪だと面倒臭いから、バーナーで炙り焼く様にして見た。焠ぐ感じで鳥肉達に火を入れ、焼けたら塩かタレを付け、口の中に捧げる。作るのに時間をかけた分、その美味しさもひとしお。特に俺はまだ鼓動が止みきっていなかったお陰で、腕が小刻みに震え、上手く火が入れられなかった。

  火気を扱うので、安全性も慮り地下で決行したはずなのに、エレベーターに乗る時間をかけて尚、心拍数は百五十を保ったままだった。それほどまでに、俺の中であの事例を意識していた。

  自分の歳は既に、無限に無限を累乗する所は優に超えている。きょうも俺よりずっと先に産まれていて、俺達は様々な世界でこれに匹敵する程のイベントを経験して来ているだろうに、如何してここまで慌てているのか。その問いは、羽流の名に解が収束する。

  羽流は、俺が生きてきた中で一番一緒に過ごす時間が長い、親友だった。その親友と絶交したことで、自分の精神にかなりの大打撃が下った。それだけに留まらず、あわや俺達を殺害しようとしたのだ。謎の人物が「羽流」を口に出した、それによって「この襲撃も羽流が画策したことなのか」という鈍重な衝撃と動揺に加え、母さんも殺したという、未だ信じ得ない悪辣なる所業。

  この行動力の縦にする、銀河の中心にあるブラックホールの様な男からすれば、俺達を殺害することなど、多少手こずるだけで達成出来るだろう。その「多少手こずる」所で、羽流の不測の事態を起こさなければ、俺達はずっと屍をのさばり続けてしまう。

  これは「産みの親」から課せられたペナルティの様なものなので、蘇生すら許されない残機一のコンディション。宛ら島から島を泳いで渡ることに通ずるものがある。どうやって迫り来る雲霞の波を耐え、次々と吹き荒ぶ嵐を凌ぎ、島に辿り着けられるのか。

  それを就寝前のピロートークで話し合う。


「戦闘に入るなら人目の付かない所でした方がいいと思うんだけど」


「俺もそう思うけど、あの戦闘が終わった時、唐突に人が現れなかった?」


「言われてみれば、もしかしたら相手が周りの人から姿が見えなくなるフィールドか何かを展開してるのかも」


  多分それで間違いないと思うのだが、念の為に俺も姿を見えなくするフィールドを展開する装置を作ろう。外に出る時は必ず携えて行く。


「ねね、明日デートしない?」


「戦闘後に人が現れた時みたいに唐突だな」


  こんな事態に直面していても自分達の恋路のことも忘れないきょうは乙女の見本の様だ。良い意味でも悪い意味でも。


「デートプランは明日考えよう、俺もう眠い」


「そうしよっか、おやすみー」


  俺は就寝し、昵懇の朝を呼び出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ